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ロボット、自動運転…、フィジカルAI時代を支える頭脳「AI半導体」の基礎知識

ロボット、自動運転…、フィジカルAI時代を支える頭脳「AI半導体」の基礎知識

AIがここまで急速に発展した背景には、“半導体”の進化があります。ChatGPTやGeminiなどのAIサービスの裏側では、膨大なデータ処理を支える半導体技術が日々進化し続けています。

中でもAIの計算に特化した「AI半導体チップ」は、技術と市場の両面で大きな注目を集めています。一方で、AIは日常的に使っていても「そもそも半導体とは何なのか説明できない」「AI半導体チップがどんなものか分かっていない」という人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター 教授/Tokyo Artisan Intelligence 株式会社 代表取締役CEO・CTOの中原啓貴さんに、半導体の基礎からAI半導体チップの特徴、そしてその進化がもたらす未来までを伺いました。

教えてくれた人

東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター 教授/Tokyo Artisan Intelligence 株式会社 代表取締役CEO・CTO

中原 啓貴(なかはら・ひろき)さん

1980年生まれ。福岡県出身。専門は半導体設計技術、AIなど。学生時代に半導体デジタル設計とコンピューター・アーキテクチャを学び鹿児島大学、愛媛大学、東京工業大学などで半導体チップを研究・開発。2009年よりAI半導体チップ研究に先駆的に取り組む。2019年、英国インペリアル・カレッジ・ロンドン校にて客員研究員として滞在。帰国後、Tokyo Artisan Intelligenceを創業し、AIと半導体チップの研究開発、社会実装に取り組む。

そもそも「半導体」とは?

ニュースやAIの話題でよく耳にする「半導体」。けれど、その正体を説明するのは意外と難しいものです。まずは基本に立ち帰り、そもそも「半導体」とは何かから説明していきます。

ホワイトボードに書きながら、解説してくださいました

そもそも半導体とは何でしょうか? 基礎から教えてください。

中原 「半導体というのは『材料』なんです。ビルや橋がコンクリートからできているように、多くの電子部品が半導体からつくられています。半導体の代表的な原料はシリコンで、もとは地球上のあちこちにある、ただの石ころです。この石を加工した半導体をもとに、スマートフォンや家電を動かす電子部品がつくられています。そのうちのひとつが『半導体チップ』です。半導体チップによって計算処理は成り立っており、その性能がデータ処理のスピードを左右し、実現できることの範囲を広げています」

半導体は、どんな性質を持つ材料なのでしょうか?

中原 「世の中には、電気を通すものと通さないものがあります。金属のように電気を通すものを『導体』、ゴムやプラスチックのように通さないものを『絶縁体』といい、その中間にあるのが半導体です。導体と絶縁体のあいだの性質を持つから『半』導体というんですね。半導体の性質を利用すると、電気を流したり止めたりするスイッチをつくることができ、これをトランジスタと呼びます」

そのスイッチ(トランジスタ)は、どのように「半導体チップ」に組み込まれていますか?

中原 「円盤状の基板の上に、スイッチや配線を組み合わせた回路をびっしり並べ、その基板を小さく切り分けます。そうしてできるのが、『半導体チップ』です。大きさは数ミリから1センチほど。回路の設計によって、用途の異なるチップになります」

では半導体チップはどんなところで、どのように使われているのでしょうか?

中原 「私たちの身の回りのほとんどすべての電子機器に使われていますよ。スマートフォンやパソコン、家電製品、自動車はもちろん、最近ではAIサービスにも欠かせない存在です。

例えばスマホには、計算するチップ、通信を行うチップ、電源を管理するチップなど、役割の異なる複数の半導体チップが組み込まれています。これらが連携し、私たちは動画を見たりメッセージを送ったりできるのです」

AI半導体チップは、速さと省エネを実現するもの

AI半導体チップは、従来の半導体チップと何が違うのでしょうか?

中原 「半導体チップのうち、AIを動かすための計算処理に特化してつくられたものが、AI半導体チップと呼ばれるものです。

従来の半導体チップは、あらゆる計算を幅広くこなせる汎用型です。パソコンやスマートフォンで文書作成や動画再生、ゲームもできるのは、この『何でもできる』仕組みのおかげです。その仕組みを支えているのが回路上で行われる計算、例えば、足し算・掛け算・引き算・割り算です。

一方、AI半導体チップは、AI処理でよく使われている足し算と掛け算を超高速で処理できるよう設計されています。あまり使わない引き算・割り算を削ぎ落とし、AI処理に特化しているのです。それにより、処理スピードが数倍から10倍近く向上。AIがリアルタイムで動き、即時の応答が可能になりました。また、無駄な回路を動かさないから電力消費や発熱も抑えられ、長時間の動作が可能になるとともに小型化が進み、活躍の場も広がっているんです」

AI半導体チップには、例えばどんなものがあるのでしょうか?

中原 「さまざまな種類がありますが、代表的なものはGPUとASICです。GPUはもともと、ゲームなどの映像をリアルタイムに描画するために開発された半導体チップです。ゲームの映像処理も大量の足し算と掛け算を行うため、AI処理とも相性が良く、AIの学習や推論にも使われています。

ASICは用途に合わせて設計される専用の半導体チップです。テレビや自動車、家電など、使われる機器に応じて回路が最適化されています。AIの計算に特化したASICもあり、専用設計ゆえに、特定用途では他のAI半導体チップよりも高い性能と電力効率を発揮します」

中原 「こうしたAI半導体チップは、すでに身近な製品で使われています。スマートフォンでは音声アシスタントや写真の自動補正、顔認証などに活用され、自動車では自動運転や運転支援の場面で、カメラや各種センサー情報をもとに周囲の状況を判断しています。産業ロボットでも画像認識や状況判断に活用されています」

AI半導体チップが必要になったのはなぜでしょうか?

中原 「背景にあるのは、生成AIの登場と急速な拡大です。ChatGPTのような生成AIは、従来とは比べものにならないほど膨大な計算を要します。こうした処理が世界中で行われるようになり、従来の汎用チップでは処理スピードが追いつかなくなりました。計算量が増えれば電力消費も増え、発熱も大きくなります。『もっと速く』『発熱や電力消費を抑えたい』という強いニーズが生まれ、AI半導体チップの開発が加速したのです」

そんなAI半導体チップにも課題はありますか?

中原 「電力消費と発熱は、引き続き大きな課題です。AI半導体チップは省電力化が進んでいるとはいえ、AIに求められる計算量そのものが桁違いに増えているため、結果として大量の電力を消費してしまうんです。AIの性能が高まるほど『次はこんなことも』と求められる機能は増え、計算量も増え続けます。

電力を多く使えば熱も発生し、冷却のためのエネルギーも必要になります。電力需要の伸びは、放っておくと電気料金の上昇や環境負荷の増大にもつながります。こうした課題が、AI半導体チップのさらなる普及のハードルになっていますね。

さらなる省エネを実現するには、AI半導体チップだけでなく、実はメモリの性能も重要です。コンピューターはメモリからデータを読み出して計算し、その結果を書き戻す処理を超高速で繰り返しています。計算が増えればメモリとのデータのやり取りも増え、この処理にも電力が使われ、発熱も生じます。いくらAI半導体チップの性能を上げても、メモリが追いつかなければ頭打ちになってしまいます。チップとメモリの両方を進化させるため、いま世界中で研究開発が進められています」

フィジカルAIが搭載されたロボットが身近に。AI半導体チップの進化で変わる社会

AI半導体は今後、社会でどのように活用されていくのでしょうか?

中原 「人口減少に伴う労働力不足への対応策として、人の手が回らなくなってきているところをAIが補う需要が高まっていますよね。特に注目されているのが、AIをロボットや自動車などの “モノ” に組み込む動きです。いわゆるフィジカルAIで、配膳ロボットや自動運転技術、工場で作業を行う機械などですね。人手不足が深刻化する中、こうした技術はますます求められていくでしょう。

これまでAIの処理は、インターネットの先にある大規模なコンピューターで行われるのが一般的でした。それが半導体チップの進化によって、機械や手元のデバイスにAIを組み込めるようになります。AIがその場で判断や処理ができるようになれば、医療や鉄道などの社会インフラ、工場や街中で働くロボットなど、さまざまな分野で活用が広がると予測しています」

中原 「もっとも、現場や手元でAI処理ができるようになっても、通信が不要になるわけではありません。AIを進化させ続けるには大量のデータをやり取りする必要があり、高速・大容量で安定したネットワークの重要性は今後さらに高まります。遅延がなくなれば、無理に端末でAIを動かさなくてもいいかもしれません。通信技術の高度化とAI半導体チップの進化は、いわば両輪の関係にあります」

私たちの日常はどう変化しますか?

中原 「例えば、こんな毎日です。スマホが今よりもっと賢くなり、いちいちアプリを操作しなくても、一言つぶやくだけで1日がスムーズに進みます。

朝『おはよう』と声をかければ予定に合わせて出発時間を知らせてくれ、会議では自動で録音が始まり、終わる頃には要点がまとめられている。『おなかがすいたな』とつぶやけば、食事の履歴や体調も踏まえて『こんなランチはいかが?』と提案してくれる。そんな毎日が当たり前になる日も、そう遠くないと思いますよ。

私が子どもの頃にはスマートフォンはありませんでしたが、今ではなくてはならない存在です。同じように、AIロボットやフィジカルAIもごく身近な存在になっていくでしょう。子どもの頃にアニメや漫画で見た世界が、あと数年で現実になると見ています。AIが当たり前になった社会で、どんな価値を生み出せるのか。それを思い描ける人こそが、次の時代をつくっていくのでしょう」

いまや社会のあらゆる場所に組み込まれているAI半導体チップ。手のひらに収まるほど小さなチップが、私たちの暮らしを支える時代が近づいています。その進化がどんな未来をひらいていくのか。引き続き注目したいですね。

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(掲載日:2026年3月30日)
文:勝部美和子
編集:エクスライト

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