自治体の生成AI活用最前線。日向市長が語る『日向市モデル』に込めた期待と自治体変革の可能性

2023年11月20日掲載

自治体の生成AI活用最前線。日向市長が語る『日向市モデル』に込めた期待と自治体変革の可能性

自治体における生成AI活用の最前線として、宮崎県日向市が進めているプロジェクト「日向市モデル」。

「テクノロジーの新潮流。今、世界が動きだす。」をテーマに開催されたソフトバンクとして最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2023」では、日向市の十屋市長が登壇し、生成AIを自治体業務で活用することによりもたらされる未来について講演を行いました。

本記事では、講演後に行った十屋市長へのインタビューを交え、日向市が抱えている課題や生成AI導入の経緯、今後の展望 についてまとめています。

宮崎県日向市 十屋幸平市長

十屋 幸平氏

宮崎県 日向市 市長

目次

自治体生成AI活用の最前線「日向市モデル」とは?

2022年2月に策定したDX推進計画に基づき、自治体業務のDX化を推し進める宮崎県日向市。いまや自治体含めて多くの産業において労働力の減少・人手不足という課題に直面している中、積極的なDXの推進が求められています。日向市もその例外ではありません。   

そこで日向市はソフトバンクと今年2月に包括連携協定締結し、4月1日にCIO補佐官の出向、同月14日に日向市DX推進共創アドバイザー委嘱、7月28日に生成AI活用に向けた共同研究覚書締結を行い、「行政運営の効率化」や「質の高い行政サービス」、さらにその先にある「地域課題の解決」を目指すこととしました。

その手段として日向市が本格導入に向けた取り組みを進めているのが「生成AI」です。独自データ学習と独自ネットワークを構築する生成AI日向市モデルは自治体における生成AI活用事例として今後の動向が注目されています。その内容を、講演内で日向市長の十屋氏は次のように紹介しました。

「マイクロソフトの生成AIサービス『Azure OpenAI Service』を活用し、業務における生成AI活用を実現させたいと考えています。まず12月にはステップ1として、職員間の問い合わせ対応や議会答弁作成など庁舎内の業務効率化に向けPoC(本格運用前のテストと検証)を行う予定です。さらに来年度は庁舎内業務の本格運用へ移行させ、その後、ステップ2として、LINEなどの汎用性の高いアプリケーションと連動し、市民からの問い合わせや情報発信、手続きのオンライン化など、双方からのコミュニケーションを可能にすることで、市民サービスの利便性向上を目指します」

日向市モデルの図解

なぜ、日向市には生成AIが必要だったのか

「行政運営の効率化や市民サービスの向上を生成AIの活用によって実現する」と意気込む十屋市長。

「全国的な問題だと思いますが、私たち日向市役所も人手不足に苦しんでいます。さらに市民の皆さまからは、窓口手続きの簡素化に対するご意見も頂戴しています。
今年6月に本市での生成AIの検討状況を確認し、担当部門にて検討している生成AIとはどのようなもので、どのような使い方ができるのか職員にプレゼンして もらいました。要約やプログラミング、動画・画像生成などのプラグイン(ChatGPTの機能を拡張するためのツール)といった多機能も備えた生成AI。これは業務効率化に向けて大いなる可能性を秘めたツールだと感じました。
一方で、セキュリティ確保や著作権など生成AIを活用する上でクリアすべき重要な課題があることから、運用体制や費用対効果も含め、導入に向けた検討を指示しました」

十屋市長は、生成AIの活用により、職員の働き方改革にもつながることを期待しています。

「市民からのニーズや行政サービスは年々多様化・複雑化していますが、限られた職員がこれらに対応し、結果として時間外勤務や休日出勤が常態化してしまっています。このプロジェクトを通じて職員が快適に働ける環境を整えることで、市民サービスの向上へとつなげていきたいと考えています」

課題解決を実現する生成AIへの期待

導入への道のり

講演の中で、スピード感を持ってDX推進をするべく、ソフトバンクやマイクロソフトといった民間企業と連携を深めると語った十屋市長。そのような考えに至るまでの経緯について以下のように振り返ります。

「日向市役所では、デジタルに精通した人材が不足していました。こうした中、ソフトバンクさんやマイクロソフトさんといった企業の知識と経験を取り入れれば、我々が直面している問題の解決と目標の達成が期待できると感じています。日向市がどんな未来を切り拓いていきたいのか、日々皆さまと熱く話し合いを重ねています」

生成AIの導入にあたっては十屋市長が普段より大切にしている「挑戦と決断」「現場主義と対話」の信念に基づき、庁内や議会への理解を求めていったと語りました。

「以前、職員へのアンケートを実施した際、多くの職員が生成AIを業務に活用したいという意見でした。職員自身も自分たちの働き方に変化が訪れることを期待しているのでしょう。ただし、中には新しいツールの活用に遅れをとる職員もいるかもしれません。市民サービスの利便性を漏れなく向上させるためには、全職員が一丸となって、意識を変えていく必要があるので、ぜひソフトバンクさんやマイクロソフトさんには意識醸成のサポートをしていただきたいと考えています」

Microsoft Azure Open AIの導入理由を語る十屋幸平市長

また、十屋市長が「Azure OpenAI Service」の導入を決めた理由については、セキュリティの担保が一番の決め手だったと振り返ります。

「セキュアな環境を構築し、不正アクセスや情報漏えいのリスクを軽減することは自治体業務を運営していく上で非常に重要です。リスクを心配するあまり生成AIの導入に躊躇するのではなく、安全性を確保して、保有データも活用できるくらいの環境を作った方が業務効率上がるのではないかと考えました。

今回導入する『Azure OpenAI Service』は閉域環境での運用が可能であり、安全性が確保されていることから導入を決断しました」

2023年12月から始まる庁舎内業務効率化のためのPoC(本格運用前のテストと検証)について、十屋市長は次のように期待を寄せます。

「生成AI活用には”精度”と”鮮度”の課題があると思っています。今、庁内データを細かく砕いて読み込ませるという地道な作業をしていますが、それによって蓄積された情報をもとに常にクオリティーの高い返答を実現することが可能になります。また、鮮度に関しては、プラグイン機能など活用することで解決できるのでは考えています。
精度と鮮度も最終的には職員の目でチェックすることが必須の作業であることは変わりません」

日向市モデルがもたらす地方創生

生成AIの利活用による効果について、十屋市長は以下のように述べました。

「私たちの目標は、業務効率化や市民サービス向上だけではありません。これまで人手や時間が足りず実現できなかった新たな事業やアイデアの創造力を引き出すことも可能になると期待しています。市民に寄り添った施策を展開し、市民との絆を深めることで、笑顔にあふれ、心豊かな日向市を実現したいと考えています。生成AIは自治体業務を大きく変革する可能性を秘めており、新たな地方創生の一翼を担うことを期待しています」

最後に、十屋市長は日向市モデルの構築に向けて次のように語りました。

「私たちが直面している課題は、全ての自治体に共通しています。すでに多くの自治体で生成AIの活用に向けた取り組みが始まっており、私たちは、先行する自治体の取り組みも参考しながら、ソフトバンクさんとマイクロソフトさんとともに『日向市モデル』を確立していきたいと考えています。

また、この「日向市モデル」が全国の自治体の皆さまの少しでもお役に立てることがございますならば、惜しむことなく情報提供、現地視察などもお手伝いさせていただきます」

ソフトバンクも十屋市長と同じ思いを抱き、引き続き日向市を全国のモデルとして支援していきます。

ソフトバンクの自治体ソリューション

自治体DX推進サイト「ぱわふる」

「ぱわふる」は『Power of Furusato(ふるさとにパワーを)』をコンセプトとし、自治体が抱えるさまざまな課題を解決するための自治体ソリューションや自治体導入事例を紹介しています。

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