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氷点下15℃の雪山での遭難者捜索。ドローンを活用したいち早い位置の特定で救助活動を支援

氷点下15℃の雪山での遭難者捜索。ドローンを活用したいち早い位置の特定で救助活動を支援

ソフトバンクでは、山での遭難や自然災害で土砂やがれきに埋まってしまった遭難者の位置を、「ドローン無線中継システム」を活用して特定するための技術研究を進めています。これまで、人工的に雪や土砂を積み上げた環境などでデモンストレーションを実施してきましたが、この冬初の試みとして、自然環境下における雪崩や雪山での遭難を想定した訓練が実施されました。
2月中旬の雪が降りしきる悪天候の中、北海道の羊蹄山(ようていざん)ろく消防組合と合同で行われた「ドローン無線中継システム」を活用した捜索支援のデモンストレーションについて、研究の責任者である東京工業大学 工学院 藤井 輝也教授に話を聞きました。

目次

話を聞いた人

藤井 輝也(ふじい・てるや) 特任教授

東京工業大学 工学院 藤井 輝也(ふじい・てるや) 特任教授
ソフトバンクとの共同研究講座(移動通信ネットワーク共同研究講座)として設立した東京工業大学工学院電気電子系に属する「藤井・表 研究室」の特任教授として、Beyond 5G、ドローン無線中継、三次元空間電波伝搬を主なテーマとして、無線通信に関して幅広く研究している。

雪山で遭難者発生…。ドローンを使い捜索活動を円滑に行う「遭難者捜索支援システム」

雪山で遭難者発生…。ドローンを使い捜索活動を円滑に行う「遭難者捜索支援システム」

今回は、北海道の羊蹄山ろく消防組合による雪山での遭難を想定した救助活動の訓練の一環として、ソフトバンクが研究開発を進める「ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム(以下「遭難者捜索支援システム)」を使って消防隊員の遭難者捜索活動を支援するデモンストレーションが行われました。

デモンストレーション前には、「遭難者捜索支援システム」の仕組みについて、北海道内をはじめとする各地から集まった消防組合の隊員などに、藤井教授および基盤技術研究室の張課長から説明が行われました。

「遭難者捜索支援システム」の仕組みについて説明する藤井教授

「遭難者捜索支援システム」の仕組みについて説明する藤井教授

藤井教授

「従来行ってきたデモンストレーションとの大きな違いは、消防組合の訓練に参加させてもらい、『遭難者捜索システム』を実際に活用してもらったことです。また、今までは擬似的な環境で機能の確認などを実施していましたが、リアルな自然環境下である雪山で実施したことは初めての試みです」

電波がつながらない場所で遭難してしまったら…

電波が入らない山中の遭難や雪崩、土砂災害などに巻き込まれてしまったとき、持っているスマホが遭難者の捜索に役立つそうです。スマホが圏外であっても、無線中継装置を搭載したドローンを現場付近まで飛行させ、高度100メートルの上空から電波を送信し一定の範囲を通信エリア圏内にすることで、遭難者が携帯しているスマホのGPS機能に基づき位置情報をリアルタイムに取得することができます。また、その位置情報をネットワークを介して捜索者や捜索関係者に提供することで、遭難現場に向かう捜索者の二次遭難の防止にも役立ち、捜索を円滑に行うことが期待できます。

ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム

この「遭難者捜索支援システム」は、2016年からソフトバンクと東京工業大学 工学院 藤井輝也研究室が共同で開発し、開発の進捗ごとにデモンストレーションを実施しています。

遭難者の位置を特定することで、消防隊員の捜索時間を大幅に短縮

ピンポイントで遭難者の位置を特定することで、消防隊員による捜索活動を効率化

2023年2月に北海道のニセコ連峰に位置する「イワオヌプリ」の山腹で行われた羊蹄山ろく消防組合との訓練では、スマホの通信圏外エリアで遭難した要救助者を想定して「遭難者捜索支援システム」を使用したデモンストレーションが行われました。

事前に遭難者に見立てた人形にスマホ(端末)を持たせ、圏外エリアである約100メートル四方の広大な雪山のある場所に人形を埋めるところから始まります。

スマホを携帯している遭難者に見立てた人形

スマホを携帯している遭難者に見立てた人形

まずは、遭難者端末の位置を特定するために、地上約100メートルに無線中継装置を搭載したドローンを飛行させ、通信圏外のエリアを一時的に通信エリア化します。端末を圏内にすることで通信が可能となり、携帯端末に搭載されているGPS受信機能から取得した位置情報をネットワーク上にある位置情報特定サーバに送ることで、遭難者端末の位置を特定します。

上空を飛行する無線中継装置を搭載したドローン

上空を飛行する無線中継装置を搭載したドローン

一方、消防隊員が所持する端末のGPS機能に基づく位置情報も取得し、同様に位置情報特定サーバに送られ、救助に向かう消防隊員端末(消防隊員)の位置を特定します。位置情報特定サーバでは、遭難者の位置と消防隊員の位置を統合して管理することができます。さらに、位置情報特定サーバにアクセスできる「遭難者捜索支援システム」を搭載したPCや、タブレット、携帯端末に消防隊員と遭難者の位置を地図上に同時に表示させリアルタイムで確認することができます。
この機能を搭載した端末を片手に、消防隊員は遭難者の位置として示された現場に向かいます。

システムで取得した遭難者と消防隊員の位置情報

システムで取得した遭難者と消防隊員の位置情報

現場に到着すると、画面上に表示されたおおよその位置情報に従って捜索活動を開始します。隊員たちは一列に並び、「プローブ」と呼ばれる、雪に突き刺して埋没場所を確定するための棒を使って捜索を行います。到着してからすぐに遭難者に見立てた人形を発見できました。

藤井教授

「携帯端末搭載のGPS受信機能の位置推定精度は、雪山のように上空が開けたところではおおよそ5メートル四方 (面積5×5=25平方メートル) です。『遭難者捜索支援システム』を活用すれば、遭難者端末の位置を5メートル四方内に特定することができ、5分ほどで発見ができました。今回の訓練では、100メートル四方(面積100×100=10,000平方メートル)のどこかに携帯端末を埋めたことから、捜索範囲を面積率で1/400(=25平方メートル/10,000平方メートル)に限定したことになり、捜索時間の大幅な短縮が実現できました」

ピンポイントで遭難者の位置を特定することで、消防隊員による捜索活動を効率化
ピンポイントで遭難者の位置を特定することで、消防隊員による捜索活動を効率化

雪崩での遭難のように通信圏外の場所で要救助となったとき、これまでは消防機関に携帯端末を利用して探索する概念やシステムがなく、捜索現場をプローブを使い広い範囲の端から捜索していましたが、この「ドローン無線中継システム」で遭難者の所持する携帯端末のおおよその位置を特定することができ、捜索の効率を格段にアップすることができます。

藤井教授

「今回の訓練では、ソフトバンク回線の端末から位置情報を取得する遭難者捜索システムのほかに、ソフトバンク以外の端末からでも位置情報を取得できる携帯端末のWi-Fiを使った捜索システムのデモンストレーションも行いました。Wi-Fiはカバーできるエリアが携帯に比べて狭いというデメリットはありますが、固定されているWi-Fi機器と違いドローンは現場上空を飛行しながら電波を真下に発信できるので、比較的広い範囲で端末の位置を特定することができます」

スピーカー搭載ドローンでスマホを持っていない遭難者への呼びかけ

携帯電話を所持していない遭難者の捜索として、ドローンに指向性スピーカーを搭載し遠隔で呼びかけるデモンストレーションも行われました。スマホの所持し忘れや、スマホの充電がなくなってしまった要救助者の捜索に有効な手法として開発されたスピーカー搭載のドローンは、回転翼の騒音が大きいドローンからスピーカーを地上方向に紐とウインチ(紐の巻き取り装置)を使って離すことで呼びかけ音声の明瞭度を向上させ、遭難者に声を届けやすくしています。

ドローン搭載ウインチに紐で吊るされているスピーカー

ドローン搭載ウインチに紐で吊るされているスピーカー

現場の消防隊員の声を聞き、利便性のよいシステム開発を目指す

遭難者の救出訓練で「遭難者捜索支援システム」の活用により、スムーズに遭難者の救出に成功した今回のデモンストレーション。「遭難者捜索支援システム」を使ったデモンストレーションは、雪山だけではなく、山岳地帯や、土砂やがれきなど自然災害が起きたときの捜索活動支援として数多く実施しています。研究開発を始めたきっかけや、過去の雪山でのデモンストレーションとの違い、今後の展望などについて藤井教授に話を聞きました。

「遭難者捜索支援システム」の研究開発を始めたきっかけを教えてください。

2016年に総務省の北海道総合通信局が、雪山での遭難者の救出や捜索を迅速に行うために、誰もが持っているスマホなどの端末を利用して捜索活動の支援ができないかと通信事業会社に公募したんです。それがきっかけとなり、このシステムの研究開発を始めました。

藤井教授

今までと今回行ったデモンストレーションで大きな違いはありますか。

従来開発したソフトは、遭難者の位置と同時に捜索者の位置を地図上に示すものでしたが、PCのように大きな画面で見るのと違い、現場の消防隊員が持つ端末の画面は小さく、また自分の位置が分かってもどの方向に進んでいるかが分かりにくいという声がありました。そこで今回は改良して、自分の向かっている方向を示すことで遭難者の位置へ一直線に向かうことができるようになりました。また、標高が分かる地図(国土地理院)と切り替えられる機能を追加するなど、現場の声を取り入れた機能を実装して臨みました。

消防組合の方々の反応はいかがでしたか。

すごく反応が良かったですね。皆さんから、「捜索活動が楽になった」という言葉をもらいました。今回のデモンストレーションで、実際の現場で活用できると確信しました。

ドローンを活用した遭難者の捜索をするうえで、雪山ならではの難しさはありますか。

今回初めて氷点下10〜15℃、しかもかなり吹雪いている環境下で実施したのですが、結露によって装置の1つに影響がありました。今までも擬似的な環境として、冷凍庫の中で実証実験はしていましたが、結露までは想定していなかった。実践に近い環境で試せたのはいい経験になりましたね。

氷点下15℃…! 吹雪いているときはドローンからの電波の伝達にも影響を与えるのでしょうか。

それは全く関係ありません。利用しているのは900MHz帯のいわゆるプラチナバンドと呼ばれる周波数なので、雪や雨などの影響をほぼ受けないとされています。Wi-Fiを活用した捜索支援システムも含めて、雪や雨などによる電波への影響は受けにくいので、自然災害の現場での運用に適していると思います。

現場の消防隊員の声を聞き、利便性のよいシステム開発を目指す

雪と土砂の電波の到達に違いはあるのでしょうか。

電波は水分量が少ない方が届きやすいという性質があります。今回訓練を行なったイワオヌプリの雪は、いわゆるパウダースノーで水分量が少ないため、雪下30メートルくらいの深いところまで電波が届きます。一方、土石流など水分が多く含まれる土砂は雪に比べると電波が届きにくくなってしまいます。

今回のデモンストレーションで見えた課題はありますか。

先ほどの結露の話のように、温度管理しなければいけないなど細かい課題はありますが、今回初めて厳しい自然環境の中で実施して、思っていた以上にデモンストレーションがうまくいったので本当に作って良かったなと思いました。

最後に、ドローンを活用した捜索活動の今後の展望や、期待する未来について教えてください。

スマホはほぼ全国民が携帯しており、ライフラインと認識されています。また、ほぼGPS受信機が搭載されているので、携帯エリア内であればGPS情報を送信することができます。災害時や遭難時の捜索にこれを利用しない手はないと考えます。現在のシステムは、通信事業者としてソフトバンクのスマホしか対応できませんが、1台のドローンで他の通信事業者の電波を中継できる「複数事業者対応ドローン無線中継システム」は既に開発済みです。例えば、生存時間として一般に72時間と言われている中で、各通信事業者が遭難者の救助に協力するような体制を今後構築できないか、通信事業者間の調整を期待したいです。
また、最近起こったトルコ地震など、国内外を問わずに都市型の大地震で倒壊したビルの下敷きになった遭難者や行方不明者の位置特定などに本システムは有効に活用できるのではないかと考えます。

さらに、この「遭難者捜索支援システム」はスマホなどの端末だけでなく、小型のIoTデバイスにも搭載できるので、見守り機能としての活用も期待したいです。例えば、台風による被害が多い地域の住民に、事前に小型のIoTデバイスを配布することで、平時の備えとして地域の住民を見守ることができ、災害による被害を抑えられるかもしれません。

とても勉強になりました。ありがとうございました。

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(掲載日:2023年4月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部

ソフトバンクの研究開発
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