JD.com「京東物流」はAI活用の自社物流網でアリババと差別化

2019年7月2日掲載

約10兆元(約112兆円)の規模にまで成長している中国のBtoC向けEC市場。そのシェアはアリババグループが運営する「Tmall(天猫)」、JD.comが運営する「京東商城」だけで約8割を占めると言われています。

そんな中国二大ECを支えている巨大な物流インフラについて、中国でロボット、人工知能事業を展開するイーパオディング株式会社代表取締役社長、唐 徳権氏が2回にわたって解説します。

本記事では中国第2位のECサイト「京東商城(JD.com)」の物流プラットフォーム「京東物流」の設立の歴史やビジネスモデル、AI活用事例を取り上げます。

目次

京東商城(JD.com)とは

京東物流を説明する前に、まず京東商城(JD.com、ジンドン、以下京東と称する)について紹介します。 京東は、創業者の劉強東(リウ・チャンドン)により2004年に設立され、2014年にナスダックに上場を果たしました。北京に本社置き、いま現在中国第2位の総合型ECサイトとして地位を確立しています。

京東は、アリババとは異なり、アマゾン型ビジネスモデルとして、自社モール内に京東名義で商品を販売するオンライン直営店モデルを採用しています。京東のEC系売上高の大半を占めており、商品品質やアフターサービスが良く評価されています。

京東がユーザーから評価されている最大のポイントは自社独自の物流網を中国全土に張り巡らせており、配送スピードが速いことにあります。2010年に既に開始した「211限時達」という配送サービスでは、午前11時までに注文した商品は、その日に配送できることを保証しています。

それ以外に「当日逹(購買当日に届ける)」「次日逹(翌日に届ける)」「隔日逹(翌々日に届ける)」「急速逹(2時間内に届ける)」「京準逹(指定の時間帯に届ける)」などのサービスも提供しています。この物流業務を担当する会社が京東物流です。

京東物流とは

京東物流社Webサイトより 京東物流社Webサイトより

京東は、2007年から自営の物流業務を発足し、2017年4月に物流業務を独立させ京東物流集団を設立しました。

2018年2月に高瓴資本(Hillhouse Capital)、紅杉資本(Sequoia Capital)、中国招商局集団(China Merchants Bureau Group)、騰訊(Tencent)などから中国物流業界最高記録の25億ドルの資本調達を実施しました。それでも京東は京東物流の81.4%の株を保有しています。

京東は、消費者にいつでもどこでも境界線なく快適に消費できる、ネット店舗(オンライン)・リアル店舗(オフライン)・物流を融合させた「ボーダーレス・リテール」(利用シーンは無限で、荷物には国境が無く、人と企業の間には壁がないこと)を提唱しています。その根幹には、自営物流があります。自営だからこそ、強力な統括と指揮が可能となり、物流のスピードやクオリティが高まります。

2018年度(2018年1月〜2018年12月)のファイナンシャルレポートによると、京東物流の売上は約18億ドルで、対前年比142%の伸び率で大きな成長を見せました。

JD.com Announces Fourth Quarter and Full Year 2018 Results JD.com Announces Fourth Quarter and Full Year 2018 Results

ボーダーレス・ロジスティクス構想について

京東物流は「ボーダーレス・リテール」コンセプトのもとで、物流における「ボーダーレス・ロジスティクス」を掲げています。

中国最大規模の自社物流網を以って、倉庫、輸送、配送、カスタマーサービス、アフターサービスなどを含めた総合的なサプライチェーンソリューションを提供するとともに「ロジスティクス・クラウド」「ロジスティクス・テクノロジー」「ロジスティクス・データ」などのテクノロジーサービスも提供しています。

現在京東物流は、大型商品物流網、中小型商品物流網、冷凍商品物流網、B2B物流網、越境物流網、クラウドソーシング配送網(達達・京東到家)の6種類の物流網を構築できており、幅広く物流業務を展開しています。

中国大陸のみならずグローバル的に物流ビジネスを展開しており、東京、香港、ロサンゼルス、アムステルダムなどの重要拠点に海外倉庫を保有しています。

JD.com : 4Q2018 Financial and Operational Highlight JD.com : 4Q2018 Financial and Operational Highlight

アリババグループ傘下の菜鳥(Cainiao)との根本的な違いは、菜鳥は情報システムとしての物流プラットフォームの提供にフォーカスすることに対して、京東物流は物流業務そのものも含め物流全般を自社で実施することにあります。

物流システム、運輸、倉庫、配達などすべて自社社員で実施することにより、京東商城やその他のEC業者にハイレベルの物流・配送サービスを実現することができます。これは、京東の最強の武器であり、京東商城の競争力の源ともなっています。

京東物流の研究開発について

京東「X事業部」 京東「X事業部」

京東は「ボーダーレス・ロジスティクス」を実現するために人工知能、ビッグデータなどの技術を研究・応用する機構「X事業部」と「Y事業部」を立ち上げました。

「X事業部」は、2016年5月に設立され、その前身は「京東物流実験室」でした。人工知能を生かした「無人技術」の研究開発に取り組み、無人車、無人倉庫、無人店舗、ドローンなどに専念することなっています。これらの研究開発成果を京東内部の物流業務に生かすほか、対外的にもサービスを提供し始めています。

「Y事業部」は、2016年11月に設立され、人工知能を生かしてスマート・サプライチェーンに専念することにより、京東のサプライチェーンの効率向上、コストダウンを目指すとともに、利用者に優れたエクスペリエンスを提供します。

このスマート・サプライチェーンの中核には、後述するジンドン・スマート・サプライチェーン・コントロール・タワー(SSCCT, JD Smart Supply Chain Control Tower)が挙げられます。

京東のロジスティクス・ブレイン

JD Smart Supply Chain Control Tower JD Smart Supply Chain Control Tower

京東物流は、自社の長年で蓄積できた物流ノウハウをもとに、人工知能など最新のテクノロジーを駆使して、ロジスティクス・ブレインとも呼ばれるジンドン・スマート・サプライチェーン・コントロール・タワー(SSCCT, JD Smart Supply Chain Control Tower)を開発しました。

このシステムは、リアルタイムに物流・配送ルートのプランニングや意思決定を最適化する機能を備えており、ロジスティク・ブレインとしてロジスティク全体の業務をカバーするデジタルプラットフォームになっています。

ロジスティクの計画マネジメント、調達マネジメント、在庫マネジメント、配送マネジメントなど一般的な機能に加えて、商品需要の予測、ダイナミック・プライシング、物流・配送ルートの最適化など最新技術を生かした機能も搭載されており、サプライチェーン全体の効率を向上するとともに、消費者のエクスペアレンスの改善にも貢献しています。

そして、京東社内だけではなく、外部に向けてもプラットフォームとしてサービスを提供しているのです。

JD.com : 3Q2018 Financial and Operational Highlights JD.com : 3Q2018 Financial and Operational Highlights

ジンドン・スマート・サプライチェーン・コントロール・タワーを支える主な技術は、ビッグデータ、ブロックチェーン、IoT、及び人工知能です。人工知能には、機械学習、深層学習、コンピューター・ビジョン、自然言語処理、ロボティクスの技術が利活用されています。

京東の無人技術

京東物流は、近年来、「アジアNo.1」「無人倉庫」「無人仕分けセンター」などの業界最先端でスマート化した物流拠点を建設し、注目を集めています。

無人倉庫、無人配送を実現するには、ドローン、無人車、パレタイジング・ロボット、選別ロボット、棚間シャトル、AGVロボット(無人搬送車)などが使われています。

京東物流社の無人技術(筆者作成) 京東物流社の無人技術(筆者作成)

京東物流は、長年間にわたり蓄積できた自社の物流テックを生かして、京東商城の物流・配送業務を支えるとともに、外部EC業者にもサービスを提供しています。

京東商城内部のコストダウンと外部業者のアウトソーシング収益により、京東物流は今後京東集団の新たな成長源になることが期待されています。菜鳥のプラットフォームモデルと京東物流の自営モデルは、今後どう勝負するか、その展開について引き続き注視したいと思います。

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