ソフトバンクは今、北海道に東京ドーム約15個分にあたる超大型のAIデータセンターを建設するプロジェクトに取り組んでいます。一般人は立ち入り禁止というこの施設は、実はこれからの社会に欠かせないものだそう。謎に包まれたプロジェクトの秘密を明らかにするため、「データセンターって何?」「どうして北海道に作る必要があるの?」など、そもそものところからソフトバンクの担当者に聞いてみました! 聞き手はテレビ・ラジオ出演や音楽活動など、多方面で活躍中のミッツ・マングローブさんです。
PROFILE
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ミッツ・マングローブ
MITZ MANGROVEタレント・歌手
10代から20代にかけて約7年間をイギリス・ロンドンで過ごす。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、英国ウェストミンスター大学コマーシャルミュージック学科へ留学し、音楽ビジネス全般を学ぶ。2000年にドラァグ・クイーンとしてデビュー。以来、ライブイベントやテレビ・ラジオ出演など、さまざまな芸能活動を展開。現在はコラム執筆、⼥装歌⼿3⼈による⾳楽グループ「星屑スキャット」として音楽活動など精力的に活動中。
ソフトバンク株式会社 次世代社会インフラ事業推進室 室長
淺沼 邦光(あさぬま・くにみつ)
北海道でいったい何が起きている?
ソフトバンクさんが今、北海道で超大型データセンターというものを建設中だと聞きました。私のような末端のユーザーからしてみると、通信会社さんには電波の状況さえ良くしてもらえたらうれしいといいますか、正直よく分からないんですよね(笑)そもそもデータセンターって、何なのでしょうか?
データセンターとは、データ通信やデータ処理を担う施設のことで、日本全国の通信やウェブサービスを支えています。例えば、ミッツさんもスマホでLINEやPayPayをお使いになったことがありますよね? これらのサービスが提供される際にも、データセンターを経由する必要があるんですよ。
ソフトバンクが北海道に新たに作ろうとしているデータセンターは、「AIデータセンター」と言って、急増するAI処理に対応するための施設になります。ChatGPTとか生成AIが普及してきていると思うんですけど……。
生成AI? 分かりません 。AIなんてどこで普及しているんですか?
身近なところでいうと、例えばスマートスピーカー。「今日の天気は?」「あの曲を流して」などと話しかけると質問に答えてくれたり、家電を操作したりしてくれる多機能スピーカーです。指示を理解させる際、AIの自然言語処理機能が使われているんです。
あれ、本当に使っている人いるんですか(笑)? 私はなんだか恥ずかしくて使えませんね。でもAIと言えば、毎年伺っている松任谷由実さんの苗場リゾートコンサートで「今年は映像を全てAIで作った」とおっしゃっていましたね。
松任谷由実さんもAIを取り入れてるんですね! 確かに、エンタメの世界でも使われる機会が増えてきたと感じます。さらにこれから先、少子高齢化による人口減少といった日本の社会課題を背景に、みんなが当たり前にAIを使う “AI社会” が到来すると考えていて、それを支えるものを「次世代社会インフラ」と呼んでいます。
それがデータセンターにつながるんですね。
はい。データセンターの建設も次世代社会インフラ構築の一環です。2026年北海道に開業予定のデータセンターは、敷地面積が将来的に70万平米、東京ドーム約15個分までの大きさになり、このような広大な自然の中に作られます。
「東京ドーム何個分」ってよく言いますけど、正直あまりピンとこないんですよね…。とにかく、ものすごく広い場所に、コンピューターがたくさん集まっているということですよね。こういうのってすごく繊細なんでしょう?
そうですね。精密機器なので、一定の温度をキープするなど管理を徹底する必要がありますし、セキュリティの面でも厳重な体制を整えます。一般の方は基本的に立ち入り禁止。これだけ広い場所ですが、働くのは数十名とか、最大でも100名くらいの想定です。ほぼ無人でも運営できるオペレーションを構築しつつ、万が一に備えて、管理者や警備員などが24時間体制で見守ります。
なぜ、こんなに大きな施設が必要なんでしょうか? AIの利用が増えているからといって、今のところ日常生活で不便を感じることは、特にありませんけど。
おっしゃる通りで、確かに今は困ってないんです。ただ、AIは今あるウェブサービスに比べて、莫大(ばくだい)なデータ処理・通信が発生するため専用のAIデータセンターが求められます。今ではインターネットがなくてはならない時代になったように、将来的にはAIがなくてはならない時代になることを見据え、その基盤となるAIデータセンターを、今のうちに作っておくことが重要だと考えています。
巨大施設が “データ爆増時代” を支える
未来を見据えてのプロジェクトということですね。AIデータセンターがないと具体的にどんな問題が起きるのでしょうか? まだあまりイメージが湧かないんですよね。
AIデータセンターを作らなければ、日本のさまざまな産業において、AIサービスを十分に使えず、世界から取り残される状況になると予想します。国の成長のためにも、さまざまな社会課題を解決するためにも、重要な施設になっていくのではないかと。
例えば、アメリカや中国ではすでに普及しつつある自動運転タクシー。人間の代わりに車を運転する “頭脳” を搭載するのですが、この頭脳を生むために、AIが使われます。自動運転は使用するデータ量がとても多いので、大量のデータを高速で処理できるAIデータセンターがあってこそ進展していく。もしAIデータセンターが不足して、データ処理が追いつかなくなると、将来的に今まで私たちが日常的に使っていたウェブサービスやアプリなどもスムーズに使えなくなるということも考えられます。
私個人的には、まだAIに頼る気はなかったのですが、高齢社会で自動運転などを必要とするケースなどは増えていきそうですよね。でもどうして今回、北海道に建設されるのでしょうか?
現在、データセンターは東京や大阪などに集中しているのですが、それだと、仮に災害などで東京や大阪が甚大な被害を受けたときに、データセンターもダメになってしまうというリスクがあるので、まずは離れたところに「第3の拠点」を作ろうということに。そのため、建設地はハザードマップをチェックしながら、津波や川の氾濫などさまざまな災害リスクが比較的低い土地を選びました。また、北海道は新千歳空港があり、複数の国際海底ケーブル計画が進行中など、人とデータを集めるハブ機能を有しているという点でも注目しました。大きな施設を作るわけですから、広い土地があることももちろんポイントですね。
なるほどね。そんなに災害リスクも低い、良い土地なら人間が住みたいと思ってしまいますけど…。これって地上に作らないとダメなんでしょうか?
普通のデータセンターもそうなのですが、AIデータセンターは特に、AI処理をする際に大きな電力が必要となります。このとき熱も発生するため、それを冷やすためにもまた電力を使うんですね。その意味で、地下だと排熱効率が悪くなってしまうんです。
ちなみに、エネルギー面でいうと今回の施設は、北海道の「涼しさを活用した省エネルギー」「広大な自然を生かした再生可能エネルギー」を軸として、地産地消型のグリーンデータセンターとして運用したいと考えています。
環境のことも考えて、ということですね。
はい。このデータセンターは将来的に300メガワット級(※)への拡張を予定していて、これは小規模な火力発電所1基分の電力に相当します。では火力発電所を増やせばいいかというと、石油・石炭を燃やすことになるため自然にやさしくないですし、資源もいずれ限界がきます。ですから、再生可能エネルギー100%で運用できるデータセンターを目指していきます。
※300メガワットは2024年10月現在の計画であり、今後変更する可能性があります。
すでに人間の文明は、地球環境に大きな変化をもたらしてきてしまっていますからね…。とは言え、北海道みたいに広い土地があるところばかりではないですよね。もう少し小さい規模でできないものですかね。
はい、今後は用途によって、大きいものから小さいものまで作る予定です。例えば、AIにデータを読み込ませて学習させるには、大量の計算処理が必要になるので、北海道のような大型のデータセンターを使います。一方で、AIカメラの画像判定などもう少し小さなリソースで対応できるサービスもあるので、それは小さなデータ処理の拠点を都道府県単位で作っていき、対応できればと考えています。そうやって各地に分散させていくことで、電力やデータ処理の “地産地消” を実現できれば、遅延もしにくくなり、AIサービスの安定化につながると考えています。
新しい時代には、新しいインフラが必要
データセンターの重要性はよく分かりました。なぜ携帯電話会社のソフトバンクさんが、そこまで力を入れているのですか?
これまで、ソフトバンクはインターネット回線やモバイル通信によって、通信インフラを普及させてきました。次は、これからのAI社会に備え、データセンターなどの新しいインフラを整備していくことが私たちの使命だと考えています。
先ほど、ミッツさんはAIの浸透をあまり実感していないとおっしゃいましたが、今後スマホが進化する中でも、おそらくAIの要素がどんどん入ってくると思います。例えば、どこかに出かけるとき。これまでは自分で調べて、どこに行くか選んでいたと思いますが、将来的にはAIに「こんなところに行きたい」と言えば、すぐ提案が返ってきて、予約までワンストップで完了できるようになるのではないでしょうか。こういうサービス、使ってみたいと思いますか?
私はネット予約ですら、まだ抵抗があるんですよね。もちろんタイパやコスパを求める方にとってはそうしたサービスはいいでしょうが、声や言葉といった人の手触りを省いた後にいったい何が残るんだろうと思ってしまいます。
そういうお気持ちもよく分かります(笑)私自身は1980年生まれで、今のようにデジタル化する以前の社会に育ったので、人の手触り感は大事なもので、絶やしてはならないという思いがあります。
一方で、ソフトバンクの社員としては「自分たちの取り組みを通して、社会に何ができるか」を意識しています。例えば、障がいのある方などの生活やコミュニケーションのサポートには、AIは大いに役立つのではないでしょうか。
確かに、医療現場などでは活用されるでしょうね。ただ、AIを使って利便性を高めることを追求するだけでなく、ユーザーがアナログな部分も味わえる選択肢は残しておいてほしいと強く思います。
ご意見ありがとうございます! ミッツさんとお話ししていて、便利なことだけでなく、そうした繊細だけどたしかなニーズがあることを深掘りしていきたいと感じました。ミッツさんにぜひお聞きしたいのですが、AIのような新しいテクノロジーに期待するのはどんなことですか?
今後AIも含めたテクノロジーが、私の余生にどんな興奮や刺激を与えてくれるんだろうかという期待はしてますよ。期待はしてますけど、絶対自分が負ける気はしないです。
今まで私が50年間の人生で経験してきたことだったり、抱いてきた感情だったり、見てきたものだったり、聴いてきたもの、それから出会ってきた人たちから受けた学びや感動を上回るものはAIからはきっと出てこない。実際、AIで作られたものを見ても、作り手のセンスや季節などを感じません。便利な技術が発達してきている一方で、人間のセンスが落ちてきているのではと… そう思いませんか?
そこは共感する部分もありますね。昔のCMとかエンタメって尖った面白いものが多かったですよね。だからこそ、そういう時代を見てきたミッツさんのハードルを超えられるAIを開発できる未来になるよう、インフラ基盤を整えていきたいと思います。もちろんそこには人間の存在も重要で、AIが何かを全部作るのではなく、人間が「表現したい」と思ったとき、それを実現するツールとしてAIを選択できるような社会が理想ですよね。
同感です。そうなると、AIを使う側の人間の感性やセンスが一層大事になってくるはずですよね。
はい、私たちもそこは大事にしていきたいです。やはり中心は「人」であるべきですよね。対話型のロボットなども、今はまだ機械的ですが、AIの進化によって自然な表情や会話ができるようになれば、もっと感情に寄り添ったコミュニーションができるようになるはず。そんな風に、便利なだけではなく、情緒や温かさを感じられるテクノロジーを作りたいですし、AIデータセンターがそれを支える基盤になればと思っています。
今日は、新鮮な視点をたくさんいただき、ありがとうございました!