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建設現場の生産性向上策の一つに、レーザーによる3次元測量があります。これまでの地点ごと/手動による測量と比べて工数を大幅に低減できるため、建設業界の生産性を向上させる方法として期待されています。しかし一方で、専用レーザースキャナやドローンといった機器の取り扱いには専門知識や経験が必要なことや、高額な導入コストがかかってしまう(専用レーザースキャナであれば1,000万円以上も多数)ことから、導入に踏み切れる企業は限定的でした。
この状況の中で、昨今注目を集めているのがスマートフォンに搭載された「LiDAR機能」を活用した3次元測量です。国土交通省は2021年に開示した「ICT施工の普及に向けた取組」の報告の中で、生産性向上のために期待される技術として「携帯電話に搭載されているLiDAR機能を用いた測量」を取り上げ、専用レーザースキャナに比べて価格が安価であることに加えて、日常的に利用しているスマホに兼ね備えられた機能を活用するため、専門知識や経験がなくても3次元測量を実施できると説明しています。
そこで、LiDAR搭載スマホならば、測量経験のない素人でも本当に3次元測量を行うことができるのか? その精度はどの程度なのか? 実際に検証してみることにしました。
今回は国土地理院で基本測量に長年携わってきた、かなめ測量株式会社の高島氏、ドローンやモバイル端末用フォトグラメトリー(SfM)ソフトウェアを提供するPix4D社の若月氏にご協力いただき、ソフトバンク本社があるポートシティ竹芝内にて測量を実施。利便性と精度を検証しました。
今回の検証ではスマホ本体に加えて以下3点を利用します。
・ichimill
GNSSから受信する信号を利用してRTK測位を行うことで、誤差数センチメートルの高精度測位を実現するソフトバンクのサービス。座標情報の取得と3次元測量精度の向上のために利用。
・viDoc RTK rover
スマホ/タブレットに外付けで装着させるPix4D社のアンテナ一体型のRTK対応受信機。「ichimill」からのNtrip方式による補正情報を受信しRTK測位を行うことで高精度な位置を求め、LiDAR搭載スマホで取得する3次元データと紐づけるために利用。
・PIX4Dcatchアプリ(無料)
今回の検証では、LiDARとフォトグラメトリーの技術を使って3次元データを作成する。スマホで取得した情報と画像から3次元モデルを作成するために利用。
ポートシティ竹芝内 スキップテラス4階にて、測量未経験のソフトバンク社員がPix4D社の若月氏の操作説明に基づき、3次元点群データを作成します。また任意の5ヵ所の座標情報を取得し、トータルステーションで取得した座標値と比べてどのくらい差が出るかを確認します。
検証前に、スマホに3次元測量のための無料のアプリ「PIX4Dcatch」をインストールしました。これで準備は完了です。
スマホの測量では、作業にあたって遮蔽物の制約もないため、対象地の事前下見や測量計画の策定は不要。周辺の公共基準点の座標情報も必要ありません。
スマホで取得した情報と画像から3次元モデルを作成するためのアプリ「PIX4Dcatch」
次に機材の用意です。スマホに外付けで装着する「viDoc RTK rover」のアンテナ機器自体の大きさは、お弁当箱に近いサイズ。ケースをいれても総量は1.4kgと軽量で、一人で簡単に持ち運べる手軽さが印象的です。
「viDoc RTK rover」のケースからアンテナを取り出し装着。それぞれの機材の電源を入れBluetoothでペアリングした後は、アプリ「PIX4Dcatch」の設定を実施します。アプリ上での主な設定項目は「ichimill」のNtripアカウント情報、マウントポイント、Ntrip座標系の3点。
作業に要した時間は、Pix4D社 若月氏による操作説明も含めて10分未満でした。
なお「LiDAR搭載スマホ」測量の精度は、スマホに装着した「viDoc RTK rover」で行うRTKがFIXするかどうか。つまり高精度測位のための補正情報配信サービスを利用し、「viDoc RTK rover」で高精度な位置座標が得られるかによって大きく左右されると、Pix4D社 若月氏は解説します
今回利用した高精度測位サービス「ichimill」には、ハンドオーバーの有無や配信されるデータのフォーマットなどによって複数のマウントポイントがあります。
そこで今回は、日本の「QZSS」や中国の「BeiDou」など合計5種類の衛星システムを使う「RTCM32M5S」を選択しました。使える衛星の数が多いので、山間部や市街地でもRTKがFIXしやすく、高精度な位置座標が求められることが「ichimill」の特長です。
今回の計測場所は竹芝の高層ビルにかこまれた一角でしたが、無事にRTKはFIXしました。
今回の検証場所は、ポートシティ竹芝の水田付近です。任意の場所5ヵ所にポイントを設定し、以下2つの方法で座標点を取得しました。
<測量ポイント>
ポートシティ竹芝内テラス4Fに設置した検証地点:TG1~TG5
・点群測量(Point Cloud)
アプリ「PIX4Dcatch」スタートボタンを押すと自動的にシャッターを切っている状態になるので、対象物の周りを歩きながら撮影。
データを取得できる距離はおよそ5m、スマホ画面上で白いメッシュがかかって表示されるエリア。画面下部ではプレビューが表示され、自分が作業したエリアが自動的に分かる。
水田の周りをゆっくりと歩きながら撮影してまわり、約3分で点群撮影は終了。ビルの上階部分に上空がさえぎられているTG4付近では衛星からの信号を受信できず、RTKのFIXが外れてしまった。そのほかの4地点は問題なく計測が完了。
点群撮影中の「PIX4Dcatch」の画面
・単点測量(Single Point)
「viDoc RTK rover」の下部から照射されるレーザーを対象地点にあてる方法。今回は、測量用トータルステーションであらかじめ位置座標を取得したTG1~TG5の5地点で、単点測量を実施。
単点測量の様子
測量方法によってデータ処理方法は異なります。
・点群測量
3次元データ生成のため、撮影したデータを「PIX4Dcloud」にアップロードし画像処理を行う。今回は水田1周の撮影で、RGB画像・深度MAP・コンフィデンスMAPあわせて約900枚の画像データ/451MBのデータ量。
アップロード後「PIX4Dcloud」上で約2時間かけて画像が処理され、3次元点群データが生成された。なお、画像処理中は、追加操作などは一切不要。
・単点測量
取得した座標情報は、アップロードや画像処理なしにその場で確認できた。
ここまでの作業で、3次元点群データの生成、および、対象地点の座標情報を確認できました。
それでは、ここからは生成したデータを詳しく見ていきましょう。まずは3次元点群データを「PIX4Dcloud」で確認します。
今回の計測対象の水田全景の点群データ
さまざまなアングルから3次元点群データを確認できる
TG2付近の点群データ
座標値を求めたいポイントにマーカーをつけることで、座標情報も確認できる
3次元点群データは鮮明で、検証時に水田の一部にかぶせられていたブルーシートのしわまで確認できました。また、「PIX4Dcloud」上の操作で、距離や面積、体積を計算することもできました。
なお、画像処理はクラウドだけでなく、PIX4Dmapper / PIX4Dmatic というデスクトップ用処理ソフトにエクスポートすることも可能です。
それでは、今回LiDAR搭載スマホで取得した座標値と、トータルステーション測量で取得した座標値との差がどの程度あるのか確認してみます。
<検証結果>
トータルステーションで測定した座標値との差
黄色セルはトータルステーションで測定した座標との差が10mm以内。
TG4をのぞき、数mm~50mm以下の差
トータルステーションで測定した座標値とLiDAR搭載スマホで取得した座標値との差は、RTKがFIXするところ(TG4除く)では数mm~50mm以下という結果がでました。
測量未経験者によるスマホ計測でも、精度の高い位置情報が組み込まれた3次元測量ができることが確認できました。
今回の検証内容は動画でもご覧いただけます。
今回の検証で分かったことは大きく2つです。
1.測量にかかる負担を大幅に低減可能
専門知識や経験のないソフトバンク社員でも3次元測量を実現できることが確認できました。また、
・基準点の設置が不要
・1人でも作業可能
・機材の運搬負担が少ない
・事後の計算処理が不要
といった生産性向上に役立つ特長が浮き彫りになる結果となりました。
2.トータルステーションで測定した座標値との差は約50mm以内
衛星からの信号を受信できる場所という条件下では、出来形計測に使用できる精度として国交省が定めている差50mm以内(※)の測量を実現できました。
なお、この精度はLiDAR搭載スマホの単独ではなく、「ichimill」と「viDoc RTK rover」をあわせた測量での成果となりますので、LiDAR搭載スマホによる3次元測量を実施する際には、これらをセットでのご利用を強くおススメします。
(※)「出来形管理要領の第14編 土工(1,000m3未満)・床掘工・小規模土工・法面整形工編にある、第9章 モバイル端末を用いた3次元計測技術(多点計測技術)の適用の基準の精度」
ここまで「LiDAR搭載スマホ」の特長について整理してきましたが、もちろん、従来までの測量業務が全て代替できるわけではありません。
ichimillは民間等電子基準点の登録申請を順次進めている段階ではありますが、現時点では測量法に定められる「基本測量」「公共測量」「基本測量及び公共測量以外の測量」にはご利用いただけません。
また、1mm単位の精度が求められるような現場では、その精度を実現できる従来型の測量方法が優先されることは、改めて記載するまでもないことでしょう。
求められる精度や現場環境に応じて、適切な測量方法を選ぶ必要があります。
一方で、2024年の「働き方改革関連法」の建設業界適用まで、残された時間は本当にあとわずかです。この待ったなしの状況のなか、現場のどの作業にならば導入することが出来そうなのか、現場の生産性を効率化するための新しい選択肢の一つとして、まずは検討を始めてはいかがでしょうか。
LiDAR機能が搭載されたiPhone や iPad に「viDoc RTK rover」を装着することで、画像とLiDARを融合した3次元測量を実現します。
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