【DX塾:製造業】日本に年収1億円の「ファクトリーデザイナー」が生まれる日

2020年9月10日掲載

目次

長く日本の経済成長を支えてきた製造業。かつては世界を席巻したMade in Japanだったが、今、海外だけでなく日本の量販店でも、中国製、韓国製の商品が数多く並ぶ。

そして今、製造業においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が世界的なトレンドになっている。ものづくり大国復権のため、日本の製造業もまた生まれ変わるべき時なのかもしれない。

毎回異なるテーマでDXの本質に迫る、連載企画「DX塾」。第3回目は、スマートファクトリー事業を手掛ける株式会社FAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏を講師に招き、日本の製造業のDXについて伺った。

1時限目:日本の製造業の現在地

日本の「失われた30年」

天野氏:古くは、日本の白物家電やテレビ、自動車は海外の市場を席巻していました。「失われた30年」と言われますが、世界の企業の時価総額ランキングのTOP20のうち14社が日本企業だったのに対して、今では43位のトヨタ自動車が最高位です。上位の多くはソフトウェア企業が占めています。

既に新しい時代が来ている。にもかかわらず、一度過去に成功を経験してしまった日本の製造業は、新しいことにチャレンジすることができなくなってしまっている。DXのような新しいチャレンジに二の足を踏んでしまう。それが今の日本の製造業の課題なのではないでしょうか。

変わらない、日本のものづくりの強み

天野氏:日本の製造業が弱くなったという意見もあると思いますが、私はどちらかというとソフトウェアが強くなったり、韓国や中国など他の国の企業が強くなったり、「追いつかれた」という印象です。つまり、日本が持っていたものづくりの強みがなくなってしまったわけではないということ。

日本にはまだ世界でトップクラスのシェアを誇る産業がたくさんあります。自動車はもちろん、バイクも、コピー機や事務機器もそうです。多くの部品を組み立てるような工程、それを実現する現場力については、まだ日本に一日の長があります。

これらの日本の強みを生かしながら、ソフトウェアの世界と融合し、DXしていくことが、これからの日本の製造業の勝ち筋なのではないでしょうか。

2時限目:今、求められる製造業のDX

スマートファクトリーとは

天野氏:製造業のDXの1つの形として、スマートファクトリーがあります。スマートファクトリーを簡潔に表現するならば「自律化された工場」。

製造の現場のさまざまな設備からデータを取得し、クラウドで分析・解析をする。そしてそのデータをロボットなどの実行系の設備に戻していく。ここで鍵となるテクノロジーは、AI、IoT、5Gなどです。工場では日々さまざまなトラブルが起こりますが、これらの自律的なデータのやりとりを通じて最適な打ち手を最速で実行する。これが、スマートファクトリーの考え方の基本です。

工場では生産性を向上させるために、常に最適解を模索しています。例えば、100種類の商品を製造している工場があったとして、それぞれの納期を守りながら、最小の人員と最短の工程で製造するためにはどうすれば良いのか? これはもう人が計算できるレベルを越えています。

これまではベテランの社員が経験と勘に基づいてやっていたことですが、それをきちんと数値で出すことができる。これはスマートファクトリーのメリットの1つです。

DXでバリューチェーンが変わる

天野氏:今は製造ラインの中でのお話をしましたが、DXが広がっていくと、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンともつながっていきます。サプライチェーンとは調達、生産、納入などの「どうやって届けるか」に関わるプロセス。エンジニアリングチェーンとは、企画、設計、生産準備といった「どのように製品を作るか」に関わるプロセスです。

サプライチェーンのデータがリアルタイムでつながることで、受注してから生産するのではなく、市場でニーズが発生したときには既に生産を開始しているということが可能になるかもしれません。消費量を予測し、生産を調整することで、売れ残りがなくなるということもできるかもしれない。

また、エンジニアリングチェーンとつながることで、市場のニーズに応じて、製造の工程を柔軟に変更し、変種変量に対応することができるようになります。フォード社が第二次産業革命で始めたようなライン生産方式では、決まった製品を大量生産するには適していますが、組み立てる順番があらかじめ決まってしまいます。

しかし、市場のニーズに最適解で答えようとするならば、生産工程も、それに合わせて変えていけなければならない。ダイナミック・ケーパビリティとも言いますが、何が流行るかわからない今の時代では、多様性の最大化をしていかなければならないのです。

欧米のスマートファクトリー化

天野氏:スマートファクトリーを推進するドイツの国家プロジェクトで、インダストリー4.0と言われるものがあります。私は4、5年前にドイツへ行き、BMW、メルセデス、ボッシュ、シーメンスなど、さまざまな企業を視察しました。

彼らのアプローチの特長は徹底した規格化、統一化にあります。規格化、統一化されているために、判断に迷うことがない。いかにバリューチェーンの全体最適化を行うか、という視点についてはかなり進んでいる印象を受けました。また、アメリカも情報系、コンピューティングの分野からのアプローチは非常に優れています。

では、日本の製造業は負けているのか? 私が視察した印象では、細かい技術や現場力に関して言えば日本の方が優れています。日本はファクトリーオートメーションのフィジカルな部分のすり合わせ、組み合わせの妙にはノウハウがあります。そして、その源泉となっているのは「人」です。

欧米は上流のサイバーからのアプローチで、日本は下流の現場からのアプローチ。得意とするアプローチの違いはあれど、スマートファクトリーを推進するにおいても、どこかで現場には落とし込まなければなりません。そこでは日本の方が優位である点もあるのではないでしょうか。

3時限目:日本の製造業のDX推進の鍵

DX推進「いつから」「どれくらい」やるか

天野氏:日本の工場は、世界的に見ても20年、30年前の古い設備で稼働しているところがとても多いです。人が優秀なので、古い設備をメンテナンスしながら使っていくことができる。でも、工場のスペック以上のアウトプットを出すことは難しいわけです。どこかでスマートファクトリーに切り替えていかなければならない。

もう21世紀はデジタルテクノロジーの時代だということは、どこの企業でも当然分かっています。残すは、「いつから」「どれくらい」やるかという話だけ。そこで必要になってくるのが、投資をするだけの確からしさをきちんと示せることです。

設備への投資対効果は、半年や1年では結果が出ず、2次曲線のような成長を描くことで、将来的にプラスになるということもあります。漠然と将来のための投資と言うのではなく、そこをきちんと数値で説明できることが大切です。

デジタルツインでサイバー空間に工場を再現

天野氏:FAプロダクツは、工場の生産技術に関わるSIerと呼ばれる専門業者です。私たちがSIerとして最も大切にしているのが「全体最適思想」。もちろん、私たちは設備屋ですから、産業用ロボットの発注が来れば嬉しいのですが、一方で、そのロボットを導入することで経営指標に良い影響を与えるのかを真摯に考えたい。

そこで、私たちが今進めているのがデジタルツインによるシミュレーションです。フィジカル空間、つまり製造の現場のデータをIoTで取得し、サイバー空間に仮想工場として再現する。仮想工場でシミュレーションをすることで、未来予測をしながら、現実の工場の設備にフィードバックしていく。そうすることで、企業と投資後のイメージを共有し、また費用対効果についても検討いただくことができます。

FAプロダクツ作成の工場3Dシミュレーション動画

一度デジタルファクトリーを作ってしまえば、そこがマザー工場になります。例えば、日本から海外へ製造の拠点を移したいというときも、マザー工場をベースに、現地の人件費を加味した最適な自動化の形をシミュレーションし、それをそのまま現地で建設するということもできます。

4時限目:これからの製造業のあり方

変わるメーカの在り方とSIerの存在

天野氏:これまでお話したように日本の製造業の強みは現場のノウハウにあります。ではそのノウハウはどこにあるのか? 今、日本のメーカは生産技術に関するチームを別会社化したり、外注することが多くなり、SIer側にそのノウハウが溜まりつつあります。

これまでは「ものづくりの工程」そのものが競争領域であり、そのノウハウはメーカの中だけの門外不出されることが多かった。そして、それは今も変わりません。

一方で、メーカの在り方もどんどんと変わっているように感じます。例えば、iPhone は実際にはアメリカでApple社が製造しているわけではありません。先日iPad Pro を買いましたが、中国から直送されてくるわけです。しかし、そこに違和感を感じなくなってきているという事実があります。

「ものづくりの工程」自体がノウハウにならなくなってきている商品はたくさんあります。SIerが活躍できる領域は確実に広がっていると感じます。

製造業に年収1億円プレイヤーを

天野氏:今、中学生に将来なりたい職業を聞くと、1位がYouTuber、2位がeスポーツプレイヤー、3位がゲームクリエイターなのだそうです。

日本という国を俯瞰して見ると、工業製品を輸出して外貨を稼ぎ、食料と燃料を輸入している国です。もしも皆がYouTuberやeスポーツプレイヤーになってしまったら、誰が外貨を獲得するのでしょう?これは製造業の面白さを伝えられていない私たちの責任でもあります。

では、どうすれば製造業でわくわく、どきどきが感じられるか?デジタルテクノロジーとつながることで、それが可能になるのではないかと考えています。前述のデジタルファクトリーであれば、設備投資額が抑えられるような設計者が20年、30年勤めたら数十億も会社に利益を残すことになります。

ゲームをヒットさせるように、難しいプロジェクトの設計を成功に導く設計者。そうなれば「デジタルファクトリーデザイナー」として年収1億円プレイヤーが生まれることも決して夢ではありません。

製造業のDXが進むことで、新たなスター職業が生まれる。それによって製造業の人気がどんどんと上がっていく。そうなれば、日本はもっと面白くなるといつも思っているんです。少し、夢が過ぎましたかね(笑)。

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