静岡県の清水港は、日本有数の国際貿易港として、また、国内および県内の産業活動や生活を支える物流拠点として重要な役割を担っています。
南海トラフ巨大地震による津波被害を想定した防災訓練が2025年3月に行われ、港湾分野における防災・減災、国土強靭(きょうじん)化へつながる取り組みとして、ドローンを活用した災害発生時の早期状況把握の実証実験が行われました。当日の様子や実験の狙いを紹介します。
津波被害を想定し「発災72時間」の情報共有をDXで支援
清水港は国内有数の物流拠点
30年以内の発生確率が80%程度に引き上げられた、南海トラフ地震。清水港は、南海トラフ巨大地震が発生した場合、震度6強から7の強い揺れに見舞われる可能性があると予想されています。また、高さ3メートル以上の津波が5分で到達することが予想され、さらに、シミュレーションによると地盤の隆起が生じることで、複合的な被害によって港湾施設の機能が大きく損なわれることが懸念されています。
一方、能登半島地震や豪雨などの近年発生した災害を通じて、人命救出において重要な「発災後72時間」の初期情報共有の仕組みが不足していることが分かってきています。
このような背景から、今回、清水港防災対策推進連絡協議会とソフトバンクは、清水港での避難訓練において、ドローン遠隔制御技術とクラウドを活用した情報集約システムを組み合わせることで、災害初期における迅速な被害状況把握や人命救助にデジタル技術を活用する「防災DX」の実証実験を共同で実施しました。
「防災DX」のユースケース策定に取り組む理由
今回の「防災DX」の実証実験には2つの目的がありました。
一つは、ドローンを活用することで、災害時に人が行けないような場所の被害状況を早期に把握することに向けた有効性を検証すること。
もう一つは、それらの情報やノウハウをデジタル化することで、担当者のローテーションに左右されないBCP体制を実現することだといいます。清水港では、港湾関係者による防災訓練が毎年行われており、本年もおよそ200人が参加しました。一方で、行政の職員は数年単位でローテーションが行われるため、ノウハウが蓄積しにくいという課題が指摘されています。
身近でかつ対策が急務となっている防災に焦点を当て、津波を想定した初動訓練を具体的なユースケースとして実証を行うことで、危機管理におけるノウハウの蓄積、担当者に左右されない防災活動の実現に貢献することが狙いです。
訓練当日は、清水港管理局、国土交通省中部地方整備局、鈴与株式会社、清水コンテナターミナル株式会社など多くの関係者が参加。実際に一部のコンテナターミナルの荷役を一時休止して避難をするなど、大規模かつリアルな訓練が行われました。
災害時のドローン活用の有効性を検証
避難訓練後、港湾内の会議室に場所を移し、ドローンを活用して空撮による港湾エリアの現状確認や情報集約などを関係者が体験しました。
実証を行った「防災DX」は、「クラウドGCSによるドローン遠隔制御」と「防災初動DXビューワーによる被災状況確認」の大きく2つのソリューションで構成されています。
①クラウドGCSによるドローン遠隔制御
ドローンの操縦は、目視による手動のリモコン制御とクラウドGCSによる遠隔制御の2パターンがあり、災害時など危険が伴う場合には、パソコンを使ってソフトウェア上で動かすことができるクラウドGCSによる遠隔制御が有効です。
GCSはGrand Control Systemの略で、地上管制ステーションのこと。ドローンを遠隔で操作・監視するための中枢システムで、遠隔操作や、飛行のリアルタイムモニタリングなどの機能があり、目視外飛行にあたっては国土交通省の航空局への申請が必要になります。
この日は、災害対策室が設置された会議室から、カメラを搭載したドローンを遠隔制御で飛行させ、港湾施設をリアルタイムで撮影・中継することで、現場に行かずに安全な場所から状況を俯瞰(ふかん)的に確認することができました。このような情報を活用することで、被害に対して限られたリソースを最適に配置するための意思決定を支援することが可能となります。
写真は、クラウドGCSによるドローンの遠隔制御画面。右下の小さいウィンドウにはあらかじめ設定された飛行ルートが番号で表示されている


クラウドGCSによる飛行映像を確認しているところ(左)と飛行計画図(右)。地図上に機体情報などが表示される
②防災初動DXビューワーによる被災状況確認
遠隔操作によるドローンでの現地調査結果をもとに、安全を確保した上で職員・関係者が被災状況の確認を行いました。現地に向かった職員が撮影した写真や動画をGPSによる位置情報※とともにアップロードし、ドローンだけでは確認できない詳細な現地情報を会議室でリアルタイムに確認。アクションプランを策定する上で効果的な情報集約をすることが可能となります。
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スマートフォンで撮影した写真には位置情報が記録されます
現地の情報を画像、動画、テキストの形式で地図上にプロットすることができるほか、場所の情報や時刻、被災の種別に応じてソートし、初動における対策などの意思決定を的確に行うための支援ができることを確認しました。
防災初動DXビューワーの投稿画面
今回の取り組みは、清水港港湾局とソフトバンクが国や県の港湾関係者、物流事業者とも協議を重ね、従来の防災訓練を発展させる形でドローンなどのデジタル技術を活用した訓練が実現できたといいます。
訓練に参加したソフトバンク株式会社 デジタルエンジニアリング本部 技術企画統括部の徳永和紀(とくなが・かずのり)は、具体的なドローン活用シーンをコンサルティングすることで、実際の災害発生シーンを想定した防災訓練を実現することができたと振り返り、「参加者からは災害時に二次災害のリスクがあるコンテナには近づかず、クラウドGCSを利用した遠隔操作による現場状況の把握を行うこと、さらには現地の安全が確認されたのち、現場の状況を簡易に投稿できて共有できるビューワーの価値が高いとのお声をいただいた。災害初動において情報を取得・共有できる仕組みを導入することで、人命、物流の要である港湾の安定稼働にソフトバンクのテクノロジーで貢献していきたい」と実証実験の手応えと今後への意気込みを語りました。
ソフトバンクは今後もテクノロジーを活用して、社会課題の解決に貢献していきます。
(掲載日:2025年4月11日)
文:ソフトバンクニュース編集部