バリアフリーマップとは、高齢者や車いす、ベビーカー利用者などの交通弱者でも安全に通行できるように段差や傾斜を明示した地図のことで、自治体や民間企業などが発行しています。歩行者の歩行データを収集することで、低コストで広範囲のバリア情報を取得する研究を、日本大学文理学部宮田研究室とソフトバンクが共同で進めています。研究成果について、担当者にインタビューしました。
ソフトバンク株式会社 データ基盤戦略本部 ソリューション開発統括部 ソリューション設計部
呉 健朗(ご・けんろう)
2020年にソフトバンク株式会社に入社。産学間連携による共同研究や新規技術を活用した企画推進などを担当。2024年にヒューマンエージェントインタラクションを専門に社会人博士として博士(理学)を取得。この経験を生かし、現在バーチャルヒューマン関連ソリューションの事業化を担当。
バリア情報が不足した状態での移動は、交通弱者にとってリスクだらけ
バリアフリーマップにはどういった課題があるのでしょうか?
一般的なバリアフリーマップは、高低差の情報が示されていても、それが「段差」なのか「坂」なのかが分からなかったり、網羅性に欠けたりするなど、精度がバラバラなことが多いです。そのため交通弱者の方からすると、バリアフリーマップを見ていたのに外出先で予期せぬバリアに遭遇し、スムーズに移動ができないことがあるのが課題です。
また、バリアフリーマップを作成するためには、作成元が特定の地域に人を派遣し、人が歩きながら段差や階段などのバリアを一つずつ見つけて記録するのが一般的な手法です。ただ、バリアを見つけるために地道に歩くことが必要になるため、時間もコストも膨大にかかるという課題もあります。
たしかに、人が広範囲を歩いてバリア情報を見つけるのは大変ですね。
他の方法としては、車いすにセンサーをつけて加速度データから路面の状態を推定する技術があります。しかし、車いすが通れる道しか加速度データが取得できないため、この方法ではバリアの網羅性が低くなってしまいます。
また、一度バリアフリーマップを作成しても、道路工事や建物の改装があればバリアフリーマップを作り直す必要があります。
歩行者のスマートフォンが路面推定センサーに?
今回、呉さんたちが作成したバリアフリーマップは、他のバリアフリーマップと何が違うのでしょうか?
基本的な仕組みは、歩行者のスマートフォンのセンサーで加速度と角速度データを取得し、そのデータをAIが解析するというものです。人の歩き方は、平地と坂や階段では違いますよね。歩き方の加速度と角速度データをもとに、AIが歩き方の変化から階段や坂道の存在を検出し、地図上にバリアの位置を自動でプロットしてくれます。私が客員研究員として所属している日本大学文理学部の宮田研究室と共同で開発しました。
スマートフォンを持っていつも通り歩くだけでバリアフリーマップができるのですね。
人手で一つ一つバリアを見つけなくとも、いつも通り歩いてもらうだけで自動でバリアを見つけることが最大の特長ですね。
今回は日本大学文理学部の学生にデータ収集に参加してもらいました。データ収集のためのアプリをスマートフォンに入れてもらい、参加してもらった40人の合計約10時間の歩行データをもとに、日本大学文理学部キャンパス構内のバリアフリーマップを作成しました。
赤い部分はバリアがある可能性が高く、青い部分はバリアが少ない状態を示しています。
人手で生成されたマップとの違いはどこにありますか?
人手で作られたマップはいわゆる静的なマップで、一度作成した後に再度人が歩いて更新箇所を見つけ出す必要があります。一方、今回の手法では人が歩いた道の情報をリアルタイムで取得して即時に反映できるため、常に最新情報がわかる動的なバリアフリーマップになることが大きな違いですね。
人手で作られたマップと、今回の技術で自動生成したマップの比較がこちらになります。

日本大学文理キャンパスのマップ。人手生成では見つけられなかったバリアも発見可能に
右側の青いピンが立っているところがバリアがある箇所です。人手では見つけられなかったようなバリアを多く見つけることができました。
実は、人間がバリアを発見する手法の場合、作成者によって掲載されるバリアが違ってしまう、という問題があります。つまり人によってバリアの定義が微妙に違うため、「これは載せる必要がない」と判断し、見逃しが発生してしまうということです。その点、データをもとに自動生成する場合は同一の基準でバリアを判断できるため、それほど傾斜が強くない坂などでも高い精度で発見することが可能です。
この技術は、国際会議でも論文が複数回採択されました。
バリアがある場所については、実際の階段や障害物の写真を投稿してもらえれば地図上から見られるようになっています。
路面データを自動収集する技術をロボットや災害時に活用
今後の活用イメージ・展望を教えてください。
バリアフリーマップ以外の分野でも路面情報を活用できると考えています。
例えば、自動配送ロボットの分野で応用すれば、ロボットにとって安全な移動ルートの計画ができるようになると思います。また、リアルタイムに地図を更新できる点を生かし、災害時における適切な避難所へのルートナビゲーションシステムの構築が可能になるかもしれません。
他にも、ユーザーにぴったりのルートを提案するナビゲーションシステムも企画を考えています。腰が痛いので負担をかけたくないという人にはできるだけ階段や坂がない平たんなルートを提案したり、逆に運動したい人には負荷が高いルートを提案したりできるシステムも今後実現可能になると思います。
活用シーンが広がると便利な世の中になりそうですね! ありがとうございました!
(掲載日:2025年2月27日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した内容は、「人・情報をつなぎ新しい感動を創出」することで、SDGsの目標「1、3、4、8、9、10、11」の達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。