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自販機やLPガスの「当たり前」に迫る危機。人手不足を補う最新テクノロジーに迫る

自販機やLPガスの「当たり前」に迫る危機。人手不足を補う最新テクノロジーに迫る 自販機やLPガスの「当たり前」に迫る危機。人手不足を補う最新テクノロジーに迫る

必要な物が、ほしいタイミングで手に入る。私たちは、それが当たり前のことのように感じてしまいがちです。でも今、そんな「当たり前」が崩れつつあるのを知っていますか? 背景にあるのは、超高齢社会によって引き起こされる深刻な人手不足。ソフトバンクは、最新のテクノロジーを駆使して、こうした課題の解決に挑戦しています。自動販売機業界向けのDXサービス「Vendy(ベンディ)」、LPガス配送最適化サービス「Routify(ルーティファイ)」の事業担当者に話を聞きました。高橋みなみさんが、自動販売機やLPガスのユーザーとして、素朴な疑問をぶつけます。逆に、ソフトバンクの担当者から高橋さんへの悩み相談も!? プロジェクトを率いるリーダーとしての葛藤や思いもシェアしました。

PROFILE

  • 高橋 みなみ
    MINAMI TAKAHASHI

    タレント

    2005年にAKB48第1期メンバーとして活動開始。2012年、AKB48グループ初代総監督に就任。AKB48を卒業後はテレビやラジオを中心に幅広くマルチに活躍中。

ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部 オペレーションデザイン事業推進部 部長

松山 誠(まつやま・まこと)

Vendyの企画・開発を担当 (Vendy)

ソフトバンク株式会社 IoT&プラットフォーム本部 IoTビジネス企画部

大杉 佳乃(おおすぎ・よしの)

Routifyの企画・事業推進を担当 (Routify)

私たちの生活を揺るがす、深刻な人手不足

高橋

お2人はソフトバンクで、どんなお仕事をされているんですか?

松山

自動販売機のオペレーションを最適化する「Vendy」という事業の責任者をしています。AIを活用することで、配送・補充業務や、自販機の商品ラインナップを最適化するサービスです。

大杉

私が担当している「Routify」は、LPガスの配送をサポートしています。あとで詳しくご説明しますが、LPガスの配送員はベテランの方じゃないと難しい面がいろいろとありまして。そのハードルを下げて、配送員の経験に頼らずに配送業務を最適化する、お助けサービスみたいなイメージです。

高橋

自販機もLPガスも身近なものですね。私は散歩が趣味なのであちこちよく歩くんですが、自販機はいたるところにあるので、いつでもどこでも水分補給ができて助かります。LPガスも実家にいた頃に使っていました。料理にお風呂、暖房にと生活に欠かせないものですよね。

松山

私も仕事を通して自販機について知れば知るほど、素晴らしいサービスだなと思うんですが、実はその自販機が年々減っているってご存じですか?

高橋

えっ。減ってるんですか?

松山

そうなんです。この10年間で100万台くらい減っています。

高橋

そんなに? 実感ないですけど…。それはどうしてですか?

松山

最たる原因は人口減少やコンビニなど競合店舗の増加ですが、他にもいろいろな理由があって、その一つに深刻な人手不足があります。商品の補充などを行う自販機オペレーターが減っているんです。

高橋

たしかに運んでくれる人がいなかったら、成り立たないですよね。

松山

人手不足は、自販機に限らず、“物を運ぶ” 仕事において、大きな問題となっています。背景には、ネットショッピングの普及による宅配便の増加や、長時間勤務や低賃金などの労働環境の問題など、さまざまな要因があります。その結果、業界間で人の取り合いになっていて、自販機の商品の配送を担うオペレーターが減ってしまう。ベテラン人材が高齢化する中で、人材の確保が難しくなっている状況です。

大杉

同じくLPガスでも、今後、配送員不足が深刻になると考えられています。LPガスの配送員不足の原因の1つは、とにかく重労働だということ。

高橋

このボンベ、重いですよね。実家にいた頃によく交換作業を見ましたけど、運ぶのはすごく大変そう。

大杉

このボンベは1.4mほどあり、最大約80kgくらいあります。これをトラックに手作業で積みこみ、顧客先を回って使用済みのボンベと交換して回る、というのが配送員の仕事です。繁忙期には1日約80本運ぶこともあります。

高橋

女性には難しそうですね…。

大杉

私は持ち運ぶのはもちろん、転がすこともできませんでした。しかも危険物を扱うので資格が必要ですし、試験が日本語で行われることもあり、海外出身の方を配送員として雇用するのもハードルが高く。

高橋

なるほど…。今は、どのくらいの年齢の方が働かれているんですか?

大杉

平均年齢は50歳を超えているといわれています。私が接する配送員の方たちも、ほとんどが50代から60代の方ですね。

高橋

その方たちが重いボンベを。

大杉

はい。皆さんムキムキです(笑)

高橋

かっこいいです! でも、その方たちにいつまでも頼るわけにはいかないですよね。このまま人手不足が進んだらどうなるんでしょうか?

大杉

LPガスは全国で約4割の一般家庭で使われるだけでなく、医療機関や飲食店などの業務用でも使われています。配送が滞れば、暮らしや経済活動に大きな影響を及ぼすことになります。

松山

自販機の場合は、「24時間いつでも飲み物を買える」という状態を維持できなくなってしまうかもしれません。それだけでなく、現在自販機は、お店が少ない地域にとっては食料品店の代わりになり、災害時の備蓄や防犯灯としても役立っていますが、こうした役割も果たせなくなってくるでしょう。

配送員のトラックにも同乗! 現場のリアルを知ることが開発の肝

高橋

かなり深刻な問題なんですね。これってどうにかなるものなんでしょうか?

松山

自販機業界は自販機ごとの売れ行きにあわせた補充などが必要で、長年の経験がないと難しくアナログな作業が多いので、AIなどのテクノロジーを使って効率化していくことで、課題解決につなげられると考えています。

高橋

具体的にはどうやって効率化するんですか?

松山

自販機オペレーターは1日に約10〜20カ所の自販機を巡回して商品の補充を行います。巡回ルートや商品補充のタイミングは、オペレーターの勘と経験で判断されていたので、現地に行ってみたら在庫がまだたくさんあったり、逆に売り切れてしまっていて、販売機会を逃していたりと非効率なことがありました。

高橋

「あのビルはいつもコーヒーがよく売れるから、そろそろ補充に行くか」みたいな? 確かに、個別に把握するのはかなり難しいですね。

松山

そこを効率化するのがVendyです。ソフトバンクが開発したAIが、過去の売り上げや在庫情報などさまざまなデータに基づいて各自販機の販売予測・分析を行い、最適なルート、補充タイミングで配送する巡回計画を自動生成します。

高橋

AIでそんなことができるんですね! 正確な予測ができれば、商品が売れずに賞味期限を過ぎてしまうこともなくなるから、フードロスの削減にもつながるし、すごく良いサービス。こういうサービスをどうやって形にしていったんですか?

松山

自販機オペレーターの方に1日密着して、全ての業務を把握するところから始めました。実際に見てみたら、設置先によって補充できる時間が決められていたり、商品選定にも「今月は季節限定商品を入れたい」「新商品を多めに置きたい」といった自販機オーナーや飲料メーカーからの指示があったりと、いろんな制約があることが分かって。自販機業界を理解した上で、細かな条件をAIに反映させる作業が一番大変でした。

高橋

ただ決められた商品を詰めればいい、というわけではないんですね。
では、LPガスの配送はどうなんでしょう、やはり長年の経験がないと難しい仕事なんですか?

大杉

自販機業界と同じ状況で、配送員の経験と勘が必要な世界です。慣れていない配送員だと配送が間に合わず、ガス切れ(ボンベ内が空になってガスが使えなくなる状態)を起こしたり、ボンベ内のガス残量が十分にあるのに交換して余計な手間やコストがかかってしまったり。

高橋

そもそも、ガスの残量ってどうやって予測するんですか?

大杉

ガスメーターである程度の予測はできますが、例えば急に寒くなって暖房の使用が増えたり、年末年始で家族が帰省してお風呂の回数が増えたりと、その時々の状況によって急にガスが減ることもあるんです。

高橋

気候やいろんな影響を考慮して予測しないといけないんですね。それは大変…。

大杉

はい。そこで、Routifyを使えば、AIがガス残量を予測して最適な配送計画を提示してくれるので、ベテランの配送員でなくても最適な配送ができるようになるんです。

高橋

経験をテクノロジーが補ってくれるってすごくいい。これから働こうという人たちのハードルも下がりそうですね!

大杉

はい、そうなってほしいと願っています。Routifyの開発の際、配送車に同乗させていただき、現場を知ることから始めました。LPガスの配送も「学校への配送は登校前か下校後に行う」「この建物の前には駐車できないので付近のパーキングに止めて転がしてボンベを運ぶ」などと、現場によっていろんな制約があります。

高橋

自分が知らない世界を理解するのは大変なことですよね。でも、そこにはきっと大きなやりがいがあるんだろうなと思います。

大杉

私たちが目指すのは、配送員の方たちが長く元気に、楽しく働ける環境づくりです。ここまで現場に寄り添うサービスに携われることは、大きなやりがいです。

松山

私は、自販機は社会に無くてはならないものだと思っているので、その維持のために役立っているということが、モチベーションになっています。

人のチカラとAIをかけ合わせて広がる可能性

高橋

お話を聞きながら、この素晴らしいテクノロジーで他の業界の方たちも助けてあげてほしい! って強く思いました。人手不足に悩んでいるところはたくさんあると思うので。

大杉

実はすでに、Routifyを医療用ガスや酸素ボンベの配送などに活用できないかといったご相談もいただいているんですよ。ぜひサポートしていけたらと考えています。

松山

私もVendyを通して解決したい課題がまだまだたくさんあります。例えばコインパーキングやATMなど、自動販売機と同じような課題を抱えるサービスにも展開できると思いますし、Vendyをもっと進化させられるように日々取り組んでいます。そこで私からも高橋さんにお聞きしたいことがあるんですが。

高橋

えー! なんですか?

松山

私はVendy事業のリーダーとしてチームをまとめる立場にあるんですが、高橋さんがAKB48時代に総監督として大切にされていたことをぜひ、教えていただけたらと。

高橋

私が一番大切にしていたのは、メンバー一人一人との対話です。人数が多かったので、常に全員と密にコミュニケーションを取れるかといったら難しいんですけど、それでもできるだけ、一人一人の特性や抱えている課題を理解しておきたいと思っていました。1人でやる方が輝く子もいれば、誰かと一緒に取り組む方がうまくいく子もいる。そういう特性を理解してうまくマッチングすると、みんなが個性を発揮できて、グループ全体が活性化するんです。

松山

なるほど。Vendyチームも個性的なメンバーがたくさんいるので、まずは一人一人との対話、大事にしていていきたいと思います。ありがとうございます!

大杉

私も高橋さんにお聞きしたいことが。

高橋

はい、何でしょう。

大杉

先ほどお話ししたように、LPガスの配送員の方は、私よりもずっと年齢が上の方たちが多くて、「スマホは使ったことないから分からない」「AIは信頼できない」など、なかなかサービスを受け入れていただけないことも。高橋さんは、グループの運営スタッフなどの年上の方と、若いメンバーをつなぐような役割もされることがあったと思いますが、世代の異なる人たちとのコミュニケーションについて、アドバイスがあればぜひお願いします。

高橋

やっぱり、全力で向き合うことだと思います。「このサービスによってあなたの負担をきっと減らせるから、試してみてもらえませんか」と、熱意を重ねて伝えていく。これしかないと思います。

大杉

私も今まさにそのアプローチでがんばっているところなので、間違っていなかったと安心しました!

高橋

よかった! 最近は「AIが人の仕事を奪う」みたいな話もあったりして不安な人もいるかもしれませんが、私は今回、人のチカラとAIをかけあわせることで、すごく可能性が広がるんだなってワクワクしました。スキルや経験が必要な部分をAIが補ってくれるのは、素晴らしいですね。これからもお2人の情熱とテクノロジーの力で、困っている多くの人たちを助けてあげてください!

文・編集:X PROJECT編集チーム
写真:山﨑悠次