コロナ禍で加速した、大正大学のスマートユニバーシティ構想

2021年1月29日掲載

  • 大正大学ではデジタル人材の育成のため、スマートユニバーシティを目指す
  • DX推進にあたり、ソフトバンクと連携協定を締結
  • コロナ禍でのオンライン授業への全面移行、ビッグデータを活用したゼミなど、さまざまな取り組みを実施

コロナ禍の影響を大きく受けている大学教育。第一波が訪れた2020年4月に「高等教育無償化プロジェクトFREE」が行った調査では、学生の5人に1人が退学を検討していたという。対面授業からオンライン授業へ移行せざるを得なくなり、従来と異なる状況下で充実した学びの環境を提供するためには、大学のデジタルシフトが急務だ。

こうした中、コロナ禍を機にデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させているのが大正大学だ。2020年10月には大学教育、研究活動、キャンパス運営にテクノロジーを活用するスマートユニバーシティの実現を目指して、ソフトバンクと連携協定を締結した。

大正大学が考えるこれからの大学のあり方とはどういうものか。同校のDXプロジェクトを進める大正大学 魅力化推進部の髙橋慈海氏、日野真雄氏、プロジェクトをサポートするソフトバンク 法人第三営業本部の平根孝人、福井彩乃に話を聞いた。

大正大学のスマートユニバーシティ化に取り組む大正大学とソフトバンクのプロジェクトメンバー 左からソフトバンク 法人第三営業本部 第2営業部 福井彩乃、ソフトバンク 法人第三営業本部 DX推進課 平根孝人、大正大学 魅力化推進部 部長 髙橋慈海氏、大正大学 魅力化推進部 魅力課 課長 日野真雄氏

目次

大正大学が取り組む「大学教育改革」

大正大学では2026年に創立100周年を迎えるにあたり、第3次中期マスタープランを2018年に作成。「MIGs(ミライ・イノベーション・ゴールズ)2026」を掲げ、大学教育改革を進めてきた。地域に根ざし、東京・巣鴨の街を基盤とした地学協働を目指す「すがもオールキャンパス構想」、新しい価値創造ができる人材の育成を目指す「アントレプレナーシップの養成」などに取り組んでいる。

こうした改革を下支えしているのが、教育や研究活動、キャンパス運営をデジタル化する取り組みだ。大正大学 魅力化推進部の髙橋氏は、同校がデジタルシフトを進めてきた背景について次のように話す。

「今はIoTやAI、ビッグデータを活用しながら、オンラインとオフラインを融合させてイノベーションを起こしていくことが求められる時代。こうした社会を生き抜く人材を育成することが大学の役割です。

大正大学は文系大学で、デジタル化のノウハウがこれまでありませんでした。しかし、時代に適応し、進化していくためには、大正大学の魅力をさらに強くすることに加えて、起爆剤となる新しい何かにチャレンジすることが不可欠。

そこで、オンラインとオフラインの融合を図りながら、大学教育改革を実施することになったのです」(髙橋氏)

デジタル人材を育成するためには、まず大学自体がデジタルを効率良く活用し、スマートユニバーシティへと進化することが必要だ。文系大学ということもあり、以前の大正大学のデジタル化の進み具合は「他校と同じか、少し遅れているくらい」だったというが、だからこそ、「大きくシフトチェンジして、後追いの状況を打破しなければ」と本気のデジタル改革の着手につながった。

大正大学がデジタルシフトの方法を模索していたときに出会ったのが、ソフトバンクだったという。

「ソフトバンクさんは社内でもDXにいち早く着手していますし、新しい取り組みにどんどん挑戦していく社風です。我々になかった知見を取り入れて、共同で何かできないかという相談から始まりました」(髙橋氏)

大正大学とソフトバンクで「スマートユニバーシティ」を目指す

ソフトバンクは1年半ほど前から大正大学のDXプロジェクトに参加。プロジェクトを統括する営業担当のほか、技術視点でのアドバイスを行うDX推進のスペシャリストが参加し、ビジョンメイキングや、デジタルで「何をしたいか」「何ができるのか」などの議論を深めてきた。今直面している課題をデジタルでどう解決していくかを考える一方で、時にはバックキャスティングの手法で2030年、2040年の大学のあるべき姿から振り返って今すべきことを考えることもあったという。

ソフトバンクが大正大学とタッグを組むことになった背景について、ソフトバンクのDX推進担当である平根は次のように話す。

「ソフトバンクでは『モノ売りからコト売りへ』という方針を掲げています。従来のICT商材の提供から領域を広げ、お客さまの課題やニーズを深掘りして、より上流からの課題解決に取り組んでいます。

これからの大学の新しい価値創造を目指して大正大学さまが掲げているビジョンや、大学改革に挑戦していくんだという志に大きく共感し、ぜひ一緒に取り組んでいきたいという思いがありました。

また、ソフトバンクは今、AIやIoTや5Gなどの先進テクノロジーを駆使して社会課題の解決に取り組んでいますが、大正大学さまは全国のさまざまな地域と連携して地方創生などの取り組みを行っており、その分野でも連携できるのではないかと考えていました」(平根)

大正大学とソフトバンクの両者で1年ほどの議論を経て、具体的にプロジェクトが発足したのは2019年の秋頃だった。当初は大きく2つの視点で議論を行っていた。1つは2040年の世の中や大学という未来からの逆算視点、もう1つは顕在している課題をどう解決していくかという現在の視点だ。

クイックウィンでまず取り組んだのがキャンパス内のICT環境の整備。大学職員にスマートフォンを持たせて固定電話からの脱却を図るとともに、キャンパス内のどこでもWi-Fiがつながるようにした。

そして、さらなるデジタルシフトを進めようとしていた矢先に直面したのがコロナ禍だった。

コロナ禍で加速した大正大学のデジタルシフト

急遽、2020年の春学期をオンラインで実施することになったが、大正大学にはオンライン授業のノウハウが全くなかったという。そこで、ソフトバンクがDX支援コンサルティングとして入り、1,397ある授業のデジタルシフトを支援することに。ソフトバンクはネットワークやICTツールの提供だけでなく、法人のDX推進に必要な人材をアサインし、本プロジェクトのPMO(Project Management Office)として参加。全面オンライン授業への移行と定着化に取り組んだ。

「対面授業から突然オンライン授業になり、当時はかなり混乱していました。『アプリケーションの使い方が分からない』『オンラインで授業をどう進めればいいか分からない』など、さまざまな声が寄せられたため、我々職員でオンライン授業サポートチームを作り、ソフトバンクさんにも加わってもらいました。授業が始まると学生からもさまざまな質問が寄せられ、その一つ一つに回答していきました。

春学期を乗り越えたあとに先生たちからサポートチームへの感謝の声が寄せられたのですが、ソフトバンクさんにいろいろと相談しながら進めてこられたのが大きかったと思います。春学期の間はソフトバンクさんと毎日やり取りして、多大な支援をしてもらいました。本当に心強かったです。

デジタルシフトは以前から検討していたものの、コロナ禍がなければもしかしたら様子を見ながらスモールスタートになっていたかもしれません。コロナ禍があったからこそ一気に進めることができました」(日野氏)

ソフトバンクでは、ICTツールの提供や活用支援、全体スケジュールや課題の管理、学生や教員の声の収集からオンライン授業のメリットやデメリットの分析を支援。また、アフターコロナを見据えた新たな授業モデルのコンセプト策定をおこなった。

こうしたさまざまな取り組みもあってか、大正大学では学生の退学・休学率は例年とほとんど変わらず、コロナ禍による影響を最小限におさえることにつながったといえる。

ビッグデータを活用したデータサイエンス教育を実施

大正大学のDXはオンライン授業の活用にとどまらない。ビッグデータなどの最新テクノロジーを教育に取り入れ、地域と連携したさまざまな取り組みを実施。オンラインとオフラインを融合させ、新しい価値創造を目指していく地域人材の育成に力を入れている。

例えば、「MIGs2026」の取り組みの1つ「すがもオールキャンパス構想」においては、地元の巣鴨駅前商店街、巣鴨地蔵通り商店街、庚申塚商栄会と協力し、巣鴨の街自体をキャンパスにするというコンセプトで、アンテナショップの企画運営や商店街の空き店舗の教室化など、多彩なフィールドワークを実施している。

そこで学生に活用されているのが、ヤフーが提供するビックデータ分析サービス「DS.INSIGHT」だ。巣鴨商店街に関する行動ビッグデータから地域特性を分析し、巣鴨の街が抱える課題の解決策を考えていく授業を実施している。今後の構想としては、カメラの映像解析を使って人流のデータ分析を行い、学生が主体となって商店街や店舗に人を誘導するための施策を考えるといった取り組みがある。

「大正大学の強みの1つは理論と実践の両方を学ぶ環境があることです。これまでも地域と連携したフィールドワーク・実習に力を入れてきましたが、実社会のリアルな統計データを使って解決策を考えるというのはとても意義深いですし、教育を通しての地域課題の解決、社会貢献にもつながります」(髙橋氏)

一方で、ヤフー側も大学と提携することで大きなメリットがあるという。

「ヤフーではビッグデータを企業の商品開発などに活用するイメージはあったのですが、教育分野での活用のイメージは具体的にもっていませんでした。今回大正大学さまの地域課題解決の授業で活用していただくことで、教育分野でのビッグデータの活用法を一緒に模索していきたいという考えがあります」(平根)

こうしたデジタルを活用した多彩な取り組みが評価され、2020年度には文部科学省の「知識集約型社会を支える人材育成事業」に同校の考える「新時代の地域のあり方を構想する地域戦略人材育成事業」が採択された。

ニューノーマル時代の新しい大学を創造する

今後、大正大学では、学内システムの認証統合、AIなどの先進テクノロジーを活用した教育環境や教職員の働き方改革など、さまざまなプロジェクトを展開していく予定だという。テクノロジーを活用して学生、大学、卒業生をつなぎ、相互コミュニケーションを深めながら魅力ある大学を目指していく考えだ。

大正大学の髙橋氏と日野氏は、今後の展望について次のように語った。

「AIやIoTというキーワードはよく耳にするものの、これまでは具体的に何ができるのかが見えておらず、教育に活用するといってもよいアイデアは出てきませんでした。今回いろいろなデジタル改革を実施したことで、今までとは違う景色が見えてきました。画期的なアイデアをソフトバンクさんと一緒に探していきたいと思います」(髙橋氏)

「僕らは魅力課。大学の魅力とは何かを考えていく必要があります。デジタルを活用しながら何ができるか、何をしなければいけないかを考えながら、大正大学の新しい魅力を作っていきたいと思います」(日野氏)

また、2人の話を受けてソフトバンクの営業担当の福井は、「プロジェクトの一員として関わらせていただけて、とても感謝しています。ICTツールを提供するだけにとどまらず、デジタル活用をすることで何ができるのかを提案しながら、新たな価値を一緒に生み出していきたい」と語った。

最先端のテクノロジーは大学教育をどう変えていくのか。大正大学とソフトバンクの模索と挑戦はこれからも続いていく。

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