就職、異動、引っ越しなど、仕事やプライベートなど日々の生活の中で、「あー、ちょっと心が疲れているかも… 」と感じることはありませんか?
「やりたいことがある。もっとがんばろうと思っているのに身体が付いてこない」、そんなシーンと上手く付き合う方法について、医師にお聞きしました。
お話を聞いた人
ヘルスケアテクノロジーズ株式会社
ヘルスケアビジネス本部 ヘルスケアコンサルティング部
加藤 卓浩(かとう・たくひろ)医師
2021年より、ヘルスケアアプリ「HELPO」における健康医療相談の医学監修などを担当。実際に相談者の具体的な症状を聞き、受診の目安や診療科の案内といったアドバイスを提供。
メンタルの不調につながる原因と主な症状
日常生活や職場環境の変化で、ちょっと心が疲れているなぁ… と感じるのはストレスが原因とも言えます。ストレスの原因になる主なものをご紹介します。
ストレスを感じる環境変化やイベントの例
分類 | ライフイベント |
---|---|
プライベート | 引っ越し、親の介護、家族の病気、家族構成の変化(死去や誕生など)、子どもの受験・入学、結婚、離婚、ペットの死去 |
仕事 | 入社、異動、昇進・昇格、転職、テレワーク、長時間労働、ハラスメント、長期休暇明け |
学校 | 入学、進級、クラス替え、転校、長期休暇明け |
季節 | 季節の変わり目、低気圧、冬、雨続き |
例にあげたように、昇進や昇格、結婚、子どもの入学など、一見するとポジティブに見える変化もストレスの原因になります。変化に慣れるために何らかの緊張が生まれ、落ち着かない状態となるためと言われています。
そもそもストレスって何?
外部から何からの刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです。生活の中で起こるさまざまな出来事がストレスの原因(ストレッサー)となり、心が感じる刺激(ストレス)が引き起こされます。
主なストレッサーの分類
- 物理的ストレッサー:温度、光、音、睡眠不足など
- 化学的ストレッサー:タバコ、アルコール、食事、ほこりなど
- 生物的ストレッサー:細菌、ウイルス、花粉、カビなど
- 社会的ストレッサー:人間関係(職場や家庭)など
ストレッサーがあってもストレス症状は常に現れるとは限らず、ストレスへの耐性が高いと症状が出ない場合もあります。
「5月病」などの休暇明けに感じるメンタルの不調は、何が原因で起きるのでしょうか?
5月病は正式な病名ではありませんが、ゴールデンウィーク明け頃に現れる心身の不調な状態を示します。夏休み明け、年末年始の休暇明けなども同様に不調を感じる方が多くなる季節です。
具体的には、何となく体調が悪い、よく眠れない、食欲が無い、仕事や学校に行く気力がわかない、何をやっても楽しくない、常にイライラするなどの症状が表れます。
特に、5月は学校、職場など春からの新しい生活に慣れるために、自分では気が付かない間に、身体や心がいつも以上にがんばってしまうことがストレス症状につながると言われています。
主な5月病の原因
-
慣れ親しんだ環境との離別(精神的な距離・物理的な距離など)
引っ越し、異動、進学、就職などによって、これまで当たり前の存在になっていた周囲の人や環境と気持ちの上での距離が生まれてしまうことや、住む場所が物理的に離れてしまい、頻繁に会えなくなってしまうことにストレスを感じやすくなります。
-
期待と現実とのギャップ
環境の変化にワクワクして期待を膨らませ、新しい出会いや仕事への意気込みが強すぎると、「想像していたのと違っていた……」という状況になりがちです。なかでも、入社前に抱いていた期待と実際の職場環境のギャップは「リアリティー・ショック」と呼ばれ、多くの新入社員が感じると言われています。
-
気温や気圧の高低差
季節の変わり目のタイミングでは、気温や気圧の高低差があり、身体の調節機能「自律神経」が乱れがちになります。自律神経のバランスの乱れは身体的な症状だけでなく精神的な症状も引き起こしストレス状態につながることがあります。
自律神経とは
身体の働きを自動的に調整する神経のことで、内臓や血管などの働きを無意識に24時間自動的に制御しています。活動的な働きや緊張させる働きをする「交感神経」と、休ませる働きやリラックスさせる働きをする「副交感神経」がバランス良く機能することで、通常は、外部環境に変化があっても身体を一定の状態に保っています。
例えば、仕事や家事をするシーンでは、正確に物事を行うために緊張を感じるので交感神経が働きやすくなるなど、自律神経が機能しています。
自律神経が乱れる原因
- 仕事、学校、家庭など環境や人間関係の変化
- 季節の変わり目
- 不規則な生活
- 偏った食生活
- 更年期のよるホルモンバランスの崩れ
「考えても仕方ないことをいつまでも考えない」ことも大事
「HELPO」では、身体だけでなくメンタル面の相談にもオンラインで対応していますね。最近の相談傾向に特徴はありますか?
3月は花粉症に関する相談が非常に多く寄せられましたね。また、5月病が起こりやすい季節には、「最近、楽しいと思うようなことがない。何となく鬱(うつ)っぽい」といった症状をお話しする方が増加します。実際に「HELPO」では、他の月に比べてメンタル面の相談件数は2割弱増加した、という結果もあります。
なんだかちょっと心が疲れているかも… と感じたとき、いきなり病院に行くのはハードルが高いのですが、自分でできるケアはありますか?
自分でできるケアももちろんあります。散歩や買い物に行く、映画を見る、好きなゲームをするなど、積極的に気分転換やリラックスをすることです。もちろん、外出することそのものが億劫になっていて、出かけたらどっと疲れてしまいそうなときに、無理して出かける必要はありません。
疲れていると感じているときは、既に心が精一杯がんばってしまっている状態ですので、これ以上、がんばりすぎないようにすることや「考えても仕方ないことを、いつまでも考えない」という割り切りも大事ではないでしょうか。
医療機関やカウンセラーなどに相談する症状の見分け方はありますか?
考えても仕方ないと思うことについて考えることをやめられず、 他のことが手につかないなど生活に支障が出ている場合は専門家への相談をお勧めします。また、気分が晴れない、楽しめないなどの状態が2週間以上続いている場合も、 専門家に相談するタイミングのひとつの基準です。
オンラインの健康相談をする上でどのような点に気をつけていますか?
「気分が重たい、会社に行きたくない」などの状態を聞くだけでメンタル面に問題があると決め付けることはしないようにしています。必ず、身体的な病気の可能性が無いか状態を聞き、もし気になることがあれば、原因が身体にある可能性についてもお話します。その上でメンタル面でのケアが必要なのかを探っていきます。
治療が必要な状態も考えられる場合、「HELPO」ではどのような案内をするのでしょうか?
オンラインの健康相談では実際の治療は行いませんので、相談者の環境に合わせた対処方法をご案内しています。
例えば、相談された方が行きやすいエリアの症状に応じた診療科のリストをご案内するなどです。外部の心療内科には行きにくい… など心理的なハードルがあれば、会社員の場合は、まず産業医や産業保健師※、カウンセラーに相談するのも良い方法だと思います。
- ※
産業医:従業員の健康管理などを行う医師。常時50人以上の従業員がいる事業所に選任が義務付けられている。産業保健師:一般の企業や企業の健康保険組合に勤務している保健師。
メンタル面の不調はなかなか気軽に話ができない人が多いのも実情だと思いますが、誰かに話すだけで気持ちが軽くなることもあります。オンラインの健康相談では診断や治療を行うことはできませんが、代わりに相談者の環境に合わせた対処方法をご案内しています。医師やカウンセラーなどの専門家に相談することでメンタル面での病気だけでなく、身体的な病気の気付きにつながることもあります。
いつもと様子が違うな… と思ったら自分のなかだけに溜め込こまずに、家族や職場、専門家など、早めに相談してみましょう。
(掲載日:2022年5月26日、更新日:2023年4月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部
オンライン診療やチャット相談を受けられるヘルスケアアプリ「HELPO」
24時間365⽇いつでも健康に関する悩みをチャット形式で気軽に解決できるヘルスケアアプリ。医師や看護師、薬剤師のチームに病気や症状に関する相談ができます。チャットでの相談やオンライン診療のほか、自分の目的に合った病院の検索や市販薬の購入などもできます。