
3月27日から29日にかけて鈴鹿サーキットで開催された「2026 FIA F1™世界選手権シリーズ Aramco 日本グランプリレース(以下、F1™日本グランプリ)」。世界中のモータースポーツファンが熱い視線を送るこのイベントには、3日間で延べ31万人以上が来場しました。
多くの人々が来場する鈴鹿サーキットで課題となるのは、「通信の混雑」です。SNSへの投稿や動画視聴、そして今や不可欠となったキャッシュレス決済。ソフトバンクは、こうした状況下で快適な通信環境を提供するため、エリクソン・ジャパン株式会社(以下、エリクソン)とともに、5G SAやミリ波を駆使した実証を行いました。
目次
F1™日本グランプリを支えた最新ネットワーク対策

31万人が来場したF1™日本グランプリで、快適な通信環境を提供するため、ソフトバンクがエリクソンとともに鈴鹿サーキットで実施したのは、「5G SA(スタンドアローン)」のネットワークスライシングやミリ波を活用した実証です。多くの人が集まる環境の中で、来場者のスマートフォン利用をはじめ、会場内のキャッシュレス決済やXR体験、テレビ中継など、多様な通信ニーズに応える取り組みを取材してきました。
生中継視聴などF1™ファンのさまざまな通信ニーズに応える
会場を歩いていると、あちこちでスマートフォンを片手に、生中継の配信映像を見つめるファンの姿が目に飛び込んできます。サーキットでしか味わえない圧倒的なスピードや迫力あるエンジン音を楽しみながら、同時に手元で順位や詳細な情報を追う。こうしたスタイルでF1™観戦を楽しむ人が、今とても増えているようです。
こうした観戦体験を支えるため、現地ではどのような通信対策が行われていたのでしょうか。

5G SAによるデータ通信サービスを利用するお客さま向けに、通常より多くの通信帯域を確保。多くの人が集まる環境でも快適にデータ通信を利用できるように整備しました。
さらに、大阪・関西万博で活用されたミリ波基地局を鈴鹿の常設局として転用。ミリ波で受信した通信をWi-Fiに変換して提供する設備を設置し、ミリ波に対応していない端末でも高速・大容量通信を利用できる環境が整えられました。これにより、5G SAのネットワークとミリ波を活用したWi-Fiに通信を分散することができ、ネットワーク全体の負荷を軽減し、安定した通信の提供につながります。

テレビ生中継の現場も「無線化」で軽快に
今回の通信対策は、来場者向けのスマートフォン通信だけを対象にしたものではありません。テレビ中継の現場でも、ソフトバンクの通信技術を活用した新たな取り組みが行われていました。
テレビ中継向けに導入されたのは、超高速・大容量の通信が可能なミリ波を活用したプライベート5Gによるワイヤレス映像伝送です。撮影された映像は、カメラに装着された5G SA対応の小型トランスミッター(送信機)を通じて、リアルタイムに無線伝送されます。
これまで、カメラから高画質な映像を伝送するためには長いケーブルや大型の伝送装置が必要で、カメラの移動範囲や設置場所には制約がありました。無線で映像データを伝送できる今回の仕組みにより、ケーブルの敷設や撤収などの手間が省けるほか、撮影場所の急な変更にも柔軟に対応できるなど、カメラクルーの機動力向上にもつながっています。
カメラに搭載された小型トランスミッター
キャッシュレス決済を支える専用ネットワーク。ピーク時もストレスフリーでグルメを楽しめる
31万人が集う会場では、レーシングコースを囲む観客席はもちろんのこと、公式グッズショップや飲食ブースのある「GP SQUARE FANZONE」などのエリアも、移動が困難なほど多くの人であふれかえっています。

特に、お昼時やレースの合間には、これらのエリアへ一斉に人が流れ込み、通信が極端に混雑してしまうことが例年の大きな課題となっていました。
ショップなどのあるエリアでは、ミリ波を活用した公衆Wi-Fiを整備してソフトバンクユーザーの通信トラフィックを効率よく分散するとともに、一部の飲食ブース出店者向けに、決済用のプライベート5G端末を設置しました。これにより、お弁当が瞬く間に売り切れるようなピーク時でも、通信混雑の影響を受けにくいため、来場者はスムーズに会計を済ませ、お目当てのグルメを快適に楽しむ姿が見られました。

臨場感のあるXR体験を可能にするデモンストレーション
会場内では、通信対策だけでなく、5G SAを活用した観戦体験のデモンストレーションも行われていました。どのような体験ができるのか、実際に試してみました。
案内されたトレーラーハウスに入ると、VRヘッドセットを発見。行われていたのは、5G SAの特性である「超低遅延」をフルに生かしたXRコンテンツの体験デモンストレーションです。

早速VRヘッドセットを装着してみると、視界は一瞬でF1™マシンのコックピットへと切り替わります。時速300kmの世界を体験できる臨場感たっぷりの映像で、まるでドライバーになったかのような没入感を味わえました。将来的には、AIがF1™ドライバーの姿で登場し、レースのルールやマシンについて解説する「没入型コミュニケーション」も登場するかもしれません。

5つの「ネットワークスライシング」で、用途ごとに最適な通信を
では、こうした多様な通信をどのように実現していたのでしょうか。その鍵となったのが、「ネットワークスライシング」技術です。
ネットワークスライシングとは、1つのネットワークを用途ごとに仮想的に分割し、それぞれに適した通信環境を提供する技術です。例えるなら、1本の道路に「バス専用」など用途別の専用レーンを設けるようなもの。これにより、スマートフォン向けの通信やキャッシュレス決済、XR体験、テレビ中継など、異なる用途の通信を同じネットワーク上で効率よく提供できます。
今回、鈴鹿サーキットでは以下の5つのスライスが同時に提供されました。
- 一般来場者向け: 混雑下でもストレスなくスマホが使える「高品質な5G SA通信」
- XRコンテンツ向け: 没入感のある映像体験を支える「超低遅延通信」
- キャッシュレス決済向け: 安定した決済処理を支える「高信頼通信」
- ミリ波×Wi-Fi向け: ミリ波をバックホール(中継回線)に活用した「高速Wi-Fi通信」
- テレビ中継向け: 生放送の映像伝送を支える「大容量高速通信」

技術の要「Massive MIMO」とリアルタイム制御
高度なネットワークスライシングを支えるため、基地局設備の強化にも取り組みました。その中心となったのが「Massive MIMO」です。多数のアンテナを使うことで、一度に多くの通信を処理できる基地局技術で、混雑時の通信品質向上に役立ちます。
ソフトバンクは、Massive MIMO基地局のカバーエリア(セル)を昨年から2倍以上に拡大。このエリア拡大の背景にあるのが、基地局装置そのものの進化です。 従来は、重量や大きさが課題となり設置場所が限られていたMassive MIMOですが、最新型のものは体積・重量を約40%削減することに成功。これまで設置が難しかった場所にも展開が可能となり、カバーエリアを広げることができました。


左から、大スクリーンの左側の支柱に設置されたMassive MIMOの基地局、観客席側に設置されたミリ波のアンテナ
上から、大スクリーンの左側の支柱に設置されたMassive MIMOの基地局、観客席側に設置されたミリ波のアンテナ
Massive MIMOの採用により、標準的な基地局と比較して通信容量を大幅に拡大。また、これまで別々の装置が必要だった3つの周波数帯(3.4GHz/3.5GHz/3.9GHz)を1台でカバーしています。

従来設置していた左2台分を、今回設置された一番右の「AIR 6476」に集約
時間とともに変化する観客の動きや通信量に対応するには、通信の利用状況をリアルタイムに分析しながら、用途ごとの通信容量を柔軟に配分することが必要になります。
通常、ネットワークスライシングの通信では15分程度の間隔でネットワーク状況の確認を行い、スライスごとに割り当てる通信容量を調整しています。しかし今回はその間隔を1分ごとに短縮。ユーザーの通信トラフィックの状況に応じて、割り当てを自動配分する仕組みを導入しました。
これらの施策により、開催期間中最も混雑する土曜日と日曜日においても、スループットは前年比で飛躍的に向上。技術パートナーのエリクソンからは、5G SAにおいて上り約14倍・下り約4.1倍、5G NSAでも上り約6.1倍・下り約1.4倍のスループット向上を確認したことが報告されています。
- エリクソン、ソフトバンクとF1日本グランプリにおいて5G SAとミリ波を活用した5つのユースケース同時実証に成功〜ネットワークスライシングとミリ波の融合により、単一ネットワーク上で多様な通信サービスを両立〜(2026年6月17日エリクソン・ジャパン株式会社 プレスリリース)
- エリクソンモビリティレポート2026年6月版(2026年6月16日エリクソン(NASDAQ: ERIC)発行)
通信を意識させずに楽しんでもらうことが目標。ソフトバンクとエリクソンの鈴鹿での取り組み
今回の実証実験の舞台裏について、パートナーであるエリクソン・ジャパン株式会社 代表取締役社長のジャワッド・マンスール氏と、プロジェクトをけん引したソフトバンクの藤野矩之に、取り組みや未来の展望を聞きました。

エリクソン・ジャパン株式会社
代表取締役社長
ジャワッド・マンスール氏

ソフトバンク株式会社 技術統括
次世代NTN開発部
藤野 矩之(ふじの・のりゆき)
F1™日本グランプリでのネットワーク対策の背景を教えてください。
マンスール氏 「私たちは、世界各国のスタジアムやイベント会場でネットワークの高度化に取り組んできた知見を生かし、ソフトバンクとともに日本でも新たな価値を創造したいと考えてきました。今や通信は、イベントにおける観戦体験そのものに不可欠な要素です。F1™日本グランプリのように、短期間に30万人以上が密集する非常にダイナミックな環境は、通信事業者にとって究極の挑戦であり、私たちの技術を証明する最高の舞台となりました」
具体的に何が1番の課題でしたか?
藤野 「コンテンツのリッチ化により、1人当たりのトラフィックは年々増加しています。特に最近は、自身の席で動画配信を見ながらレースを多角的に楽しむファンも多く、この膨大な需要をさばき切るだけでもかなり難易度は高いです。その上でネットワークスライシングを使いさまざまなユースケースに応じた品質を提供するというところが最も難しいポイントでした。
3日間で延べ30万人超という人流がある中で、高品質なネットワークを維持できることを証明することは、われわれの技術力を示す最高の機会です。キャッシュレス決済やXR体験など、私たちが描くユースケースとの親和性が極めて高かったことも、今回この場所で挑戦することを決めた大きな理由でした」

マンスール氏 「イベント期間が終われば、人のボリュームが一気に変動する特殊性も課題です。一時的な爆発的需要に応えつつ、一般ユーザーから、テレビ中継のような大容量を必要とする専用ユースケースまで、全員を満足させるネットワークを構築することは、非常に挑戦的な試みでした」
今回の取り組みを経て、通信がイベントにもたらす価値と将来の可能性をどう捉えていますか?
藤野 「今回は5G SAを軸に、基本性能を徹底的に磨き上げました。『スマホがサクサク動く』『オンライン決済ができる』というように、日常の小さなストレスをなくすことの積み重ねが、イベント全体の満足度向上につながります。こうした新しいネットワークの可能性を、より多くの方に知っていただきたいです」
マンスール氏 「私たちの最終目標は、お客さまに『通信のことを一切気にせず、イベントそのものに集中してもらう』ことです。写真が送れない、通信のせいでバッテリーが減るといった不安から解放することこそが、今回の取り組みの大きな価値です。将来的にはXRグラスを通じて、目の前のマシンにリアルタイム情報を重ねて表示させるといったことも可能になると考えています。今回の実証は、新しいパートナーを引きつけるプラットフォームにもなると期待しています」

ソフトバンクのさまざまなネットワーク対策
(掲載日:2026年6月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部







