
ソフトバンクは、災害により通信が使えなくなった地域の通信ネットワークを早期に復旧するための手段として、移動型基地局車や可搬型基地局を全国に配備しています。
2025年7月、「可搬型基地局」が現場の声を基に刷新されました。従来より大幅に軽量化・省力化された新型の可搬型基地局は、どのようにして誕生したのでしょうか。
災害時の機動力を向上。軽量化、シンプル化で組み立て時間が半分に、一度に運べる台数は3倍へ

災害時など、一時的に通信環境を確保する必要がある場合に、迅速に展開できる可搬型の基地局。新しい可搬型基地局の特長について、ソフトバンクの担当者に詳しく聞きました。
ソフトバンク株式会社
ネットワーク運用本部 災害対策室 災害対策課
岡崎 竜也(おかざき・たつや)
ソフトバンク株式会社
エリア建設本部 ネットワークマネジメント部 ネットワーク推進課
松本 陽(まつもと・よう)
ソフトバンク株式会社
モバイル&ネットワーク本部 建設部 構造設計課
柳澤 綾乃(やなぎさわ・あやの)
可搬型基地局とはそもそもどんなものでしょうか?
岡崎 「可搬型基地局は、携帯電話サービスの提供に必要な無線機やアンテナ、伝送装置、発電機などをパッケージ化した仮設の通信設備です。従来は、車両に衛星アンテナなどの必要な機材を取り付けた車両一体型と、さまざまな機材・パーツを車に積み込んで運搬し、現地で組み立てて設置する2つのタイプがあり、合計200台を運用していました。今回はこの200台すべてを新型へ刷新しました」
可搬型基地局はこれまでどのようなシーンで活用されてきましたか?
岡崎 「2017年の九州北部豪雨や2018年の西日本豪雨、2019年の房総半島台風、東日本台風など、大規模災害の現場で活用されてきました。また、災害時だけでなく、基地局の建て替えやメンテナンス時の一時的な代替手段としても使うこともあります」
刷新したきっかけを教えてください。
松本 「従来の可搬型基地局は、3Gに対応する機材をベースに2012年頃に設計されたものでした。2024年7月の3Gサービスの提供終了に伴い、3G対応の機材が不要になったことや、機材が老朽化してきた背景に加え、『重くて設営が大変。組み立て手順が複雑』 という現場からの声も刷新のきっかけの一つとなりました。新型では、Starlinkなどの新しいソリューションや技術に対応することはもちろん、軽量化することで機動力を上げて、災害に備えたいという思いもありました」
重くて大変だった、とのことですが、従来型はどれくらいの重量があったのでしょうか?
松本 「従来型は262kgと非常に重いのと、ボルトを締める箇所も多かったため、組み立てには2人で約2時間かかっていました。また、サイズも大きく部品も多かったため、1車両で1台しか運搬できないことも課題でした」
従来型の可搬型基地局
刷新にはいつ着手したのですか?
岡崎 「2023年度から本格的に検討を開始したのですが、実は、最初の試作品では想定通りに軽量化できず、課題が残ってしまいました」
柳澤 「軽量化かつ簡単に組み立て可能という目標を実現するために、私たちのチームがマストと架台の設計を大幅に見直すことなりました。現場の要望を満たしつつ、安全性の確保はもちろん、各種の法律に沿った設計になっているかを確認した上で、メーカーに要求仕様を提示。条件を満たしたメーカーからの提案について、実際に基地局を取り扱う現場の社員へのアンケート調査の結果なども参考にして、最終選考しました」

軽量化と短時間の組み立てに成功したということですね。
柳澤 「現地で2人体制、30分以内にマストと架台を組み立てできる可搬型基地局を作ることに成功しました。ソフトバンクでは災害発生時に、普段、基地局関連の業務に携わっていない社員も復旧活動にあたりますので、構造はできるだけシンプル化することを心がけました。工具を極力使わずに設営可能な構造とし、ボルトの数も極限まで削減。基準風速は30m/sを確保したまま、現場の運用を想定したさまざまな工夫が取り入れられています」
松本 「新型は、従来型の約35%の重量である95Kgで大幅に軽量化されました。サイズがコンパクトになりましたので、新型は1車両で3台まで運搬可能です。また、組み立て時間は約2時間から約1時間以内に短縮し、目標としていた機動力の向上を実現できました」
短い時間で組み立てするために、どんな工夫がされているのでしょうか?
柳澤 「従来は6mのポールを手作業で接合して立ち上げていたため、作業時にかなり負荷がかかっていましたが、新型では足で押すタイプの空気ポンプを採用したため、伸長式のポールを楽に立てられるようなりました」

複数のソリューションで災害時のネットワーク復旧に備える
可搬型基地局は、他の基地局とどう違うのでしょうか?
岡崎 「例えば、現地に赴いて臨時で基地局を設置できる大型の移動基地局車は、音楽フェスや花火大会といったイベント時など、主に人が多く集まり通信が混雑するエリアで使われます。通信容量も大きく、即時性に優れていますが、消費電力が大きくこまめな燃料補給が必要になるため、電源車も併せて手配することも検討する必要があります。
一方、可搬型基地局は、移動基地局車に比べて通信容量ではやや劣りますが、一度設置すれば現地にそのまま残して運用することが可能です。安定した外部電源を確保できれば、長期間にわたる使用にも対応できます。
また、発電機による電源供給だけでなく、災害時には避難所や役所の敷地などに設置されることが多く、家庭用の100V電源があれば、延長コードを使って簡単に稼働させることができるのも特長です」
現地の状況によって、使い分けるということですね。
岡崎 「はい、災害時には、その都度、通信障害の発生状況や現地までの移動ルート、電源確保の方法など、さまざま状況から総合的に判断して、最適なソリューションが何かを検討して対応します」

今後、どのような活用方法を想定していますか?
岡崎 「災害発生時に通信障害が発生した場合の大原則は、あくまで『通常の基地局を一秒でも早く復旧させること』です。光ケーブルが断線したり、電源が供給できない状況など、通常の基地局の復旧に時間を要する場合に、移動基地局車や可搬型基地局で通信エリアを一時的に回復させ、平行して通常の基地局復旧の作業にあたります。また、避難所などの屋内では、全国に50台配備しているStarlinkと小型無線機、Wi-Fiルーターを組み合わせた避難所向けシステムを用いるケースや、より広範囲で多くの人が集まる場所では移動基地局車を使うこともあります。
また、支障が生じたサービスエリアを迅速に復旧させることを目的に、災害対策ソリューションの開発にも取り組んでいます。現地到着後30分以内に通信エリアを構築でき、短期間の利用に適した「有線給電ドローン無線中継システム」は、すでに運用を開始しており、全国の主要拠点への配備を進めています。
有線給電ドローン
今後も、さまざまな状況に対して最適な対策が取れるよう、機材や体制を整えていきたいと思います」
通信エリア復旧への取り組み
災害などによる基地局の倒壊や停電などで、通信サービスがつながりにくいエリアやご利用いただけなくなったエリアを早期に復旧させるため、ソフトバンクでは移動基地局や可搬型基地局を配備しています。
車に直接基地局を搭載した移動基地局車や、車で基地局を持ち運び現地に設置する可搬型基地局など、さまざまなタイプの基地局を全国各地に配置し、緊急時に備えています。


(掲載日:2025年8月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部





