
株式会社電通、株式会社電通デジタル(以下「電通」)とSB Intuitions株式会社、そしてソフトバンク株式会社は、日本語の表現に優れた広告コピー生成AIの共同研究を2025年9月にスタートしました。今回は、共同研究の背景と取り組みについて、SB Intuitionsとソフトバンクの担当者3名に聞きました。

ソフトバンク株式会社 法人第一営業本部 第3営業部
野崎 陽介(のざき・ようすけ)
電通との共同研究における営業窓口として、プロジェクト全体の調整を担当。

ソフトバンク株式会社 次世代技術開発本部 技術戦略部 技術戦略1課 課長 兼
SB Intuitions株式会社 事業戦略部 事業開発チーム リーダー
池田 亘希(いけだ・こうき)
プロジェクト全体の責任者として、研究方針の策定と開発体制の構築を統括。

ソフトバンク株式会社 次世代技術開発本部 技術戦略部 技術戦略1課 兼
SB Intuitions株式会社 事業戦略部 事業開発チーム
荒井 俊貴(あらい・としき)
プロジェクトマネージャーとして、研究期間内に最終的な成果創出に向けて研究開発をリード。
目次
広告コピーの響きを磨く、日本語に強いAI
多くのAIは海外で開発され、英語の文章を中心に学習しています。だからこそ、日本語ならではの言葉の響きや微妙なニュアンスを表現するのはまだ難しいとされています。特に短い言葉で人の心を動かす広告コピーのような表現では、日本語を深く理解するAIが求められています。
一方で、広告の世界でもAIの活用が進んでいます。しかし、海外で開発されたAIでは日本語の “言葉の温度” や “行間” を表現するのが難しいという課題がありました。そこで電通では、コピーライターの発想や表現を支援するAI広告コピー生成ツール「AICO2」などを独自に開発されてきましたが、より日本語の繊細な表現に踏み込みたいという思いがあったと聞いています。
こうした課題をきっかけに、日本語に強いAI「Sarashina」を活用した取り組みが始まったのですね。
荒井 「私たちSB Intuitionsが開発するSarashinaは、海外製のモデルと比べて日本語のデータを多く学習しています。そのため、日本語の “響き” や “余韻” といった微妙なニュアンスを理解し、表現する力に強みがあり、短い言葉で心を動かす広告コピーとの相性がいい。今回の共同研究では、日本語性能の高い国産LLMの特性を生かして、クリエイティブの可能性を広げていきたいと考えています」

Sarashinaの特徴を生かし、日本語に強いAIを活用した広告コピーの実現に向けて動き出した4社。この取り組みは、どのようにして始まったのでしょうか。
野崎 「電通さんからは『海外モデルによって生成した日本語広告コピーでは、言葉の “響き” や “行間” まではなかなか表現し切れない』という実感値を伺っていました。日本語を “深く理解できる” Sarashinaであれば、語尾や助詞の選び方、リズムまで含めて表現の芯に迫れる。そこで共同研究を進めることになりました。登山で例えるなら、ようやくどの山を登るかが見えたところ。まだ道のりは始まったばかりですが、登る先には新しい広告表現の可能性が広がっていると感じています」

野崎 「実は検討段階で、まずは小さいサイズのオープンソースのSarashinaで試してみようと、電通さんのコピーライターの皆さんに触っていただいたのです。小さいモデルは軽く動かせる分、学習や出力の傾向を早い段階で確認できるメリットがあります。すると電通さんから『小さいモデルなのに、かなり良い』という評価をいただき、そこから『本格的に大きなモデルでやってみよう』と、共同研究が加速しました」
広告表現の多様性と品質を両立させる、AIの3つの取り組み
4社は、日本語の表現に優れたSarashinaの性能をさらに高める改良に取り組んでいます。広告コピーのように短い言葉でも心に響く日本語を生み出せるよう、日本語性能の高い生成AI「Sarashina」を基盤に、3つの取り組みを組み合わせて開発を進めています。

共同研究のイメージ
①Sarashinaに広告コピー作成ノウハウを学ばせる
最初のアプローチは、電通のコピーライターが作成した生成AIで学習可能な実際の広告コピーデータを学習データとして、日本語の表現に優れたSarashinaに学習させ、日本語広告コピー作成のお作法を習得させることです。
こうした取り組みの背景には、広告制作の現場が持つリアルな課題があるのですね。
野崎 「広告コピーの世界では、1,000本つくってようやく “これは!” という1本に出会えるとお聞きしました。AIが打率を上げるだけでなく、ホームランの確率を押し上げられるか。そこに今回の挑戦の面白さがあると感じています」

②やさしい/力強いなどのトーンが調整可能に
2つ目の取り組みは、表現のトーンを調整できるようにすることです。たとえば「やさしい言葉で伝える」か「力強い表現で響かせる」かを切り替えられる仕組みです。
AIが表現の “強さ” までコントロールできると、広告の幅がぐっと広がりますね。
荒井 「従来のAIの出力は “当たり障りのない表現言葉を並べるだけ” になりがちで、心を動かす広告コピーの表現に必要な、強い言葉の表現強弱や、一歩間違えると読み手が不快に感じてしまうような温度感まで含めた調整表現の出力は苦手です。狙うターゲットやシーンに合わせて表現の幅をコントロールできれば、より実務にフィットする広告コピーが出せます。SB Intuitionsはモデルをゼロから開発しているため、言葉の表現制御(ガードレール)を、モデル構築の段階から自前で設計できるので、より自由度が高く、そして強力に表現力をコントロールすることが可能となります。この取り組みによって、心を動かす広告コピーの生成が期待できるようになります」
③コピーライターの評価を取り込み、AIの出力を改善する
3つ目の取り組みは、コピーライターの評価を取り込みながら、AIの出力を改善します。A/Bテストのように「どのコピーがより響いたか」を検証し、AI自身に学習させる仕組みです。
人間の評価を取り込むと、AIの表現はどのように変わっていくのでしょうか?
荒井 「プロのコピーライターの基準で 生成した広告コピーの ”良しあし” の評価を AIにフィードバックすると、AIは自ら良い広告コピーの表現を磨くようになります。これを繰り返すことで、単に安全で無難な表現に寄るのではなく、攻めどころを捉えた表現の幅の拡張が可能になると考えています」
コピーライターと日本語に強いAIが、共に言葉を磨く
このAIはコピーライターを置き換えるものではなく、発想を広げる “パートナー” として機能することを目指しています。人とAIが協力しあうことで、より多様でクリエイティブな広告表現が可能になります。

こうした取り組みを進める中で、研究パートナーとしての電通にはどんな強みを感じていますか?
池田 「特化モデル開発で一番大事なのはデータとドメイン知識です。広告コピーの評価軸をつくる・データの質を担保する、といった要諦に対し、長年の実践知を持つプロフェッショナルが多数在籍する電通さんだからこそ、これまでにない挑戦ができるのだと感じています。人の感性とAIの知性、その境界線を押し広げていくような挑戦を、ぜひ一緒に実現したいと思っています」
AIをどう生かしていくかという視点も生まれてきたそうですね。
荒井 「広告コピーだけでなく、ネーミングやナレーション台本、調査レポートなど、言葉を扱う幅広い領域に応用できます。Sarashinaの表現力を研ぎ澄ましながら、現場で役立つAIを一緒に育てていきたいです」

この取り組みを通じて、どんな成果や広がりを期待していますか?
池田 「コピーライティングは、最もクリエイティブなタスクのひとつです。一般に、生成AIは80点のアウトプットを出すのは得意ですが、プロのコピーライターがひらめかせるような150点のアウトプット、いわば魂を震わせる『ホームラン級』の発想を凌駕する域にはまだ到達していません。生成AIが世の中に普及し始めたころから『クリエイティブは人間の領域』と言われてきましたが、その壁にAIがどこまで迫れるのか。研究の最前線として非常に興味深い問いだと思います。この取り組みを通じて、AIの能力を限界を超えて拡張し、ホームラン級のクリエイティビティを生み出していきたいですね」
野崎 「日本語のプロである電通さんから『Sarashinaでなら日本人の心に響く広告コピーを生成できる可能性がある』と具体的なフィードバックをもらえたことが大きな自信になりました。小さなモデルでの手応えを、さらに大きなモデルで磨いていきたいです」
関連プレスリリース
- 「日本語コピーライティング特化型生成AI」の開発に向けた共同研究を開始(2025年9月25日 ソフトバンク株式会社 プレスリリース)
(掲載日:2025年11月13日)
文:ソフトバンクニュース編集部
国産の大規模言語モデル(LLM)の開発を行う「SB Intuitions」

ソフトバンクの子会社として、日本語に特化した大規模言語モデル「Sarashina」シリーズを核に生成AIの研究と周辺サービスの開発に力を入れ、国産の大規模言語モデルで日本語性能No.1を目指しています。




