
国内最大級のインターネットテクノロジーイベント「Interop Tokyo 2026」が、6月10日から12日にかけて幕張メッセで開催されました。ソフトバンクは、常務執行役員 兼 CTOの湧川隆次による基調講演や、AI活用の拡大に伴う新たなセキュリティリスクへの対応をテーマにした基調講演や展示を行いました。
目次
AI時代、ネットワークの価値はどう変わるのか

ソフトバンクのCTOとしてAIや先端技術などの戦略を統括する湧川が、6月10日、開幕直後の基調講演に登壇しました。実は、30年以上前、STM※としてInteropの現場に立っていた湧川。
「毎回、新しい技術を持ち込んで作ってみる。そして終わったらまた壊して、次の年に新しいものを作る。それを今でも継続して繰り返しているのがInteropの素晴らしいところ」と、自身の経験とInteropのネットワークとの縁を振り返りました。
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STM(ShowNet Team Member):「Interop Tokyo」における、巨大なデモンストレーションネットワーク「ShowNet(ショウネット)」 を構築・運用する若手エンジニア・学生ボランティアの呼称。
AI時代のインフラを支えるため、ソフトバンクは大規模な投資を進めています。講演ではまず、「北海道苫小牧AIデータセンター」や「大阪堺AIデータセンター」を中核とするAI計算基盤について説明しました。
データセンターだけではなく、国産生成AI「Sarashina」の開発や、AIの学習と推論に対応したGPUクラウドを構築できるソフトウエアスタック「Infrinia AI Cloud OS」、AI-RANプロダクト「AITRAS」まで含めて整備を進めていることを紹介。

「ソフトバンクが日本全国に持っているファシリティやインフラを活用し、学習や推論を動かすコンピューティングを配置していきます。次のAI時代を支えるコンポーネントを整備して、AI Readyの状態を作っています」と説明しました。
「AIの活用において、ネットワークは非常に重要。何と言ってもネットワークなんです」と、重要性を強く訴えた湧川。AIのユースケースが広がらない理由の一つは、ネットワーク性能にあると指摘しました。

通信基盤を生かしてAI時代のインフラを構築するTelco AI Cloud構想
現在のAIは、大きく分けてデバイス側とクラウド側で動作しています。デバイス側では、処理性能や消費電力、コストといった制約があり、大規模モデルを搭載することが難しくなります。一方でクラウド側は強力な計算能力を利用できる反面、インターネット経由による遅延やジッター(通信の遅延のばらつき)の影響を受けます。特にロボットなどフィジカルAIでは、この差が大きな問題になります。
「これまで、通信事業者であるソフトバンクは、ネットワークのKPIを通信速度や容量で追求してきました。しかし、AI時代には、TTFT(Time to First Token)やTPS(Token per Second)といった指標が重要になってくる」と説明。ユーザーが入力してから最初の応答が返ってくるまでの時間を短縮し、どれだけスムーズに応答を生成できるかが、AIサービスの価値を左右するためです。


AI時代のインフラを考える上で、湧川が繰り返し強調したのが「ネットワークとコンピューティングの融合」です。現在、多くのAIサービスはクラウド上で動作しています。しかし、AIの利用が広がるにつれて、単純に大規模なデータセンターを用意するだけでは対応できなくなるといいます。その背景にあるのが、推論処理の増加です。

学習済みのAIモデルを実際のサービスとして利用する推論は、ユーザーやデバイスの近くで実行するほど応答速度が向上します。特にロボットや自動運転などリアルタイム性が求められる領域では、クラウドとの距離そのものがサービス品質に影響します。こうした課題を解決するため、ソフトバンクが掲げているのがTelco AI Cloud構想です。湧川は、「全国に通信設備や拠点を持つソフトバンクだからこそ、ユーザーの近くにエッジGPUを配置できる」と説明。その中核を担うのは、AIデータセンター向けのソフトウエアスタック「Infrinia AI Cloud OS」です。

GPUは非常に高価な一方で、CPUのようなマルチテナント運用が難しく、利用効率を高めることが課題でした。「Infrinia AI Cloud OS」では、GPU、ネットワーク、OS、Kubernetesを統合的に管理し、学習から推論までを効率的に運用できる環境を提供します。
「お客さまはAIモデルを持ってくるだけで良い。AIモデルを開発する企業がインフラ運用に時間を割くのではなく、本来のAI開発に集中できる環境を整備したい」と話しました。

さらに重要なのは、学習と推論をつなぐ循環です。AIは一度作って終わりではありません。利用によって得られたデータを再び学習へ取り込み、モデルを改善し続ける必要があります。
「AIの一番良いところは進化すること。データさえあれば学習ループを作ることができる。学習と推論を循環させるプラットフォームこそがAI時代のインフラになる」と説明しました。
フィジカルAIに求められるのは “賢さ” より “速さ”?
近年、生成AIの進化によって、ロボットなどが現実世界を認識し、判断し、行動するためのフィジカルAIが注目を集めている中、湧川は、「現在のフィジカルAIでは、モデルを小型化して高速化させるアプローチがトレンドとなっている」と指摘。

現在は、周囲の状況を理解するVLM(Vision Language Model)と、ロボットの動作を生成するVLA(Vision Language Action)を組み合わせる構造が一般的になっています。一方で、大規模なAIモデルは推論に時間がかかり、ロボットの動作の遅延に直結してしまうという課題があるため、今のフィジカルAIにおいては、小型モデルを活用し、“賢さ”より“速さ”が重要視されているといいます。
この状況に対し、「VLMをソフトバンクのAIインフラ上で動かせるようになれば、大型モデルでも瞬時に推論が可能」と説明し、将来的にはより大規模なAIモデルをフィジカルAIで活用できる可能性が広がるという考えを示しました。

ソフトバンクは、安川電機と連携し、こうした技術を活用した実証を進めていることに言及。フィジカルAIの本質はロボットそのものではなく、そこから生まれるデータにあると説明しました。
「ロボットは毎日大量のデータを生成します。そのデータを学習へフィードバックすることで、AIモデルは継続的に進化していきます。学習と推論を循環させる仕組みが整えば、フィジカルAIはさらに進化していきます」と将来像を示しました。
AI-RANが変える通信インフラの未来
後半は、AI-RANと6Gに向けた取り組みについて紹介しました。

6Gに向けた挑戦。7GHz帯「センチメートル波」の可能性
AIインフラの話題に続いて、湧川は2030年ごろの実用化が見込まれる6Gに向けた研究開発についても紹介しました。

7GHz帯を中心とした「センチメートル波」について、東京・銀座エリアで実施した実証実験を紹介。現在5Gの商用ネットワークで利用されている3.9GHz帯の基地局と7GHz帯の実験用基地局を並べて設置し、エリアカバレッジや通信品質を比較した結果、7GHz帯は3.9GHz帯にほぼ同等のエリア特性を示し、通信品質を示すSINR(信号対干渉雑音比)では良好な結果が得られたと説明しました。

「正直、ここまで良い結果が出るとは思っていませんでした。都市部ではビルの反射による干渉の影響が大きくなります。しかし7GHz帯はその影響が比較的小さく、高い通信品質を維持できる可能性が見えてきた」とし、「非常にバランスの取れた周波数になるのではないか」とコメント。
一方で、7GHz帯の電波の利用における課題にも触れました。7GHz帯周辺は既に放送事業者や衛星通信事業者などが利用しており、新たに移動通信の用途で利用するためには周波数共用技術の発展が欠かせません。
限られた周波数資源を有効活用するための、AIを活用したスペクトラムセンシングや周波数共用技術についても触れられました。新しい周波数を求めるだけではなく、既存利用者との共存を前提とした技術開発も6G時代には重要になると説明しました。
通信ネットワークをAIにより高度化。日本をAI大国へ
AI-RANは、通信ネットワークとAIコンピューティングを融合させる新しいアーキテクチャーです。ソフトバンクは2019年ごろからNVIDIAと研究開発を進めており、その取り組みは現在のAI-RANアライアンスや、AI-RANプロダクト「AITRAS」へとつながっています。

これまでの基地局は、通信処理を担う専用設備として設計されてきました。一方、AI-RANでは、GPUを活用したソフトウエアベースの構成へ移行することで、通信とAIを同じインフラ上で運用できるようになります。湧川は、AI-RANの価値を「ソフトウエアでモバイルを加速していく」と表現した上で、通信トラフィックが少ない時間帯にはAI推論へ計算リソースを割り振り、通信需要が高まる時間帯にはネットワーク処理を優先する、といった柔軟な運用も視野に入ると説明しました。

AI-RANの概要については、こちらの動画で詳しく紹介しています。
湧川は、「通信ネットワークをAIによって高度化し、新たなサービスや技術開発を進めていく。5Gも6Gも含めた『AI-RAN for Any G』として進化させていく。日本をAI大国にしたい」と講演を締めくくりました。

湧川による基調講演のほか、AIエージェント時代に求められるセキュリティのあり方について、基調講演を行いました。あわせて記事をご覧ください。
(掲載日:2026年6月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部





