【解説】エッジコンピューティングとは?初心者編

"【図解】エッジコンピューティングとは?初心者編|ソフトバンクのビジネスWebマガジン「Future Stride」"

(2021年2月2日 掲載)

分散型アーキテクチャ「エッジコンピューティング」が注目を集めている。低レイテンシ(低遅延)、ネットワーク負荷の軽減、セキュリティ強化などの特性がIoTの課題を解決できると期待され、製造業や農業、小売業など幅広い分野で活用が進んでいる。しかし、エッジコンピューティングの導入にはコストやセキュリティ対策などの課題を乗り越える必要があり、メリットや対策を正しく理解して取り組む必要がある。本稿では、エッジコンピューティングの全体像を解説する。

目次

エッジコンピューティングとは

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定義

エッジコンピューティングとは、IoT端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念である。クラウドにデータを送らず、エッジ側でデータのクレンジングや処理・分析を行うためリアルタイム性が高く、負荷が分散されることで通信の遅延も起こりにくいという特長を持つ。
データを集中処理するクラウドに対し、データを分散処理するのがエッジコンピューティングだと言える。

仕組み

"従来のIoTシステムとエッジコンピューティングによるIoTシステムの仕組み|ソフトバンクのビジネスWebマガジン「Future Stride」"

エッジコンピューティングは分散型アーキテクチャの仕組みを採るが、データを集中管理するクラウドと相容れない関係ではない。上図のようにデバイスおよびエッジサーバでデータを迅速に処理しつつ、必要なデータのみネットワークを介してクラウドに送り、集積・管理することで、低レイテンシとデータの一元管理を同時に実現することができる。
従来のIoTではセンサで収集したデータをインターネット経由でクラウドへ送信し、分析・解析を行う中央集中型の仕組みが一般的であった。これに対し、エッジコンピューティングではデバイス本体もしくはデバイスとクラウドの間に設置したエッジサーバで分散してデータ処理を行う仕組みをとることで、リアルタイムかつ低負荷なデータ処理を実現する。

エッジコンピューティングが注目される理由

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IoTの課題解決への期待

従来のIoTは大きな3つの課題を抱えている。エッジコンピューティングが注目される背景には、このIoTの課題解決に向けた期待がある。IDC Japanによると「2019年のIoTエッジインフラ市場は前年比25.1%増の331億円、2018~2023年の年平均成長は22.9%、2023年には742億円規模になる」という。

参考リンク: 国内IoTインフラ市場、2019年は16.2%増--「コア」から「エッジ」に割合増加 - ZD Net Japan

課題1:ネットワークにかかる負荷

IoTの1つ目の課題は「ネットワークにかかる負荷」だ。IoTでは常に大量のデータをクラウドやデータセンターへ送信している。センサから送られてくる情報をもとに、サイバー空間でリアル空間を再現して未来を予測する技術である「デジタルツイン」などは最たる例と言えるだろう。こうした大量のデータの送受信はネットワークに多大な負荷をかけるため、IoTの利用が進めば進むほどネットワークの維持・管理にかかるコストが膨らんでしまう。

課題2:レイテンシの大きさ

IoTの2つ目の課題は「レイテンシの大きさ」だ。レイテンシとはデータが送られてくるまでに生じる、通信の遅延時間のことだ。IoTでは求められる処理のスピードとレスポンスが非常に高いレベルにあるが、従来のクラウドでデータを処理するIoTでは数百ミリ秒から数秒のタイムラグが起こってしまうこともあった。このタイムラグはリアルタイム性が求められるIoTにおいて、致命的な問題につながってしまうこともある。

課題3:セキュリティの担保

IoTの3つ目の課題は「セキュリティの担保」だ。IoTではインターネットを介してクラウドに接続するため、外部からの脅威にさらされるリスクが高まる。こうしたリスクに備えるために、近年ではゼロトラストなどの新たなセキュリティアプローチも生まれてきてはいるものの、セキュリティの担保には人もコストもかかってしまう。

エッジコンピューティングのメリット

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ネットワーク負荷の軽減

エッジコンピューティングはエッジ側で高速・安全にデータ処理を行いつつ、必要なデータのみをクラウドに送る新たなアーキテクチャであり、前章で触れたIoTの課題を解決するに足る強力なメリットを持つ。
エッジコンピューティングの1つ目のメリットは「ネットワーク負荷の軽減」だ。データ処理をエッジサーバで行った上で、必要なデータのみをクラウドに送ることで通信量を抑え、ネットワークの負荷を軽減させることができる。

低レイテンシ

「低レイテンシ」はエッジコンピューティングの最大の特長のひとつだ。エッジデバイスそのものや物理的に近くにあるエッジサーバはデータ処理に係る遅延を大幅に軽減させることが可能だ。
IoTの活用が進み、工場やビルに設置されたセンサから大量のデータが送られ続ける中、全てのデータをクラウドサーバに送信していると数ミリ秒ではあるが遅延が発生してしまう。リアルタイム性が求められるIoT製品などでは数ミリ秒であっても遅延は致命的な問題となるため、データの蓄積・管理はクラウドで、迅速なデータ処理はエッジコンピューティングで、それぞれ行うなどの対応を取ることで、リアルタイムな処理が実現できる。
また低レイテンシを実現する要因のひとつに、5G(第5世代移動通信システム)が挙げられる。5Gは超高信頼・低遅延(URLLC)の実装を予定しており、遠隔医療や自動運転など、リアルタイム性が極めて重要なIoTにも応用が可能とされている。将来的には工場などの生産現場でも5Gによるリアルタイムでのロボット操作などが可能になるだろう。

セキュリティ強化

セキュリティの強化もエッジコンピューティングのメリットのひとつだ。外部ネットワークを介さずデータ処理をエッジサーバで行うため、データのやり取りにおけるデータ漏えいリスクを大幅に抑えることができる。
クラウドに送信するデータは、エッジサーバで処理したデータのうち、蓄積や管理が必要なもののみとなるため、ネットワークの負荷が軽減されることとあわせて、データ漏えいリスクも抑えることができると言える。

DXの推進

現在、各業界でDXの推進が進められている。とりわけ製造業のDX化はIoTと切っても切れない関係にある。IoTのリアルタイム性を高めるアーキテクチャとして、エッジコンピューティングは重要な役割を担っており、今後の製造業のDXを語る上で欠かせない存在となるだろう。

エッジコンピューティング導入時のセキュリティ対策

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通信プロトコルと暗号化

エッジコンピューティングに限らずIoT全般に言えることだが、末端のIoT製品などエッジデバイスのセキュリティは必ずしも強固ではないことが多い。エッジデバイスへのサイバー攻撃をきっかけにシステム全体が脅威にさらされることも考えられるため、最低限のセキュリティ対策は必要不可欠だ。
エッジコンピューティングでは、端末とエッジサーバの通信はBluetooth、エッジサーバとクラウドサーバの通信はHTTPと、それぞれの用途に応じて通信プロトコルを使い分けることが一般的であり、どちらの通信も暗号化することが推奨されている。

ゼロトラストセキュリティモデル

近年、注目されているセキュリティモデルである「ゼロトラストセキュリティモデル」は、高度なセキュリティが求められるエッジコンピューティングにおいて有効なセキュリティ対策だと言える。
ゼロトラストモデルでは、ファイアウォールなど従来の境界型セキュリティモデルと異なり、正規のIDでログインしていたとしても脅威が潜んでいる可能性を考慮し、全てのやり取りを都度認証しつつ記録し、各トラフィックに対して必要最低限の情報のみを閲覧させる。
そのため、万一、セキュリティが強固ではないエッジデバイスに不正にアクセスしたとしても、コアシステムとなるクラウド内を自由に閲覧されることはなく、被害は極めて限定的な範囲となる。
こうしたゼロトラストセキュリティモデルの考え方は広く浸透してきており、近年では政府のサイバーセキュリティ対策としても導入を検討されている。エッジコンピューティングを導入する際には、暗号化とあわせて、ゼロトラストネットワークの構築も同時に検討したい。

エッジコンピューティングの課題と解決策

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課題

エッジコンピューティングの最大の課題は、一般的なクラウドコンピューティングに比べてコストが高くなりがちなことだと言える。
エッジコンピューティングでは、IoT製品や端末などと物理的に近い位置にエッジサーバを置く必要があるため、利用する拠点が多ければ多いほどハードウェアの数は増え、システムは複雑化していく。多くのエッジサーバを揃えることでコストが増大し、複雑化したシステムは開発・管理・運用に負担を強いる。
エッジコンピューティングの導入に向けてPoCを行ったものの、PoCの段階ではスムーズだったが、運用を開始してみたら想定よりもコストが高くなってしまうケースも多い。ハードウェアの購入コストは抑えにくいが、システム運用の効率化の方法をPoCの段階で考えておくことで、運用時の負担を抑えたい。

解決策

多数の拠点に多数のエッジサーバを置き、継続的なメンテナンスや管理を行っていく場合、各拠点に専門の人材を配置したり、派遣したりすることはコストの面で現実的ではない。小規模ならば問題とならないコストであっても、グローバルで展開するような大規模な構成だった場合、このコストは継続的な負担となって企業を圧迫しかねない。
そのため、エッジコンピューティングを効率的に運用するためには、本社など遠隔地にいる専門のスタッフがリモートでエッジサーバを一元管理・メンテナンスできる仕組みを構築する必要がある。また、小さな問題への対応や簡単な修理であれば、現場の専門知識を持たない従業員でも行えるマニュアルを用意することも有効だろう。

エッジコンピューティングの活用事例3選

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事例1:農業分野

近年、DX化が大きく進んでいる分野が農業だ。無人で操作が可能なスマート農業機械やドローンによるデータ収集・分析が積極的に行われており、膨大なデータの分析・処理を効率的に行う目的でエッジコンピューティングを活用したリアルタイムのデータ処理が行われているケースも出始めている。
アメリカのBlue River Technology社は、半導体大手NVIDIAのエッジプラットフォームを活用して、除草ロボット「See & Spray」を開発した。See & Sprayにはカメラが備え付けられており、作業中に作物と雑草を瞬時に区別し、除草剤の撒く場所を的確に判断している。
農地や雑草、天候などの情報をセンサで送信し、AIが分析して、ロボットの動作を制御する農業の分野においては、レイテンシは致命的となるため、リアルタイム性が高まるエッジコンピューティングは今後も活用されていくことだろう。

事例2:自動車分野

自動運転は最もレイテンシがあってはならない分野のひとつだろう。事故につながらないよう瞬時の判断が求められるため、低レイテンシという特長を持つエッジコンピューティングはキーテクノロジーとなり得る。
車両に搭載したカメラやセンサで周囲の車や道路状況をリアルタイムに読み取り、そのデータをクラウドに送信し、AIがビッグデータ解析を行い、車両にフィードバックする、というプロセスを経て自動運転は実現されているが、自動運転では1秒間のレイテンシが命につながるため、通信には低レイテンシが求められている。
エッジコンピューティングを活用した自動運転では、車両の近くにあるエッジサーバや車両本体などでデータ解析を行うため、遠く離れたクラウドとデータの送受信を行う従来型の自動運転と比べ、高いリアルタイム性を確保でき、より安全な運転が実現できる。
自動運転に取り組む自動車メーカ各社もエッジコンピューティングの実用化を目指した取り組みを続けており、トヨタ自動車らが創設した「Automotive Edge Computing Consortium (AECC)」をはじめ、エッジコンピューティングへの注目はますます高まってきている。

事例3:小売り分野

小売り分野では「無人店舗」が世界的に広まっている。2018年に話題となった「Amazon Go」では、入店時に買い物客がQRコードをかざすことで、店内にある無数のカメラとセンサが買い物客を感知する。買い物客は自分が欲しいものを手に取り、退店時に再びQRコードをかざせば買い物は完了する。退店から数分でスマホに購入したレシートが届くという。
レジがない無人店舗で瞬時に人と商品の流れを把握するには、リアルタイムでの情報収集が欠かせなく、エッジコンピューティングの技術が利用されている。
米ウォルマートもエッジプラットフォーム「エヌビディアEGX エッジ スーパー コンピューティング プラットフォーム」を導入しており、顧客体験の向上を目指した小売店舗でのエッジコンピューティングの利用は世界的にも広がりを見せており、今後日本の小売業でもエッジコンピューティングが活用されるようになっていくと予想される。

エッジコンピューティングのソリューション

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Intel

インテルでは医療向けのエッジコンピューティングソリューションを提供している。インテル® QuickAssist テクノロジー(インテル® QAT)と、インテル® バーチャライゼーション・テクノロジー(インテル® VT)を活用した、医療データの収集、分析、合成の向上が目的だ。
インテル® QATは主に医療用画像や映像のデータを圧縮し、演算などの高速化に貢献する。インテル® VTは、複数のアプリケーションを1台のサーバで実行ができるようになり、医療システムによるITの負担を軽減するとしている。
インテルではエッジとクラウドの双方からデータの分析を行い、医療業界の向上に貢献したい考えだ。

IBM

IBMではエッジコンピューティングによって、企業の業務を効率化させる「エッジ・コンサルティング・サービス」を行っている。
製造業の工場では、IoTウェアラブル・センサと環境センサからリアルタイムにデータを収集し、現場で起こりうる危険を予測し、従業員の安全を守ることにつながるという。さらに資産パフォーマンス管理機能も備わっている。現場にある機器の計画外の修理作業を最小限に抑えることで、機器のパフォーマンスとコストを削減することに貢献している。

NVIDIA

NVIDAでは、エッジでAIを管理、拡張するためのハイブリッドクラウドプラットフォームとして「NVIDIA Fleet Command」を提供している。小売や製造、交通、医療、通信など、幅広い業界に対し、エッジAIソリューションを提供している。
例えば物流の分野では、倉庫内に存在する多数のIoTデバイスに対してエッジでAI処理をするためのプラットフォームを提供しており、迅速かつ正確なオペレーションを実現し、集荷・梱包・出荷の精度を高めているという。

まとめ

IoTやAIの活用が進めば進むほど、リアルタイムでのデータ活用や分析の重要度は増し、低レイテンシ・低負荷・セキュアなデータ通信の実現が成否を分ける要因となる。DXの推進が勢いを増す中、エッジコンピューティングへの注目はさらに高まるだろう。エッジコンピューティングとクラウドコンピューティング、それぞれの長所を理解して上手に使い分けることで、IoTを利用したDXが大きく進むと思われる。
とは言え、コストなどの課題も残されており、エッジコンピューティングの導入はまだまだハードルが高いと考える向きもある。こうしたハードルを乗り越えるためには、事前の準備や設計を入念に行う必要がある。そのための入門情報として、本稿が読者の一助となれば幸いである。