
ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、HAPSや静止衛星、低軌道衛星などの非地上系ネットワークを組み合わせることで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指し、災害時の分断や通信網の整備格差といった現在の通信インフラの壁を越えて、世界中の人やビジネスにイノベーションを起こす「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」(以下、UTX)を推進しています。
UTXについて4回シリーズでお伝えしていきます。第1回はUTX実現に向けたソリューションの全体像について、ソフトバンクでUTXの推進を担当するキーパーソンに話を聞きました。

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長
上村 征幸(かみむら・まさゆき)
「通信が切れない世界をつくる挑戦」
ソフトバンクは、地上と上空をシームレスにつないで、いつでもどこでもつながり続けるユビキタスネットワークの実現に取り組んでいます。今は地上を前提とした2次元の通信ネットワークですが、今後はドローンや空飛ぶクルマにも対応できる、上空を含めた3次元の通信ネットワークの構築を目指しています。構想段階を経て、いよいよ社会実装を見据えたフェーズへと移行しつつあります。
まず、「UTX(ユビキタストランスフォーメーション)」とは何か教えてください
上村 「UTXは、地上のモバイルネットワーク(TN:Terrestrial Network)と、成層圏通信プラットフォーム『HAPS』や宇宙空間のGEO(静止衛星)・LEO(低軌道衛星)などによる非地上系ネットワーク(NTN:Non-terrestrial Network)を融合させ、通信が切れない世界をつくるというソフトバンクの挑戦です。すなわち、ユビキタスネットワークによって “誰でも・いつでも・どこでも” つながり続ける世界を実現し、人々やビジネスにイノベーションを起こすことを指しています」


UTXはユビキタスネットワークの実現によってもたらされる世界、新しい通信のかたちということですが、どのようなネットワークを構築しようとしているのでしょうか?
上村 「目指しているのは3次元通信ネットワークです。従来の地上だけで構成された2次元ネットワークに対して、地上・成層圏・宇宙という『高さ』を含めたネットワーク構成を3次元通信ネットワークと呼んでいます。つまり、成層圏(HAPS)、宇宙(衛星)といった垂直方向の広がり=『高さ』を含む、通信インフラの拡張を表す言葉です。
LTEや5G、将来的には6Gの地上ネットワークと、HAPSやGEO、LEOによる非地上系ネットワークをオーケストレーター(統合制御機能)が自動で切り替え、快適で安定した通信サービスを提供する仕組みをつくることを目指しています。言い換えれば、NTNをいかにソフトバンクの地上ネットワークに組み込んでいくのかということです。
日本の地上ネットワークは、人口カバー率でいうとほぼ100%なのですが、国土面積のカバー率は60%にすぎません。残りの40%の国土や海上を含めて、多階層構成によって『高さ』も『面』もカバーするネットワークを実現しようとしています」

UTXを構成するソリューションと進捗(しんちょく)状況は?
上村 「HAPSは、2026年に日本国内でプレ商用サービスを開始する予定です。これまで開発を進めてきた、航空機型のHAPSである『Sunglider』に加えて、先日新たに米国Sceye(スカイ)への出資と同社の『LTA型HAPS』※1というヘリウムを浮力とする機体の導入を発表しました。2026年のプレ商用サービスでは災害時を想定してエリアやユーザーを限定した通信サービスを提供し、2027年以降は、災害時の迅速な通信復旧や山間部・離島などの既存のモバイルネットワークが届きにくい地域でのサービス提供を予定しています。HAPSから直接スマホへ提供する通信サービスは、サテライトモード非搭載のスマホでも接続できる想定です。
衛星通信サービスは『Eutelsat OneWeb』と 『Starlink Business』。『Eutelsat OneWeb』は高速大容量でセキュアかつ高品質な衛星通信サービスを、『Starlink Business』は高速・低遅延なデータ通信を提供します。2026年には、衛星から直接スマホへ接続するサービスの提供も予定しています。
それから、SDV(Software Defined Vehicle)※2向けのソリューションを展開するCubic³(旧社名:Cubic Telecom)のグローバルIoTプラットフォームの活用も予定しています。Cubic³は今年、地上のセルラーネットワークとNTNを融合する世界初の自動車向けのSIMを発表しました。Cubic³はソフトバンクのグループ会社で、ソフトバンクとCubic³は、SDV向けのユビキタスネットワークの実現に向けた戦略的パートナーシップを締結しており、衛星通信事業者と連携して数年以内にコネクテッドカー向けソリューションの商用化を目指しています」
- ※ 1
空気より軽く、浮力を利用して飛行を維持するHAPSのこと。
- ※ 2
主にインターネットに接続されたソフトウエアを通して機能を更新することができる車両のこと。

UTXを実現するソリューションは、実用化のフェーズに入りつつあるのですね。利用イメージはどうなりますか?
上村 「災害時を例にお話しすると、災害が起きて基地局が倒壊し通信ができなくなったとします。この初動では衛星通信が使えますが、キャパシティーの問題で現状はテキスト中心で、音声には対応できません。地上の基地局が復旧するまでには時間がかかることも多く、安全確認や交通遮断の影響もあります。 そこで登場するのがHAPSです。平時は成層圏に待機し、災害発生後、数時間以内に被災地の上空に移動して、音声通話やデータ通信を提供する “空飛ぶ基地局” の役割を担います。衛星→HAPS→地上基地局のように、柔軟にソリューションを切り替えられるのがUTXの強みです。
また、自動運転やドローンなど、遠隔操縦が必要な場面では、映像をリアルタイムで送るために上り通信の速度が非常に重要になります。衛星では通信距離が長く、どうしても遅延が生じますが、成層圏に滞空するHAPSなら地上と同等の速度・遅延で通信が可能です。
このように、用途に応じて衛星とHAPSを適切に使い分けることで、UTXは切れ目のない通信インフラを実現します」
成層圏からの通信と宇宙からの通信では用途が異なるということですね。
上村 「衛星は広い範囲を一度にカバーできるため『面』をつくる用途に適しています。一方、HAPSは『キャパシティー』ですね。また、災害時にサテライトモードに対応していないスマホやガラケーをご利用のお客さまに通信を提供するには、HAPSが有効な手段になります。
私たちは、こうした技術的な特性や制限を理解した上で、UTXソリューションを提供し、お客さまの課題解決に取り組んでいきます。災害時はもちろん、日常におけるデジタルディバイドの解消にも、UTXは貢献できると考えています」
UTXはユニークな新しい通信の形
UTX実現によって社会や暮らしはどう変わっていくのでしょうか
上村 「災害時でもスマホがつながり、離島や山奥でもオンライン授業や遠隔医療ができる。また、ドローンでの配送、自動運転、スマート農業やスマートコンストラクションが当たり前になる。そのためにUTXが貢献できると思っています。つながらない場所が地図から消える。こういう仕事をUTXを通してやっていきたいなと思っています」

国内外を含めて、同様の取り組みは行われているのでしょうか。
上村 「最近ではユビキタスネットワークという言葉は、通信業界にいる人であれば誰もが知っているほど広く浸透してきました。国内外で、衛星通信事業者やそれを活用する移動体通信事業者はいくつか存在します。ただ、国内においては、地上、成層圏、衛星そしてCubic³のグローバルIoTプラットフォームを融合させ、これを多階層モデルとしてワンパッケージで提供できるのはソフトバンクだけだと自負しています。
ソフトバンクはそれらを束ねたネットワークを持つだけでなく、Cubic³のようなパートナーとも連携しており、社会実装までの “出口” を備えた、世界でもユニークな存在だと考えています」

UTX実現への意気込みと抱負をお願いします。
上村 「地上と上空の3次元通信ネットワークを2026年から順次、商用化していきます。
今ある衛星通信事業者のサービスやHAPSをソフトバンクの地上ネットワークと融合させるだけでなく、UTXで構築したインターフェースを基に、他の衛星通信事業者や新しいパートナーとも提携して、相互に柔軟に接続できるネットワーク環境をつくっていきます。
最終的なゴールは、通信が届かない場所をゼロにすること。その未来に向けて、私たちはこう呼びかけます。『合言葉はユビキタストランスフォーメーション。さあ、無限につながる次の通信へ』この言葉を掲げ、一歩ずつ社会実装を進めていきます」

(掲載日:2025年8月12日)
文:ソフトバンクニュース編集部
UTXでソフトバンクが目指す世界

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、人工衛星や成層圏通信プラットフォームを活用した非地上系ネットワークを融合することで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指します。





