“量産型”スマートシティで日本が埋め尽くされる、その前に

2020年3月27日掲載

  • アフターデジタルの著者、藤井保文氏にスマートシティをテーマにお話を伺った
  • 中国ではデータ活用をベースにした新しい実験都市が生まれている
  • テクノロジーのみを起点に発想されたスマートシティはコモディティ化していく
  • 街独自のコンセプトとルールにより、データとUXの良いループを生み出すく

目次

センシング技術やIoTを取り入れたスマートシティの実験都市が各地で誕生している。

ソフトバンクが2020年度内の本社移転を発表している東京・竹芝地区も、スマートシティの実験場の1つだ。最先端の画像認識を用いたセキュリティシステムや、IoTやAIによって環境データや人流データの集約・解析を行うスマートビルの導入、自動運転車やドローンなどの活用が予定されている。

テクノロジーを取り入れた次世代の都市のあるべき姿とは、どのようなものなのだろうか。そして、企業はどう対応していくべきなのか。

あらゆるオフライン行動がオンライン化し、リアルがデジタルに内包されると提唱した『アフターデジタル—オフラインのない時代に生き残る』の主著者であるビービット・藤井保文氏に、中国の事例をふまえながら、アフターデジタル時代の都市の可能性について話を伺った。

データをベースにした中国の実験都市

——藤井さんは中国に拠点を置いていますが、中国のスマートシティの事例で注目しているケースはありますか?

藤井氏 北京から少し離れた場所に、「雄安新区」というスマートシティの実験都市があります。中国でもっとも自動運転が進んでいる街で、無人コンビニまである。僕自身は行ったことはないのですが、話を聞いていると、どうやら「画像認識を都市のベースにしたらどんな街になるか」を実験している都市なのだろうと思いました。

無人コンビニの出口の顔認証システム©beBit,Inc 無人コンビニの出口の顔認証システム©beBit,Inc
無人自動車©beBit,Inc 無人自動車©beBit,Inc

一般的に都市設計というのは、道路や水道などのインフラがあって、その上に建物が建ち、経済活動が行われまれますが、「雄安新区」の場合は、おそらく逆。経済活動をはじめとするデータ流通が都市のベースにあり、その上にインフラや建物があるという考え方なのではと思います。

データをベースにして都市を構築していくと何が可能になるか。例えば、住民の購買データから嗜好を分析し、それに合わせて店舗を出店することができます。音楽好きが住んでいるということが分かれば、徒歩5分圏内に音楽好きが集まる場所ができる。データをベースにしてシムシティのように街をつくり変えるという発想です。

実際、これに近い取り組みがすでに中国で実施されています。アリババが展開する「フーマー」です。オンラインとオフラインを融合させた最先端のスーパーマーケットで、アリババグループが提唱するニューリテールの象徴的な存在です。オンラインで商品を買うと、3km圏内なら30分以内に配送してくれるサービスを実施しています。

「フーマー」のターゲットは、25〜35歳で結婚していて、多少高くても鮮度や利便性を重視したい人。アリババはオンラインとオフライン合わせて、中国内の50%を超える膨大な購買データを持っています。そのデータを分析して、ターゲット層が多く住んでいるエリアに店舗を出店しているのです。つまりオフラインを起点にオンラインデータが生まれるのではなく、オンラインデータを起点にオフラインの場が生まれているわけです。

アフターデジタル時代の街づくり

——アフターデジタルの時代、都市のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?

藤井氏 「アフターデジタル」とは、オフラインの行動が個人IDに紐付いてオンラインデータ化することで、リアルとデジタルの境目がなくなっていくことを指しています。

©beBit,Inc ©beBit,Inc

リアルとデジタルの融合と言うと怖がる人がいるのですが、「私は昔に戻るだけです」と説明するようにしています。

ひと昔前、商店街の店主は道行く人の様子を観察しながら、その人に声掛けし、欲しそうな商品を伝えることで商売をしていました。馴染み客の家族構成や好きなメニューまで把握してシーンに合わせたサービスをしていたケースもあったでしょう。

しかし、その後は大規模なチェーン店が増えたことで、お客さんと店舗との1対1の関係は薄まってしまいました。これが近年の状態です。

では、アフターデジタルの社会になるとどうなるか。お客さんの行動履歴や置かれている状況などが可視化され、その人や状況にあった情報やサービスを提供できます。かつての商店街の店主がしていたようなコミュニケーションを、より多くの人に対して、同時多発的にできるようになるわけです。

ここで重要になるのは、人と人とのつながりや温かみをデジタルを通じてどのように強めていくか、という発想。そして、その街をどうしたいのかというコンセプトを示すということです。

——都市のデジタル化を推進するにあたっては、コンセプトの設計が重要ということですか?

藤井氏 中国のスマートシティは、交通、医療、購買データの可視化など、既にテンプレ化されています。テクノロジーでできることはAI、ブロックチェーン、ビッグデータ活用など、だいたい決まっていて、そこまでパターンはありません。すべての街がテクノロジーを起点にスマートシティ化していくと、徐々にコモディティ化してしまうのです。

そこで、求められているのが「テクノロジーによってユーザにどんな体験をしてもらうのか」というコンセプトです。

実は中国はコンセプトづくりが苦手と言われていて、コンセプトの部分は他国のクリエイターに外注しているケースがあります。実際、くまもんの事例を見ていくつかの中国のスマートシティが小山薫堂さんに相談されたと伺っています。

日本におけるスマートシティのあり方

——中国の事例を踏まえて、日本ではどのようにスマートシティを展開していけばよいでしょうか?

藤井氏 中国では決済プラットフォーマーであるアリババとテンセントの二大経済圏が広がっています。そのため、その下層に位置するサービサー、メーカのデータも2社に集約されるため、データの共有のハードルは高くありません。行動データをどのようにマネタイズするかも含めてあらかじめ全体を設計することができます。

いくつものサービスが競い合う日本では同様にはならないでしょう。日本のビジネス構造は中国のように強いヒエラルキーの階層になっていないため、データの共有は難しくなります。データの形式も違えば、どこか1社の企業がイニシアチブを取ってデータをまとめあげることもできない。

しかし、中国のスマートシティはあくまで1つの例。「同じように発展すべきである」なんてことはまったくありません。企業ごと、サービスごとという単位でも、集めたデータで素晴らしいUXを提供するプレイヤーがいくつも共存している街、というのも日本的かもしれません。

データを素晴らしいUXに還元していくことでユーザに信任され、よりサービスを使ってもらうことでさらにデータが集まってくる。このサイクルを正しく回していくことが、スマートシティを構成する企業に求められていくと思います。

データとUXのループが回り、良い意味でサービスが乱立するためには、都市の設計が重要です。都市として最低限の土台を提供し、各社がサービス競争できる環境を用意する。その上で、データをユーザメリットにつなげるための一定のガイドラインを設ける。そうして都市の共創が進んでいけば、おもしろいスマートシティができるのではと思います。

昨今、City as a Serviceという言葉が用いられることがありますが、街のコンセプトに基づいて、データをどこまで共有し、逆にどこまでは自由に市場に任せるかなど、事前にルールを決めておくことが必要なのではないでしょうか。

後記

今、日本の各都市には同じチェーン店が並び、そこで得られる体験も標準化されている。もしスマートシティプロジェクトがテクノロジーのみを起点に推し進められれば、今よりも便利なスマートシティのテンプレートが同じく日本の各都市で見られるようになるだろう。日本でスマートシティを推進するにあたり、藤井氏が話したコンセプトの重要性をもう一度見直してみるべきなのかもしれない。

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