冬が近づき気温が低くなってくると、朝なかなか起きることができない、気分が落ち込んでやる気が出ない… ということはありませんか? そんな方はもしかすると、「冬季うつ」に陥っているかもしれません。別名「ウインターブルー」とも呼ばれる冬季うつは、一般的なうつ病とどう違うのでしょうか。この記事では、冬季うつの原因や症状のほか、冬場のメンタル不調対策として日頃から取り入れやすい運動習慣などについて、精神科医の奥田弘美さんに教えていただきました。
目次
秋から冬に表れる心と体の不調「冬季うつ」とは?
冬季うつという言葉は聞いたことがあるけれど、その実態はよく知らない… という方も多いのではないでしょうか? まずは、冬季うつの原因や症状について、奥田先生に解説していただきました。
冬季うつとはどのような不調でしょうか?
「冬季うつは、ウインターブルーとも呼ばれ、秋から冬にかけて起こる季節性うつ病の一種です。気温が低くなり始める11月頃から、やる気の低下や気分の落ち込みといった抑うつ症状が現れ、仕事や日常生活に支障をきたすほどになります。多くの場合、春の訪れとともに自然と改善していくのも特徴です」
冬季うつになる原因は何ですか?
「原因は主に2つあると考えられています。1つは幸せホルモンと言われるセロトニンの分泌量が減ること。感情をコントロールしたり、精神を安定させる働きがあるセロトニンは、日光を浴びることで分泌されます。しかし、日照時間が短くなる冬場は、セロトニンの分泌が減ってしまい抑うつ気分が起こりやすくなるのです。もう1つの原因は、日照時間の短さによって、体内時計をつかさどるメラトニン分泌の調整が崩れること。その結果、睡眠・覚醒のリズムが狂ってしまい、疲れやすさや抑うつ症状を引き起こしやすくなるのではないかとされています」
こんな症状はありませんか? 冬季うつのチェックリスト
冬季うつに陥ると、気分の落ち込みの他にもさまざまな症状があらわれます。一般的なうつ病と症状が似ていますが、大きく異なる点も。以下のチェックリストで症状に当てはまっているものがあるかチェックしてみましょう。
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該当するものが複数ある場合、その兆候の可能性が考えられます
「冬季うつも一般的なうつ病も、気力が落ちたり、倦怠(けんたい)感が続いたりといった症状があります。しかし、一般的なうつ病は、不眠状態になったり、食欲が減退したりしますが、冬季うつは理由もなく食べ過ぎてしまったり、寝ても寝ても寝足りなかったりする点が特徴です。その結果、体重も増加しやすくなります」
冬は冬季うつだけではなく、通常のうつ病ももちろん発生します。冬季うつをはじめ、冬にメンタル不調になりやすい人の特徴をまとめました。
冬季うつになりやすい人の特徴
- 気温の低い高緯度地方に住む人
冬季うつは、日照時間と関係しているため、冬の長い北国に住む人に発症率が高くなる傾向があります。 - 毎年、冬になると調子が悪くなる
冬季うつの特徴は周期性にあります。毎年冬になると気分が滅入るなどの症状があらわれ、日常生活に支障が起こりやすい方は、繰り返し起こる可能性があります。
冬季にメンタル不調になりやすい人の特徴
- 繁忙期などで、不規則な生活が続き、しっかり睡眠や栄養をとれていない
身体に疲れがたまり、睡眠や食事のリズムが乱れると、過酷な気候が続く冬には、メンタル不調に移行しやすくなります。 - 感染症にかかり体力を消耗している
インフルエンザやコロナウイルスなどの感染症にかかると、全身の体力を消耗します。治りかけのときに無理をして体に負荷をかけてしまうと、抑うつ症状が引き起こされることがあります。 - 冬がもともと苦手、寒さに弱い
寒さが苦手で冬が嫌いな人は、家にこもりがちとなり、外出の機会や人と会う機会が減るため、気分転換の機会が減ってしまい、ストレスをためこみやすくなります。
「日照時間が少ない季節は、ただでさえ人に備わる体内時計である概日リズムが狂いやすいもの。冬季うつをはじめとする冬場のメンタル不調を防ぐためにも、夜更かしは避けてください。また、アルコールを多飲すると、睡眠が浅くなり、体の疲れも抜けにくくなります。アルコールを飲むのは寝る3時間前までにして、適量を守りましょう。
冬季うつやうつ病に該当するいずれかの症状が2週間以上続いていて、仕事や日常生活に支障が生じている場合は、医療機関の受診をおススメします。ただし、これはあくまで目安です。早期発見・早期治療が大切ですので、無理はせず、つらいと感じたら早めに医師に相談してください」
リモートワークが中心の方も要注意。日光が入りやすい仕事環境を整えましょう
コロナ禍以降、働き方が変化しリモートワークが増えたという方も多いかもしれません。室内での仕事がメインの方や車通勤の方などは、その分日光を浴びる機会がグッと減ってしまいます。ただでさえ日照時間が短い冬場に日光を浴びる機会が少なくなってしまうと、冬場のメンタル不調に陥る可能性も。意識的に外に出ることはもちろん、極力日当たりの良い窓際で、カーテンを開けて日光に当たりながら仕事ができるような環境を整えましょう。
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もしかしてメンタル不調かもと思ったら、生活習慣を見直してみよう!
冬季うつやうつ病になると、仕事にも日常生活にも影響を及ぼしてしまいます。冬のメンタル不調や冬季うつを防ぐため、あるいは症状をやわらげるための改善策を、奥田さんに教えていただきました。
- 日光を積極的に浴びる
朝起きたらカーテンを開けて、外の光を取り込みましょう。メラトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれ、朝起きて太陽の光を浴びた後、14〜16時間後にセッティングされます。夜中に質のいい睡眠をとるために、朝部屋を明るくすることが大切です。また、朝だけでなく、日中も意識的に外に出て日光を浴びましょう。曇りの日のような明るさでもセロトニンは分泌されます。仕事のお昼休みに近くのスーパーに行ったり、休憩時間に外を散歩したりするのも効果的です。
- タンパク質と野菜をバランスよく摂取
動物性タンパクには疲労回復物質が含まれています。セロトニンを増やすために、トリプトファンを多く含むカツオやマグロなどの食品をとるほか、肉や卵も積極的に食べましょう。寒い時期は、植物性タンパク質の大豆製品や乳製品も多めにとることをおススメします。また、肉と野菜をとると、ビタミンやミネラルなどの吸収率がアップします。色の濃い野菜を主菜や副菜に添えて、バランスの良い食事を心がけてください。
- 湯船で体を温める
入浴によって体の深部体温を上げ、その後下がっていくときに眠気が訪れやすくなります。冷えを防ぎ、疲労を回復するためにも、シャワーではなく湯船に浸かって温まりましょう。 - 寝る前に体をほぐす
ヨガやピラティス、ストレッチなどのおだやかな体操をすると、血流が促進されます。また、筋肉を緩めることでリラックスを促す効果もあるため、寝る前に軽く行うのもおススメです。 - オン・オフを切り替える
疲れがたまると、メンタルに不調をきたしやすくなります。オフの時間はリラックスして、親しい人と団らんしたり、読みたかった本をゆっくり読んだり、リラックスできる時間を持つとよいでしょう。 - 適度な運動を心がける
体をほどよく疲れさせると、質の良い睡眠を得やすくなります。1日30分から1時間くらいを目安に、適度な運動を心がけてください。
運動習慣がメンタル不調の予防・改善に役立つ理由
冬季うつなどの冬場のメンタル不調の予防・改善方法の中でも、かなり有効とされる運動習慣。ここからは、運動習慣がもたらす健康効果や、うつ症状をやわらげる具体的な方法について掘り下げます。
適度な運動習慣が冬場のメンタル不調の予防や改善に役立つ理由を教えてください。
「運動には、ストレスを解消したり、適度な疲労感によって眠りが深くなったりするなど、うれしい効果がたくさんあります。また、日中外で運動すれば、日光も十分に浴びられますよね。リモートワークの方やデスクワークが多い方は特に、意識的に30分から1時間程度の運動習慣を持つことをおススメします」
どのくらいの頻度で運動すべきですか?
「激しい運動を週に1回するよりも、30分から1時間程度の運動を毎日する方が、体のリズムを作りやすく、健康にもいいと言われています。細切れでも構いませんので、買い物のついでに行き帰り15分ずつ、合計30分歩くなど、できる範囲から始めてみてください。
また、セロトニンを増やすには、ウォーキングやジョギング、サイクリングなど、リズミカルな有酸素運動がいいと言われています。息が弾む程度の有酸素運動をすることで、ほどよく交感神経が活性化し、オンとオフのメリハリがつきやすくなります」
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仕事が忙しく、運動習慣を持ちにくい人はどうすればいいでしょうか?
「時間の確保が難しい方は、通勤時間や昼休憩など、すきま時間を細切れに利用してみてください。お弁当を持って公園に行ったり、お昼ごはんを食べた後に社屋の周りを少し歩いたりするなど、ちょっとした工夫が運動習慣の継続につながります。日光を浴びることはできませんが、階段を3階分程度、上り下りするのもおすすすめです。できる範囲で運動を心がけると、体も神経もほどよく疲れて、夜の寝つきが良くなるはずです」
寒い季節は、どんな人も環境ストレスを受けやすく、体力を消耗したり、気分が落ち込みやすくなったりする時期です。いつも以上に睡眠時間の確保と疲労の回復を心がけることで、冬季うつなどの冬場のメンタル不調を防ぐことはもちろん、感染症にもかかりにくい体に。冬に向けて、心と体のメンテナンスを強化していきましょう!
(掲載日:2024年11月22日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
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