世代や国を越え、老若男女が楽しむゲーム。楽しく遊びながら、ゲームをすることによって、実生活に役立つさまざまなスキルが身に付きます。論理的思考力やコミュニケーション能力、はたまた認知症の予防といったゲームのもたらすメリット、そしてゲームを健やかに楽しむためのポイントをゲーム学習論・教育工学の専門家である東京大学 大学院情報学環 准教授の藤本徹さんにお聞きしました。
目次
「たかがゲーム」じゃない。世界に広がるゲームの輪
遊びを学びにつなぐ「ゲーム学習論」の研究をしている藤本さん。まずは、最近のゲーム事情やご自身の研究内容について教えていただきました。
ゲーム産業は成熟期に
今やゲームと言っても、家庭用ゲーム、PCゲーム、スマホゲームなどさまざまな種類があります。最近のゲーム事情について教えてください。
ゲームの種類も増え、さらにオンラインで世界中のプレイヤーとリアルタイムに対戦できるのが当たり前になってきた今、ゲーム産業としてはだいぶ成熟していると思います。
オンラインゲームが主流になってきたのは、2000年代頃。インターネットの発展によって、世界中のプレイヤーがオンライン上でコミュニティを作るMMO(Massively Multiplayer Online:多人数同時参加型オンライン)が人気を博しました。
2010年代に入って技術がさらに発展し、高精度な家庭用ゲームが増え、スマホでも一通りのゲーム体験が可能に。PCゲームでは世界中でほぼタイムラグのないプレイが実現し、ゲームセンターに行ってもオンライン対戦が中心になっています。
アナログゲームについては、いかがですか?
古くからあるボードゲームやカードゲームなどのアナログゲームも、最近再び注目を集めていますね。ボードゲームカフェなど、アナログゲームをきっかけに新たなコミュニティも生まれています。
eスポーツの国際大会が催されるなど、競技としても盛り上がっていますね。
IOC(国際オリンピック委員会)がeスポーツの国際大会を主催するなど、世界的に正式な競技として認められてきています。教育現場でもeスポーツの部活動やサークルが続々と誕生していますし、地方創生や地域振興の流れと絡めて、日本各地にeスポーツ施設も増えています。
娯楽以外にも広がるゲームの可能性
そんなゲームについて、藤本さんはどんな研究をしているのですか?
私の専門分野はICT教育やオンライン教育といった教育工学で、特にゲームの技術に焦点を当てた研究を2003年頃から始めました。研究室では「ゲーム学習論」というテーマで、学習コンテンツの開発や教育プログラムのデザインなどを行っています。
「ゲーム×教育」の学問としての歴史を教えてください。
家庭や学校でパソコンが普及し始めた1990年代から、ゲームを使った教育をしようという流れはありました。教育(Education)とゲームのような娯楽(Entertainment)を組み合わせた造語の「Edutainment(エデュテインメント)」という概念が広まったのもこの頃です。
2000年代にはもう少し範囲が広がり、貧困問題や環境問題などの社会課題について、ゲームを通して興味関心を高めようという「シリアスゲーム」が登場。さらに2010年代に入ると「ゲーミフィケーション」という概念が広まりました。これは、ゲームそのものではなく、ゲームの要素やデザインをさまざまなアプリケーションや社会の仕組みに取り入れる試みです。
ゲーミフィケーションは、どのようなシーンで活用されていますか?
例えば、ゲームとして楽しみながらマンホールや電柱といったインフラの老朽化を発見する「社会貢献型」のゲームが開発されています。また、学校の授業ではゲームの要素を取り入れることで学ぶ意欲を高めるなど、人々の参加を促す仕掛けとしてゲーミフィケーションが使われています。
さまざまなシーンで活用できるんですね。
今までのやり方だとうまくいかなかったことも「ゲームだったらやってみようか」と、取り組むきっかけにすることができます。また、ゲームの中なら何度でも失敗が許される。繰り返し取り組むのに適していると言えますね。
なんでもかんでもゲームにすればうまくいくわけではありませんが、使い方次第で生かせるシーンがたくさんあるということは、これまでの研究で明らかになっています。
さまざまなシーンで注目。ゲームと掛け合わせて相乗効果を狙う
さらに、実社会のさまざまなシーンでゲームが貢献している事例を紹介してもらいました。
教育×ゲーム

教育現場での実践の様子
教育現場では、さまざまなゲームが取り入れられています。代表例が「桃太郎電鉄※」。無料配布の教育版を導入している学校は1万校を超えており、そのうち小学校での利用が全体の約半数を占めています。ゲームをプレイすることで、地名を覚えるのに役立つだけではなく、「新幹線カードは何回に1回出るのか」など、確率や統計を学ぶ授業で使われることも。大学の情報リテラシーの授業では、留学生向けに日本の地理や文化を学ぶツールとしても活用されているそうです。
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実在する日本全国の駅をすごろく方式で回りながら、各駅で物件を購入し、最終的な総資産を競うゲーム
藤本さん 「子どもに大人気の『Minecraft(マインクラフト)※』もさまざまな学びにつながります。共同研究として、マイクラを使った広島や長崎の平和教育のワークショップを実施したことがあります。マイクラで原爆が落ちる前の街並みを再現。さらに被爆者の体験談や資料館で実際に学んだことをマイクラの世界で発信することで、平和教育に対する態度や意識の変容を促しました」
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ブロックで構成された広大な世界を自由に探索し、建築や冒険を楽しめるサンドボックスゲーム。
ビジネス×ゲーム
企業が研修や社員教育でゲームを取り入れる事例も増えています。デジタルゲームに目が向きがちですが、ボードゲームやカードゲームといったアナログゲームの活用も。一緒にプレイすることで、世代を越えて仲が深まったり、共感性が高まったりします。
藤本さん 「ビジネスシーンにおいては、『目的に合わせる』ことを意識してゲームを選ぶといいでしょう。例えば、経営やマーケティングについて学びたい場合は、経営シミュレーションゲームを試してみるのがいいですね」
ヘルスケア×ゲーム
「Games for Health」といって、医療教育やリハビリテーション、認知機能向上、メンタルヘルスなど幅広いヘルスケア分野でゲームが取り入れられています。特にニンテンドーDSのソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング(脳トレ)」が2005年に登場して以来、認知症予防や脳の機能向上といったゲームの研究は、現在まで盛んに行われています。
藤本さん 「最近では、リハビリテーションにVRを取り入れる試みも行われていますし、以前から『Kinect(キネクト)※』の技術を使って身体バランスを改善するなど、むしろ医療分野の方が実装が進んでいる部分もあります。また、発達障害の子ども向けのトレーニングや治療にゲームを活用する取り組みも。ゲームを一定時間プレイすることで、注意力や集中力の維持に効果があるとされています」
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身体の動きであるジェスチャー・音声認識によってゲーム機、コンピューターの操作ができるデバイス
アクション・パズル・フィットネス… 人生に役立つ力が培われるゲームをジャンル別に紹介
さまざまな場面で「人の関心を引き出し、学習意欲を高める」というゲーム。ジャンルごとに身に付くスキルや影響を教えてもらいました。
アクションゲーム | 迅速な操作を求められるため、反応速度や反射神経、目と手の協調性(目で見たものを処理して、手を動かして出力するという目と手の動作がつながっていること)が高まるとされています。 |
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シューティングゲーム | 敵の位置や安全確認を瞬時に判断するので、判断力が鍛えられます。動作を繰り返すことによって、さらにスキルは高まっていきます。 |
パズルゲーム | 問題に直面した時の見通しを立てる力や、論理的思考、問題解決能力などが自然に向上することが分かっています。また、気分が落ち込んでいる時にパズルゲームをやると、気分転換になるという研究結果もあります。 |
フィットネスゲーム | 遊びながら体を動かすことができる音楽ゲームは、運動習慣をつくるのに役立ちます。例えば、音楽ゲームの「ダンスダンスレボリューション」やフィットネスゲームの「リングフィットアドベンチャー」などの人気ゲームなどが挙げられます。 |
藤本さん 「フィットネスゲームは、真剣にやるとかなり良い運動になるんですよね。実際に私もアメリカにいたときに『Dance Dance Revolution(ダンスダンスレボリューション)』をやって、ダイエットに成功しました。その他にも、ジャンルとは少し異なりますが、3D空間でプレイする3Dゲームは、空間認識能力の向上が期待できます」
藤本さんによると、ゲームの経験を「自分の引き出し」にするには、ゲームで起きた出来事を会話して言語化したり、ゲーム内での状況と現実を関連付けて考えたりと、ただゲームをするだけでなく「ひと作業」を入れることがポイントだそうです。
藤本さん 「教育現場でも、授業のゲームで遊んだことを記録し、それを振り返ることで学びにつなげています。工夫次第でさまざまな取り入れ方ができるんです」
課金や広告に気をつけよう
学習・スキルアップという観点からは、課金したり、広告を見たりしないと先に進めないゲームはおススメできないそうです。例えば広告が突然表示されると、子どもに不適切な内容が含まれる可能性があるから。年齢層や目的に応じて、提供する側がゲームの種類を慎重に選び、配慮しましょう。広告や追加課金の必要がない「Apple Arcade」のようなサービスを検討するのもいいでしょう。

ゲームを健康的に楽しむために。「マイルール」を作る重要性
何事も「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」と言うように、ゲームも適切な範囲を超えてしまうと、健康面や生活に悪影響を及ぼすことがあります。スマホでいつでもどこでも手軽にゲームができる反面、ついうっかり長時間やりすぎてしまうことも......。
藤本さんに、ゲームを健康的に楽しむポイントを挙げてもらいました。
適度に休憩を取ること
長時間ずっとゲームをしていると、目の疲労や肩こりの原因になります。また、短時間なら気分転換になりますが、ずっと続けているとかえって疲れてしまい、気分が落ち込んでしまうことがあります。こまめに休息を挟んで、メリハリをつけるように心がけましょう。
“惰性” でゲームをやらない
「課金してしまったからにはやめられない」「オンラインで仲間が待っているからやめられない」といったように、“やめたくてもやめられない状況” が続くと、生活に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。
睡眠時間を削ってまでゲームを続け、生活習慣が乱れてしまう場合は明らかに問題であり、体調不良や「ゲーム障害」と呼ばれる依存症の要因になってしまいます。次のような点に当てはまる場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。気を付けたい兆候は次の通りです。
- ゲームをするときに「楽しさ」よりも「やらされている感」を抱いている
- ゲームをふいに中断させられると激昂したり、暴力的な行動を取ったりしてしまう
- ゲーム中心の生活から数ヶ月間抜け出せず、他の活動に支障をきたしている
- ゲームが原因で人間関係が悪化している
藤本さん 「大切なのは自分なりの切り替え方法を持つこと。ルールは誰かに押し付けられるのではなく、自分自身で『マイルール』を決めることが大切です。親子の場合、お互いが納得したうえでゲームをする際のルールを取り決めておくといいでしょう」
やり方次第で単なる娯楽にとどまらず、プラスの効果が期待できたり、さまざまな力を身に付けるのに役立ったりするゲーム。ただし、オンラインゲームは匿名の相手と行うため、ゲーム外の交流には十分注意しましょう。マイルールを設けながらゲームを生活にうまく取り入れ、充実した毎日を楽しみましょう!
(掲載日:2025年3月13日)
文:古田島大介
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