【DX塾:澤円】ニューノーマルを生き残る組織の7つのスタンダード

2020年7月30日掲載

緊急事態宣言下の約1ヵ月。それは日本中で最もDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速したタイミングだったのかもしれない。そして在宅勤務に従事したビジネスパーソンの中には、そこに未来の働き方、そして未来の組織のあり方を垣間見た人もいるだろう。

今回のコロナ禍をきっかけに、企業の働き方は、組織は、どのように変わっていくべきなのだろうか。

毎回異なるテーマでDXの本質に迫る、連載企画「DX塾」。第2回目は、さまざまな企業の働き方コンサルティングを手掛ける圓窓代表の澤円氏を講師に招き、ニューノーマル時代の働き方、組織について伺った。

澤 円

株式会社圓窓
代表取締役

生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。「プレゼンの神」と呼ばれ、プレゼンテーションに関して毎回高い評価を得ている。2019年10月10日より、株式会社圓窓 代表取締役就任。

目次

1時限目:ニューノーマルな働き方とは

コロナ禍は、25年ぶりのリセットボタン

澤氏:私は、コロナ禍のことを「25年ぶりのリセットボタン」と表現しています。25年前の1995年はWindows95が発売された年。いわゆるインターネット元年です。

今回のコロナ禍との共通点、それは「世界同時」であるということです。実は全世界同時に起きた大きな出来事は、インターネットの登場以来、久しくありません。コロナ禍によって世界中でロックダウンが起きた。全世界が同時に変わらなければならない状態になったという意味で、両者はとても似ています。

ただ違いは何かと言うと、インターネットの登場がポジティブな出来事であったのに対して、コロナ禍そのものは決して良いものではありません。しかし、起きていることを変えられない以上、新型コロナウイルスがこの世に存在していることを前提にリストラクチャリングしていくしかない。

この機会に、企業や組織が本気でDX(デジタルトランスフォーメーション)を志向するのであれば、「元に戻す」のではなく、「アップデートする」という考え方の人材をどれだけ増やせるかが鍵になるでしょう。

ニューノーマルな働き方は「選択できる」

澤氏:DXと言うと、「リモートワークをするためのインフラは?」「セキュリティはどうすればいい?」と、「手段」について質問をする方がとても多い。

でも、手段の話はそれほど重要ではありません。一番大切なのは、組織に所属する人たちが安心して価値創造できる環境を提供すること。いわゆる心理的安全性を担保するということですが、安心できるポイントは人によってさまざまです。

家族と一緒にいることが安心につながる人もいれば、オフィスに行って自分の席に座ることで安心する人もいる。つまりどんな働き方であっても、自分で選べることが重要です。

会社が定義したり、正解を示すのではなく、「あなたが最も安心してパフォーマンスを発揮できる環境を選んでいいよ」と言ってあげられること。それが、これからの組織のスタンダードになっていかなくてはならないと、私は思っています。

実は、今選ぶことのできる働き方の多くは、昔からあったものです。リモートワークのためのインフラもコロナ以前からあったもの。使い方によっては5年前のテクノロジーでも、今の働き方はできたはずです。

新型コロナウイルスの登場によって変わったのは、テクノロジーではなく、人々の行動様式です。ニューノーマルとは何か──。それは、既にある選択肢を、きちんと自分の頭で考えて選ぶことができる世界だと思います。

新型コロナウイルスにどう対処するか、その教科書はこの世にまだ存在していません。そんな状況では、会社単位でルールを設定するのは非効率。ましてや、日本企業は全員を平等に扱うために、最も非効率な選択をしてしまいがちです。

組織が今すべきは、素晴らしいルールを作ることではありません。自分の頭で考える自由を与えるだけでいいんです。

2時限目:ニューノーマル時代のマネジメント

「本物のマネジメント」が求められている

澤氏:ルールは必要ない。では、どのように組織をマネジメントしていくか。そこで「本物のマネジメント」ができるかが問われます。

日本ではマネージャの日本語訳を「管理職」と訳しますよね。実は私、これが気に食わない(笑)。管理というのはマネージャの仕事のごく一部です。一番簡単で、テクノロジーによって代替可能な業務です。

働きぶりや勤務態度など、曖昧な基準で、管理・評価をする。挙げ句には「俺が気に入るように働け」「俺が上司に対して良い顔できるようにしてくれ」と言い出しかねないわけです。そうすると企業は当然、内向きの体質になっていきます。

本物のマネジメントの仕事は、組織の心理的安全性を守ること。「どんどんアイデアを出せ」「失敗しても火消しはやるぞ」と部下に言ってあげられるかどうか。多くの管理職は失敗しないようにするのを第一義にしています。でもそれではイノベーションが起こるはずがないんです。

ニューノーマルの時代に企業が生き残るためには、多種多様な人材がアンテナを張って、アイデアを出し、とにかくチャレンジをして、形にしていくこと。そして、本物のマネジメントが分かっている人材がその後押しをしていかなければなりません。

「仕事をした」と見なす基準は何か?

澤氏:本物のマネジメントをするために欠かせないのが、何によって「仕事をした」と見なすかの基準です。役割として目指すべきゴールがしっかりと定義されていないから、マネージャにより曖昧な基準での管理・評価が行われることになってしまいます。

フィギュアスケートだって、主観が入ることもありますが、スピンやジャンプなどに関して明確な審査基準がありますよね。基準が定まっているから、選手は一生懸命練習するということが成り立つわけです。もし基準がなかったら、どう頑張ればいいか分からない。そうなったら審査員と仲良くなるしかありません。終電まで飲みに行って、「頑張ってます」なんて、アピールするしかないんです。

多くの日本企業にはジョブディスクリプション(職務記述書)がありません。職務内容や責任の範囲、難易度、スキルなどが書かれたジョブディスクリプションがあれば、どんな仕事をして、どんな結果を出したら評価されるかが分かります。

本来であれば入社のタイミングで、自分の能力に合ったジョブディスクリプションがあるべきです。プロ野球ならば投手として入団した選手がいきなりバッターに転向させられることはありません。しかし、日本企業の総合職採用ではそういったことが当たり前にありますよね。

経験者採用でも、語るべき経験の解像度が粗すぎるケースが見られます。「経理をやってました」と言っても、経理業務の中で、何を担い、どんな結果を出していたのかが分からない。ここでも本来語られるべきは、何によって「仕事をした」と見なしていたかの基準です。

3時限目:ニューノーマル時代の組織コミュニケーション

「報・連・相」をアップデートする

澤氏:仕事の基本と言われるものに「報・連・相」があります。私の定義では、「報告」は過去、「連絡」は現在、「相談」は未来のことです。

私がコンサルティングを担当する企業にヒアリングすると、先月で締めた売上を会議で報告しているというケースがかなりあります。過去を知るために、多くの社員が時間を費やしているわけです。

これ、BI(=Business Intelligence)ツールで経営ダッシュボードにしておけば、タイムラグもないし、婉曲して伝えられることもありません。過去の話に求められるのは不変性です。そういう意味では信頼できる数字だけで良い。言葉が入るから、隠そうとか、変えようという意志が働き、おかしくなります。過去のコミュニケーションは、BIツール、もしくはERPツールで代替することができるのです。

また、「今から行きます」「今日は休みます」といった現在のコミュニケーション「連絡」も、ITツールで十分です。チャットであれば同時性を担保して会話ができますし、チームで共有もできます。ZoomやMicrosoft Teams、FaceTime、LINEなども、現在のコミュニケーションをカバーするツールです。

では、未来はどうなのか。未来に向けたコミュニケーション、これは「相談」です。実はここにはFace to Faceを圧倒するようなツールがないんです。だから、未来の話だけでいいんです、人が集まって話し合うのは。イノベーティブなアイデアは、同じ時間、同じ空間で生まれやすい。「来年どうする?」「うちの会社今後どうする?」こういった相談は、対面で行う価値があるものです。

オフィスは未来を語る場所

澤氏:執務スペースのオフィスレイアウトは、チーム単位で島になっていることが多いですよね。そして会議をすることが一番多いのはチームでの会議です。

つまり、この島のメンバーがわざわざ会議室に行って、また戻ってくる。そしてそのために会議室のスケジュールに合わせなければならない。これは、とても非効率です。

ニューノーマルではオフィスは、未来の話をする場所。会議室だけでいいし、さらには会議室もいらなくて、オープンスペースにソファやスツールがあれば、どこでも会話できる。それで十分です。

チーム単位のオフィスレイアウトを撤廃することで、チーム間、部署間のコミュニケーションも促進されます。最も組織をだめにするのは思考の硬直化。思考が硬直すると、視野が狭くなり、視座が低くなる。

イノベーションという言葉はよく「技術革新」と訳されます。しかし、これは元同僚で株式会社クロスリバーCEOの越川慎司さんの言葉ですが、イノベーションとは「新結合」だと。ゼロからイチを生み出すようなイノベーションは簡単には起きません。世の中の多くのイノベーションは組み合わせであり、新しいつながりなんだと。

「新結合」を生み出すためには、さまざまな立場の人が各自の視点を共有しなければならないし、そこからアイデアを生み出す場が必要です。だからこそ、リアルな場所で部署やチームの壁を取り払って話し合おう。これは対面で行う価値が大いにあることです。

4時限目:ニューノーマル時代の組織のあり方

ニューノーマルな組織は「コミュニティ型」

澤氏:オフィスだけでなく、いかに「新結合」が生まれやすい環境をつくるかは、ニューノーマルな組織のあり方を考えるときのキーワードになるでしょう。

従来の縦割り構造の組織は、部署やチームをまたいだコミュニケーションをするのに、適していません。これからの組織はコミュニティ型に変わっていくべきなのだと思います。いろいろな人たちがいて、ゆるやかに、さまざまなつながりがある状態。

話を戻すと、このコミュニティの健全性を保つために、これまでお話した「選択できる働き方」「本物のマネジメント」「心理的安全性」「ジョブディスクリプション」などが必要になってくるのです。

ニューノーマルに生き残るためのキーワードは「IT」

澤氏:これからの時代、ITにアレルギーがある企業は生き残っていくことができないでしょう。日本の企業経営者にとって、ビフォアコロナのアナログな環境に戻そうという発想は捨てることは絶対条件です。

別に高額なIT投資をしなければならないというわけではありません。ある中小企業では、スケジュールを管理するために、ホワイトボードをWebカメラで撮影して、スマホからライブ映像で見られるようにしたそうです。

ビジネスチャットを利用するにはリテラシーが追いつかない。そういった企業でもこれならば対応できます。これもDXです。これだけで営業は事務所までホワイトボードを見に行く必要がなくなり、可処分時間が増えますよね。

世の中には2つ、不変のパラメーターがあります。それは距離と時間です。全世界、全人類共通で1キロは1キロだし、1分は1分のままです。ITを活用して、平等に与えられた時間をいかにして効率よく仕事に割り当て、価値を生み出すかを考えなければなりません。

そして、無駄な時間の代表格こそが移動です。今回のコロナ禍によるリモートワークで、皆さん気づいたのではないでしょうか。移動をしないことがこれほどに時間を生むということを。

どのようにDXしていけばいいか、分からない。その場合は、まず1日に無駄な時間はないか、無駄な移動はないかを考えることから、始めてみてはいかがでしょうか。

 

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