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「ただのオヤジと思われたくない」 5Gサービスの未来と挑戦の軌跡を無線設計のシニアネットワークディレクターが語る

「ただのオヤジと思われたくない」 5Gサービスの未来と挑戦の軌跡を無線設計のシニアネットワークディレクターが語る

2020年3月27日、ソフトバンクは5Gサービスを開始しました。5G時代の幕開けとなった今年は、5Gスマートフォンの発売はもちろん、その特長を生かしたさまざまなサービスの提供が予定されています。5Gは私たちの生活に何をもたらすのでしょうか? 5Gサービスを開始するにあたっての苦労や今後実現していくことについて、無線設計におけるソフトバンクのシニアネットワークディレクター、酒井尚之に話を聞きました。

5Gの特長「高速大容量」「低遅延」「多接続」はいつ体感できる?

社内イベントにおけるプレゼンテーションの様子

ソフトバンク モバイルネットワーク本部 シニアネットワークディレクターの酒井尚之(さかい・なおゆき)

5Gサービスが開始され、当初はサービスエリアも限定されているとのことですが、今後、どういった形で皆さんが体感できるようになりますか。

5Gの特長は大きく3つ「高速大容量」「低遅延」「多接続」です。2020年3月に開始したSoftBank 5Gは、まず「高速大容量」が中心になります。お客さまに5Gの魅力を身近に感じてもらうため、「高速大容量」を生かしたサービスとして「5G LAB」を提供開始しました。

「5G LAB」とは?

5G LAB

5G時代ならではの臨場感あふれるコンテンツを体験できるサービス。5Gの特長を生かした映像を体験できる「AR SQUARE」「VR SQUARE」「FR SQUARE」と、快適なクラウドゲーミングを体験できる「GAME SQUARE」で構成されています。

「5G LAB」アプリマニュアル! エンタメやスポーツの視聴体験が劇的に進化! 究極の5G体験へ

今後、「低遅延」「多接続」を活用したサービスも実現されていくでしょう。例えば、スタジアムやライブ会場のような大勢の人が集まる大規模イベントで、高速な通信を維持したまま動画を見られるようにしていきたいと考えています。

これまでは、イベント会場で多くの人がメッセージアプリでテキストを遅延なく送ることが目標でした。5G時代では、混雑した環境でも高負荷の動画やライブ映像を見ることができたくさんのユーザーが同時に使えるという時代になっていきます。スポーツやミュージックライブでは、大容量の通信を必要とするマルチアングルで好きな角度から好きなシーンを、会場で再生しながら観戦するといった楽しみ方ができるかもしれません。

2019年3月に実施した5Gを活用したマルチアングルVR試合観戦の実証実験のVR体験映像

2019年3月に実施した5Gを活用したマルチアングルVR試合観戦の実証実験のVR体験映像

さらにスマホだけではなく、さまざまな機器同士の通信を活用したユースケースが想定されます。ダウンリンク(基地局から通信機器に向かった通信)の強化もさることながら、アップリンク(通信機器から基地局に向かった通信)の向上という観点で対策を考慮することも必要です。例えば、上空からの映像をドローンに取り付けられた高精細カメラで撮影し、その動画を遅延なくリアルタイムに送信するという利用シーンも想定されるでしょう。

ドローンを使用した鉄塔点検

ドローンを使用した鉄塔点検

5Gを利用できるサービスエリアは今後、どのように広がりますか?

5G専用の基地局を設置していくのももちろんですが、より広いエリアに5Gを提供するため「4Gの周波数帯を5Gへ転用する」という議論が総務省で進められています。これが実現されると、4Gと比較して、数十ms(ミリ秒、1,000分の1秒)から数百msecほど早くなると見ています。

数十ms~数百msという単位の低遅延を人間が体感するのは困難ですが、遠隔操作などリアルタイムの操作や反応を求められる機器同士の通信には大きな変化をもたらします。また、4Gで使用しているネットワークは障害物の後ろに回り込みやすいというメリットがあるので、より安定した5Gのサービスエリアを作るために重要な要素だと思います。

届きにくい高い周波数帯の改善、3Gや4Gでの苦悩が今の5Gにつながった

届きにくい高い周波数帯の改善、3Gや4Gでの苦悩が今の5Gにつながった

モバイルネットワークには2.1GHz、3.5GHz、900MHzなどの周波数帯があり、それぞれ特徴がある

4Gではどのような対策を行ったのでしょうか。

モバイルネットワークの周波数(電波)には「高い周波数帯(2.1~3.5Ghz・ハイバンド)」「低い周波数帯(900MHz・ローバンド)」などがあります。それらは、総務省から通信事業者に対して割り当てられるのですが、以前ソフトバンクはハイバンドの割り当てが中心で、遠い所まで通信が届きにくいという特性による問題がありました。それを解消するための一つとして、いち早く電力柱(電信柱)を使用したり、届きやすくしたりする工夫を行いました。実施後、通信の干渉をさけながらより遠くに届けることができるようになり、スループット(通信速度)の向上につながりました。

これらの工夫はローバンドが割り当てられていたら実施することがなかったかもしれません。結果的に、現在のネットワーク構築におけるソフトバンクの強みの一つになっています。

5Gではどんな部分が強みになるのでしょうか。

5Gの規格は大きく分けて、SA(Stand Alone)とNSA(Non-Stand Alone)の2つがあります。SAは5Gだけでつながる規格、NSAは4Gと組み合わせることで5Gを実現させる規格です。当社が現在提供しているサービスはNSAですが、5Gが4Gの影響を受けることが分かっています。

飛びにくい高周波数帯の改善、3Gや4Gでの苦悩が今の5Gにつながった

私は3Gからネットワークの設計に携わっていますが、その当時から「必ず、旧世代の規格に影響を受けるときが出てくるので、旧規格・新規格の組み合わせをいかに効率よくするか」を考えて開発を行ってきました。その経験が5Gで生かせると考えていて、強みになると考えています。今後、5G中心に切り替わっていきますが、いかにシームレスにつなげていくかがキーだと思っています。

“パケ詰まり” を無くす、ネットワークを作ることの難しさ

”パケ詰まり”を無くす、ネットワークを作ることの難しさ

ほかにもどんな課題があったのでしょうか?

スマホが普及するにつれて、次第にもっと多くの周波数が必要になり、基地局数をさらに多く設置するようになりました。特に人が密集するスポットエリアにおいては基地局一つあたりのカバーエリアをコンパクトにする「スモールセル」が必要になりますが、スモールセルは基地局同士の干渉が問題になることがあります。

そこで、高トラフィック、つまり多くの人がいて、たくさん通信が発生するようなエリアは、数多くのアンテナを使う技術「Massive MIMO」を取り入れました。「Massive MIMO」は基地局を大容量化する技術で、5Gの有力な要素技術の一つとされており、4Gが主流だった当時に先がけて取り入れて解決を図りました。

ちょうどそのころ、Massive MIMOによるPre5G検討とキャリアアグリゲーションによる高速化が潮流でした。キャリアアグリゲーションでは、20MHz単位の異なる周波数を束ねることで高速化を実現します。Massive -MIMOでは、単一の周波数(最大20MHz)のみのビームフォーミング技術でした。ピーク速度を実現するか、多くのユーザーに実効速度を提供するかという課題において、双方を解決できる技術開発を実現しています。結果としてお客さまにストレスを感じさせないネットワークを提供できているのではないでしょうか。

Massive MIMO(マッシブマイモ)とは?

数十~数百の多数のアンテナ素子を用いて信号品質を向上させることで、通信容量を極大化する技術。マルチアンテナによる空間多重という技術を用いて通信容量を拡大する「MIMO」の発展型。4x4MIMOでは最大4倍の通信容量となる。
8x8MIMOでは最大8倍の通信容量に達する。5Gでは、直進性の高いミリ波帯を利用するが、マッシブマイモによるビームフォーミング技術を用いてモバイルでの利用を可能としている。

数値に見えにくいかもしれませんが、独自の工夫の一つということですね。

ネットワークにつながっているのに通信しづらい、使おうとしたときにつながりにくい、いわゆる“パケ詰まり”という現象が起きないように配慮しています。お客さまが使いたいときにつながらないのは一番の問題ですので、その考え方が大前提にありますね。

5G時代でも4G時代の経験が役に立ったのですね。

確かにそうですが、いまだに苦悩の連続です。ソフトバンクに割り当てられた5Gの周波数は、3.9GHzなど比較的高い周波数帯です。ただ、これまでも「いかにお客さまにリーチさせるか」という考えのもと工夫してきましたので、同じような取り組みを行っていくことで改善できると考えています。

最初にふれた5Gに4Gを組み合わせて利用するNSAという考え方も選択肢の一つです。これまで作り上げてきたパケ詰まりが起きにくい4Gネットワークは、5Gにおいても貢献できる財産であり経験が生かせると思っています。

ただのオヤジと思われたくない気持ちがテクニカルマイスターへの挑戦に

uRLLCフォーラムでのプレゼンの様子

uRLLCフォーラムでのプレゼンテーションの様子

酒井さんは「Technical Meister(テクニカルマイスター)制度」の認定を受けているそうですね。

はい、ソフトバンクには一定の年齢でも新しいチャレンジを支援する環境がありますが、認定を受けた2年前(2018年)に今後のキャリアを考える機会がありました。当時は統括部長だったのですが、気持ちの中で新しいものを持ち続けなければという思いがありました。「ただのオヤジと思われたくない」という自己研さんも兼ねて「Technical Meister制度」に応募しました。

何か習い事をするという選択肢もありましたが、社内で役に立ち、自ら新たな分野を開拓するチャンスだと考えたんです。特に部長職であることもあり、自分自身へのプレッシャーをかけたかったというのも理由です。

※ 「Technical Meister制度」について

専門分野において、突出した知識・スキルを持ったエンジニアに与えられるソフトバンクの社内認定制度。さらなる能力の飛躍と活躍の機会を提供するために、本業と並行して自身の専門分野を自由に研究・開発することが認められる。2018年度に制度がスタートし、2020年3月時点で認定者は21人。

気持ちの上で同じことを考えていても、行動に移せる人は少ないでしょうね。

ただ、認定を受けた後は本当に大変でした。本務をしながら、海外で開催されている技術者向け会議への参加、雑誌への寄稿、特許の取得に向けた活動も行いました。活動はチームメンバーと連携することも多かったので、これは本務なのか、Technical Meisterの業務なのか、と言われることもありました。

O-RANインターフェースで無線ユニットを制御する実験の様子

O-RANインターフェースで無線ユニットを制御する実験の様子

Technical Meisterの具体的な活動を教えて下さい。

1期目(2018年度)は5Gの検討として冒頭でふれた「NSAとは何か」という研究から始めました。2期目(2019年度)は技術力のけん引、後進育成、ブランディングという3つの柱で活動しました。社内向けには社内講演会を開催し、社外向けでは5G関連の雑誌で記事を執筆しました。直近では米国企業と工場の5G化をテーマに「MWC Balcerona 2020」で講演する予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響で中止となりました。

Technical Meisterの活動でメリットを感じることはありますか。

海外の方とコミュニケーションするとき、Technical Meisterという肩書はとても有効でした。彼らも人脈を求めているのか、名前が分かりやすいのか、肩書を伝えたことで深い付き合いにつながり、実験を手伝ってもらうこともありました。ただ、協力してくれる方にも本業がありますから、彼らのモチベーションをどう引き出すかもやりがいになります。5Gはまだこれからですが、Technical Meisterも両立しながら、自分自身に常にチャレンジしていきたいですね。

(掲載日:2020年4月28日)
文:関口聖(インプレス)
写真・編集:ソフトバンクニュース編集部

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