防災において、日常と非常時の両方で役立つモノやサービスをデザインする「フェーズフリー」の考え方が注目されています。近年では、防災分野で人流データの活用が進んでおり、フェーズフリーを実現する防災DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが注目されています。ソフトバンクのグループ会社で防災DXを推進する株式会社Agoop(アグープ)の代表取締役社長 兼 CEO 加藤有祐氏に人流データを活用した防災サービスについて、話を聞きました。
株式会社Agoop 代表取締役社長 兼 CEO
加藤 有祐(かとう・ゆうすけ)
2024年7月より現職。『マチレポ』をはじめとする人流データサービスを提供し、小売り、観光、都市計画、防災などの分野におけるDXを支援。
孤立地域や自主避難場所を把握
2024年1月に発生した能登半島地震では、被災した人々や地域が孤立するという深刻な事態が発生しました。また東日本大震災や熊本地震など、過去の災害でも指定外避難所の使用に関する多くの問題が浮き彫りになりました。災害時に孤立した地域や指定外避難所についての情報を、初期段階で行政や救援機関が収集・共有することの難しさは、共通の課題として指摘されています。
こうした課題に対し、Agoopは人流データを活用した防災サービスを提供しています。能登半島地震が発生した翌日の2024年1月2日には、リアルタイム人流可視化分析ツール「Kompreno®(コンプレノ)」を活用し、避難所への人の集まり具合や道路の通行実績データを分析しました。
発生時に分析したデータはどのように活用されたのでしょうか?
この分析は「災害に強い街づくり連携協定」を締結している日本赤十字看護大学附属災害救護研究所と連携し、分析結果を日本赤十字社およびTMAT(特定非営利活動法人:徳洲会医療救援隊)に提供しました。これにより、初動部隊の現地入りルートの検討、被災自治体の災害対策本部における孤立地域や自主避難場所の現状把握、各避難所の訪問の優先順位付けなど、具体的な救援活動に活用されました。
データを活用した現地部隊の方々からは、どんな声が寄せられましたか?
「発災時の初動対応は、とにかく情報が不足しており、手探りでの救助活動が一般的。このデータがあることで、どのルートを使うか、どの避難所を優先するか、孤立している避難エリアはないか、などを把握でき、迅速な救援活動につながった」との声をいただきました。
- 令和6年能登半島地震の人流解析を詳しくみる(株式会社Agoop)
平常時の防災DXとして避難訓練、防災教育に活用
岩手県釜石市で人流データを活用した避難訓練が実施されたと聞きました。
普段利用をしていない技術を発災時に使うのは難しく、人流データを災害時に活用するのであれば、平常時から使用する仕組みが重要であると考えました。そこで「Kompreno」を平常時の防災DXとして避難訓練で活用する実証を行うため、岩手県釜石市とAgoopは2024年3月、釜石市で行われた地震・津波避難訓練の実施時に、人流データを活用した避難訓練の実証を行いました。
一般的な避難訓練と人流データを活用した避難訓練はどのような違いがあるのでしょうか?
人流データを活用した避難訓練では、事前に同意をいただいた住民の皆さまに位置情報収集機能を備えたアプリ「アルコイン」を使っていただきました。訓練当日は、アプリから自動で取得した避難行動がリアルタイムで可視化されました。一般的な避難訓練との主な違いは3点です。
- 小中学校を巻き込むことで、地域の未来を担う子どもたちの参加を促進できること
- 位置情報の可視化により、避難行動をリアルタイムでモニタリングできること
- 津波シミュレーションと連携し、避難行動の安全性の分析と検証ができること
人流データを活用した避難訓練から、どのような知見が得られましたか?
訓練後に避難行動の分析を行ったところ、津波シミュレーションと避難行動を連動させることで、「避難行動が適切であるかどうか」を検証することができました。例えば、ある中学校の避難行動では、市が想定していない遠回りルートで避難する方がいることがわかりました。検証の結果、まずは高台に垂直避難し、その後安全に避難所へ向かうという日頃の防災教育が反映された行動であることが判明したため、市が想定していた避難ルートを再検討する材料になりました。このように、人流データを活用した避難訓練は、従来の訓練では見つからなかった新たな課題の発見に役立ちます。
避難訓練で重要なのは、次世代の街づくりを担う子どもたちの参加を促し、避難行動を振り返る機会を提供すること、そして何より、いつどこで起きるかわからない災害を「自分ごと」として捉える機会を作ることだと考えます。人流データを活用した避難訓練や防災学習は、これらの重要な機会を提供する上で、非常に有用であると考えています。
- 釜石市の避難訓練における人流の可視化による避難行動の分析実証結果(株式会社Agoop)
今後の展望について教えてください。
能登半島での活用実績をもとに、医療機関や各自治体での人流データ活用を加速させ、有事の備えはもちろん、平常時の防災計画にも役立つ技術を提供していきます。この技術を日本の防災DXのスタンダードとし、さらに世界標準へと発展させることで、刻々と迫る大規模災害から1人でも多くの命を守れるよう、防災DXの推進を全力で加速させて行きます。
ありがとうございました。
Agoop株式会社
スマートフォンアプリから位置情報・センサー情報を集積し、人の流れを解析しています。災害・観光・マーケティングなど広い分野で、ビジネスに新しい価値と視点をもたらす情報を提供しています。
(掲載日:2024年9月2日)
文:ソフトバンクニュース編集部