防災や地域課題の解決、ビジネスなど、さまざまな分野で活用されている人流データ。2024年11月5日にサービスを開始した、株式会社Agoop(アグープ)が提供する人流可視化分析ツール「Kompreno」は、指定したエリアの人の流れを1分単位で動画として分析できるサービスです。「Kompreno」を通じて人流データ分析がどのように社会で活用されているか、その具体的な事例などをAgoopの代表取締役社長 兼 CEO 加藤有祐氏に聞きました。
株式会社Agoop 代表取締役社長 兼 CEO
加藤 有祐(かとう・ゆうすけ)
2024年7月より現職。『マチレポ』をはじめとする人流データサービスを提供し、小売り、観光、都市計画、防災などの分野におけるDXを支援。
目次
ニーズに合わせたカスタマイズで人の流れを分析できる人流可視化分析ツール「Kompreno」
人流データやAIを活用し、さまざまな産業や地域の課題分析や改善に取り組む株式会社Agoop(アグープ)。その取り組みの一つに、日本全国エリアごとに人の流れや滞在状況を動画分析できる人流可視化分析ツール「Kompreno」があります。人流可視化分析は、特定のエリアにおける人々の移動や滞在状況をユーザーの同意を得たスマートフォンからデータとして収集し、視覚的に表現する方法です。
① 1分単位、道路単位で可視化が可能
人の動きを1分ごとに細かく可視化追跡し、時間帯によって変化する人の流れを細かく観察できます。都道府県や市区町村全体、○○周辺など大きいエリアの計測はもちろん、 道路単位での可視化が可能です。また、移動速度や移動手段(徒歩・自転車・自動車など)、詳細な条件をカスタマイズして人の流れを分析できます。
② 2画面で交通状況の変化を比較分析
画面を分割し、左右で異なる日付、エリアで動画分析することができます。新規施設のオープン前後や災害発生前後など、あらゆる場面での交通状況の変化を2画面で比較できます。人や車の動きが遅いところは赤く表示されるので、どの道路や場所が混雑しているかが一目でわかります。

能登半島地震の人流可視化分析の様子
③ 特定の場所だけに来た人の行動を可視化できる「来訪者分析」
特定のエリアや場所に訪れた人々の行動のみを抽出し、詳細に分析することができます。例えば、特定の建物、公園、あるいはイベント会場などに来訪した人々の動向を個別に可視化し、分析することが可能です。今までは町全体の人の動きしか見られませんでしたが、「来訪者分析」により、特定の場所に来訪した人々の行動パターンを詳細に分析することが可能になりました。これにより、例えば「その場所に来訪した人々が原因で渋滞が発生した」といった、より具体的で詳細な因果関係の分析が可能になります。

移動軌跡データ作成時の条件設定
“ 縁の下の力持ち ” として活躍。防災から観光まで幅広い分野で活用
具体的に、「Kompreno」はどのように活用されているのでしょうか。
防災時の活用事例をご紹介します。2024年4月3日に発生した台湾地震の際の津波警報による人流可視化をご覧ください。左は地震の発生からすぐの映像で、多くの人々はすぐに高台や安全な場所へ逃げました。しかし、警報が注意報に変わった瞬間、人々は一斉に帰宅を始めたんです。本来であればこの段階ではまだ避難すべき状況ですが、警報が注意報に変わると行動に差が出ました。このような人々の行動を後から振り返ることで、防災対策に役立てることができます。
日常での活用事例についても教えてください。
交通分野での活用事例をご紹介します。交通渋滞が発生する時間帯や箇所を特定するために、市区町村や自治体が年に1回、数日間かけて人を派遣し、各交差点で渋滞状況をチェックする業務があります。そういった業務に対しても「Kompreno」を活用することで、渋滞状況や速度を任意のタイミングで把握できるようになります。

この図は、Agoopが独自で分析した可視化結果となりますが、2画面で昨年度と今年度の交通調査日の人流を比較してみると、道路によって渋滞の距離に違いが出たことがわかります。速度が低いと渋滞は赤く表示されるので、交通状況がどう変わったかを簡単に比較することができます。つまり、「去年より渋滞が短くなっている」という効果分析が可能になるわけです。通常は年に数回しかデータが得られない中で、このシステムなら24時間365日いつでもデータが取得できるため、定期的に状況を確認できるという大きなメリットがあります。
もう一つ、新しい商業施設が造られたときの人の動きについてもご紹介します。来場者がどの道をどの時間帯に使用しているか、どこが混雑しているかといった分析は出店戦略の計画や満足度向上に必要不可欠です。コストコ沖縄南城倉庫店がオープンしたときの状況を確認してみました。
左が開店日前、右が開店後の映像です。左の映像はどの道も渋滞が起こることなくスムーズに人の移動が行われています。ですが、右の映像を見てみると、午前3時ごろになると赤い表示がだんだん増えてきました。人の流れが滞り、非常に混雑しているんですね。
このように、今までは一つの商業施設ができただけで人の動きがこれほど変わるということを、ビフォーアフターを含めて手軽に見ることはできませんでした。しかし、「来訪者分析」でコストコだけに来た人々の行動パターンを見られるようになったことで、「どの道から入ってきて、その後どこへ帰っていくか」といった情報も得られます。さらに、「歩行者だけ」や「自転車だけ」といった条件で分析することも可能なので、移動手段によってデータを絞り込んで分析できることも大きな強みですね。
数千万レベルのデータから特定の場所に来た人だけを分析
「来訪者分析」では、どのように特定の場所に来た人だけを抽出してデータを計測しているのでしょうか。
高精度な位置情報データを取得するための技術を活用し、スマートフォンのアプリケーションなどを通じて位置情報を収集しています。数千万レベルで日本全国のユーザーから同意を得て収集したデータを基にしているため、道路単位での分析や建物単位での細かい分析ができています。
また、独自に契約しているアプリベンダーと協力して、ソフトバンクだけでなく多様なキャリアのデータを網羅的に持っています。一つのキャリアに頼らないことは防災において非常に重要で、実際に能登半島で発生した地震の際にも、さまざまな通信障害が起こったにもかかわらず、平時の8割に当たるデータがしっかりと集まっていましたね。

利用者からのフィードバックはありましたか?
リスタートしたばかりなので、これから具体的な事後インタビューを行う予定ですが、防災の分野で使用している企業から、「2画面で比較して道路状況を分析できるという点が、明らかにこれまでのやり方に対して革新的」という意見をいただきました。これまでは災害が発生すると、現地で支援する部隊の人たちはすぐに現地へ向かい、現地に着いてから、行政や地元医療機関にヒアリングをして状況を把握していました。しかし、「Kompreno」があることであらかじめ全体像を俯瞰(ふかん)することができ、どこを通ってどのルートで進めば良いかを判断することが容易になったそうです。
生活者目線だと「Kompreno」をはじめとした人流データはどのように役立っていると思いますか?
「Kompreno」は一般消費者向けのサービスではありませんが、都市交通や都市開発、防災などにおいて、データを活用することで解決する課題が多くあります。例えば、茨城県境町では、グループ企業のBOLDLYと一緒に自動運転のルーティングをどのように設定するかをAgoopのデータと組み合わせて行いました。その結果、従来の約160%の乗車率を達成したというKPI(重要業績評価指標)があります。これは、生活者が技術に直接触れることなく影響を与えているものです。いわば、縁の下の力持ちとして私たちが社会の豊かさに貢献できていることを実感しています。

最後に、今後の展望を教えてください。
もともと社内の販促ツールとしてスタートした「Kompreno」は、2018年の商用サービス開始からいったん提供終了していましたが、継続的に改良を重ねて今回2度目のスタートに至りました。
最近、リスタートしたばかりということで、現在は自治体に対して観光、都市開発、都市交通、防災分野を中心に取り組んでいますが、他にもたくさん活用できる道があります。
例えば、小売業界での出店戦略や広告業界においては屋外広告をどこに出すかということも人の流れに関わってきますし、エンターテインメント業界でも人の流れが重要な要素になるでしょう。そういった業界には、人の流れが必要なところがたくさんあるはずです。これからは業界全体を俯瞰(ふかん)し直して、どこに対してどういう価値貢献ができるのかを整理していこうと考えています。
株式会社Agoop

スマートフォンアプリから位置情報・センサー情報を集積し、人の流れを解析しています。災害・観光・マーケティングなど広い分野で、ビジネスに新しい価値と視点をもたらす情報を提供しています。
(掲載日:2024年12月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部