ふと空を見上げると、なんとも絵になる雲を発見。このかっこよさをスマホのカメラでおさめたい! 雲の表情を生かした写真を撮るには、太陽光という自然のライティングが鍵になるんです。今回は写真家の相沢亮さんに、心に残る雲の写真を撮影する方法を教えてもらいました。
目次
雲は季節感を表すモチーフ。スマホでもきれいに撮れる!
町や人を撮る時も、雲や空を入れるのが好きだと話す相沢さん。自身の著書『日常のフォトグラフィ』の表紙を飾るのも、雄大な入道雲の写真です。相沢さんにとって「雲」は、どんなモチーフなのでしょうか?
相沢さん 「雲って、季節によって特徴がありますよね。モクモクとした入道雲は夏っぽいし、うろこ雲を見ると秋を感じる。冬は澄んだ空に薄く広がる雲がきれいだし、春はそれがもっとぼんやりとかすみがかった感じとか。だから雲は、僕にとって季節を表現してくれるモチーフ。風景や人物を撮るときも雲や空を入れることで、あとから写真を見返したときも『ああ、この写真を撮ったのは夏の暑い日だったなぁ』とか、記憶がよみがえるんですよね。あと僕は風船やアイクリームといったポップなモチーフが好きなので、ふわふわの白い雲と青い空の組み合わせはデザインとしても引かれます」
普段は一眼レフのカメラをメインに撮影をしている相沢さん。今回はスマートフォンで雲を撮りたいのですが、上手に撮影することはできるでしょうか…?
相沢さん 「もちろんできますよ! 最近は、カメラとの違いがわからないくらいスマホのカメラの性能が良くなっているのを感じます。細かい設定が必要な夜景などの写真は難しいですが、明るい時間帯に撮るならスマホでも十分。何より、スマホのメリットは、撮りたいと思った瞬間にいつでも手軽に撮影できるところですよね。特に雲は、日常のふとしたときに撮りたくなることが多いので、思い立ったらすぐ撮影できるスマホのカメラとは相性がいいと思います」
それでは早速、スマホで雲をきれいに撮るコツを教えていただきましょう!
太陽の光を味方につけて、雲の表情を引き出そう
雲を撮影するときに一番意識したいのが「太陽の光」。日光が満遍なく雲に当たっている時間帯や方角を狙うことで、雲の表情がはっきりと浮かび上がる写真になります。
相沢さん 「ポイントは、自分の位置から見て太陽と反対側にある雲を撮ること。そして、日が頂点にある正午の前後2時間は避けることです。なぜなら人物を撮影するときも同じなのですが、太陽と同じ方向に被写体があると逆光で暗くなってしまうからです。また真上からの光が強く当たっている状態よりも、太陽が低い位置にあるほうが、光が雲に均一に当たりますよ。理想的な時間帯と方角は、日の出から3時間以内の西の空、または日没3時間前の東の空。太陽と雲が同じくらいの高さで、真反対の位置にある状態です。この条件を意識すれば、雲のモクモクとした輪郭や質感をいきいきと写真に写すことができます」
雲を撮影するときの基本!
- 自分から見て、太陽と反対側の位置にある雲を撮る
- 真上からの太陽の光が強い10~14時ごろは避ける
- 日の出から3時間以内の西の空、日没3時間前の東の空が理想的
もちろん、演出としてあえて逆光で撮るのもOK。自分の表現したいイメージに合わせて、試行錯誤してみましょう。さらに、「建物や飛行機など他の被写体と雲を一緒に写すときは、明暗差にも気をつけたいですね」と相沢さん。雲は白いので光を反射しやすく、建物の明度に合わせると白飛びしてしまうそうです。
相沢さん 「他の被写体と雲を一緒に撮るときは、他の被写体は暗くなってもいいので、雲の明るさや色味が自然になるように設定を調整します。雲の明度や色味は、後から加工するのが難しいのです。空以外の暗くなってしまった部分は、後からアプリで調整するか、カメラのHDR機能を使うのもいいですね。HDRは明るさの違う複数の写真を自動で合成してくれる機能で、雲は雲、建物は建物のちょうど良い明るさの部分だけを抽出して一枚の写真に仕上げてくれます。加工が苦手な方にはおススメですよ」
相沢さんから教えてもらったテクニックで撮影した写真
また、カメラの画面には「グリッド線」を表示させるのも重要なポイントだそうです。
相沢さん 「景色が水平になるように、グリッド線は必ず表示させてください。画面上で雲をタップするとピントが合い、明度も自動で雲に最適化されます」
重要なコツを教わったところでいざ実践。いくつかのシチュエーションで、相沢さんに雲の撮り方を解説してもらいました。
相沢さん 「構図は、青空とそれ以外の部分(雲や地上)の割合が大切です。青空をどのくらい入れるかは、雲の存在感をどのぐらい強調するか、地上に主役となる被写体があるかどうか、それにもちろん好みもあると思います。基本を押さえつつ、自分好みのバランスを探してみてください」
まずは基本となる3つの割合から。
基本の構図① 雲と地上:青空の割合が「1:1」
雲をバックに、町の雰囲気も満遍なく写っています。
基本の構図② 雲と地上:青空の割合が「2:1」
「1:1」に比べ、雲の存在感がぐっと増しました。
基本の構図③ 雲と地上:青空の割合が「3:1」
3つの中で、一番雲をダイナミックに感じられます。右側の高層ビルが入ることで、雲の大きさも際立つ構図です。
では、逆にNGパターンにはどんなケースがあるのでしょうか?
NGパターン① 雲のてっぺんが途切れてしまっている
相沢さん 「雲の頭が切れてしまうと、その大きさや形がわかりません。雲の先までしっかり入れて、さらに青空も見えるだけの余白がある方がバランスが良いですね」
NGパターン② 主役のない地上が、画面の大半を占めている
相沢さん 「NGは何もない地面が写真の2分の1を占めてしまっています。地上に主役となる被写体があればいいのですが…。同じ2分の1を占めるなら、地面よりも青空の方がいいですね」
相沢さん 「構図における一番のポイントは、画面の中に青空をどのぐらい入れるか。そして青空をしっかりと入れることが、きれいな雲の写真を撮るコツです!」
さらに印象的な一枚になるように。写真加工にチャレンジ
雲の写真がうまく撮れたら、もうワンステップ。画像を加工して少し調整するだけで、写真がぐっときれいになります。明度や色味をより自然に近づけるのはもちろんのこと、凝った加工をすれば、レトロやファンタジーといった自分好みのテイストに仕上げることもできますよ。今回は基本の加工に加えて、画像加工アプリを使って相沢さんが得意とする「オールドムービー風」にする方法を教えてもらいます。
相沢さん 「使う機能は、主に『シャドウ(影)』『ハイライト』『精細度(明瞭度)』『ノイズ除去』の4つ。スマホによって機能の名前が多少異なるかもしれませんが、ほとんどのスマホの標準アプリに入っている基本的な機能ですし、無料の画像加工アプリにも機能が備わったものがたくさん出ています。スライダーを自由に触ってみて、自分が好きな雰囲気に近づけてみてください」
明るさや色味を自然に近づける基本の加工手順
- 「シャドウ(影)」を上げる
地上と雲の明暗差をやわらげるために、空が不自然にならない程度に明るさを整えます。
- 「ハイライト」を下げる
ハイライトは、下げることで写真の明るい部分の輪郭が浮かび上がるというもの。雲の輪郭をくっきり見せることができます。
- 好みで「精細度(明瞭度)」を調整する
明瞭度(精細度)を下げるとふんわりとした柔らかい雰囲気に、上げるとビビッドではっきりした雰囲気に近づきます。
- 好みで「ノイズ除去」を調整する
写真のざらざらとした粗さが軽減されます。気になる場合は少し調整してみましょう。
相沢さんのレクチャーに沿って基本の加工をしてみた写真がこちら。
加工後の写真の方が、雲の輪郭や空の青さがはっきりとして、どこか爽やかな雰囲気が増したように感じます! 海や建物の明るさと、雲の明るさが少し近づいて、明度は触っていないのに全体的にぱっと明るくなった印象です。
さらにここから、相沢さん流「オールドシネマ風」に仕上げていきます。
オールドシネマ風加工手順
スマホのカメラに元から入っている機能だけでも十分きれいに加工ができますが、さらに印象的な写真に仕上げるためにアプリを使った加工にもチャレンジしてみましょう。使うアプリは必要な機能がついていれば、自分が使いやすいアプリでOKです。
- 「フェード」を上げる
色味があせて、古いフィルム写真のような風合いになります。
- 「色相」で「青」のつまみを左に調整する
写真の中の緑色が強くなり、空がターコイズブルーのような色味に近づきます。
- 「粒子」を少し上げる
写真にザラザラとした質感が生まれます。
- 「色温度」を上げる
写真全体に黄色みがかかり、レトロなムードが強まります。
相沢さん 「今回の方法はあくまベースなので、自分の好みや仕上げたいイメージでアレンジしてくださいね。例えばオールドシネマ風にするなら、自分が好きな映画の色味をまねするのも楽しいです。アートっぽく仕上げた写真はSNSにアップして、いろんな人に見てもらいましょう! SNSで『#イマソラ』というタグを検索すると、たくさんの人がアップしているリアルタイムの空の写真が出てきて面白いですよ」
あの日の空を振り返る。雲の写真で日常の思い出を残そう
雲は身近でありながら、刻一刻と姿形を変えていく魅力的な撮影モチーフ。季節の訪れを感じたり、時間や天気によっては驚くほど幻想的な景色に出会うこともあります。
相沢さん 「良く晴れた日の夕方に見られるピンク色に染まる雲や、雨上がりに探したくなる虹がかかった雲など、特別なワンシーンもいいですが、やっぱり何気ない日常の雲こそ撮りたくなるんですよね。僕は写真を見返してそのときを振り返るのが好きなんですが、雲はとってもエモーショナルなモチーフ。風景や人を撮るときに一緒に雲や空を写すことで、写真を見返したときに、思い出と一緒にそのときの季節や空気のにおいも感じられる気がします。文字のない日記のような感覚で、雲の写真を楽しんでほしいですね」
被写体として、さまざまな魅力が詰まった「雲」。皆さんも、相沢さんに教えてもらったコツを実践して、ぜひ撮影にチャレンジしてみてくださいね!
(掲載日:2023年10月5日)
写真:大崎あゆみ
文:井上麻子
編集:エクスライト