ドローン新時代に備えて、知っておきたい「モバイル通信」のはなし

2019年10月11日掲載

上空からの撮影に留まらず、敷地内の監視や点検、農地での生産管理、物流など、さまざま産業で導入が進んでいるドローン。5Gの実用化によってさらなる成長が見込まれているのが、携帯電話の通信を活用したドローンの商用利用だ。

本記事ではドローンの商用利用の現在地点を紹介。また、総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課長の荻原直彦氏に、通信の側面から見たドローン普及の課題と可能性について伺った。

目次

荻原直彦 氏

総務省 総合通信基盤局
電波部 移動通信課長

ドローンによる「空の産業革命」は、もう始まっている

ここ数年でドローンの活用シーンが急速に拡大し、耳にする機会が増えた。国内ドローンビジネス市場は年々右肩上がりに成長しており、2018年の市場規模は931億円に到達。今後はドローンを活用した農薬散布や土木測量、災害調査などに加え、物流にも利用されることでサービス分野で大幅な成長が見込まれており、2024年度にはドローンビジネス全体の市場規模は5,073億円(18年度の約5.4倍)に達すると予測されている。

「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が取りまとめた「空の産業革命に向けたロードマップ」では、ドローンの利活用のレベルを4段階にわけて各フェーズで必要な環境整備や技術開発についてまとめている。 

レベル1の「目視内での操縦飛行」、レベル2の「目視内での自動・自律飛行」はすでに実用化済み。各企業や自治体などでも導入が進み、空撮をはじめ、農薬散布や敷地内の監視などでドローンが活躍している。

2019年の現在はレベル3の「無人地帯での目視外飛行」を目指し、さまざまな実証実験が行われているというフェーズ。これは山や森林、河川など人がいない場所で補助者がいなくてもドローンの自律飛行ができるという段階だ。ドローンを活用した離島や山間部への荷物配送、被災状況の確認などの分野で実証実験が進んでいる。

そして、2022年度までの実現を目指しているのが、「空の産業革命」の最終段階とも言えるレベル4の「有人地帯での目視外飛行」。都市部など人がいるエリアでのドローンの自律飛行を実現し、都市物流や警備などに活用していくという段階だ。

目視外飛行の鍵は「通信」。電波の上空利用における課題とは

レベル3、4の実現に向けて大きな課題となっているのが「目視外の飛行」だ。これまでは特定の敷地内で限定的なドローン飛行が許可されていたが、人の目が届かない場所での飛行を実現させるためには、より高度な安全性が求められる。ドローンの機体そのものの飛行性能の向上はもちろんだが、ドローンの遠隔操作、あるいはドローンからの画像やデータの送信には電波が必要となる。つまり、ドローンが安全に飛行するために欠かせないのが「安定した通信」なのだ。

ドローンを飛行させる際、無線LANなどの通信では電波の届く距離に限界がある。そこで、総務省ではドローンを含むロボットの電波利用の高度化にむけて、情報通信審議会で使用可能周波数の拡大や最大空中線電力(※)増力などを検討し、制度化を進めてきている。

※アンテナから発せられる電波の強さの最大値

こうした中、ドローンビジネスを手がける企業が注目しているのが、カバーエリアの広い携帯電話のネットワークだ。これまで、携帯電話の通信を利用するためにはいくつかのハードルがあった。総務省の荻原氏は、携帯電話のネットワークをドローンで利用する際の課題について次のように話す。

「携帯電話システムは地上での利用を前提にしており、ビルや木などに電波が遮られることを前提に基地局を配備し、エリアを構築しています。このネットワークをドローンで利用するとなると、少々事情は変わってきます。上空では電波を遮るものがないため、地上で使っているときは届かない基地局にも電波が届いてしまうのです。その結果、同じ周波数の電波を用いる遠くの基地局に混信を引き起し、地上の携帯電話に通話や動画が途切れるなどの影響が出てしまう可能性があります」(荻原氏)

このような課題がある中で、携帯電話のネットワークをドローンに活用したいというニーズの高まりに応えるために、総務省では地上の携帯電話に影響を及ぼさない範囲で飛行経路や台数を管理することなどにより使用を認める「実用化試験局制度」を2016年に導入。利用者の申し込みを受け付けた通信事業者が、総務省に申請し無線局免許を取得することで、利用者は携帯電話のネットワークをドローンで利用することができるようになった。

また、2018年には携帯電話の国際標準化機関「3GPP」で、上空利用時の送信電力制御機能(パワーコントロール)に関する国際標準が成立。ドローンが上空を飛行するときに周辺の基地局に影響を与えそうな場合、基地局が制御して高度に応じてドローンから発射される電波の強弱を調整することが可能になった。これに対応したドローンの普及が始まると見込まれるのは2020年末頃。そうなれば、地上での携帯電話の通信への影響は相当軽減されるという。

簡単にドローン飛行の申請ができるプラットフォームが必要

さらに、2019年からは「実用化試験局制度」の規制緩和が進められており、ドローンを飛ばしたい事業者の無線局免許の申請手続きの簡素化が進められている。

「今まで実用化試験局の免許が出るまでに、利用者が通信事業者に申し込んでから約3ヵ月かかっていましたが、変化のスピードが早いIoTの普及発展に対応していくためには時間がかかりすぎていました。

3GPPで標準化された送信電力制御機能(パワーコントロール)はまだ導入されていませんが、簡易な方法でドローンの電波の出力を抑えることで、ある程度地上のネットワークへの影響を抑えられることが分かったため、免許手続きの簡素化を行いました。

これにより、利用者が申し込んでから通信事業者による免許取得までの期間が全体で1ヶ月程度に短縮されるほか、運用可能な範囲を特定のエリアに限定せず、「全国」とすることで、飛行経路を変更する毎に必要だった免許の変更手続きが不要となりました。

現在、情報通信審議会では、これらの手続きを将来的に通信事業者主体の運用に移行する方向で検討が進められています。具体的には、ドローンのユーザーがWeb経由などで通信事業者に申請することで、いつどこで飛行できるかがすぐにわかる仕組みづくりを2020年末頃を目標に進めているところです。

ただ、パワーコントロールが可能になっても、一度に大量のドローンが飛行すると地上の通信に悪影響をもたらしかねません。そのため、通信事業者主体の運用の仕組みにおいては、通信事業者にドローンの飛行エリアや台数などの管理を行っていただく必要があります。その上で、各通信事業者には、ユーザーが簡単に使えるプラットフォームを作っていただきたいと考えています」(荻原氏)

「空の産業革命ロードマップ」のレベル4を実現するためには、通信設備以外にもドローン用の運行管制システム(UTM)が必要となる。どのように運行管理をするのか、どのように通信するのかといったことはもちろん、機体の識別方法、操縦者の資格の問題など、今後解決しなければいけない課題は山積みだ。関連する各省庁、通信事業者、ドローンビジネスの事業者など官民が協力して検討していく必要がある。

5Gがドローンのポテンシャルを解放する

今後、本格的な5G通信が始まり、携帯電話のネットワークをドローンで利用できるようになると、これまで不可能だった世界が現実となる。ドローンで撮影した4K映像を携帯電話のネットワークを使って即時に伝送することが可能となり、新たな産業が生まれる可能性を秘めている。

「例えば、一次産業では、今までは農地全体の状態しか映像で判別できなかったのが、5Gになると1つ1つの作物の詳細な様子が映像からわかるようになります。少子高齢化が進む地方では人材不足が深刻な問題になっていますが、ドローンを使って作物の成育状況を確認できるようになれば、省力化、効率化につなげることができるのです。

また、災害時の被災状況確認の際に、遠くから撮影した映像で救助を待つ人を見つけることも可能になりますし、遠隔操作が可能になり医療や建設分野にも大きな影響を与えるでしょう」(荻原氏)

こうしたドローンの産業利用を促進するためには、ドローン利用の申請をしやすい環境を整えることが不可欠。また、通信事業者自らもドローンと5Gを組み合わせた新サービスを開発、提供していくことが必要だ。

携帯インフラは日本の強み。ドローン産業発展の追い風になる

海外に目を向けると、広大な土地で電波の状況を気にせず、自由にドローンの実証実験を行っているケースが多々ある。それに対し、携帯電話のネットワークが全国に広がっている日本の場合は、ドローンを飛ばすのに制約がかかってしまうこともある。

これだけ聞くとドローン産業発展の足かせになっているようにも感じられるが、実はこの強固な携帯インフラこそ、日本の強みになりうるという。

「日本は災害が多く、人々は電波がつながらないことの重大さをよく知っています。他国と違ってすみずみに電波がはりめぐらされ、モバイルサービスが生活に浸透しているがゆえに、ドローンを飛ばした際に地上の通信に障害が起きてはいけないという意識が高いといえるでしょう。

しかし、5Gのネットワークでドロ−ンを安全に飛行させ、データを安定送信するためには、基地局は多いほうがいい。携帯電話のネットワーク環境が整っていることは、ドローンの産業利用を促進する追い風になるはずです。さらに、日本は課題先進国ですから、ドローンを使って少子高齢化、労働力不足などの課題を世界に先駆けて解決するチャンスがあるといえます。将来的には、その技術とメソッドを海外に展開していくこともできるでしょう」(荻原氏)

5Gがスタートするとドローンの活用が一層進み、新たな産業が次々と生まれるのは間違いない。その大前提として、安定した通信環境の整備が不可欠だ。

通信事業者であるソフトバンクは空の産業革命を少しでも早く実現するために、5Gネットワークの整備を進めるとともにドローンを活用したさまざまなサービスを展開していく。

後記

5Gのスタートによって、ドローン産業は新たな時代を迎えようとしている。ソフトバンクでは通信ネットワークの拡充に力を入れる一方で、ドローンを活用したビジネスソリューションを提案している。2019年度中には画像AI飛行制御、ALES高精度測位などの実証実験が終了し、いよいよ本格的に運用が開始される予定。ドローン、5G、IoT、AI。これらが融合したとき、本当の意味でのドローン元年が訪れるはずだ。

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