鍵アカが知り合いにバレて「このアカウント、◯◯さんですよね?」というDMが来たり、職場や学校で言われたり――。
ふとしたつぶやきが誹謗中傷の対象になって本名がさらされた――。
氏名、学校・会社名などの個人情報がさらされたり、まとめサイトで記事化・拡散されたりなど、本人特定につながる脅威となる身バレ。「特定班」や「SNS警察」と呼ばれる人たちによって、こんな恐ろしいことがSNSでたびたび発生し、ニュースメディアでも報道されつつあります。
でも、それを防ぐにはどうすれば…。そこで、これまでの事例を踏まえた “身バレ防止術” を、ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーの鈴木朋子さんに教えていただきました。
身バレ
SNSやブログなど、インターネット上の情報から “身元がバレる” こと。匿名であったり、個人情報を載せていなかったりしても、これまでの発信内容などから本人が特定されてしまうため脅威となっている
目次
- まさかの盲点、動画に一瞬写った◯◯からも… 意識しておきたい5つの身バレポイント
- 鍵アカや音声チャットも要注意。身バレの発端はいたるところに
- 自分だけではなく、家族や大切な人を守るために。身バレ防止の7カ条
SNSによる身バレ防止術を教えてくれる専門家
鈴木 朋子(すずき・ともこ)さん
ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。エンジニアとしての経験を経て、フリーライターに。その著書は20冊を超える。中高生のデジタルカルチャーにも詳しく、ITの知見と2人の娘の子育て経験を生かして、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」として活動中。
- Twitter:@suzukitomoko
スマホの多機能化が進む反面、ちょっとした気の緩みやリテラシーの低さなどが影響して、身バレにつながることが増えているようです。まずは、身バレのきっかけにつながるポイントを見ていきましょう。
まさかの盲点、動画に一瞬写った◯◯からも… 意識しておきたい5つの身バレポイント
ポイント① 景色や電柱など屋外の情報
「夕日がきれい」「虹が出てる!」と、風景写真を投稿したことはありませんか? ここにも身バレにつながるヒントが潜んでいる場合があります。例えば、電柱の住所表記、店舗名、バスやタクシーのカラーリング、ときにはマンホールのデザインまで…。1つでは分からなくても、過去の投稿から複数のヒントを拾い集めることで特定されるケースも少なくありません。最近では、動画の一瞬を切り取って特定されることもあるようです。
ポイント② 自宅
「家の中なら大丈夫だろう」と思われるかもしれませんが、窓の外のちょっとした景色や、写り込んだ伝票やレシートから住んでいる場所が特定されるケースはよくある事例。また、複数の部屋で撮影した写真をアップした結果、間取りが把握され住んでいる物件が明らかになってしまったケースもありました。
ポイント③ 位置情報
スマホで撮影した写真は、その写真がどこで撮られたかを残すための位置情報(ジオタグ)が記録されることがあります。また、SNSには投稿に位置情報を表示させる機能があり、いずれもかなり正確な位置情報をさらしてしまうことに…。投稿ごとの位置情報から、行動パターンを先読みされ、待ち伏せられた事案もありました。
ポイント④ 簡素にモザイク加工された顔や車のナンバープレート
顔がバレないようにモザイク加工をしても、簡素な加工では「モザイク除去アプリ」で加工前の状態に戻されることも。また、車のナンバープレートも要注意。ナンバーから個人情報を照会することはできませんが、ナンバーを消さないまま投稿したことで、「◯◯のコンビニによくいますよね?」などとコメントが付くことも…。
ポイント⑤ 会社のウェブサイトやSNSに登場
会社のウェブサイトに登場した人の裏アカウントがバレて炎上したり、アパレル店の公式SNSに、スタッフコーディネートで登場した人のアカウントがバレたケースもありました。接客業の人は、勤め先店舗のSNSに登場するケースも多いためです。「お店のSNSに載ったよ~」などと投稿する人は、要注意。
写真の背景に写る電柱や建物、ガラスなどへの映り込み、位置情報などから本人が特定されてしまうことは以前からありましたが、最近の傾向は?
鈴木さん「テキストや写真だけでなく、音声、動画などを気軽に投稿できるようになって、身バレしやすくなっています。見慣れた場所だとついつい気にせず投稿してしまいがちですが、動画の背景に写っている景色や建物、店舗の名前、マンホールからも場所を特定されることはありますし、室内で撮った場合でも、宅配便の送付状が写って特定されるケースもあります。駅のアナウンスや発着時のメロディーが入った動画、虹や雪など気象情報の写真をアップするのも、地域や住所が特定されるので要注意です。
また、複数のSNSやブログに同じ写真を投稿すると、突き合わせて同じ投稿者だと見破られます。さらに実名のFacebookが見つかれば、誕生日や所属組織などでバレてしまいますね。
見落としがちなのが、位置情報です。Twitterなどで位置情報をオンにしたまま投稿すると、家やよく行く場所がバレてしまいます。あとは、電車が遅延したときに『○○線が遅れてる~』といったツイートをすると、どの沿線に住んでいるのか、どの駅を利用しているのかが特定されることもあります。
特定班がターゲットを決めて本気で特定する場合は、ターゲットとなる人がSNSでコンサートチケットの譲渡やグッズの交換の募集をしているときに申し込みをして、住所や本名などの情報を得ようとすることも…」
いろいろなところに危険があるんですね。なぜ、特定しようとするのでしょうか?
「特定する側は、断片的な情報をつなぎ合わせて本人までたどり着くのが楽しくて、ゲーム感覚でやっている場合があります。その人の投稿から『妬ましさ』が生まれ、情報を集める例も。そこからストーカー犯罪や、傷害・殺人事件につながるケースもあります。
SNSで“自分の良いところだけ”を見せようとすることは、誰にでもあると思います。でも、写真の加工も含め、架空の自分を作り込み過ぎてしまうと、本当の姿を知った人がバラしてしまうこともあるのです」
鍵アカや音声チャットも要注意。身バレの発端はいたるところに
SNSでの発信は文字や画像だけでなく、動画も当たり前の時代に。また、誰もがライブ配信を気軽にできるようになりました。そうなれば当然、身バレの原因も変わってきます。最近ではアバターを使ったコミュニケーションでも、身バレするリスクがあるのだとか。
特定や身バレの流れにも変化はあるのでしょうか?
「身バレして拡散するのはTwitterが多いのですが、Instagramの非公開アカウント(いわゆる鍵アカ)で仲間内だけにシェアしたストーリーが、身バレの元になることが増えています。『親しい人だけに限定しているから大丈夫』と思って投稿したのに、その内の誰かがスクリーンショットや動画を撮影して、他のSNSで拡散することがあるからです。
『非公開だから』と思って投稿しても、非公開にする前にアカウントをフォローした人はそのあともずっと投稿を見ることができます。非公開にする時点で見知らぬフォロワーを削除して整理しておくべきですが、そこまでやっている人はほとんどいませんよね。フォローしたときは仲が良くても、時間が経って人間関係が変わると、裏切られることもあります」
最近では、芸能人や有名人だけでなく、一般人の過去の投稿がさらされて炎上することもありますよね。なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか?
「今は立派な社会人として発信していても、学生時代に悪ふざけして投稿したものがデジタルタトゥーとなって残っていることがあって、それを掘り起こされることがあります。若年層は、仲間内に『すごい自分』を見せたくて、未成年なのに飲酒や喫煙といった不法行為を投稿してしまうことがあるんです。
当時は見逃されていたような内容でも、今は厳しい目で見られるようになり、過去投稿が炎上の火種になっています。過去のツイートを消せるツールもありますが、メディア(画像や動画)投稿は残ってしまう場合があるので注意が必要です」
今の若い世代は写真や動画が残らないよう、友達同士と音声でやり取りすることも多いと聞きます。音声の方が安全性は高いのでしょうか?
「一概には言えません。音声ならではの危険性もあります。例えば、オンラインゲームで音声チャットをしていると、テキストのやり取りよりも心を開いてしまう傾向があります。うっかり『お父さんが帰ってきた』などと言えば家族構成がバレますし、悪意のある相手であれば、年齢や居住地などを聞き出そうとすることも。実際に誘拐事件となったケースもあります。
年齢が低いほど、相手が個人的な話をしたらその真偽を疑わず『自分も正直に話さなくては』と思ってしまうことが多く、ライブ配信でも視聴者からの質問に素直に答えてしまうことがあります。テキストであればひと呼吸おけますが、音声だと勢いで話してしまうのが怖いところです。
確かに…。おまけに音声だと何を話したかもあまり覚えていないです…。
「そうなんですよ。また、最近はアバターを使ったコミュニケーションが人気ですが、ここにも危険は潜んでいます。なぜなら、名前や年齢だけでなく性別まで偽ることができるからです。アバターも音声と同じように心を開きやすく、いろいろ話してしまうと情報を集めて本人を特定されてしまいます。毎日会っていると、『LINEアカウント教えて』『本名教えて』と言われて、揉めたくないので教えてしまうということもあるでしょう。また、アバターの場合『この人は要注意』だと思って距離をとっても、アバターとアカウントを変えられると、誰だか分からなくなってしまいます」
身バレすると、具体的にどんな被害がありますか?
鈴木さん「まず氏名、年齢、学校や会社名、家族構成、親の会社、卒業アルバムなどがさらされることが考えられます。そこからさらに『まとめサイト』で記事になって多くの人の目に触れ、検索で簡単に個人情報が見られるようになってしまいます。風評被害で親の会社に電話がかかるなど、家族や職場に迷惑をかけてしまうこともありますし、YouTuberなどに『自宅に凸しました(本人に直接押しかけること)』と動画を公開されてしまうこともあります」
恐ろしい… 特定班にバラされるかもしれない情報
- 氏名
- 住所
- 経歴、過去の仕事
- 自分や両親の会社名
- 家族構成
- 卒業アルバムの写真
- 過去のSNS投稿(テキストや画像、動画など)
自分だけではなく、家族や大切な人を守るために。身バレ防止の7カ条
身バレによって人生を狂わされてしまっては、たまったものではありません。さらに家族や友人にまで被害が及ぶとなれば、絶対に防ぎたいもの。最後に、身バレを防ぐための「7カ条」も教えてもらいました。
身バレを防ぐために気をつけたい7カ条
- (1)公開・投稿する情報は、非公開でも誰かに見られる可能性があることを自覚する
- (2)音声でやり取りするときでも個人情報は伝えない
- (3)SNSごとに設定(公開範囲やプライバシー設定)を確認する
- (4)公開前に、身元を特定できる情報が含まれていないか再チェックする
- (5)アカウント特定を避けるため、複数のSNSで写真や動画を使い回さない
- (6)地域を特定される情報(天候、災害、イベント、交通情報など)に注意する
- (7)写真を加工するなら、モザイクよりもスタンプか黒塗りにする
「まずは『一度ネットにあげたら、誰にでも見られてしまう』という自覚を持って、氏名、住所、所属、家族構成などを公開しないこと。たとえ非公開アカウントでも、スクリーンショットを撮られてしまえば、どこでさらされるか分かりません。SNSごとに自分の情報がどのように見えているのか、設定を確認してから使うようにしましょう。
もう1つ大事なのは、特定されるターゲットにならないように、非常識なことや反社会的な行動をしない、炎上しやすい話題(政治、宗教、差別など)には触れないようにして、人から悪意を持たれないようにすることも意識すべきです。
次に、写真や動画は『映り込みがないか』を投稿前にチェックすること。そして、複数のSNSに投稿する場合、同じ写真や動画は使わないようにしましょう。ゲリラ豪雨、地震などの気象・災害情報、電車の遅延、お祭りや花火大会、イルミネーションなども地域を特定されやすいので、よく考えた上で投稿してください。
とはいえ、SNSはある程度自分の情報も出しながら、他の人との会話を楽しむものです。自分の中で『関東地方に住んでいる』ぐらいなら知られてもOK、というように線引きをしておくとよいでしょう」
身バレから家族を守るために気をつけるべきことはなんでしょうか?
鈴木さん「大人は、子どもの写真をSNSにアップすることがありますが、子どもが大きくなったときに嫌がられたり、場合によっては“子どもの身バレ”につながります。かわいいと思って投稿しても、子どもにとっては親が勝手にデジタルタトゥーを残しているようなものです。この先何十年も残っていくとなれば、我が子が大人になったときに、どんなリスクがあるかは考えてみてほしいですね。
たとえモザイク加工してあっても、除去できるツールもありますから、見せたくない部分はスタンプや黒塗りで加工するほうが安心です。子どもが親のSNSを見て『こんな姿、出さないでよ!』とショックを受けることもありますから、子どもの気持ちを第一に考えましょう」
デジタルタトゥー
digital(デジタル)とtatoo(刺青、タトゥー)を組み合わせた造語。インターネット上に書き込まれたコメントや画像など、一度拡散された情報が半永久的にインターネット上に残されることを意味する。完全に消すことが難しい身体に入れる入れ墨(タトゥー)に例えた表現である。
もし、それでも身バレしてしまったらどうすれば良いのでしょうか…?
「SNSやブログなどのプラットフォームの運営会社に連絡すれば、個人情報を削除してくれることがあります。炎上内容にもよりますが、多くの場合、話題になるのは短い期間で、また次の話題が出てくれば波は去っていきます。
自分の行動や発言に問題があれば『謝罪する』『アカウントを閉じて落ち着くのを待つ』の2点で十分でしょう。現実的な被害があれば警察に相談します。また、学生なら学校や親御さん、会社員で勤務先名がさらされているなら、会社の広報などに相談してください。
なお『プロバイダ責任制限法』が改正されて、発信者の情報開示が1つの手続きでできるようになりました。裁判は必要ですが、世の中的にもオンラインでの誹謗中傷に対応していこうという流れになっています」
プロバイダ責任制限法
誹謗中傷などを受け、発信者に損害賠償請求をしたいとき、プロバイダやSNS事業者に発信者の情報開示請求を行う。その手続きが、この法改正によって簡易化・迅速化された。
(インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法):総務省)
場合によっては、メンタルケアも必要ですよね。
「年齢が低いほど必要ですね。特に小・中学生は、しばらくSNSから距離を置くことが大事です。恐ろしいのは、デジタル性被害にあった場合。同い年の同性だと思って体の悩みを相談しあっていたら、写真を送るように言われて送ってしまい、あとから相手が大人だと分かりトラウマになるケースです。子どもが悩んでいると思ったら専門の団体に相談するなど、心の傷をケアしていくことが必要です」
価値観の変化やSNSの多機能化などにより、身バレのリスクも炎上の仕方も変わってきています。単に「身元がバレる」だけでは済まないのが、インターネット上での身バレ。これから気をつけることはもちろん、今一度、過去の投稿をさかのぼってみることも必要かもしれません。
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(掲載日:2022年12月20日)
文:深谷歩
編集:Number X
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