「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトを掲げ、SDGsの実現に向けて取り組んでいるソフトバンク。「SoftBank SDGs Actions」では、いま実際に行われている取り組みを、当事者自らの言葉で紹介します。29回目は、グループ会社の株式会社Agoop(以下「Agoop」)が提供する、「歩く」きっかけを作り、健康増進や環境、防災にも役立つスマホアプリ「アルコイン」です。
目次
株式会社Agoop 代表取締役社長 兼 CEO
加藤 有祐(かとう・ゆうすけ)さん
位置情報を活用したビッグデータ事業を手がけるAgoopに創業時から参加し、技術開発の中心を担う。歩くだけでコインが貯まるアプリ「アルコイン」や人流マーケティングツール「マチレポ」などのサービス開発・事業をけん引。2024年7月から現職。
行動を変える鍵は「価値」。“歩く” を楽しみにするアプリ
私たちAgoopは、スマホの位置情報を利用した流動人口データを解析し、その情報の活用方法を集客や顧客分析、広告の効果測定、新規出店の候補地選定、都市交通の最適化など、さまざまな形で提案する事業を行っています※。コロナ禍では、全国の主要な駅や観光地などでの人の流れを解析した人流変化解析レポートを公開したことにより、日々のニュースで流動人口数が報道され、国民の当事者意識が高まり感染拡大抑止に効果を発揮しました。これは、ビッグデータ分析が私たちの生活に身近な存在となった事例の一つと言えるのではないでしょうか。
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Agoopで扱うデータは、氏名や住所といった個人情報は収集せず、プライバシー保護として位置情報から個人が特定できないように秘匿化処理をしています。位置情報の取得には必ずユーザーごとに同意を得ています。
さらに、スマホの位置情報データを活用して人々の行動に新しい価値を提供する取り組みも進めています。ユーザーが歩くだけでコインが貯まり、貯まったコインを電子ギフト券やポイントなどと交換できる「アルコイン」という仕組みです。ポイ活アプリと言われるサービスが増え始めるより前の2018年、新入社員によるアイデア企画大会で提案されたのが開発のきっかけです。流動人口データをもとにしたビッグデータ分析をベースに、「歩く」ことを価値に変えて行動を促すという発想に共感し、すぐにサービス化に向けて着手しました。少人数の企業ならではの柔軟性と機動力を駆使し、翌年にはアプリを提供することができました。
「もう少し歩こう」を後押しする仕掛けづくり
私たちはこのアプリを通して人の行動変化を後押しし、社会課題の解決に貢献したいと考えています。例えば、今の日本では日常的な「歩数」が年々減少しており、厚生労働省などの調査によると、この10年間で減少傾向にあり、特に在宅勤務を週5日以上行う人では、1日の歩数が約4,000歩も減ったとの調査結果もあります※。
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歩数や活動量の減少は、肥満や生活習慣病、認知症といった健康リスクを高める要因とされ、実際に、12,000歩までであれば、活動量(歩数・中強度活動)が多い人ほど病気や寝たきりになるリスクが低く、死亡率も低いことが研究結果で示されています。
出典:地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
運動科学研究室長 青栁幸利
協力:株式会社健康長寿研究所
Agoopのビジョンは「社会や人々を幸せにする『仕掛け』をつくる。」です。データ解析のプロとして、人流データの収集・分析を通じて、社会課題解決に向けた行動変容を促すアプローチをしています。アルコインはその「仕掛け」の一つです。
ただ、行動変容はとても難しいもので、例えば普段、車で移動している人に電車を使ってもらったり、「健康のためにもっと歩きましょう」と呼びかけても、なかなか人の行動は変わりません。慣れ親しんだ生活習慣を「いかに抵抗なく変えるか」という点を意識して、歩くためのモチベーション作りとして「歩く」を「ポイント=価値」に変換する仕組みを取り入れてアプリを作りました。

開発当初からユーザーからの声を生かし、「アプリを毎日起動しなくてもコインが貯まる」「アプリを開いたら一目で歩数が確認でき、余計な情報や機能がない」など、ユーザーに本当に喜ばれる機能に絞り込みをしてきました。2024年5月の平均歩数は、2021年5月に比べると各世代で1,000〜2,000歩程度増加しています。積み重ねてきたアップデートが「もう少し歩いてみよう」というモチベーションにつながったのではないでしょうか。
アルコインで集まったデータは防災やCO2削減に
歩数の低下という健康問題へのアプローチから始まったアルコイン。アプリを通じて集まったデータは、人流データとして防災や気候変動などの環境問題といった分野の課題解決にも活用されています。
人流データは、防災や災害支援の分野でも重要な役割を果たしています。2024年の能登半島地震では、被災状況の把握や支援部隊のルート選定にアルコインで集まった人流データが活用されました。通行不能な道路や避難所の位置、人が集中しているエリアを特定するほか、避難所に指定されていない場所に避難した人が大勢いることを特定し、孤立状態の早期発見にも人流データが役立つことが証明されました。
ユーザーは自分の位置情報を通じて、間接的に防災データに貢献でき、緊急時には、このデータが救援活動の迅速化に役立ち、見えない形で命を守るシステムとして機能します。
人流データを活用し、指定外避難エリアを検知・可視化(人流可視化分析ツール:Kompreno)
自治体と共同で実施する避難訓練では訓練時の位置データを分析し、避難経路の安全性を確認できるほか、津波浸水域を考慮した避難シミュレーションなどができ、防災教育に役立てられています。小中学校での防災教育や訓練の精度が向上し、防災意識が高まる効果が期待できます。
また、現代社会には取り組むべき多くの課題がありますが、その中でも気候変動問題は深刻かつ早急に解決すべき課題です。CO2などの温室効果ガスを減らすためには、一人一人が意識して行動を変えることが重要になってきます。
身近な存在でCO2の排出量が多いものが乗用車。近所まで行くのにも車を使う人に、いかにして歩いてもらうか。一人一人が協力する仕掛けとして、アルコインの全ユーザーの総歩数と、1日分の脱炭素量※を集計し、毎日ウェブサイトに公開、アプリ内ではユーザーごとの脱炭素量も見える仕組みになっています。自分が歩くことでどれだけ環境問題の解決に貢献しているのかを知るきっかけにしてもらえれば、と思っています。
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アルコイン全ユーザーが歩いた距離をもとに、ガソリン車と比較した場合のCO2の削減量を算出。
全ユーザーの総歩数と、総歩数から計算した1日分の脱炭素量を日次で更新。アプリのマイページでもユーザー別の脱炭素量を確認できる
未来のための責任。データの力で社会課題の解決へ
私たちはビッグデータを解析するだけでなく「このデータを活用するとこんな効果もありますよ」ということを示して、企業や個人が次の一歩を踏み出せるようになるための「仕掛け」をつくることをすべきだと考えています。
特に、環境問題への対応は私たちの未来において最も重要な課題の一つであり、私個人としても注力したいと考えているテーマです。現実を無視して短期的な経済活動だけを優先してしまうと、次世代に対して大きな負の遺産を背負わせることになってしまうんです。「未来の子どもたちに負債を残してはいけない」という思いを原動力に、自社の経営にも向き合っています。
社会課題に向き合い、位置情報ビッグデータの可能性を最大限に生かし、アルコインをはじめとした自社のサービスを通じてアクションを起こしていきたいと思っています。
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した内容は、「人・情報をつなぎ新しい感動を創出」することで、SDGsの目標「1、3、4、8、9、10、11」の達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。
(掲載日:2025年1月14日)
文:ソフトバンクニュース編集部