近年注目を集めている、ヘルスケアの“デジタル化”。スマートフォンひとつで健康相談や薬の相談ができるオンラインサービスが、続々と登場しています。
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、どのようなシステムやサービスが登場しているか知っておきたいところです。今回は、YouTubeで一般向けに分かりやすく情報発信されているドクターハッシーさんに、医療・ヘルスケアのデジタル化について伺いました。2020年7月から、ソフトバンクのグループ会社であるヘルスケアテクノロジーズから提供している、オンライン健康医療相談サービス「HELPO(ヘルポ)」も併せてご紹介します。
- Twitter:@karada_plan
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取材はオンラインで行いました。
目次
コロナ禍を機に医療はどう変わる? 現役医師が感じている医療&ヘルスケアの課題
医療系YouTuberとして活動を始めたきっかけを教えてください。
内科外来に携わる中で、患者さん全員に対して、同じようなヒアリングや説明をしていることにずっと疑問を感じていました。同じ内容を何度も話すと、どうしても時間がかかってしまい、結果的に外来患者さんたちを待たせてしまうことになるんですよね。そこで、もう少し効率化できないかなと考え、患者さんご自身も症状の原因などの基礎知識をご理解いただくきっかけになると思い、YouTubeチャンネルを始めました。
視聴者の方とのコミュニケーションを通して気づいた、医療分野のリアルな課題はありますか?
当たり前かもしれませんが、医療従事者と患者さんでは、持っている知識量の差がとても大きいのだと実感します。例えば、基本的な人体のつくりや診療科の違いとか、風邪は抗生剤ですぐに治るという誤解など……。もし、患者さんがある程度の基礎知識だけでも持っていたら、軽微な症状のうちに一般薬で症状が緩和されたり、早い段階で診療所に行き重症化の予防をしたりと、明らかな症状が出てから受診する前に、自身の判断で行動できるようになります。
なるほど。逆に、診療所に行く必要がないと自分で判断できれば、医療現場を圧迫せずにすみますね。
また、ご家族の介護をされている方の中には、知りたいけどドクターに相談するほどでもない悩みを抱えていて、それが小さなストレスになっている。そういった視聴者さんから「これなら家でも実践できます」「動画を見て良かったです」といったコメントをいただくと、役立っている実感が得られますね。
約4割が年960時間超。勤務医の時間外労働事情
医師は「最も労働時間が長い職種」と言われています。医療現場の崩壊を防ぐためにも、医師の時間外労働のあり方やタスクシフトといった働き方改革が、今まさに進められています。しかし、令和元年に行われた、常勤勤務医の過労働時間に関する厚生労働省の調査では、目安となる年間960時間※を超える回答が全体の約4割、さらに回答者の上位10%は年1,824時間を超えていました。初診時の予診や薬の説明、服薬指導など他職種へのタスクシフトが推進されていますが、医療分野のデジタル化はその後押しをすると言えるでしょう。
厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」より
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2024年度に始まる罰則付き時間外労働時間上限規制で基本となるA水準
コロナ禍で効率化が迫られる医療現場
医師として患者さんと接する中で、医療分野の課題だと感じていることはありますか?
僕は現在、介護付き老人ホームを回る訪問診療に携わっています。患者さんの平均年齢が91歳とかなり高齢なので、内科だけでなく、皮膚や耳鼻咽喉、認知症など精神疾患まで幅広く診ています。高齢者の医療や介護で一番大変なのは、認知症です。薬を飲み忘れたり、治療の説明をしても覚えていられなかったりして、介護士さんやご家族は付きっきりになるしかありません。
僕ら医療従事者としては、国民皆保険制度の中で、いかに多くの患者さんを診てあげられるかが肝心です。1人の患者さんに時間をかけすぎてしまうと、患者さんが求めている医療を提供できず、治るものも治らないなんてことになってしまいます。できるところから効率化を進めるのは、今後とても重要なことだと感じています。
コロナ禍において、医師の方々の間では、どのような点が課題といわれていますか?
どの診療所も同様ですが、ひとたびクラスターが発生すれば、風評被害で来院が減り、保健所から営業停止を求められるため、経営的に大打撃を受けてしまいます。そういった事情から、現在、感染経路を絶つことに注力している診療所が非常に多いですね。オンライン診療などいかにデジタル化を進めるかが、診療所を継続するためのひとつの課題といわれています。
電子カルテやAI問診。医療・ヘルスケアのデジタル化の動き
近年、「医療・ヘルスケアDX」という言葉を耳にするようになりました。医療現場では、どのようなデジタル化が進んでいるのでしょうか?
大きい病院では、全国的に、電子カルテ導入の傾向があります。ただ、電子カルテは、最終的には処方箋の発行までできなければいけないため、システムを作るのが非常に難しいんです。また、個人情報を扱うことになるため、それを保守するための費用もかかる。
カルテには専門用語が多く記載されているため、医師や看護師でなければ解読できません。多忙をきわめる中、追加で打ち込み作業まで任せることはできないということで、中小規模の病院では導入に踏み切れないところも多いようです。
大きい病院では、全国的に、電子カルテ導入の傾向があります。ただ、電子カルテは、最終的には処方箋の発行までできなければいけないため、システムを作るのが非常に難しいんです。また、個人情報を扱うことになるため、それを保守するための費用もかかる。
カルテには専門用語が多く記載されているため、医師や看護師でなければ解読できません。多忙をきわめる中、追加で打ち込み作業まで任せることはできないということで、中小規模の病院では導入に踏み切れないところも多いようです。
デジタル化で医療との接点が増える
医療・ヘルスケア分野において、カルテ以外にデジタル化が進んでいるものはあるのでしょうか?
僕の中でいま一番熱いのは、AI問診システムですね。いままでは、おなかが痛くて診療所に行くと「問診票を書いて待っててね」と言われて長時間待たされ、やっと診療室に入ったと思ったら「先にCTを撮ってきて」といった効率の悪いやりとりがたくさんありました。
AI問診システムなら、待ち時間にタブレット端末を渡されて、症状や来院目的といった質問に答えていくと、入力した情報が全てカルテに反映されます。そのデータをAIが解析して、「この病気の可能性があります」と、診断や処方薬の候補まで出してくれるんです。もちろん、最終的には医師がしっかり症状を診て判断しなければなりませんが、効率の悪いやりとりが必要なくなり、患者さんの待ち時間も減ります。システム内にデータがたまっていくため、解析もより洗練されていくんです。
近年の医療・ヘルスケア分野では、ウエアラブルデバイスなども盛んに開発されている印象があります。今後、どういったものが開発されるといいと思いますか?
この10年間で、ベンチャーに興味のあるドクターと開発者の方が手を組んで、さまざまなシステムやサービスの開発を行ってきました。しかし、せっかく開発しても、アップデートが追い付かずうまくいかない、といった話もよく耳にします。患者さんに安心して診療所に通っていただくことが何より重要ですが、医療の現場がひっ迫しているのも事実。そのためにも、患者さんが診療所に行かなくても軽微な体調不良や市販薬の飲み合わせといった日常的な健康に関する相談を、気軽にできるようなシステムやサービスがあるといいですね。
チャットで医師に健康医療相談ができる「HELPO」って?
医療分野のデジタル化においては、「オンライン診療」の恒久化に向けた検討が始まるなど、対面に代わる診療体制の見直しが、コロナ禍により注目されています。スマホアプリやウェアラブル端末を使ったサービスの開発が加速しており、医療でのIT活用は、もはや必要不可欠であるといえます。
オンライン健康医療相談サービス「HELPO」
ソフトバンクのグループ会社である、ヘルスケアテクノロジーズが提供するオンライン健康医療相談サービス「HELPO(ヘルポ)」。ヘルスケアテクノロジーズに所属している医師や看護師、薬剤師など専門的な知識を持ったスタッフにチャットで24時間365日健康に関する相談※ができるほか、自分の目的に合った病院の検索、一般用医薬品や日用品を購入できるEC機能も備わっているなど、ヘルスケアに関するソリューションをワンストップで提供しており、現在は主に企業・自治体向けにサービスを展開しています。
今後、ヘルスケアテクノロジーズは、オンライン診療・服薬指導・処方薬配送支援などの提供も目指しています。
また、2021年2月3日には唾液PCR検査キットの個人向けの提供を開始しました。ソフトバンクグループ株式会社の子会社であるSB新型コロナウイルス検査センターとの連携により、自宅などで高品質な検査が受けられ、アプリ内でPCR検査の予約と検査結果の確認ができます。
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医学的な情報の提供を行うサービスです。相談者の個別的な状態を踏まえた診断や、薬の処方は行いません。
ヘルスケア領域におけるデジタル化の動きが加速
ハッシーさんが期待する健康相談のオンラインサービスが多く誕生しています。例えばHELPOの中で、気になるサービスはありますか?
医療従事者として、チャットでの健康医療相談サービスは、とても助かりますね。「ちょっと喉が痛くて……」と、気になる症状だけですぐに受診を考える方もいらっしゃいますが、コロナ禍のいまは特に、診療所を訪れず経過を見たほうがいい場合もあります。健康医療相談サービスによって、今何をしたらいいのか、診療所に行くべきかどうか、どの診療科に行くべきか、といった判断をする際に専門的な目線でアドバイスを受けることができると思うので、医療従事者側としても、困っている患者さんに注力することができると思います。今後の展開を期待したいところですね。
また、患者さんの中には、どの診療科を受診すべきか分からない方がたくさんいらっしゃると思います。例えば、胸が苦しいときに、内科を受診すればいいか、呼吸器科を受診すればいいか、判断に迷いませんか?
確かに……。どの診療所に行けばいいかわからず、「そのうち治るかもしれない」と、しばらく症状を放置してしまうことがあります。
僕も、友人から「こういう症状があるんだけど、何科に行けばいいの?」って、よく相談を受けるんです(笑)。そういった場面でもチャットでの健康医療相談が活用されていけば、病気の早期発見につながりますし、現場の医療従事者の負担も減っていくんじゃないでしょうか。
先生は、ご自身が運営されている「医学生道場」を通じて、医大生への指導もされていますね。今後、デジタルネイテイブ世代の若い人たちと一緒に、どのような医療現場を作っていきたいと思われますか?
僕が医学生だった頃は、「◯◯の教科書持ってる?」「これってどの資料に載ってた?」など、いろいろなやりとりを通じて、コミュニケーション能力を磨いてきました。ところがいまの医大生は、それがネット検索ひとつで済みます。さらに、コロナ禍では病院実習なんて行けませんから、医大生たちはオンライン授業しか受けられていません。このままでは、医師としてのコミュニケーション能力を得る機会を失ってしまいます。
デジタルの時代であっても、患者さんとのやり取りにコミュニケーション能力は必須ですよね。
患者さんはもちろん、病棟には、それぞれ科のドクターや看護師さん、清掃や食事担当の方などたくさんの人がいます。医療現場の効率化は必要だけれど、人との関係性まで効率化する必要はない。デジタル化が進めば進むほど、コミュニケーションをもっと積極的に取らなきゃいけない時代になるんじゃないでしょうか。
知識の底上げが健康を守ることにつながる
筆者がHELPOを実際に使用して感じたのは、医師・看護師・薬剤師など専門的な知識をもつスタッフに対応してもらえる安心感。「なんだか調子が悪いな……」というときにHELPOを使えば、診療所を訪れる、休養して経過を見るなど、次にどのような行動を取るべきか早めに判断できます。
「医療情報を発信することで、家の中からヘルスケアの啓蒙を行っていきたい」と、デジタルヘルケアにおける熱い思いを語ってくれたハッシーさん。自分の体調に異変を感じたときはもちろん、家族や身近な人が病気になったことをきっかけに、健康との向き合い方を考え始める人も多いでしょう。ハッシーさんの動画など専門家が発信する情報に目を向けつつ、HELPOなどのデジタルヘルスケアサービスもうまく活用して健やかな毎日につなげていきたいですね。
(掲載日:2021年2月3日)
文・佐藤由衣
編集:エクスライト