GOVTECH国内事例8選【2021年最新版】

"GOVTECH国内事例10選【2021年最新版】"

(2021年3月11日 掲載)

行政サービスのDXである「GOVTECH」が注目を集めている。そんな中、紙や窓口に頼っていたアナログな行政システムを、デジタル技術を使って便利で効率的なものに進化させようというGOVTECHの流れが加速している。「世界電子政府ランキング」14位と振るわぬ結果となってしまった日本だが、行政のDXを進めるべきときが来ていると言えよう。本稿ではGOVTECHの国内事例を紹介し、日本のGOVTECHの現状を確認する。

目次

GOVTECHとは

"GOVTECHとは"

GOVTECHの定義

GOVTECH(ガブテック)とは、「Government(政府)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語であり、行政サービスの利便性や効率を向上させるためにデジタル技術を活用する取り組みのことを言う。
対面や紙などによる手続きが多かった行政サービスを、オンラインで完結できるな仕組みを導入するなどの取り組みは、GOVTECHの一部だと言える。
日本では2016年に「官民データ活用推進基本法」が成立したことから、本格的にGOVTECHがスタートしている。総務省、経済産業省が主体となり、本格的に国民・事業者の利便性向上に重点を置き、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直すという「デジタル・ガバメント計画」が進行中だ。
2021年9月にはデジタル庁が設置され、政府主導によるデジタル化およびDX推進は、今後より一層推進されていくだろう。その一環であるGOVTECHは今注目を集めている。

なぜGOVTECHが注目されるのか

GOVTECHが注目される背景として、行政サービスのデジタル化は多くの国民に幅広い利益をもたらすことが挙げられる。
2020年7月10日に国連の経済社会局が発表した「世界電子政府ランキング」では、日本は193ヵ国中14位であった。「世界電子政府ランキング」はオンラインサービス指標(OSI)、人的資本指標(HCI)、通信インフラ指標(TII)の3つの指標から算出されたもので、日本は他の先進国と比較しても遅れてはいないものの、まだまだ改善の余地があると言える結果となった。
例えば、コロナ禍で注目を集めた定額給付金は海外でも同様の施策が実施されたが、日本が給付に時間がかかったのに対して、「世界電子政府ランキング」上位の韓国では、クレジットカード会社のインフラを活用して2週間で97%の世帯へ支給が完了したという。
一歩出遅れていると言わざるを得ない行政サービスの利便性向上を目指し、今、GOVTECHが注目されているのだ。

GOVTECHのメリット

GOVTECHの主なメリットは、市民側としては手続きが簡素化されて行政サービスの質が向上されることにある。オンラインサービスを利用することで、従来のように役所で長時間待つ必要がなくなるし、24時間365日、いつでもどこでも手続きを行うことができる。
Society 5.0が目指す地域間格差への備えとしてもGOVTECHは必要だろう。
行政側にとっても紙や窓口での業務が減るため、業務の効率化や人材不足の解消、さらにはコスト削減につながる。また、デジタルを活用することで、これまでにはなかった新たなサービスが発足することも期待ができる。

GOVTECHの主な対象領域

"GOVTECHの主な対象領域"

手続きのデジタル化

紙で行っていた申請手続きなどのデジタル化は、GOVTECHの大きな領域のひとつだ。今までは行政サービスを受ける際に役所へ直接訪問することが多かったが、GOVTECHが進むことで、こうした手続きはオンラインでいつでもどこでも行うことが可能になる。
具体的な手続き例としては、転入や転出の届け出、補助金や助成金の申請、パスポートやビザの申請、特許や商標の申請、登記などのデジタル化が該当する。
市民が役所へ訪問する手間を軽減すると同時に、行政側が窓口で対応する手間も軽減ができるため、この領域のGOVTECH推進は、市民側・行政側にとって大きな影響を持つだろう。

相談や問い合わせのデジタル化

行政サービスに関する相談や問い合わせをデジタル化することも、GOVTECHの対象領域だ。オンラインで相談ができたり、窓口が閉まっている時間帯でも問い合わせできたりと、行政サービスの利便性が格段に向上する。
具体的には、民間企業では導入が進んでいるAIチャットボットを利用した問い合わせ対応などが、この領域に該当する。AIチャットボットで適切な応対が可能になれば、市民は窓口が閉まっている時間帯でも問い合わせをすることができるし、行政側は窓口対応の負担を軽減することができる。
また、こうしたデジタル技術を利用することで、問い合わせ内容をデータとして蓄積・分析して行政サービスに反映したり、AIチャットボットの性能向上に役立てたりできることも、アナログな相談対応との違いと言えるだろう。

情報発信のデジタル化

昨今、情報発信には多くのデジタルツールが利用されている。Twitter、Facebook、LINE、InstagramなどのSNSや、YouTubeなどが代表例として挙げられるだろう。こうしたツールを活用して、幅広い層の市民に情報を届けていくことも、GOVTECHの一環だ。
従来の情報発信は、地域の新聞や冊子などの紙媒体や、政府や市区町村など公的機関のWebサイトで情報を掲載するのみだったが、こうしたチャネルは能動的に情報取得しない市民にはリーチしづらい性質を持っていた。
一方、SNSやYouTubeはタイムラインに興味や関係性の深いテーマに関わる情報が流れてくるため、能動的に情報を取りにこない市民であるユーザにもリーチできる可能性がある。もちろん、市民はいつでもどこでも情報を受け取ることができるし、ハッシュタグ検索が習慣の一部になっており生の声を重視する若い世代にも情報を届けやすい。市民にとって有益な情報は拡散もされやすいだろう。

業務のデジタル化

行政側の業務のデジタル化もGOVTECHの重要な領域である。行政サービスにまつわる業務には定型業務が多く存在しており、AIやRPAなどのテクノロジーを活用することで効率化が可能だ。 先に挙げたAIチャットボットはもちろん、住民異動の申請書の処理業務や市民税の処理業務といった定型業務を、RPAで自動化することで、業務負担の軽減や効率化が期待できる。
総務省が2019年5月に発表した「地方自治体におけるAI・RPAの 実証実験・導入状況等調査」によれば、AIやRPAを業務に導入している自治体は、都道府県で36.2%、指定都市で60%、その他市区町村で4.5%とまだまだ少なく、改善の余地があると言える。

国内のGOVTECH事例 8選

"国内のGOVTECH事例8選"

会津若松デジタルトランスフォーメーションセンター(福島県会津若松市)

福島県会津若松市では2011年8月からアクセンチュア株式会社などと「スマートシティプロジェクト」に取り組んでいる。官民が一体となって、市民の生活に関わるさまざまな問題を解決しようという取り組みであり、GOVTECHの一例と言える。
キーワードは「市民ファースト」だ。スマートシティでは会津若松市民が自ら主体的にデジタルを利用することが目的だ。そのため利用するデータは、「そもそも市民のもので、行政はデータを預かっているに過ぎない」という考えにもとづき行動している。
会津若松市では現在、ヘルスケア、モビリティ、フィンテック、教育、エネルギー、観光、食・農業、ものづくり、防災の9分野でDXを進め、市民の参加率を高めている。データは全てスマートシティプラットフォームである「都市OS」に集約して、オプトイン機能を使い市民自らがサービス単位で選択する仕組みをとっている。
会津若松市の人口は12万人ほどだが、この街の課題をDXによって解決していき、今後は日本全国に横展開していく考えだ。

参考リンク:
スマートシティ国内事例10選【2020年最新版】
会津若松での9年間の活動で見えた市民によるデジタルイノベーションのカギ【第34回】

スマートシティさいたまモデル(さいたま市)

さいたま市では2015年から自治体と民間企業、大学や研究機関といった「公民+学」が連携して、「スマートシティさいたまモデル」の実現に向けて動き出した。
その中で「共通プラットフォームさいたま版」をさいたま市美園地区で限定的にスタートしている。美園地区では住民のヘルスケアデータ、購買データ、SNS情報などさまざまなデータを共通プラットフォームさいたま版に収集、収集したデータをもとに住民個人に合った地域サービスを提供することが目的だ。
重要なのはこうしたデータを有効活用して、市民にサービスをワンステップで提供することだ。そのため、市民のデータを分野に捉われず横断的に活用できる仕組みを構築している。基盤が整えば市民は自身にあったサービスを利用でき、システムを構築した民間企業は利益を得られ、行政はマネジメントの効率化を図れるという。
今後は美園地区での取り組みをモデルにさいたま市全体に実装していく考えだ。

参考リンク: さいたま市「データ利活用型『スマートシティさいたまモデル』構築事業」

神戸市

神戸市はGOVTECHの先行事例として知られている。2017年にスタートした「アーバンイノベーション神戸」では、地域課題解決のためにベンチャー企業と連携してサービスの開発に取り組んでいる。
行政窓口のRPA化や子育て支援アプリの開発を行い、デジタル化を促進。市民へのサービス向上に努めているところだ。神戸市が抱える課題を公開し、サービスを提供する意欲のあるスタートアップ企業を公募している。選定された企業は神戸市と連携し共同開発を行い、実証実験まで行う流れだ。
他方、昨今のコロナ禍において、神戸市では独自に補助金の申請を受け付けたが、実に8割以上の利用者がオンライン申請を行ったという。市民にもデジタル化が浸透してきている証拠と言えるだろう。
今後は行政のデジタル化をさらに発展させ、業務の簡素化や効率化を図っていきたいという。

参考リンク: 神戸モデルの補助金申請は「8割」がオンライン経由。デジタルアウトソーシングの活用で行政デジタル化を促進

大阪府四條畷市

大阪府の四條畷(しじょうなわて)市ではオンラインで住民票の写しを入手する行政サービスを開始している。手続きのデジタル化におけるGOVTECHと言える。
従来、住民票を入手するには自治体の窓口やコンビニ、郵送等での申請が必要だった。これらは発行可能な場所や時間帯が限られるなど申請する住民の手間となっていることに加え、コンビニ以外では担当部署でも交付に必要な書類の確認などの作業が発生し、時間と手間がかかっていた。
四條畷市では「Graffer® 電子申請」を活用することで、市民が窓口やコンビニに行く手間をなくすことに加え、24時間365日どこでも申請できる環境を整えている。利用者側はスマートフォンで必要事項を入力し、マイナンバーカードで本人確認を行い、受け取り手数料をクレジットカードで支払う仕組みだ。本人確認はマイナンバーで行うため、必要書類の準備や手書きの申請書は不要になっている。入力に面倒な手続きがないため、慣れれば1分程度で申請が完了するという。
導入後は市民からポジティブな声が多いことに加え、対応にあたっていた職員の業務負荷の軽減につながったとしている。四條畷市では今後、市民が全ての申請をオンラインでできるようにしていきたいと考えているという。

参考リンク: 全国初 大阪府四條畷市が「Graffer® 電子申請」を導入住民票の写し交付請求のオンライン受付に係る実証実験を開始

茨城県つくば市

つくば市では「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」と題して、スマートシティ実現に向けてスタートアップ企業やベンチャー企業の募集を行っている。
2020年には株式会社VOTE FORが開発した、ネット投票システムが採択され、実際に実証実験まで実施している。ネット投票にはデジタルIDアプリ「xID」を使用して個人認証を行っている。「xID」をダウンロード後、投票を行う特設ページにアクセスし、初期設定で登録したメールアドレスを入力する。入力後に確認コードが認証されれば、すぐに投票ができる仕組みだ。投票までにかかる時間は1~2分ほどで、投票会場に行かずともスマートフォンから投票が行えるので利便性は大きく向上したという。

参考リンク: つくば市でのネット投票実証に成功~デジタルIDアプリ「xID」による個人認証でスマホ投票が可能に

横浜市

横浜市では新型コロナウイルスに関する融資のWeb申請を受け付けている。手続きのデジタル化のGOVTECHがコロナ禍で成果を挙げた事例だ。
来庁者の滞在時間の削減、長時間滞在による感染リスクの軽減、スタッフの業務負担の軽減などを目的に、オンライン申請を導入した結果、窓口での受け付けのみだった頃は30~180分もあった滞在時間が、1~2分に大幅削減されたという。来庁するのは審査結果を受けた利用者のみとなったことが大きく影響しているという。
オンライン申請を行うシステムは、標準システムのカスタマイズを行うことで、導入まで2週間という短期間で実現したことに加え、利用者の使いやすさと見やすさを重視している。そのため入力項目は16項目のみと紙での申請時と比較すると2分の1以下まで項目数を削減した。
また事務方でもオンライン申請に切り替えたことで、20~60分かかっていた工数を10分にまで短縮できたという。今後はオンライン申請の範囲を拡大し、さらに効率的に手続きを行いたい考えだ。

参考リンク: 横浜市はオンライン申請にこう挑む。2ヶ月弱で中企庁との調整、システム導入、事務運用変更を実現した業務改革の詳細

広島市

広島市では、大規模災害が発生した際に被災者が支援策をWeb上で簡単に確認できる「被災者支援ナビ」を導入した。「被災者支援ナビ」では、家屋倒壊の有無やけがの有無などの簡単な質問に対して回答を選択するだけで、わずか5分ほどで最適な支援策やその手続き方法、必要書類などが案内される。
これにより、災害発生時の被災者の迅速な支援や、窓口業務の負担軽減が実現される。大規模災害の発生直後は、被災者だけでなく自治体も混乱することが多いため、市民にとっても自治体にとっても大いに役に立つシステムと言えるだろう。

参考リンク: 「被災者支援ナビ」の導入について - 広島市公式ホームページ

兵庫県加古川市

兵庫県加古川市は市公式のアプリ「かこがわアプリ」を通じて、市民に対して積極的な情報提供やサポートを行っている。避難勧告などの緊急情報の通知や、予防接種の管理など子育てに関する支援に加え、「見守りカメラ」も提供されている。
子育て世代から住みやすい街として評価を集めている加古川市は、約1,500台の防犯カメラを設置しており、このカメラを活用して子どもや高齢者を見守るサービスを提供している。「見守りカメラ」は、子どもや高齢者が持つ「見守りタグ」をアプリが検知し、位置情報や通過履歴を保護者に通知する。通学路や学校の近くなどを重点的にカバーすることで、子どもの安全を見守ることに役立てられており、多くの市民は本サービスを肯定的に捉えているという。

参考リンク: 見守りサービスについて/加古川市

まとめ

かつて「ものづくり大国」と呼ばれた日本だが、GOVTECHの領域では課題が少なくない。しかし、コロナ禍によって改めて政府や行政の担う役割や影響の大きさに国民の目が向いている今が、行政のDXを推し進める機会とも言える。
政府主導でデジタル化によるDXの動きが活発になってきている中、すでに多くの自治体がGOVTECHへの取り組みを進めており、行政手続きなどがデジタル化されるのも、さほど遠い話ではないだろう。
各自治体が国内、海外の先進事例を学び、GOVTECHを推し進めることで、私たちの生活がより豊かになっていくことを願っている。