
生成AI(人工知能)の普及により、企業の生産性向上や業務改革の進め方はこの数年で大きく変化し、個々のタスク支援から、業務を動かす仕組みとして実装するフェーズへ移りつつあります。業務フローに組み込み、目的に応じたAIを自社で運用するにあたって注目されているのが、タスクを自律的に遂行する「AIエージェント」です。
ソフトバンクは、2025年12月に法人向けAIエージェントプラットフォームサービス「AGENTIC STAR」を発表しました。法人領域のAI活用を推進する組織の責任者に、企業におけるAI変革の潮流や新サービスについて聞きました。
目次

ソフトバンク株式会社 法人統括 AX事業本部 本部長
上原 郁磨(うえはら・いくま)
SBテクノロジー株式会社で法人・官公庁向け事業立ち上げや新規事業を推進し、2022年に執行役員CMO兼セールス&マーケティング本部長。2025年12月よりソフトバンクでAX事業本部の本部長に就任し、AI事業を中心に事業成長を牽引。
自律実行とガバナンスを両立し、知を組織の資産に変える。AIエージェント時代の新基盤「AGENTIC STAR」
ここ数年で、生成AIはビジネスのあり方を大きく変えてきました。“AIと共に働く” ことが身近になり、情報整理や資料作成、問い合わせ対応など、業務の一部をAIに任せる場面も増え、仕事の進め方そのものが変わりつつあります。
「AGENTIC STAR」は、AIエージェント時代の到来や、現在のビジネスシーンの課題感を背景に登場しました。
一問一答型の指示を受けて動く、単発的なタスク支援の生成AIに対し、AIエージェントは “目的に対して自ら思考・判断し行動する” のが特長です。ホワイトワーカーの例では、メールや会議など “仕事のための仕事” に多くの時間を費やしていると言われています。こうした定型業務を効率化しながら、判断や創造性が求められる非定型業務も支援することで、双方の業務の価値最大化を目指します。

セキュリティやガバナンスを維持しながら、業務の自動化、発想の拡張、システム連携まで全てを実現するプラットフォーム
このサービスを開発した狙いやポイントを改めて教えてください。
ビジネスを強力にサポートするため、AIエージェントを業務に組み込みやすくする 「土台」となることを目指して構想しました。特定のベンダーに依存せず、複数のAIやツールを組み合わせて、オーケストレーションできるプラットフォームです。また、監査ログなどを整備するのは意外に労力がかかり、実装の手前でストップしてしまうケースも少なくありません。「AGENTIC STAR」をベースに、ガバナンスや内部統制などをカバーした環境を簡単に構築できる設計にしています。
ユーザー視点での利便性はもちろんですが、情報システム部門など、管理側の反響も大きいと感じています。
ソフトバンクの社内でもすでに活用が進んでいるそうですね。
500人以上の社員が日常的に利用しています。例えばプログラミングなどのコード生成では従来に比べ約11倍もスピードが向上しました。他にも、「デザインはこんな感じで、HTMLでアプリを作って」と指示すると、操作可能なモックアップを作成してくれます。法人顧客への提案時に、実際に動くアプリを提示しながら商談を行う場面などで活用されています。

プログラムやモックアップ生成以外の活用例を教えてください。
例えば「IR情報を取得して」と指示すると、単に情報を収集するだけでなく営業向けの示唆を盛り込んだ形でアウトプットが生成されます。これは私が営業チームの責任者であるという役割を記憶しており、文脈を理解した上で提示しているためです。アウトプットが物足りないと感じたらフィードバックをすることで、学習して改善していく。個々のツールは地味かもしれませんが、シーンによって最適なツールを組み合わせることで、最適な提案をしてくれる、相棒のような存在です。徐々にブラッシュアップされてくると、提案書であれば、2回ほどの壁打ちで納得のいくものができあがるのではないでしょうか。
専用仮想環境で安全かつ高品質に自律実行。汎用型SaaS AIエージェントの4つの特長

- 専用仮想環境で安全かつ高品質に自律実行
「何をしたいか」を伝えると、必要に応じて実行環境が立ち上がり、タスク処理が進みます。自社の既存環境に影響しない設計です。 - 高度なガバナンス機能
ガードレール設定や有害コンテンツ制御機能、個人情報のマスキング処理など企業に必要な管理機能を搭載しています。 - マルチエージェント
用途に応じたさまざまな言語モデル、エージェント連携ができます。 役割ごとに最適な言語モデルをAIが自ら選択し回答品質を高めてくれます。 - 長期記憶による知見の蓄積と活用
記憶を人のように蓄積する機能により、使うほどに過去のやり取りや判断の傾向を踏まえパーソナライズされた提案ができるようになり、その人に合った情報や好みのデザインをアウトプットしてくれます。
記憶の方法について、人間のようにふるまう点も興味深いですよね。
インプットの仕方は基本的に人間と同じです。例えば「バナナ」を「黄色」と表するのか、「果物」など別の表現にするのか、ユーザーによって異なります。AIはユーザーのインプットをもとに、そうした考え方を習得します。好みをインプットすることもでき、対話の中で頻繁に出てくる内容や特定のシーンにおける判断パターンから、重要な情報を記憶として蓄積していきます。蓄積されたナレッジから、合致するパターンが生じた際に長期記憶を呼び起こすことで、個人に最適化された情報を提供します。
試しに「今月は私の長期記憶に何が蓄積された?」と聞いてみると、私自身の傾向や癖を教えてくれ、思わず納得してしまいました。

まさにパートナーのような存在ですね。こうした点もユーザーにとって評価されているのでしょうか?
そうですね。ナレッジの重要性を感じていても、知見を蓄積して、組織で活用できる状態を作るのは難しい。人事異動や退職で失われがちな知見を、組織の資産として残せる価値を感じていただいています。
生成AI利用からAIエージェント実装へ。企業のAI変革の最前線
AIエージェント同士が相互に通信し、複雑なタスクを遂行するA to A(Agent to Agent)の時代を見据えてスタートした「AGENTIC STAR」。上原は、今まさに企業がAIエージェントの実装フェーズにいることを実感していると言います。

企業でのAI活用は、現在どこまで進んでいる状況でしょうか。
2024年頃は「ChatGPT」「Copilot」「Gemini」といった個別の生成AIそのものに関する話題が中心でしたが、今は「AIエージェントを社内に実装したい」と、ニーズが明確になってきました。業務領域ごとに最適なエージェントを使い分けたいという相談も増えています。
現場に実装するイメージができあがり、これからAIエージェントを作っていくフェーズです。各企業の担当の方々は多くの情報収集やシミュレーションを重ねており、自社への実装という観点では、IT導入を支援する立場のSIerよりも詳しいのではないでしょうか。

各社とも、自社にAIを実装しようという本気度が感じられますね。実装へと動き出す中、企業はどんなところで困っているのでしょうか?
情報があふれるがゆえに、迷いが生じるケースも起こっているように感じます。特に大きな壁となるのが管理面です。AIエージェントが増えるほど、統制外のエージェントが発生するリスクが高まります。ガバナンスやセキュリティを同時に整備する必要がありますが、これを並行して進めることは容易ではない、という声をよく聞きます。
構想から実装・定着まで一気通貫で支える。AX事業本部が目指すアジリティと実装力を備えるワンチーム体制
AIエージェント活用を実際の成果に結びつけるには、いかに業務の構想を描き、データや運用の設計を整え、現場に定着させるかなど、要素が多岐にわたります。ソフトバンクのAX事業本部が目指すのは、課題を整理し、現実の解決に落とし込む伴走者としての役割だと言います。
AIエージェント実装フェーズに合わせて設立された組織について教えてください。
変化が速いAI領域は、単体のプロダクトを売るような世界ではなくなってきました。だからこそ、協力会社をはじめとする他社との組み合わせで価値を創出するため、これからの開発は共創が前提であり、現場のニーズに合わせて柔軟に届ける体制が重要になると考えています。
お客さまの課題解決をお手伝いする中で感じるのは、ITの話をするよりも、まずは「どうしていきたいか」という構想を固める必要があるということです。そこを起点に、AIの最新動向やデータ整備の論点を押さえ、さらにプロダクト開発から実装・定着まで実行するSI(システムインテグレーション)に進む。一連のプロセスにおいてお客さまと伴走し、解決に導く存在が求められています。
そうしたニーズに応えるのが、AX事業本部ということでしょうか。
はい。コンサルティング、ソリューションの販売、プリセールス、プロダクト開発、SI、導入後の伴走まで、一気通貫で対応できる体制を整えました。
組織には各分野の専門性を備える人材が集まりました。個々がバラバラに動くのではなく、ひとつのチームとして機能し、また機動性(アジリティ)を高めるために意思決定のスピードを確保することも狙いです。

「PoC祭り」で終わらせない。実装まで “最短距離” で持っていく
実行力とスピードを兼ね備えたチームと、「AGENTIC STAR」をはじめとするソリューションで、今後も日本の企業をサポートしていくのですね。
そうですね。AIエージェントを束ねる基盤となり、さらにエンタープライズ向けにガバナンスまで効かせたSaaS型のサービスというものは意外と少なく、「AGENTIC STAR」は多くのお客さまから引き合いがあります。
このポイントがどう生きてくるかというと、日本でよく言われる「PoC祭り」とか「PoC疲れ」といった状況を解消できること。何かを始めようとするとガバナンスなどの設計が必須で、実装の手前で行き詰まってしまうことも多々ありましたが、機能が最初から備わっていれば立ち上がりが速い。さらに、われわれのチームが一気通貫でサポートすることで、お客さまと共にAIエージェント時代の新たな姿を模索していければと思っています。
数年後には、各社にAIエージェントが導入されている状況でしょうか。
変化が激しい時代ですが、3年後にはA to Aの形がより具体化していると考えています。現在は「Human in the loop(AIの学習や運用プロセスに人が積極的に関わること)」が主流ですが、今後は自ら人の働き方を学習し、判断してタスクをこなし完結させていく。そうした世界観です。
変化に柔軟に対応するためには社内外との連携も欠かせなそうです。
それにはマルチエージェント、AIエージェントオーケストレーションの考え方が不可欠です。「AGENTIC STAR」は、SaaSモデルの他にもいくつか提供パターンを用意しています。今後はやSDK(ソフトウェア開発キット)を提供する開発基盤提供モデルもスタート予定で、SIerやコンサルティング企業にも使っていただける共創モデルになっています。パートナーの皆さまと一緒にぜひこの構想の実現に向け取り組んでいきたいと考えています。

(掲載日:2026年3月27日)
文:ソフトバンクニュース編集部
企業のAI活用をサポートするソフトバンクの支援サービス

生成AIの導入や構築を支援するサービス、AIを搭載した実用的なサービスを紹介しています。




