近年、愛用者が増えているスマートウォッチ。スマホと連携してアプリの通知を受け取れるだけではなく、健康管理に役立てることもできます。心電図を記録できるウェアラブルデバイスもあり、そうした機能のおかげで不整脈に気付くケースもあるのだとか。最近は、デバイス上に記録された心電図データを診察に活用する「スマートウォッチ外来」を設ける医療機関も増えているそうです。心電図機能で分かることや、発見できる不整脈とはどんな病気なのかなど、循環器の専門医・杉岡充爾さんに教えていただきました。
目次
最近増加している「スマートウォッチ外来」って?
街中で身につけている人も珍しくなくなったスマートウォッチ。着信やアプリの通知機能だけではなく、血圧や心拍数、消費カロリーの計測など、毎日の健康管理に役立つ機能がたくさんあります。最近では、心電図の計測機能を活用して、医療機関を受診する人も増えているようです。
スマートウォッチで計測できる心電図機能とは?
そもそも、心電図とはどのようなものなのでしょうか。
杉岡さん 「心電図とは、心臓にわずかに流れる電気を波形として記録するものです。波形の形やリズムから、心臓に異常があるかどうかを調べることができます。心電図に異常があるからといって、必ずしも命に関わるわけではありませんが、放っておくと良くない不整脈や心臓の病気を発見するきっかけになります」
そんな心電図を手軽に記録できるアイテムとして注目を集めているのが、スマートウォッチです。心電図機能を搭載しているスマートウォッチであれば、心電図を記録できます。例えば、Apple Watchの場合、搭載されている心電図アプリを利用すると、電気心拍センサーが心臓の鼓動と心拍リズムを記録し、その記録内容から不整脈の一種である「心房細動」が起きていないかどうかを調べることができます。
Apple Watchで心電図を取る方法
日常生活の中で、動悸や脈の乱れなどを自覚したとき、心電図アプリを起動し、記録の操作を行うと心電図が記録できます。Apple Watchでは、ヘルスケアアプリにある心電図アプリから設定することで使えるようになります。

計測方法は簡単。まずは、Apple Watchを手首にぴったりとフィットさせて装着しましょう。左の写真のように、デバイス側面にあるデジタルクラウンに指をのせて30秒ほど待つと、記録を取ることができます。
また、iPhoneの「Watch」アプリの「心臓」のメニューから、「不規則な心拍の通知」をオンにすれば、Apple Watch が時々自動的に心臓の鼓動を確認し、心房細動を示唆する不規則な心拍リズムを検知したときに知らせてくれます。
スマートウォッチの心電図データをもとに診療する「スマートウォッチ外来」
そうしたスマートウォッチの心電図機能の計測結果を、医師に相談できる専門外来が、「スマートウォッチ外来」です。2020年に、Apple Watchの心電図アプリが厚生労働省に家庭用医療機器として承認されたことなどを背景に、スマートウォッチの計測結果を診察に使う医療機関が日本でも全国各地で見受けられるようになりました。
杉岡さん 「不整脈の診断には、動悸がしている最中の心電図を取ることが必要です。病院に来る患者さんには、『ゆうべ動悸がしたんですけど、今は大丈夫です』という方も多いのですが、それだと診断がなかなか難しいんです。その点、スマートウォッチを持っていれば、動悸がしたときや通知が来たときにすぐアプリで心電図を取ることができます。
ただし、通知が来たからと言って必ず不整脈とは限りませんし、スマートウォッチで全ての不整脈を検知できるわけでもありません。一番のメリットは、『おかしいな』と思ったときに、いつでもすぐに記録できて、病院で医師にそのデータを共有できることです。
すぎおかクリニックでは、週に1人ぐらいのペースで、スマートウォッチの心電図結果を持ってくる患者さんが来ます。循環器科や循環器内科の医師がいるところなら、問題なく診察してくれると思いますよ」

心電図の計測結果は、iPhoneでも確認ができ、PDFに書き出して医師に共有することもできる
不整脈の中でも見逃したくない「心房細動」とは?
次に、スマートウォッチの心電図機能で分かる不整脈とは、いったいどのような状態を指すのか、Apple Watchを例に見ていきましょう。
心電図アプリの計測結果で検知できる不整脈
Apple Watchの心電図アプリでは、次のいずれかの結果が出ます。
ただし、いずれも必ずしも健康または病気であることを保証するものではないので、体調が悪い場合や、何らかの自覚症状がある場合は、医師の診察を受けるようにしましょう。
- 洞調律
- 心房細動
- 高心拍数または低心拍数
- 判定不能
- 記録状態が良好でない
「洞調律」は、一般的には特に心臓に異常がない場合に表示されます。また、「高心拍数または低心拍数」も必ずしも不整脈とは限りません。脈は運動や緊張によって速くなりますし、逆にアスリートなどは「スポーツ心臓」といって脈が遅くなることがあるからです。
この中でも特に気をつけたい結果が、「心房細動」。「心房細動」とは、どんな症状なのでしょうか。
不整脈の中で特に気をつけたい「心房細動」ってどんな症状?
そもそも不整脈とは、脈のリズムが乱れて一定でなくなる状態です。
- 心拍数が遅くなる「徐脈」(1分間に50以下)
- 心拍数が速くなる「頻脈」(1分間に100以上)
- 心拍数が飛んだり抜けたりする「期外収縮」
など、いくつかの種類がありますが、全てが治療を必要とするわけではありません。
しかし、中には放置すると危険な不整脈も。そのうちの一つが、頻脈の一種であり、Apple Watchで検知できる「心房細動」です。
杉岡さん 「本来、心臓は上のほうに電気を発信する部分があり、そこから心臓全体に電気が流れます。しかし心房細動が起こると、電気を発信する部分以外から勝手に電気が流れるため、脈のリズムが乱れるのです。心房細動自体、すぐに命に関わるわけではありませんが、血栓ができて脳卒中を引き起こすなどのリスクがあります」
不整脈の兆候を察知するには?
では、そのような危険性のある不整脈の兆候を察知することはできるのでしょうか。
杉岡さん 「自覚症状は主に動悸です。また、脈が飛ぶ、息切れ、めまい、胸が苦しい、気を失うといった症状が出ることもあります。ただし、自覚症状が全くないケースもあるので、アラートを発してくれるスマートウォッチはとても意味があります」

循環器の専門医として数多くの心臓治療にあたってきた杉岡さん
スマートウォッチ以外で不整脈を察知するための方法は?
スマートウォッチ以外にも不整脈を察知する方法はあります。例えば、シンプルに手首に指を押しあてて脈を測る方法。測り方は、時計の秒針を見ながら15秒間手首で脈を数え、その数を4倍して、1分間あたりに換算します。正常な脈であれば、1分間に60~80回で、リズムが一定のはず。意外と自分の脈の位置を知らない人が多いので、日頃から脈がどこにあるかを把握しておきましょう。血圧と違って脈拍には日内変動がないので、毎日同じ時間に測る必要はないですよ。
不整脈かも? と思ったらまずは病院へ
それでは、スマートウォッチで「心房細動」の結果が出たら、どうすればいいのでしょう? 病院に行くまでの準備や診察の流れを教えてもらいました。
スマートウォッチ外来で受診するときの事前準備
まずは、前述した手順で、スマートウォッチで心電図データを取ります。そして、「スマートウォッチ外来」や、循環器科・循環器内科のある病院を探しましょう。
杉岡さん 「心電図データは、スマホ画面でも、PDFデータをプリントアウトしたものでもどちらでも構いません。動悸がしている最中の心電図データがあれば、診察がスムーズになります」

Apple Watchで記録した心電図データ。PDFとして書き出すことも可能
病院での診察・検査
病院では、問診をした後に心電図検査をするのが一般的です。心電図検査の結果に問題があれば、心臓エコー検査やホルター心電図検査など、次の検査へ進みます。
杉岡さん 「病院での心電図検査では、例えば狭心症など、スマートウォッチでは分からないことも診断できます。スマートウォッチは、病気の早期発見の可能性が高まる便利なアイテムですが、異常を感じたら速やかに医療機関を受診しましょう」
不整脈の予防法・治療法は?
不整脈を未然に防ぐには、生活習慣を整えることが大切です。例えば、高血圧や糖尿病の人は、心房細動のリスクが高まります。また、ストレスがかかると不整脈が出やすくなることも。強いストレスを感じた場合は、ストレス源から離れる、自分なりのストレス解消法を持っておくなど、ストレスコントロールを心がけましょう。
万が一、不整脈と診断されたら、その治療法は投薬や手術など症状によってさまざま。手術は『カテーテルアブレーション』といって、足の付け根や鎖骨の下から細い管を入れて、心臓の一部分を焼いて不整脈の電気信号を止める方法で行います。投薬治療の場合は血液がサラサラになる薬を使いますが、出血したときに血が止まらなくなるデメリットもあるので、医師と相談し、適切な治療方法を選択することになります。
加齢によって、発症のリスクが高まる不整脈。病気の深刻化を防ぐためには早期発見が重要です。自覚症状のない場合でも、不整脈を検知してくれるスマートウォッチは心強い味方。長く健康な人生を送るために、スマートウォッチの活用を検討してみてはいかがでしょう?
(掲載日:2024年9月30日)
写真:山野一真
文:吉玉サキ
編集:エクスライト
毎日の健康をサポートするスマートウォッチ


Apple Watchでは、運動や睡眠などのデータを記録することで毎日の健康をサポートします。心電図アプリを使えば、心電図と症状を記録し、不規則な心拍の通知を行います。