SNSボタン
記事分割(js記載用)

平常時の人流データを防災に生かす。ビッグデータとAIを活用した実践的避難訓練

日常から取得したデータを防災に生かす。街の最適化とともに行う防災対策とは

近年、幅広い分野の課題解決にAIが導入されていますが、災害対策や防災の分野でもいち早く危険を感知したり、災害時のより安全な行動をサポートする取り組みとしてAIやデータ分析の活用が進んでいます。AIやデータを防災にどのように活用しているかご紹介します。

AIや人流データを活用し実践的な避難訓練の普及へ

ソフトバンクのグループ会社である株式会社Agoop(アグープ)では、人流データを活用したさまざまな産業や地域の課題分析や改善に取り組んでいます。防災の分野でも、将来確実に発生する大規模災害に向けて生存確率を高める災害対策DX・避難訓練DXの一環として、ビッグデータや位置情報を活用し、独自の技術で人の動きを見える化した「流動人口データ」による「避難行動分析」「異常検知AI」の実証実験を行っています。

AIや人流データを活用し実践的な避難訓練の普及へ

「避難行動分析」とは、避難者の位置情報データをリアルタイムで収集・可視化し、ハザードデータや避難所データ等と統合的に分析することで、避難状況を迅速に把握できる分析システム。「異常検知AI」は、異常を自動検知する仕組み。平常時と異常時の人流データを比較して人の滞留差分が大きいエリアを検出し、異常発生地点の候補を導出します。

従来の避難訓練は、一斉に決められた経路で避難することが求められますが、実際に災害が起こったとき、それぞれの自宅からどの経路で避難するのか、避難場所までどのぐらいの時間がかかるのか、避難場所は本当に安全なのか、など実際の災害発生時の状況と比較したデータ不足しているという課題がありました。

その課題を解決するために、Agoopでは避難における各フェーズに対して人流データと災害シミュレーションデータなどを組み合わせ必要なデータ分析を行っています。

AIや人流データを活用し実践的な避難訓練の普及へ

2022年11月に行われた北海道根室市の避難訓練の実証実験では、地震の際に来る津波の高さを18mと仮定し、参加者には自宅から指定避難場所まで移動してもらいました。その際に人々がどのような経路で移動しているか、どの場所が混雑しているのかを計測しました。

AIや人流データを活用し実践的な避難訓練の普及へ

避難訓練参加者が事前に位置情報収集機能が搭載されたスマホアプリ「アルコイン」をインストールしておくことで、避難訓練中の行動データのリアルタイム収集が可能になります。

平常時の人流データを防災に生かす

株式会社Agoop 代表取締役社長 兼 CEO 柴山和久氏に、Agoopが取り組むAIを用いた防災対策について聞きました。

柴山 和久(しばやま・かずひさ)

株式会社Agoop 代表取締役社長 兼 CEO

柴山 和久(しばやま・かずひさ)

2019年、株式会社Agoop代表取締役社長兼CEOを本務とし、ソフトバンク株式会社ビッグデータ戦略室室長を兼務。

株式会社Agoop ウェブサイト

災害のリスク軽減や防災の分野に人流データやAIを活用することは、どのようなメリットにつながるのでしょうか?

人流データを用いることで、人の動きを可視化することができ、今どこにどれだけの人がいるのかを把握することができます。災害が起きたときに、人がどう避難してるか動き方を確認できたり、電車に乗れず帰宅困難者がどのくらい出るかなど、被害状況を的確にリアルタイムで確認することができます。

通常、災害が起こった際はまず被害状況を把握するところから始まりますですが、災害時には電波がつながりにくいこともあるため、被災者とコミュニケーションを取ることは容易ではありません。その際に「避難行動分析」「異常検知AI」で取得した危険が可視化されたデータを病院や自治体に提供することで、被害状況確認の工程を経なくても、「ここにはこれくらいの人がいるから医療班をこのくらい派遣すればよい」などの的確な指示を迅速に出すことができます。

取り組む中で見えてきた課題はありますか?

北海道の根室での実証実験でも、元の避難経路を歩いていたら津波に巻き込まれてしまうことを立証するためにデータと照らし合わせ、それを元に避難経路や避難所を変えたりと危険を可視化して理解してもらうことができました。そのため、しっかりとした防災対策を講じるにはデータは必要だということが改めて分かりました。

しかし、各地方自治体で人流データを取得する仕組みの社会実装はまだまだ進んでいません。なぜなら、防災に資金を投じるには莫大(ばくだい)なコストがかかってしまうからです。いつ起きるかわからない防災に大きく予算を割くことは、自治体にとってハードルが高いのが現状です。

平常時の人流データを防災に生かす

地域の防災意識を高めるためにデータを用いた避難訓練は重要ですね。

はい。ネットで検索をすれば、住んでいる地域のハザードマップは出てくると思いますが、実際は見たことがある人が少ないのではないでしょうか。なので、避難訓練という場を活用して、住民にハザードマップやデータを見せながら危険を自分の目で確認してもらい適切に対処するよう促す必要があります。実際に災害が起きた際に経験がない人は間違った危険な場所に逃げかねないため、住民にも情報をオープンにする必要があると思います。

使う人に適切に情報が届くよう社会実装していくことが今後の課題なのですね。

そうですね。防災に対して直接投資が難しいという現状があるのであれば、他のマネタイズできる分野で人流データを活用する仕組みを提供して、そのデータをいつでも防災に転用できるようにしようと考えました。

例えば、沖縄県ではインバウンドが復活し外国人の観光客が増えたのに対して日本人の観光客が少なくなっています。今までと客層が変わった沖縄では、さらに観光産業を活性化するために道路の渋滞はどこから来ているのか、観光客はどこに流れているのか、など人の流れのデータを知りたい。

日常生活の中で、よく使う道路や人が集まりやすい場所は、災害が起きて人々が避難する際のプロセスにも共通しており、日常で使えるデータを観光・都市計画として街づくりに活用して最適化させながら、防災にも生かすことが可能なんです。この仕組みを定着させていくことができれば、社会実装の実現に近づくと考えています。

街の最適化が防災対策に。人流データとテクノロジーの連携でAI×防災の可視化へ

他にも社会的な取り組みとして、2023年3月31日に、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所と「災害に強い街づくり連携協定」を締結していましたね。締結の背景を教えてください。

Agoopは、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所(以下、日赤救護研)と人流データとAIを活用した津波避難状況のリアルタイム把握に関する実証実験を共同で実施してきましたが、さらに相互の連携を強化し、協働を推進することで災害対策および復興街づくりなどを図るために「災害に強い街づくり連携協定」を締結しました。

さかのぼること2020年7月3日、熊本県人吉市で発生した大洪水の際に人がどこに逃げてるかという情報を熊本赤十字病院から欲しいと、直接夜中に電話がかかってきて僕自ら分析をしてデータをお渡ししたことがあります。

熊本赤十字病院へ提供した避難状況の解析

熊本赤十字病院へ提供した避難状況の解析

被災当初は電波が届かず電話もつながらない状況だったので、どの避難所にどれだけの人がいるのか、どれだけの重機や資材を持っていけばよいのか、被害状況が把握できない状態でした。そこで、Agoopが保有する人流データをもとに避難所などへの人の集まり具合など避難状況を解析して提供したところ、熊本赤十字病院(熊本市東区)での災害対応の初期段階の意思決定に使用し、具体的な被災活動に活用することができました。この活動は日本において先進的な事例で、人流データを迅速に提供した活動に対して感謝状もいただきました。

2020年12月に熊本赤十字病院よりいただいた感謝状

2020年12月に熊本赤十字病院よりいただいた感謝状

今後、AIとデータを活用して取り組んで行きたい災害リスクの低減や防災の課題やソリューションの展望などを教えてください。

AIやデータと組み合わせた新たなアプローチについて検討しています。株式会社リアルグローブと協力し、人流データとドローンを連携させる試みについて協議中です。この取り組みにより、災害時に異常検知AIが検知した被災地域にドローンを送り、現地の状況を確認することで、支援物資や医療インフラの体制確立の意思決定に役立てるのではと考えています。また、避難所に直接行かずとも現地の状況を把握できるため、人員コストの削減につながります。さらには、道路が寸断された地域にも薬などの支援物資を届けることが可能です。

平常時の人流データを防災に生かす

こうした技術の連携により、AI×防災は可視化された鮮明なものになっていきます。災害の発生は避けられませんが、データがあれば適切な対応策を立てることが可能です。人流データといろいろなものを組み合わせると、交通や住宅など街の機能も最適化されていき、防災対策にもつながります。こうした方法により、異なるデータを統合し、新たな発想を生み出していくことで、「情報からイノベーション」を体現できると考えています。

Agoopの人流データなど災害DXの活動は、実は人々の生活そのものに貢献していたんですね。ありがとうございました。

(掲載日:2023年8月29日)
文:ソフトバンクニュース編集部