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強風、霧、雲、そしてクレーター。史上最も過酷な環境下でのドローン救助訓練

強風、霧、雲、そしてクレーター。史上最も過酷な環境下でのドローン救助訓練

山岳地帯での遭難時や災害時に、携帯電話の電波が届かない場所での捜索・救助をサポートするため、ソフトバンクは「ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム」の研究開発に取り組んでいます。千葉県での実証実験や北海道での消防本部との共同訓練を経て、2023年8月に行われた八丈島での遭難者救助合同訓練では、これまでより厳しい環境で、新たなチャレンジが行われました。その取り組みについて紹介します。

張 亮(ちょう・りょう))

ソフトバンク株式会社 次世代無線ネットワーク研究開発部 部長代行

張 亮(ちょう・りょう)

「ドローン無線中継システム」「遭難者捜索支援システム」の技術開発を担当。

田島 裕輔(たじま・ゆうすけ)

ソフトバンク株式会社 次世代無線ネットワーク研究開発部 課長

田島 裕輔(たじま・ゆうすけ)

「ドローン無線中継システム」「遭難者捜索支援システム」のプロジェクト企画を担当。

完全に圏外の八丈富士火口。ドローンにより臨時エリア化

伊豆諸島のひとつである八丈島。東京から飛行機を利用し、1時間ほどで行ける身近な南の島として知られており、自然の中で行えるさまざまなアクティビティを楽しむ観光客が毎年多く訪れています。島の西にそびえる八丈富士は、トレッキングスポットとして人気だそうですが、その地形の特徴から、遭難者が発生した際の救助が難航する場所でもあります。

田島 「八丈富士の山頂は、くぼんだ火口を一周するお鉢巡りができ、また、火口を下りて森の中を進むと神社や湖がある登山コースになっています。危険な場所もあり、救助要請が度々あるそうなのですが、どの通信キャリアも携帯電話がつながらないエリアでした」

  • 完全に圏外の八丈富士火口。ドローンにより臨時エリア化

八丈富士山頂から見た火口

  • 完全に圏外の八丈富士火口。ドローンにより臨時エリア化

火口内にある神社

今回の遭難者捜索合同訓練は、本来は今年の5月に実施する予定でしたが、山頂に雲がかかりやすい地域で訓練を進めることが難しく、延期を重ねようやく実現しました。

ソフトバンクはドローンのオペレーションとシステムの運用を担当し、八丈町消防本部の捜索隊はドローンのシステムを利用して遭難者の救助を行います。同じく離島の課題を抱えている大島と三宅島の消防本部も、遠隔で訓練を見守りました。

田島 「天候が変わりやすい山岳地帯での救助にはスピードが求められます。山頂付近にドローンを飛ばして遭難者の場所を特定することで、救助作業の迅速化ができるソフトバンクのシステムに関心を持っていただきました」

遭難者のスマホの位置をドローンで特定する「ドローン無線中継システム」と「遭難者捜索支援システム」

探索ドローン無線中継システム構成

「ドローン無線中継システム」は、通信機器を搭載したドローンを使って、電波を中継することで一定の範囲を臨時的にエリア化することができます。

ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム

2022年には、遭難者の位置情報に加え、捜索者の位置情報をパソコンやタブレット端末で確認しながら円滑な捜索をサポートする「遭難者捜索支援システム」を開発しました。

訓練開始。迅速にドローンを飛行させて、いち早く遭難者の発見へ

いよいよ訓練が開始しました。ワンボックスカーに積まれた機材が、今回の捜索訓練本部となる場所に到着。早速機材や基地局の設置や、電波の発射確認が進められます。

  • 訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ
  • 訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ

機材が現場に到着してから約30分、ドローンの飛行準備が完了しました。短時間で準備できることも、このシステムが捜索救助に適しているポイントです。八丈富士の中腹から山頂に向かってドローンを飛行させます。

訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ

1、2分ほどで山頂に到着し、ホバリングしているドローンから電波が発射され、火口付近に臨時エリアが作成されました。早速遭難者のスマホの位置が画面上に表示され、消防本部の捜索隊も真剣にパソコンの画面を見つめます。

  • 訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ
  • 訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ

その情報は、すでに山頂に向かって登山を開始していた捜索隊に共有されます。

訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ

捜索隊が携帯している捜索用端末を用いて、自身と遭難者の位置情報をリアルタイムに把握し、遭難者のいる場所まで短時間で迷うことなくたどり着くことができました。

訓練開始。迅速にドローンを飛行させていち早い遭難者の発見へ

過酷な環境下でも救助を可能に。訓練を重ね、実用化に向けて大きく前進

八丈町消防本部との合同訓練では、これまでの訓練環境とは違う点を生かし、システムの有効性を再確認することができました。また、これまでの訓練実績を生かした新たな試みも行われています。

厳しい環境でのドローン飛行実践、新たな中継ソリューションの提案

八丈富士での捜索救助は、これまで行ってきた実証実験の中でも一番厳しい環境だったと、張は振り返ります。

 「八丈富士は急勾配のため、ドローン操縦が難しい地形です。さらに火口の地形から、完全圏外になってしまう場所でした。さらに、離島特有の気象条件により、霧が発生して視界不良になることがありますし、山頂は常に風速15m/sほどの強風が吹き、通常のドローンでは飛行不可能です」

厳しい環境でのドローン飛行実践、新中継ソリューションの提案

そのため、耐風性能を備えたドローンを使用し、また操縦においては飛行映像やテレメトリー情報(ドローン飛行情報)をリアルタイムで取得することにより安全確保を行いながら、自律飛行と遠隔での手動操縦を切り替えつつ運用。過酷な環境下でのドローン操縦を実現しました。

また、今回の訓練時以上の厳しい気象状況が生じた場合に備え、新しい中継ソリューションの提案も行われました。アンテナの親機をふもとに、子機を山頂の火口付近に設置する方法です。

厳しい環境でのドローン飛行実践、新中継ソリューションの提案

 「ドローンに比べて柔軟性は欠けますが、子機が軽量であることを生かした提案です。これにより遭難者の位置特定ができることも確認できました。八丈富士の山頂エリアを丸ごとカバーできるので、視界不良でドローンが飛ばせない場合の活用が見込めます」

ドローン操縦の単独運用、捜索端末の位置精度向上、オフライン捜索モードの導入

遭難事故や災害はいつ発生するか分かりません。今回の訓練は、緊急の際に消防本部が自らシステムを利用することを想定したものでした。

田島 「今回の訓練では、これまでプロのパイロットが操縦を行っていた部分を含め、全てのオペレーションをソフトバンクのチームで対応しました。運用の簡略化を進め、消防本部での単独運用の実現に向け、さらなる実証を行いたいと考えています」

  • ドローン操縦の単独運用、捜索端末の位置精度向上、オフライン捜索モードの導入
  • ドローン操縦の単独運用、捜索端末の位置精度向上、オフライン捜索モードの導入

さらに、捜索用端末の位置情報取得の機能向上にも力を注ぎます。

 「山岳救助の現場は森であることも多く、木々の影響で電波が乱反射し、位置情報の精度が低下してしまいます。これを補うため、捜索用端末に超小型軽量のGPSアンテナを装着しました」

これにより、準天頂衛星システムみちびきを用いたCLAS測定に対応することが可能になり、精度が向上。木が生い茂る八丈富士の火口でも、捜索効率を上げることができました。

ドローン操縦の単独運用、捜索端末の位置精度向上、オフライン捜索モードの導入

また、捜索用端末へのオフラインモードも実装しました。遭難者の位置情報と周辺マップ情報を事前に端末内に取得することで、圏外エリアでも利用が可能です。遭難者と捜索者の距離に応じてアラームが通知される機能も追加され、ハンズフリーでの捜索もできるようになりました。

ドローン操縦の単独運用、捜索端末の位置精度向上、オフライン捜索モードの導入

「ドローン無線中継システム」と「遭難者捜索支援システム」のベースとなる技術開発が進み、本格的な実証フェーズに入っている現在。2023年2月の羊蹄山(ようていざん)ろく消防組合との合同訓練時では氷点下15℃の雪山を経験し、今回は強風と霧による視界不良と、異なる自然環境でも無事に訓練を成功させました。訓練を終え、八丈町消防本部の渡辺警防係長は、次のように振り返りました。

「ドローンを飛ばしてから要救助者(遭難者)の位置を特定するまでスピーディに進み、これまで時間をかけて上り下りしていたのと比べて非常に効率的でした。ドローンを飛ばして映像で捜索もしているのですが、視界不良や強風で思うように進められない場合もあり、この全天候型のシステムはとても有効だと感じています。
また、通常の捜索では、急斜面での滑落など、あらゆる状況を想定した重装備での登山が必要でした。事前に遭難ポイントが分かれば、その場所に適した装備を選択することができ、捜索隊の負担も軽減されるのではと思います」

八丈町消防本部からの高い評価を受け、救助現場での早い活用が望まれていると実感した張と田島は、「実際の遭難者救助の現場ではさまざまな地形や天候条件に遭遇する。今後もより柔軟な機能を追加し、全国の自治体や消防本部と会話を重ね、地域課題をクリアしていきたい」と意気込みを語りました。

ソフトバンク株式会社  次世代無線ネットワーク研究開発部のメンバー

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メンバー

羊蹄山(ようていざん)ろく消防組合との合同訓練に関する記事

(掲載日:2023年11月10日)
文:ソフトバンクニュース編集部

ソフトバンクの研究開発

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