アリババの物流プラットフォーム「菜鳥網絡(Cainiao)」のAI活用事例を解説

2019年7月2日掲載

約10兆元(約112兆円)の規模にまで成長している中国のBtoC向けEC市場。そのシェアはアリババグループが運営する「Tmall(天猫)」、JD.comが運営する「京東商城」だけで約8割を占めると言われています。

そんな中国二大ECを支えている巨大な物流インフラについて、中国でロボット、人工知能事業を展開するイーパオディング株式会社代表取締役社長、唐 徳権氏が2回にわたって解説します。

本記事ではアリババグループの物流プラットフォーム「菜烏網絡(Cainiao)」の設立の歴史やビジネスモデル、AI活用事例を取り上げます。

目次

菜鳥網絡 (Cainiao)とは

菜鳥網絡(Cainiao、ツァイニャオ、以下菜鳥)は、2013年5月に、中国EC大手のアリババ、リテール大手の銀泰集団(傘下の「国俊投資」経由)、工業大手の富春集団(傘下の「富春物流」経由)、キャピタル大手の復星集団(傘下の「星泓投資」経由)、及び物流会社の順豊、中通、円通、申通、韵逹の出資により、深センに設立されました。

アリババのジャック・マー会長は、アリババグループを支える三極(EC基盤、支払基盤、物流基盤)の一つとして菜鳥を重視し、設立当時、半分近くの株を保有。マー氏自らが菜鳥の会長を務めていました。また、設立時のCEOは銀泰集団の瀋国軍会長が務めています。

現在はアリババグループの張勇氏(Daniel Zhang)が会長、元アマゾンで物流業務に取り組んだ萬霖氏(Lin Wan)がCEOという経営体制です。

菜鳥は、ECから発生した膨大な物流負荷に対応するために生まれたもので、使命としては、四通八達の物流ネットワークを目指し、物流の「基幹ネットワーク」と「ラストマイルの配送」を対象に、技術イノベーション及び物流パートナーとのコラボレーションを通じて、「中国全土24時間、全世界72時間」の配送を実現すること。

ビジョンとしては、「優れた消費者物流エクスペリエンス」、「効率的なインテリジェント・サプライチェーン・サービス」、及び「技術イノベーション駆動型社会コラボレーションプラットフォーム」を提供すること。

菜鳥は、世界的な物流プラットフォームを通じて物流会社の効率を向上させることによりプラットフォーム利用料を徴収するビジネスモデルを取っています。

2019年5月15日に発表されたアリババの2019年度(2018年4月〜2019年3月)ファイナンシャルレポートによると、菜鳥は、148.85億人民元(約22.18億ドル)の売上で、対前年比120%の伸び率で急成長を見せました。

アリババグループ:March Quarter 2019 and Full Fiscal Year 2019 Results アリババグループ:March Quarter 2019 and Full Fiscal Year 2019 Results

菜鳥網絡が提唱する「知能物流骨幹網構想」とは

菜烏は、「インターネットテクノロジー会社」と位置付けられており、アリババグループならではの膨大なデータを武器に、ビッグデータ、人工知能など最新のテクノロジーを駆使して物流革命を起こそうとしています。

その中核は、中国スマート物流骨幹ネットワーク(中国知能物流骨幹網、China Smart Logistic Network、略称CSN)といった物流プラットフォームになります。

CSNは、アリババのジャック・マー会長に提唱されたコンセプトで、IoT技術で都市、倉庫、車両、荷物、店舗、家庭、作業員など物流におけるすべての要素をつなげた上で、人工知能などの技術でその知能化能力を向上させることにより、最高の物流効率と最適な顧客体験を実現する物流基幹網です。

CSNに1000億人民元以上を投資し、日次300億人民元の取引額を支えることができるよう、「中国全土24時間、全世界72時間」で荷物を配送できるスマート物流プラットフォームを目指しています。

現在は世界中の大型物流拠点「eHUB」として、杭州、香港、クアラルンプール、ドバイ、モスクワ、レーヨンを選定し、建設を進めています。

この基幹網を利活用することにより、商品在庫の削減と物流コストの削減に貢献すると期待されています。

菜鳥網絡社のWechat公式アカウントより 菜鳥網絡社のWechat公式アカウントより

 菜鳥は、タオバオやTMallなどアリババのECプラットフォームと同様、物流・配達作業そのものは担当せず、物流・配達業者に物流基盤を提供するプラットフォーム型ビジネスモデルを取っています。

アリババグループのEC業務から膨大な物流トラフィックを武器にしながらも、物流会社とどうやって利益をシェアリングするか、このビジネスモデルの成功可否に関わっています。

現在、物流業者数社は、菜鳥の株主にもなっていますが、それぞれ1%程度の株しか持っておらず、利益共有の仕組み及び協業関係の緊密さは、今後ビジネス拡大のポイントとなると思われます。

菜鳥網絡社のビジネスモデル(筆者作成) 菜鳥網絡社のビジネスモデル(筆者作成)

菜鳥網絡が取り組む物流業界のAIの利活用について

菜鳥は、物流・配送領域の人工知能会社と言ってもいいほど人工知能に取り組み、物流・配達業界の「ロジスティクス・ブレイン」を開発しています。

ロジスティクス・ブレインとは、人工知能により「見えるサプライチェーン」と「スマホで瞬時意思決定」を目指し、サプライチェーン可視化(需要分布・全チャネル在庫・モニターニングなど)とデータ分析(計画分析・在庫分析・配送分析など)を通じて意思決定(商品補充・連動予測・在庫合理性チェック・ルートプランニングなど)を実現するシステムです。

このシステムを利用することにより、荷物、車両、倉庫、配送員などの物流・配送状況のオンライン化と作業最適化を図り、物流コストの低減と配達の効率向上を実現します。

菜鳥網絡社のWechat公式アカウントより 菜鳥網絡社のWechat公式アカウントより

このロジスティクス・ブレインに菜鳥が開発した多くの製品や技術が入っています。下図のように、無人倉庫、天眼システム、AR物流システム、スマート梱包システム、AGVロボット(無人搬送車)や配送ロボット「菜鳥小G」なども入っています。

菜鳥網絡社が開発しているAIシステム「ロジスティクス・ブレイン」(筆者作成) 菜鳥網絡社が開発しているAIシステム「ロジスティクス・ブレイン」(筆者作成)

菜鳥は、アリババのECプラットフォームサービスを物流業界に適用するアプローチを取っています。アリババグループのビジネスの第三の柱として果たして成功できるか、今後の動向に注目が集まります。

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