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2008年のリーマンショック後に暗号通貨とともに産声をあげ、インターネットに次ぐ発明と言われたブロックチェーン。データの書き換えができない分散台帳システムは、これまでの集権型の社会を変革する存在として注目を集めた。しかし、さまざまな分野での活用を期待されながらも長く実用化には至らず、「暗号通貨=ブロックチェーン」というイメージが根強かった。
誕生から約10年が経ったいま、ようやく各産業でのブロックチェーン活用がはじまった。これからビジネスの現場でもお目見えするだろうブロックチェーンについて、あらためてここで理解を深めておきたい。
過去にFuture Strideに掲載した【保存版】超わかりやすいブロックチェーンの基礎知識の続編として、ブロックチェーンのビジネス活用を前提とした、国内外の事例を紹介していく。
ブロックチェーンは、2008年に生まれてから約10年の間に、さまざまな技術アップデートがなされてきた。細かな定義に解釈の違いはあるが、一般的には暗号通貨のための技術だったブロックチェーン1.0から、フィンテックへの活用が可能になった2.0、そしてフィンテック領域以外への活用が可能になった現在が3.0と言われる。
技術革新によって、ブロックチェーン上でアプリケーション(分散型アプリケーション:DApps)を動作できるようになったことで、活用の幅は飛躍的に広がった。企業が実務にブロックチェーンを活用するにあたり基盤となるプラットフォームが、ようやく整いつつある。
「ブロックチェーンでビジネス」というと、ブロックチェーンの仕組みをゼロから構築していくことをイメージするかもしれないが、実際はブロックチェーンプラットフォーマーがオープンソースとして提供する基盤技術をもとに開発するケースが多くなるだろう。ブロックチェーンプラットフォーマーは、アプリケーションが動作する環境を提供し、処理スピードやスケーラビリティ、可用性を担保する。
次に代表的なブロックチェーンプラットフォーマーを紹介する。
2013年、ヴィタリック・ブテリンが若干19歳で考案したブロックチェーンプラットフォーム。分散型アプリケーションやスマートコントラクト*のアプリケーション構築を可能にするオープンソースプロジェクトで、送金、決済、ID認証など、さまざまなサービスがEthereumから生まれている。
*スマートコントラクト … 契約・取引を自動化する仕組み
2014年にスタートし、2015年3月に公開されたブロックチェーンプラットフォーム。複数アカウントからの署名を必要とするマルチシグコントラクト*によるセキュリティを特長としている。
*マルチシグコントラクト … 複数の署名を必要とする契約の仕組み。強固なセキュリティを可能にする。
IBMやIntelなど、世界各国のIT企業が参加する、ブロックチェーン技術の推進を目的としたオープンソースプロジェクト。暗号通貨をベースとする他のブロックチェーンプラットフォームとは異なり、ブロックチェーン技術の社会実装のみを目的として存在する。さまざまな課題に特化した複数のブロックチェーンプラットフォーム開発プロジェクトが同時進行している。
ブロックチェーンとは異なるDLT(分散台帳技術)を用いて、即時に国際送金可能な決済プラットフォームを提供する。フィンテック領域に強みがあり、国内外の金融機関でRippleを活用した決済サービスが開始されている。
これまでブロックチェーンのユースケースは海外が中心だった。ブロックチェーンに関する法的なスタンスも、市場も、日本と海外では異なるため、海外の例が日本でも適用できるとは限らない。しかし、ここ数年で国内においてもブロックチェーンを活用した取り組みが活発になっている。
ブロックチェーン活用の代表的なユースケースを以下にあげる。
ブロックチェーンの歴史は暗号通貨からはじまった。これまで国が保証していた通貨への信頼をブロックチェーンが代替し、ネットワーク上でのP2P決済(Peer to Peer、当事者間の対等な決済)が可能になる。地域の自治体や企業が独自に通貨を発行し、コミュニティの活性化を図ることができる。オンラインゲーム内の独自通貨として使用されるケースもある。
朝日新聞デジタル(朝日新聞デジタルへの外部リンク)によると、三菱UFJフィナンシャル・グループは2019年後半にMUFGコインと呼ばれていたデジタル通貨「coin(コイン)」の実用化を目指す方針を決めた。スマホアプリ上で銀行口座の預金とコインを交換可能で、個人間の送金が瞬時かつ低コストになる、加盟店決済やIoT決済の手段になる、などのメリットが期待されている。
実用に際しては価格変動が懸念材料となる暗号通貨だが、同コインは1円=1コインに固定するステーブルコイン*とするという。
*ステーブルコイン … 価格変動(ボラリティ)がなく、価格が安定した通貨。
都市への人口集中を背景に、過疎化が進む地方自治体の中には財政難に陥るところも少なくない。人口約1,500人の岡山県英田郡西粟倉村は、「西粟倉村コイン」を発行し、ICOによる資金調達を行うことを2018年6月に決定(西粟倉コインへの外部リンク)。それに伴い一般社団法人西粟倉村トークンエコノミー協会を設立。同協会が西粟倉村と連携し、調達資金を村の活性化に関わる事業に配分していく。金融庁によるICO規制の向きがあるが、西粟倉村は規制方針に沿ってICOを実施する予定だという。
*ICO … Initial Coin Offeringの略称。独自の仮想通貨トークンを発行し、資金調達を行うこと。
ブロックチェーン上に取引内容をプログラミングしておくことで、仲介者なしに自動で契約を成立させることができる。例えば商品の売買も、契約内容の改ざんが難しいため、小売業者を介さずに安心して行える。取引の記録はオンラインに保存され、誰でも閲覧可能。中間業者の手数料が不用なため、販売価格は下げることができる。
国内不動産テック企業のGA technologiesは、ブロックチェーン技術を活用した不動産デジタルプラットフォームの構築を開始したことを発表。スマートコントラクトを実装し、契約、登記、決算・資産の移動をデジタル化していくという。
参考:ブロックチェーン技術を活用した不動産デジタルプラットフォームの構築を開始(PR TIMESへの外部リンク)
ブロックチェーンネットワークの取引履歴を活用し、製品情報の追跡を高次元で実行することができる。これまで偽装問題が頻発していた食品の産地や原材料、消費期限などを、改ざんできないブロックチェーンで管理することにより、食の安全をもたらすことも可能だ。製品に貼り付けられたNFCタグやQRコードからアクセスし、製品情報を簡単に追跡できるようになることで、消費者も安心して買い物ができる。
ウォルマート(米)は食品の安全性、透明性を担保するための取り組みとして、IBMと提携し、サプライチェーン全体の情報にアクセスし、トレース可能なプラットフォームを構築。2018年10月に実用化した。IBMが提供する同サービスは「IBM FOOD TRUST」として、業界を横断した「食のトレーサビリティ」の実現を目指すという。
LVMH(仏)は、Ethereumの技術を活用したブロックチェーンプラットフォーム「AURA(オーラ)」の構築を発表。「ルイ・ヴィトン」「ディオール」から導入し、順次他のブランドへ拡大予定。将来的には他社ブランドも巻き込んでいく意向だ。消費者は製品に付けられたQRコードから、サプライチェーンをトレースできるほか、2次流通時にも記録が残るため製品の真贋を証明することができる。
電力自由化後、民間の電力小売事業者の参入が活発になっている。みんな電力は、生産者の顔の見える野菜ならぬ、生産者の顔の見える電力を提供するため、NEMのブロックチェーンを活用し、電力のトレーサビリティを実現。ユーザは提携するクリーンエネルギーの生産者の中から供給をうける発電所を選択することができる。
これまで、ものや権利を所有していることの証明は、実際に持っているという事実か、政府や自治体、業界団体による承認によってなされていた。これらの管理が十分ではなかった業界も多かったが、ブロックチェーンにより、権利や資産などの管理を迅速かつ透明性を担保して行えるようになった。2次流通にあたって、元の所有者や著作権者に還元される仕組みなど、新たな所有権を成立させることもできる。
スタートバーンは、ブロックチェーンによる作品証明書・来歴証明書の発行が可能な、アート作品の登録・販売サービス「startbahn.org」を運営。同サービス外にも権利移転が可能で、2次流通の際の著作権管理や真贋証明にも用いることができる。同社のアートブロックチェーンネットワークは、各アート関連サービス、ギャラリー、美術館などのさまざまなアート業界のプレイヤーと連携し、世界中のアート作品の作品・来歴を管理することを目指す。
参考:スタートバーン(スタートバーンへの外部リンク)
膨大なコンテンツがオンラインにアップロードされるようになった現代だが、著作権の管理は従来通りに業界団体や著作者個人によって行われていた。ブロックチェーンを活用し、コンテンツの作成者を証明することで、オンラインシステム上で迅速かつ透明性を担保した著作権管理を可能にする。デジタル教科書などの教育コンテンツから導入し、音楽、映画、VR、電子書籍などへと順次拡大していく予定だという。
参考:ブロックチェーン基盤を活用したデジタルコンテンツの権利情報処理システムを開発(ソニーへの外部リンク)
国が管理するマイナンバーや戸籍から、Webサービスの会員情報までさまざまなID認証(身分証明)がある。ブロックチェーンで管理することで、特定のID管理者は不用となり、個人情報漏えいのリスクも避けることができる。逆に公開してもよい情報を選択し、それらをネットワークで共有することで、1つのIDでさまざまな認証を行うことも可能だ。
世界には11億人ものIDを持たない人々がいるという。それらの人々に法的なIDを付与することを目標に掲げる国連プロジェクト「ID2020」の一環として、ブロックチェーンと生体認証システムを活用したデジタルIDを、Accenture(アクセンチュア)が開発。2030年までに安全で永続性のあるデジタルIDを普及させることを目標にしている。
参考:ID2020(ID2020への外部リンク)
ソフトバンクとブロックチェーン技術開発企業TBCASoftは、ブロックチェーンによるID情報管理・認証を推進するワーキンググループを、通信事業者のグローバル・ブロックチェーン・コンソーシアム「Carrier Blockchain Study Group」で発足させた。
TBCASoftが構築するアプリケーションフレームワーク基盤「Cross-Carrier Identification System」をベースに、各通信事業者はデジタルIDの管理・認証を行うことができる。同取り組みが広がれば、世界中の通信事業者を通じて企業やユーザにデジタルIDの認証サービスが提供されることになる。
参考:ソフトバンクおよびTBCASoft、ブロックチェーンによるID情報管理・認証を推進するワーキンググループをCBSGで発足
ブロックチェーンの本質は書き換えられないことによる「信頼」の担保にある。分散台帳技術により、不正や改ざんができなくなったことで、従来のビジネスに不可欠だった信頼を担保するための管理者がいらなくなる。これによる産業構造の変化が、ブロックチェーンがもたらす社会変革の正体だ。
ブロックチェーンの登場は「契約」「取引」「管理」「証明」などをアップデートし、管理者を不用にする可能性がある。あらゆる業界の信頼を担保する管理者を思い浮かべてほしい。ブロックチェーンが与えるインパクトが想像できるはずだ。
信頼が集まる場所には権力が生まれる。そこには銀行も、政府も、国際的なプラットフォーマーであるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)も含まれる。ブロックチェーンの存在はこれまで権力が集中していた管理者の権力を、個人に帰する可能性があり、それこそがブロックチェーンの理想とする非中央集権型社会の姿である。
2018年に暗号通貨が暴落し、バブルの終焉を迎えた。暗号通貨と一緒に語られることの多いブロックチェーンも、幻滅期に入ったという意見が聞かれる。一方で、投機対象であったブロックチェーンをはじめとする分散台帳技術が真価を問われる時期とも言える。
90年代のドットコムバブルを経て、ITがいま私たちの生活のインフラになっているように、ブロックチェーンが社会に変革をもたらすのは、これからなのかもしれない。
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