
2025年8月23日、福井県で開催された医学生向けの地域医療研修にて、MONET Technologies株式会社(以下「MONET」)が動く診療所「医療MaaS」をテーマに講演とデモンストレーションを行いました。遠隔医療という新たな医療の形に、福井県内の公的医療機関での勤務を志す医学生たちはどのように向き合ったのか。その気づきや体験を紹介します。
お話を聞いた人
MONET Technologies株式会社
MaaS事業部 エンジニアリング室

植草 誠(うえくさ・まこと)さん

水谷 誠(みずたに・まこと)さん
いま、地域医療が抱える課題とは
高齢化や医師不足、診療所へのアクセス困難といった課題は、全国的に深刻化しています。福井県でも、車を運転できない高齢者が多く暮らす地域や、バス路線などの公共交通機関が少ない地域では、「病院に行く」という行為自体が困難になりつつあります。

地域の医療課題を “自分ごと” として捉え、将来の選択肢を広げてもらいたい。そんな思いから、福井県では地域医療への従事を志す医学生を対象にしたさまざまな研修を実施しています。その一環として、2025年の夏期研修では、MONETが「医療MaaS」をテーマにした講演と模擬診療体験を実施しました。
医療MaaSという “新しい医療の形” を通して、学生にはどんなことを体験してほしいと考えていましたか?
植草さん 「高齢化が進む中で、交通の課題や医師不足により、“病院に行けない” という人が今後ますます増えていきます。医療が届かない場所を前提に考える必要があります。
地域医療が抱える課題に向き合うため、MONETは “病院に来てもらう” のではなく “医療を必要な場所に届ける” という発想から車両で医療を届ける『医療MaaS』の仕組み作りを全国47都道府県の自治体や医療機関と連携して推進しています」


水谷さん 「地域医療には、医師の偏在や移動手段の不足など、都市部とは異なる課題があります。学生の間に現場を体験してもらうことで、“医療が届かないとはどういうことか” を実感し、将来どんな医療を届けるべきかを考えるきっかけにつながってほしいです」
地域医療を体験し、“届ける医療” を考える
夏期研修には福井県での地域医療への従事を志す福井大学や自治医科大学の学生21名が参加し、8月22日・23日の2日間、県内の医療機関での実習や講義、学生同士の発表・交流などが行われました。MONETの講演とデモンストレーションは、2日目に実施された地域医療企画研修の一環として行われ、学生たちが医療MaaSの考え方に触れる機会となりました。

医療MaaSの必要性は、どんな地域課題に基づいているのでしょうか?
植草さん 「通院手段が限られる地域や、医師の常駐が難しい地域では、“医療が移動する” という選択肢が必要です。オンライン診療やMaaS車両を活用することで、その地域の中で完結する医療体制をつくることが目標です」
講演では、なぜ医療を動かす必要があるのかという視点から、福井県を含む全国のへき地や医療資源の少ない地域での実情が紹介されました。医師の高齢化や診療所の後継問題、免許返納後の通院困難など、学生たちにとっても、将来関わるかもしれない地域医療の課題が、具体的な形を伴って見えてきました。

講演のあとは、学生たちが医師・看護師・患者の3役に分かれて、オンライン診療のデモンストレーションを実施。遠隔診療支援機器を用い、バイタル確認や問診での会話のやりとり、片まひの診断手順を再現しました。

学生からは「遠隔でも、看護師の一言で安心できるというのは大きな気づきだった」「医師の代わりに看護師が目と耳になるという役割の重みを、体験して理解できた」といった声が聞かれました。また、オンライン診療での、看護師を通じた患者とのコミュニケーションにおいては、医師の言葉ひとつで患者の安心感が大きく変わることなど、実践を通して得た気づきも多かったようです。
今回の講演で、学生に最も伝えたかったポイントはどこでしたか?
植草さん 「最初はピンときていなかった学生たちも、模擬診療を通じてこういうやり方もあるんだと表情が変わっていくのが印象的でした。まだ課題に直面していない今のうちに選択肢を知ることが、きっと将来の現場での支えになると思います」
水谷さん 「医療MaaSを使ってみたいと感じてもらえるかどうかが重要です。技術だけでは広がりません。若い世代がこれからの地域医療には遠隔医療が必要だと自分ごととして考えてくれることで、ようやく社会に根づいていくのだと思います」
体験と学びを経て、見えてきた地域医療のこれから
学生たちは、2日間の学びを通じて、知識としての地域医療ではなく、へき地ならではの制約や工夫の中で行われている医療の実態を、自分ごととして捉える視点を得ていきました。特に、遠隔医療の体験や医療MaaSのような新しい仕組みに触れたことで、将来、自分たちが「医療をどう届けるか」という課題への選択肢が、意識されはじめたようです。

これからどんな地域医療を目指したいと感じましたか?
植草さん 「診療の形も、働き方も、いろいろな選択肢があっていいと思っています。医師が現場に常駐するだけではない形や、患者さんが移動しなくても済む方法を知っておくことで、地域に合った医療の形が選べるようになる。そんな選択肢を、現場に入る前の段階から届けていきたいです」
水谷さん 「“医療を受けるための移動が困難” という住民の声を前提に、“医療が動く” という意識をもっと広げたいです。地域住民の暮らしの中に医療がある。その状態を当たり前にしたいと思っています」
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(掲載日:2025年9月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部






