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購入のボタンをクリックした数分後に料理が届く、ECサイトで購入した当日に商品が届く。Uber Eatsやアマゾンの存在が証明するように、物流の変革は顧客体験に大きなインパクトをもたらす。
物流にイノベーションを起こした企業は、業界の地図を大きく塗り替える可能性を秘めている。そして、その鍵を握るのは言わずもがなDX(デジタルトランスフォーメーション)である。
しかし、残念ながら先述の企業はいずれも日本企業ではない。日本の物流はどのようにDXしていけば良いのか。
毎回異なるテーマでDXの本質に迫る、連載企画「DX塾」。第4回目は、ヨーロッパ最大の戦略コンサルティング会社であるローランド・ベルガーのパートナー、小野塚 征志氏を講師に招き、日本の物流のDXについて伺った。
小野塚氏:世界の中でも、日本ほど物流の現場の労働生産性が高い国はありません。荷主の要望に対して、臨機応変に対応するサービスレベル。あの人ならばなんとかしてくれる──。そういう人が現場にたくさんいます。宅配物を無料で再配達をしてくれるのも実は日本くらいです。
欧米にはそういった気の利いた対応はありません。契約書文化ですから、予定よりも荷物が大きければ、別料金か、そもそも受け取らない。荷主もそれで良いと思っています。そのため、現場の業務は標準化・定型化が徹底されています。
では、どちらがDXしやすいか? それは間違いなく欧米です。指示書通りの作業をすれば良いのであればシステムやロボットに置き換えることができます。しかし、システムやロボットは臨機応変に対応することはできません。
小野塚氏:日本人はマキシマイゼーション・ミニマイゼーションが大好きです。生産性は最大化したいし、誤出荷や欠品はゼロにしたい。欧米では、荷物が届かないとか、壊れているなど、日常的に起こります。
サービスの品質を向上していこうとするのは、日本の誇るべき文化です。しかし、誤出荷をゼロにしようとすれば、何度もチェックするしかない。欠品をゼロにするためには在庫をたくさん抱えるしかない。そうすると物流コストは割高になります。
それに対して、欧米の考え方はオプティマイゼーション。欠品率が1%あってもそれで在庫が減るならば全体の利益は上がる。そういった全体最適化のために割り切る文化です。
オプティマイゼーションの思想はDXを推進しやすくします。何かのミスを本気でゼロにしようとすると、結局最後は人の目で確認しなければならない。もしロボットだと0.1%のミスが起こるという場合、日本人はそれを許容できません。
アマゾンの置き配は分かりやすい例です。日本企業では盗まれる確率をゼロにしたいという発想で、どうしても踏み切れない。一方で、アマゾンは盗まれたら補償しますということで推し進めてしまう。
結果として、日本の物流業界のDXは欧米に比べて5年から10年遅れているのが実情です。
小野塚氏:今はロジスティクス4.0の時代と言われています。
AI、IoT、ロボティクスといったテクノロジーによって、サプライチェーン全体がネットワーク化され、これまで人が担っていた業務の多くが自動化されようとしています。
人でなければできない操作や作業が減少し「省人化」が可能になる。また、物流に関するさまざまな機能や情報がつながることで、プロセスを柔軟に組み替えられるようになり、あらゆる場面で「標準化」されたサービスの提供が可能になります。
これにより、物流は「装置産業化」していくでしょう。つまり、「運ぶ」「保管する」「梱包する」「手配する」といった物流の基本オペレーションは、人の介在しないインフラ的な機能になっていきます。これにより、労働集約的なビジネスモデルでは生き残れない時代がやってくるでしょう。
小野塚氏:では、誰が物流にイノベーションを起こすのか? その担い手は物流会社ではなく、荷主である場合もあります。
その最たる例がアマゾン。彼らは荷主で、日本では配送会社に依頼をしているわけですが、アメリカでは100ヵ所を超える物流センターを設置し、その中では多くのロボットが稼働し、省人化の試みを行っています。また自社で数千台規模の配送トラックも所有し、自社貨物機や船舶、ドローン宅配の取り組みも始めています。
現時点では自社の荷物を配送するための取り組みですが、ゆくゆくはこれらのアセットを用いて外部に物流サービスを提供する可能性もあるでしょう。AWSがまさに同じパターンです。AWSも元は自社のサーバシステム。その空きスペースを外部に開放することで、圧倒的なコスト競争力を実現しています。
日本ではニトリも近い取り組みをしています。配送機能を分社化して、自分たちの家具の配送ネットワークを外部に提供しています。
しかし、アマゾンやニトリのような取り組みを行うのは一部の企業に限られます。これからは、自社で物流機能を持っていた荷主企業の8〜9割が、物流を外部委託することになるでしょう。選択と集中の時代がやってきます。
小野塚氏:物流業界では、書類、ハンコ、電話、ファックスなどといったアナログがまだ根強い。ドライバーの中には、まだスマートフォンではなくフィーチャーフォンを使っている方も数多くいます。
物流業界でDXが進まない理由の1つは、従来のやり方でこれまでやれてしまっていたということ。例えば、中国やインドであれば、日本ほど労働者の質が高くないため、ミスを少なくするためにロボットを導入する必然性がありました。日本はレガシーなアセットでも労働者の能力でカバーできてしまっているため、どうしてもDXに対して二の足を踏むことになってしまいます。
そしてもう1つの理由は多重下請け構造です。現場を担う下請けの企業には資金力が無いのに加え、複数の元請けが異なるシステムを利用していた場合、複数のシステムを導入しなければなりません。それは下請け企業にとっては現実的ではないでしょう。
では、どのようにDXを推進していくか? そこには行政の協力が必要だと考えます。キャッシュレス推進のように物流業界のDXに対してインセンティブを提供するのも1つでしょう。また、行政が積極的に規格化・標準化の音頭を取ることで、前述のようなシステムの重複は避けられるかもしれません。
小野塚氏:現在、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)が取り組むテーマの1つにスマート物流サービスがあります。SIPでは物流データと商流データの基盤となるプラットフォームを構築し、業界全体でシェアすることを掲げています。
今、日本を走っているトラックの積載率は約4割。もしこれが8割になったら、トラックは半分の台数で済みます。これをどのように実現するのか? そこで商流のデータが必要になります。
荷主の出荷計画や販売計画が分かっていれば、最適な配車台数、集荷ルートをあらかじめ算出することができる。多くの企業がプラットフォームに参加し、物流と商流のデータがつながることで、業界全体を効率化できるようになるのです。
もちろん、他社に経営数字が分かってはいけないのでデータの匿名性は担保されていなければなりません。また、ブロックチェーンの活用など、データの非改ざん性についても検討する必要があるでしょう。
小野塚氏:物流業界もまた、新型コロナウイルスによる影響を受けました。しかし、他の業界と比較するとその影響は限定的でした。経済が正常に回るようになるに連れて、比較的早く輸送へのニーズも回復していきます。
むしろ、宅配に関してはポジティブな効果があったと言えるでしょう。外出が制限されると人の代りにものが動かなくてはならなくなる。今後、宅配の市場は拡大し、新しいサービスニーズが生まれていくでしょう。
小野塚氏:また、コロナ禍をきっかけにサプライチェーンは大きく変化していく可能性があります。一時的でも輸送手段が麻痺したことで、荷主はより柔軟にものを運べるような仕組みが必要だと考えるようになります。柔軟な輸送の仕組みをつくるため、物流会社にはさらに規格化・標準化が求められるようになるでしょう。
そこにロジスティクス4.0の潮流が合わさることで、サプライチェーンならぬ、サプライウェブと言えるものが生まれるでしょう。固定的だったチェーン構造から、より自由に取引ができるウェブ構造へと物流は変わっていきます。これまでは特定のものを特定の場所へ運ぶだけだったトラックが、あらゆるものを載せて、さまざまな場所を巡るようになるわけです。
インダストリー4.0により、大量生産から変種変量生産になると、物流もまたさまざまなものをさまざまな場所に運ばなくてはいけなくなります。コロナ禍はすでに起こりつつあった物流の変革を急速に推し進めるきっかけとなるでしょう。
そして、サプライウェブの基本となるのが「プロセスがつながる」「プロセスがなくなる」ことです。物流と商流、あらゆるデータがプラットフォームでつながる。そして、それにより発注しなくても自動でものが届いたり、データ連携しているために検品が不用になったりと、プロセスが自動化していく。
煩雑な業務がなくなるとなれば、多くの企業がプラットフォームに参加するようになり、サプライウェブはその成立要件を満たすようになります。
そして、その価値を提供できる企業こそがプラットフォーマーとして、物流業界のGAFAとなるでしょう。
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