【DX塾:須藤憲司】「DX」と「デジタル化」の違い、わかりますか?

2020年6月16日掲載

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、分かるようで、分からない言葉だ。単純に「デジタル化のことだ」と言うなら、ネットワークに接続してデータ処理できればDXは成功なのか?しかし今、日本全国で、謎の言葉「DX」を目標に掲げた会議が行われている。

DXを単なるバズワードで終わらせないために。あらためてDXの本質とは何か、学ぶべきときなのかもしれない。

毎回異なるテーマでDXの本質に迫る、連載企画「DX塾」。第1回目は、「90日で成果をだすDX(デジタルトランスフォーメーション)入門」の著者である、Kaizen Platform代表取締役 須藤憲司氏を講師に招き、DXの基本的な考え方について伺った。

目次

1時限目:DXとは何か?

DXとデジタル化の違い

須藤氏:DXとデジタル化の違い──。それは顧客体験の向上、および収益向上につながっているかどうかなのだと、僕は考えます。

例えば、経費精算用ソフトウェアを導入する。これだけではデジタル化であっても、DXではありません。しかし、ソフトウェアの導入によって顧客に向き合う時間が増えたとします。それは、顧客体験、そして収益につながる取り組みに近づいてきます。つまりDXです。

2018年に、中国最大のECモール「T-mall」を運営するアリババは、現在中国最大のディーラーになっています。さて、アルファロメオが中国市場参入に用意した350台、どのくらいで完売したでしょう。

答えは33秒です。

そんな中で、アリババは自動車の自動販売機を始めたのを知っていますか? スマートフォンから予約を行い、自動販売機では試乗車の受け渡しをするという仕組みです。

オンラインとオフラインの垣根がなくなっている、OMO(Online Merges with Offline)の分かりやすい例ですが、単に自動販売機で自動車を売ってみたいと思ったからで売るというわけではありません。

本来、店舗型のディーラーだとやらなければいけない面倒な手続きを、まるで自動販売機のように短く、簡単にできていることがすごいのです。販売チャネルをデジタル化したことで、顧客体験が劇的に変わっているのです。

DXと顧客体験は表裏の関係です。企業の業務プロセスやオペレーションをDXしないと、良い顧客体験はつくれません。そして、良い顧客体験につながるからこそ、DXなのです。

そして、これは「なぜ企業がDXをしなければならないのか」という問いに対する答えでもあります。DXに取り組み、顧客に選ばれるサービスになることで、競争力が生まれる。それによって、企業は収益をあげることができます。DXは儲かるためにするものなのです。

顧客体験向上の鍵は「時間」

DXには、顧客体験が大切。では顧客体験向上のために最も大切なことは? 私たちがさまざまな実験をした中で導き出したキーワードは「時間」です。

例えば、銀行のローン。貸出までには長く面倒な審査のプロセスがあります。この審査のプロセスが短くなると、貸出率が劇的に向上します。

また、実際の時間を短縮できないにしても、時間へのストレスを軽減させる方法はあります。レストランの料理を宅配するUber Eatsは、アプリから「あと何分で着きます」「今、ここを走っています」という配達状況を確認できますよね。可視化されることで、同じ配送時間でも待っている時間へのストレスは大幅に軽減されます。

顧客体験の向上につながるDXをしたい。でもどうすれば良いのかわからない。そんなときは、顧客体験のどこで顧客の時間を浪費させてしまっているか、考えてみましょう。

2時限目:DX推進の流れ

DX推進の5ステップ

須藤氏:では、どのようにDXを推進していくか。顧客体験には、「リッチ化」「パーソナライズ化」という大きく2つの軸があります。

体験のリッチ化とは、デジタルとリアルの境界が曖昧になる、いわゆるOMO(Online Merges with Offline)を目指すことです。ネットで購入したものを店頭で受け取ることができたり、その店頭での行動がネットでのサービス提供に反映されたりといったことも、そうです。

体験のパーソナライズ化とは、データをもとに適切な人に、適切なタイミングで情報が届けられるということ。例えば、購買データから、他の誰でもない「あなた」に対してのレコメンデーションをする。顧客からすれば、これまでわざわざ検索して探していた情報を、受動的に得られるようになるのです。

そして、これらの体験を実現するにあたっては段階があります。

最初に取り組むべきは、「モバイルファースト」。ECやゲームなど、すでにユーザの生活はスマートフォンが中心になっています。一方で、企業では、PCで会社のイントラネットに入らなければ作業できない、というようなシーンがまだたくさんあります。

また、例えば社内の業務連絡にしても、社内報を紙やメールで送っても、誰も見ません。そのため、社内のビジネスチャットツールを利用したりするのですが、そこで分かりやすく伝え、周知するために「動画」が有効になります。営業のシーンでも、タブレットでPDFを見せるより、動画の方が簡単だし、説明も平準化できます。

そうすると、次は誰がどれだけ見たのか、知りたくなります。営業のシーンであれば、どの顧客にどの商品の動画を見せたのか、トラッキングしたくなるわけです。そこから、「データ活用」が始まります。

これらの「モバイルファースト」「動画」「データ活用」は、実は三位一体。どれを進めるにしても関係してくるニーズです。

次に、オンラインの問い合わせ内容を営業に伝え、それを前提に提案できるようにしたり、ECで商品を購入した顧客に、店頭でその商品を軸にした提案をするなど、オンラインとリアルの場をつなげる取り組みが始まります。

そして、最終的にはビジネスモデル自体の変革。ECで売り切りモデルで販売していたものを、サブスクリプションモデルで販売するなど、企業のお金の稼ぎ方そのものが変わっていきます。

DX推進は「小さく」「細かく」が鉄則

DX推進のやり方として、一番良くないのは最初から大きな計画をぶち上げて、全て一気に進めようとすること。日本企業の多くは機能別組織です。いきなり部門横断で、顧客体験からつくり直すというのは、とても難しい。

そこで、まずは自分たちの部署でできることを小さく試すのが大切です。いわゆるPoC(Proof of Concept)と呼ばれる、実証・検証のためのプロトタイピングをしっかりとやることです。ただ、PoCで終わってしまっては意味がありません。そのために、先ほどの5つのステップに基づいて、最終ゴールであるビジネスモデル変革に至る階段を設計しなければなりません。

3時限目:DX推進の壁と成功の鍵

DXの成功率5%の理由

須藤氏:IMD(国際経営開発研究所)教授のマイケル・ウェイド氏は、自著の中で、世界のDX事例のうち、思ったような効果をあげたのは全体の5%だと述べています。実際に、大企業のDX推進が頓挫してしまうことは、少なくありません。

一番の課題は、さまざまな部署間での対立です。特に、情報システム部門と、営業開発・マーケティングなどの部門の間には大きなギャップがあります。

日本企業の情報システム部門は、何もなくて当たり前、何かあったら責められるという存在でした。そのため、過剰なまでのセキュリティレベルを求められ、既存システムは重く、複雑な構造になってしまったのです。

複雑に絡み合ったレガシーシステムを前提にDXするのは難しく、ここでつまずいてしまう企業は、少なくありません。また、その他にも、営業部門とプロダクト部門、事業部門とコーポレート部門など、「組織のもつれ」はさまざまな所にあり、DXを停滞させる要因になります。

DXを成功させる2つのポイント

「組織のもつれ」を乗り越えるため、まず重要なのが先ほど述べたPoCです。DXの5つのステップのうち、①②③は自分たちの部署だけで完結することができます。しかし、④の「リアル接続」からはどうしても部署を横断しての取り組みになり、難易度が上がります。

①②③で、きちんとプロジェクトの価値を検証できていないと、他部署を巻き込むことはできません。PoCの段階で、数値など分かりやすい形で効果を出しておくことが、社内調整を成功させる鍵になります。

そしてもう1つ大切なのが、トップマネジメントのコミットメント。社長や役員、部長などがきちんとDXを推進するという意志を示すことです。各部署の社内調整には実力者の存在が有効です。しかし、日本企業ではトップマネジメントが意志を示しても、どうしても横やりが入ることもあります。

そこで、実際にプロジェクトを進める段階では、現場レベルでの思い切った判断やトライも必要です。トップがビジョンを示し、現場がどう実現するかをきちんと考える。この2つの条件がDX推進には必要なのです。

4時限目:アフターコロナのDX

ビジネスの一等地が変わる

須藤氏:コロナ禍の影響で、私たちの働き方は劇的に変わりました。リモートワークが当たり前に行われ、働き方のDXが起こりました。

そして今、企業は稼ぎ方改革の必要に迫られています。店舗を開店できない、対面でアポイントメントがとれない、その状況でどうするかが、今、問われています。働き方と同じく、稼ぎ方もDXしなければなりません。

緊急事態宣言のさなか、丸の内近辺は閑散としていたそうです。高層ビルが立ち並ぶ一等地と言われる場所。非常時の話ではありますが、こんなパラダイムシフトが突然、起こるわけです。

すぐにこれまでの生活に戻れるかも分からないですし、コロナ禍が終息したとしても、生活者の意識は変わってしまっているかもしれません。洋服を販売するならば、原宿の路面より、インスタグラマーのタイムラインが一等地になってしまった可能性もあります。

今、DXを検討するならば、短期的に生き残るためだけでなく、持続的成長のために何をすべきか、これからの時代の新しい競争力について、考え続けていく必要があるのではないでしょうか。

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