「持続可能な社会の実現」と「企業価値の向上」の両立を目指すESG(環境・社会・ガバナンス)経営の考えを重視するソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)が、3月7日にESG説明会を開催しました。長期ビジョン実現のために重要となるAI(人工知能)の研究開発や活用事例、それを推進するための人的資本戦略、環境への対応などについて説明しました。
目次
次世代社会インフラ構築。ソフトバンクのAI戦略
ESG戦略全体の説明を行った昨年から2度目の開催となる今年は、この1年で大きく進化したAIとそれに注力するソフトバンクの事業戦略やESGの観点を踏まえた取り組みについて。当日、ソフトバンク 執行役員 テクノロジーユニット統括 データ基盤戦略本部 本部長 兼 デジタル社会基盤整備室 室長である丹波廣寅が登壇しました。
2023年5月に発表した長期ビジョンとして、デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する企業を目指すことに触れると、「これはESG経営を推進するうえでも、非常に重要なもの。デジタルサービスの普及が進み、AIと共存する社会において、次世代社会インフラ基盤が必要となることは周知の事実。一方、AIの発展には膨大なデータ処理が必要であり、環境への配慮が欠かせない」としました。
AIが社会基盤になる。デジタルサービスの普及を日本全国に
ソフトバンクは、AI技術を活用したデジタルサービスの提供に取り組んでいます。特に、自動運転やドローン、デジタルアプリケーションなどを社会実装することで、都市部だけでなく地方や過疎地の利便性向上につなげていきたいと考えています。交通手段が限られた地域での移動支援や、ドローンによる医薬品配送などがその一例です。しかし、現在の日本では、データ連携基盤が十分に整備されておらず、企業間の情報共有は限定的。また、交通や物流の効率化には、気象条件や渋滞情報などを踏まえたルート最適化などの予測技術が必要で、AIを組み込んだ社会基盤が重要な役割を担うことになります。
「ソフトバンクは社会基盤の構築だけではなく、AIを使いこなし、ユーザーに最適なサービスを提供していきたい。そのために、データセンターの運用や計算基盤の整備、生成AIモデルの開発などにも取り組んでいる」と紹介しました。
AI活用に不可欠な、日本独自のデータセンターとAIモデル
AIの普及により増大する計算需要に応えるため、ソフトバンクはAI計算基盤の拡大を進めています。AIの開発・運用には大量のデータが必要となりますが、海外の計算機を使うと通信に遅延が発生したり、情報流出などセキュリティリスクにつながる可能性も。そのため、国内に計算基盤を設置し、データの安全な運用が求められています。

国産の大規模言語モデル(LLM)の開発を行っているのが、ソフトバンクの子会社であるSB Intuitions株式会社(以下「SB Intuitions」)です。同社の代表取締役社長 兼 CEOでもある丹波は、「海外のモデルを日本語に適応させることで、ある程度の処理は可能だが、日本語の深い理解や文化の反映には限界がある。一般的な知識には英語のモデルを利用し、日本固有の情報が求められる場合には日本語のモデルを活用することで、精度の高い結果を得ることができる」と開発成果について説明しました。
次世代AI技術「AIエージェント」を国内企業へ提供
現在のAIは特定の業務を理解できるものの、新しい考え方を自ら創造することはできません。
そこで登場するのが、リーズニングモデル(推論型AI)です。単なる知識を持つAIではなく、リーズニングモデルが複数のモデルを適切に活用することで、最適解を導き出せるというもの。このモデルを利用することで、チャットインターフェース※を超え、実際にタスクを実行できるようになります。例えば、チャットインターフェースで注文したい商品や種類などを尋ね、そのまま注文まで実行可能に。これが、次世代AI技術「AIエージェント」です。
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ユーザーがコンピューターとテキストメッセージ形式でやり取りできる機能
「AIエージェントを業務に適用することは、先日発表した『クリスタル・インテリジェンス』を具現化したもの。『クリスタル・インテリジェンス』の中には、さまざまな汎用(はんよう)化されたタスクが準備されており、それを適用することで、各企業のシステムを自動化していく」と説明。今後、ソフトバンクグループとOpenAIで立ち上げた合弁会社「SB OpenAI Japan」が、AIエージェントシステムを構築して、国内の企業に提供していきます。
AIガバナンスで、AIを人々の幸せのために正しく活用
AI技術を世界に展開するためには、一定のガイドラインが必要です。現在、AIガバナンスとして、国や各省庁において議論されており、総務省と経済産業省が2024年4月に発表した「AI事業者ガイドライン」や2025年2月に閣議決定された「人工知能関連技術の研究開発および活用の推進に関する法律案(AI新法)」があります。世界では、EUが先般策定したAI行動規範は非常に厳しいものとなっています。
「これらのAIガイドラインを参照し、AI倫理委員会を昨年立ち上げた。この委員会では、さまざまなガイドラインを構築し、社内でAIを適用する際にどのように扱うか、社外で活用する場合はどのように適用するかというのを、有識者を含めた議論し定めている」とガバナンスの強化についても言及しました。

社員の成長が企業の成長につながる。人的資本戦略
ソフトバンクは、社員の成長が企業の成長につながるとの考えのもと、AIを活用する環境の整備や学習機会の提供を積極的に行い、社内業務の効率化と人材育成を両輪としながら生成AIの活用を推進しています。
社内で開発したAIツールを社員に提供し、実際に活用しながら学べる仕組みを構築したり、「AIキャンパス」を立ち上げ、エンジニアや営業担当など、それぞれの職種に応じた学習プログラムを提供しています。
さらに、社員から生成AI活用アイデアを募る「生成AI活用コンテスト」をソフトバンクグループ全体で実施。これまで行われた9回のコンテストで集まったアイデアは累計約19万件となりました。また、優秀なアイデアを発案した社員は、社長の宮川が室長を務めるAIプロジェクト推進室に属し、主体となって事業化の検討に取り組んでいます。
このように生成AIの徹底的な活用と社員の能力開発をはかりながら、既存領域から生成AI事業などの新規領域へ人材をシフト。大規模言語モデル(LLM)の研究開発を行う「SB Intuitions」や企業向けに生成AIのコンサルティングを提供する「Gen-AX株式会社」など、すでに1,000名以上が既存領域から新しいフィールドで活躍しています。
研究者が研究を続けられる環境づくりがAI発展の鍵
SB Intuitionsでは、優秀なAI研究者を国内外から積極的に採用しており、すでに150名以上の規模に拡大。学会や勉強会を通じた人材獲得、遠隔地居住制度や社会人ドクター進学支援制度など、日本国内のAI研究者が継続して研究できる環境を整えています。
現在の日本の研究環境について丹波は、「企業として、研究を続けられる環境をつくることは非常に重要。企業で生かす場がなく大学での研究が続けられなかったり、将来的に企業や社会に寄与できないのであれば、現在やっている研究を止めて違う道を選ぶ人もいる。特に生成AIに関して、日本語の研究は非常に重要な一方で、現時点での発展は限定的な状況といえる。しかし現在では、AIにおいて言語研究が重要視されており、研究者をいかに継続して育てていくかが非常に重要なテーマだと感じている」としました。

AIが進化しても、環境への影響は最小限に
「社会にAIを適用し効率化を図るだけでなく、AIが進歩していく中で、環境への影響を最小化することが、今後のAI社会を強化するために重要である。さらなる電力消費量の増加をいかに抑えるか。データセンターの規模が巨大化していくことでの、環境への影響。この2つに取り組んでいる」と丹波は語ります。
また、ソフトバンクは再生可能エネルギーの活用を積極的に進め、2030年までにカーボンニュートラルの達成を目指しています。エネルギー供給や災害対策の観点からも、グリーンエネルギーを活用する「地産地消」の考え方を取り入れたデータセンターを日本全国に分散し、構築。これらのデータセンターでは、電力消費の抑制を目的とした新たなネットワークとして、2023年度には次世代通信技術「All Optical Network」へ移行しています。将来的には量子コンピュータの導入が不可欠であり、省電力AIコンピューターの開発にも取り組んでいます。
北海道・苫小牧に建設中の「Brain DataCenter」は、グリーンエネルギー100%のデータセンターです。AIの計算処理によって発生する熱を冷却するため、自然の水や空気を活用できる環境を整えています。また、環境調査や自治体・市民とのコミュニケーションを重視し、地域と共生する形でのデータセンター構築を進めています。
「AIは電力や計算機資源を大量に消費しますが、それ以上に社会の効率化や利便性向上に寄与すると考えている。ソフトバンクは、生態系・環境への影響を考慮しながら、持続可能なAI技術を構築し、次世代のデジタルサービスを提供していきたい」と述べて締めくくりました。
説明会資料
ESG説明会 プレゼンテーション資料(PDF形式:7.66MB/56ぺージ)
(掲載日:2025年3月12日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクのESGへの取り組み

「すべてのモノ、情報、心がつながる世の中を」をコンセプトに、持続可能な社会の実現に向け、ESG活動などを通じて、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいるソフトバンク。その取り組みをまとめた「サステナビリティレポート」や、ESGに関する各種データを記載した「ESGデータブック」を公開しています。