なぜソフトバンクは「外部パートナーとの共創」を選択したのか?

2020年11月10日掲載

デジタル社会への転換期を迎え、企業は改めて自社のコアコンピタンスを問い直さなければならなくなっている。 複雑化していく課題と専門化していくテクノロジー。その中で、どこまでを自社のリソースで対応し、どこから外部の協力に頼るのか。選択と集中の時代がやってきた。

ソフトバンクは、パートナー企業と共に新規ビジネスの共創と普及に取り組むパートナーシッププログラム「ONE SHIP 」を開始した。同プログラムを運営するソフトバンクの狙いと今後の展望について、ソフトバンク 茂木 敦氏に話を伺った。

目次

茂木 敦氏

ソフトバンク株式会社
法人プロダクト&事業戦略本部 
法人サービス企画推進室
担当部長

5G普及に求められる「サービス」の存在

コロナ禍の中で、静かにスタートを切った日本の5G。商用化が始まったと言っても、私たちの生活やビジネスの現場で5Gを利用する機会はまだあまりない。

その理由は大きく2つ。5Gのネットワーク網がまだ未整備であること。そして5Gを経由すべきサービス群がまだ少ないことだ。

後者のサービス群とはどのようなものか? 5Gによるイノベーションは、個人向けよりも主に産業向けのサービスで起こると言われている。例えば、車両や信号機をリアルタイムで接続する渋滞や事故のない最適化された交通。工場内の設備をリアルタイムで接続するスマートファクトリーの実現──。

社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)していくためのネットワーク基盤。それが5Gの起こすイノベーションの本質だ。

成長戦略として「BEYOND CARRIER」を掲げるソフトバンクは、5Gの通信網の整備を進める一方で、その上で展開するAI、IoTを軸にした新しい産業の創出を目論んでいる。

1→100の事業創出に必要なパートナーシップ

今の日本では、AIエンジニアやデータサイエンティストなどの人材が圧倒的に不足している。新たな産業創出への時代の流れと人材開発のスピードに、ギャップが生まれているのが現状だ。

多くの企業がDXを目指す中で、新しい挑戦となるAIやIoTの人材を自社でゼロから育成するには時間がかかりすぎる。ビジネス環境が目まぐるしく変わる中では、時代に求められているタイミングで、迅速に事業を創出しなければならない。

そこで各事業会社は、テクノロジーを持つ企業とのM&Aや事業提携により、新規事業の開発を目指す。5Gにおけるアドバンテージを有するソフトバンク及び通信キャリア各社も、自社のネットワークと他社テクノロジーのシナジー創出を目的に、積極的なM&Aや事業提携に乗り出している。

「私たちが持っていない部分を自社で育てていく時間とコストを考えると、既に持っている企業と組む方が効率的です。ソフトバンクは0から1を生み出すよりも、さまざまなリソースを掛け合わせて1を100にするのが得意な会社なのです」(茂木氏)

パートナーシッププログラム「ONE SHIP」

既にある自社のリソースと他社のリースを掛け合わせる共創の場をつくる──。そのため、ソフトバンクはAIやIoT、RPAなど社内で乱立していたパートナーシッププログラムを一元化し、「ONE SHIP」の旗を掲げた。

ONE SHIPの3つのパートナー ONE SHIPの3つのパートナー

「『ONE SHIP』はソフトバンクがパートナー企業と共に新たなサービス作りに取り組むためのプログラムです。パートナーは、課題を提示するイノベーティブパートナー、サービスの技術支援をするソリューションパートナー、サービスの販売支援をするセールスパートナーの3つのカテゴリーで構成されています。

イノベーティブパートナーが、社会課題や自社の経営課題を『ONE SHIP』の中で共有する。そこでソリューションパートナーが自社のテクノロジーを活用した解決を提案する。そうして、生まれたサービスをセールスパートナーが拡販していくという流れになっています。

現在、約140社※に加入いただいており、その8割がソリューションパートナーです。ソフトバンクとお付き合いのあった企業が中心になっていますが、今後は幅広い企業にご参画いただきたいと考えています」(茂木氏)
※取材時の社数。2020年11月時点では170社超。

2019年に発足してからまだ日は浅いが、「ONE SHIP」ではすでにいくつかのプロジェクトが実施されている。

「5G×IoT Studio」汐留ラボ 展示公募

ソフトバンクの汐留本社地下2F にある「5G×IoT Studio」汐留ラボの展示・体験ルーム。「ONE SHIP」では、ソリューションパートナー限定で、同スタジオへの展示を公募した。NFC(近距離間無線)専用端末「CUONA」を提供する株式会社コノルが採択され、展示のほか、お台場にある検証ラボで5Gでの実証実験も行う予定だ。

また、今後は大阪に開設される予定の技術検証や体験をできる施設「5Gオープンラボ 」でも「ONE SHIP」と連携したプロジェクトを検討している。

「ひろしまサンドボックス」×「ONE SHIP」ミートアップ

広島県商工労働局が運営する「ひろしまサンドボックス」は、AI、IoT、ビッグデータなどのテクノロジーにより、産業や地域の課題を解決する実証実験の場。「ひろしまサンドボックス」からの依頼により2020年8月に「ONE SHIP」とのミートアップイベントが開催された。

同イベントの参加企業を「ONE SHIP」内で公募し、SlackやMapboxをはじめとする「ONE SHIP」会員企業10社が登壇。ひろしまサンドボックス会員へ向けて各社がソリューションを紹介し、広島県の地域課題への応用について議論が交わされた。

「アフターコロナの働き方」ワークショップ

ワークショップで使用した資料。コロナ対応を題材にコミュニケーションが交わされた ワークショップで使用した資料。コロナ対応を題材にコミュニケーションが交わされた

「ONE SHIP」を運営する中で、アンケートを実施したところ「会員同士でのコミュニケーション」を求める声が多く聞かれた。そこで、運営チームはコミュニケーションの促進を目的とした「ONE SHIP」会員限定のワークショップを開催した。

コロナ禍による緊急事態宣言が明けたタイミングでの開催となったこともあり、「アフターコロナの働き方」というテーマで、ソフトバンクの知見を共有すると共に、会員企業のソリューションの紹介なども盛り込み、コミュニケーションの促進を図った。ワークショップ後のアンケートでは参加者の85.7%が「満足」と回答する結果となった。

ONE SHIPが目指すビジョン

「『ONE SHIP』では、ソフトバンクはファシリテーターの立ち位置で、会員企業と共にビジネスを作っていくことを目指しています。これまでは会員企業の満足度の向上のため、会員同士の交流を促進するイベントを多く開催してきました。

一方で、ソフトバンクは事業会社です。自社の収益を上げていくことも同時に目指していかなくてはなりません。これから起こすアクションとしては、ソフトバンクの5GやIoTの事業部門と『ONE SHIP』で共同イベントを開催し、共にソリューションの開拓を行い、できたソリューションを事業部が販売するというモデルにチャレンジしていきたいと考えています。

また、ソリューションパートナーからの提案を受け入れてくださる企業に参画いただき、イベントの中で自社の課題解決につながるか審査いただくというような、新規事業創発のためのイベントも開催したいです」(茂木氏)

さまざまな分野のさまざまな企業がDXを推進しようとしているが、DXという名のソリューションは存在しない。それぞれの企業固有の複雑な課題に対して、個別に解決策を考えていかなければならない。

自社の事業だけでなく、法人向けソリューションも提供するソフトバンクは、顧客企業の課題を解決するために、昨年からコンサルティング営業を導入するなど、モノ売りからコト売りへとシフトしようとしている。

「ONE SHIP」の運営を通じてさまざまな企業のテクノロジーといつでもアクセス可能な状況をつくることで、最適なソリューションを提供することが可能になるのだ。

パートナー企業と共につくりあげる「ONE SHIP」経済圏の影響力を強め、社会のDXを牽引する5Gサービスの基盤をつくることができるか。来たるべき5G時代への第一歩がはじまった。

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