【事例】先進的なAIサービスを展開するSENSY株式会社のGoogle Cloud 活用方法とは

2021年3月2日掲載

現在、AI開発においてクラウドプラットフォームの存在は不可分となっている。プラットフォームを選択する際には、めまぐるしく変化するビジネス環境に機敏に対応できる柔軟性が鍵を握る。“感性を学習するAI”を提供するSENSY株式会社は、Google Cloud をフル活用し、有益なサービスを生み出している。採用基準や活用法、メリットについて話を聞いた。

目次

小売業を中心に、消費者マーケティングや需要予測サービスを提供

2011年に創業したSENSY株式会社。“全ての人々に、人生が変わる出会いを。” をビジョンに掲げ、感性を学習するパーソナル人工知能(AI)の開発を手がけている。現在の主力サービスは、「SENSY Marketing Brain(MB)」と「SENSY MD」の2つ。これらのサービスを中心としたAI活用のコンサルティング、PoC(概念実証)を行いながら、顧客のビジネス課題を解決するソリューションを提供している。

SENSY MBは顧客一人ひとりの属性・購買履歴などを元に、AIが個別に最適化したマーケティングを提案。SENSY株式会社 代表取締役CEO 渡辺祐樹氏は、その詳細を次のように説明する。

「SENSY MBはマーケティングの知能を担うことをコンセプトとしています。どのお客さまに、どのタイミングで、どのような内容のコミュニケーションを取ればいいのか。それらをAIによる分析で最適化し、顧客へのダイレクトメール送付、メール送信、アプリへの情報配信などを行なっています。SENSY MBのクライアントはアパレル企業が中心です。

例えば、メルマガ配信ならば、メールを受け取り、気持ちよく開いてそのまま買い物をするタイミングは人によって異なります。電車内でショッピングしてる人もいれば、平日の夜、あるいは週末にゆっくり読む人もいて、それぞれに最適なタイミングがあります。ですからセオリー通りに金曜日の夜に一斉配信ではなく、お客さまの心地よいタイミングを予測して配信しています」(渡辺氏)

渡辺 祐樹 氏

SENSY株式会社
代表取締役CEO

SENSY MDはMD(マーチャンダイジング)、いわゆる商品施策を支援するサービス。数十万アイテムにもおよぶ商品の売り上げを顧客単位・アイテム単位で予測し、商品発注や仕入などのMD計画を最適化する。よりBtoB色の濃いこちらは、アパレル、スーパー、ドラッグストア、自動販売機など小売業向けの需要予測として好評を博している。

「小売業のバイヤーや商品部の方々が、どの商品を仕入れて、どの店舗にどれだけの在庫を持ち、どのように価格をコントロールしていくか。SENSY MDはこうした業務の最適化を支援するサービスです。例えば牛乳や納豆が明日何個売れるのかを、その店舗にいらっしゃるお客さまの属性、天候などのさまざまな要素から、高い精度で需要予測を提供しています。賞味期限が短ければ廃棄ロスが多くなり、予想以上に売れて欠品になれば売り上げにダメージが出てきます。そうした無駄を改善することに役立てていただいています。

消費者の動きを分析することで小売の在庫が最適化できるようになります。産業全体はサプライチェーンで連鎖していますから、次は卸がどのようなタイミングで在庫を用意しておけばいいのか、その上流のメーカーの生産計画をどうすればいいのかにもつながっていきます。一部のメーカーとは研究レベルで取り組みがスタートしているので、より領域を広げて商品の最適化を支援したいと考えています」(渡辺氏)

渡辺氏の大学の先輩であるSENSY株式会社 取締役CRO(最高研究責任者)の岡本卓氏は、博士課程修了後、2014年に千葉大学大学院工学研究科准教授に就任。システム工学、最適化理論、計算知能、複雑系などを中心に研究を続けてきたAIスペシャリストだ。SENSYとは千葉大学勤務時代から共同研究を開始し、2017年にジョインした。

岡本 卓 氏

SENSY株式会社
取締役CRO(最高研究責任者)
千葉大学 特任准教授

「SENSYで開発しているAI技術は、共同研究の時代からこれをどのように構築していくかについてディスカッションを積み重ねてきていて、何よりAIに関するアイデアが今までにない視点でユニークなものでした。感性の学習と聞くと何か曖昧なものに思われがちですが、アルゴリズムは地道な考え方に基づいています。SENSYなら新しい分野に挑戦しながらも、地に足の着いた研究ができることもあって選びました。

もう1つの魅力は生きたデータです。データを集めれば集めるほどAIのアルゴリズムが向上し、さらにそのデータを活用しながら、次のビジネスのアプローチ、すなわち新たなアルゴリズムを作ることができます。大学と比較すれば、その点はまったく考え方が違いますね」(岡本氏)

SENSY株式会社では、多いときで一日テラバイト級のデータを収集している。元になるのはPOSデータや購買履歴といった消費者の行動データだ。「例えば、スーパーの購買履歴で言えば、レシート単位でレジの履歴データをお預かりしています。他の業界のデータも合わせて、年間の規模で言えば3.5兆円分ほどの非常に膨大な数です」と渡辺氏。このビッグデータを効率よくさばき、感性AIのアルゴリズムを確立するプラットフォームとして同社が選んだのが、グーグルが提供する「Google Cloud 」だった。

Google Cloud の中で全てが済んでしまうのがうれしい

大手クラウドサービスの1つとして紹介されることが多いGoogle Cloud だが、その特長はグーグルが誇る高度なデータ分析力と、膨大なトラフィックに耐えうる盤石なインフラ、そしてAI開発との高い親和性にある。とりわけデータの分析基盤となるBigQuery 、機械学習モデルを作ることのできる「Cloud AutoML 」 などはGoogle Cloud の独自性を物語っている。

「Google Cloud を選んだそもそもの理由は、データベースとしてのBigQuery の優位性です。BigQuery の利点はスモールスタートができること。当社では、同じクライアント企業様でも、プロジェクト提案、初期検証フェーズでの小規模データからスタートして、実証実験フェーズ以降では日常的に大規模データを扱うように変化していくので、各フェーズで柔軟に対応できるデータウェアハウスであるBigQuery がすごくマッチしています。同時に、バックエンドのデータ処理はほかのデータベースでは追従できないほどのスピード感があり、それでいて低コスト。従量課金とはいえ、かなり安く済んでいます。

まずはBigQuery を使いたいとの思いがありましたが、その後に需要予測などを展開していくために自動化の基盤を構築する面でもGoogle Cloud は強力でした。Google Cloud そのものがCloud AutoML のような機械学習やディープラーニングを加速するサービス群を次々に提供していますから。これらの点からGoogle Cloud を採用したのです」(岡本氏)

SENSYではGoogle Cloud を、AI開発における“一気通貫”のプラットフォームで利用している。最初にBigQuery で膨大なデータを一次整理し、基礎データを作成。次に特徴量(特徴を数値化したもの)に変換するが、変換作業の多くをBigQuery 上のSQL処理で実行する。「この工程が非常に重いのですが、BigQuery ではストレスなく処理できます」(岡本氏)

機械学習で多用しているのが、構造化データの高速・大規模分析に長けた、AutoML Tables だ。直感的なGUIを採用しており、BigQuery で変換した特徴量をシームレスにロードして学習することができる。岡本氏は「特徴量の影響を判断するための学習を複数パターン実行することも可能。ある程度定まってきたらAPIを連携させて、バックエンドの開発側に直接組み込むことができます。最近ではAutoML Tables を中心に据えたプロジェクトが増えてきました」と話す。こうして完成した成果物を、CSVファイルに書き出してクライアントに納品する。そして、毎日の納品が必要なプロジェクトにおいては、これらのフローをCloud Composer を活用して自動化している。ワークフローが可視化され、仮に問題が生じたときも要因を素早く特定でき、柔軟に再実行指示対応ができる。

SENSYにおけるデータ基盤とML基盤による自動化基盤構成例

「データ収集から加工、蓄積、分析、成果物のアウトプットまでを一気通貫でできるのがメリット。同じ開発者が手がけるプロジェクトなら、基本的にはGoogle Cloud 上で全てを実行できます。ワンストップの良さは何をおいても柔軟性にあると思います。お客さまのニーズに応じてカスタマイズをするときの改良も、同じプラットフォーム内で柔軟に対応できます。もし、そのためだけにマルチクラウド化するとなったら手間もコストもかかりますから。

利用を開始してから3年ほどですが、その間にGoogle Cloud そのものが刻々と進化しています。AutoML Tables も最近出てきたサービスですが、実際に使ってみると我々がやりたかった内容が実装されていました。かゆいところに手が届く感じで、AI開発との相性の良さもポイントです」(岡本氏)

渡辺氏は「ビジネスサイドが求めるニーズや処理量に応えてくれるので、クライアントからの満足度も高い」とする。Google Cloud 導入以前は技術的な部分でコストの問題が重くのしかかっており、コストがビジネス拡大のボトルネックになっていた時期もある。「Google Cloud に変更したときに一気にコストの見通しが良くなり、よりスケーラブルにクライアントの期待に応えられるようになりました。“ここまでやっても、これだけのコストで済む”ことが透明化されたからです」(渡辺氏)。ちなみに、現在の開発環境をオンプレミスで構築しようと精細な見積を取ったところ、Google Cloud の10倍以上のレベル感になったそうだ。

ソフトバンクと連携し、ビジネスの幅を広げる

SENSY株式会社のGoogle Cloud 導入・運用は、ソフトバンクが支援している。渡辺氏はソフトバンクとの関係性を「単なるリセラーではない」とした上で、こう語る。

「営業のネットワークなどを武器に新規ビジネスの創出、クライアント拡大においても協力いただいており、とても心強い存在です。先ごろ、ソフトバンク様の紹介で大手スーパーにSENSY MDを導入させていただきました。強固なビジネスパートナーであり、Win-Winの関係を築けると思っています」(渡辺氏)

橋渡しをしたソフトバンク 法人第三営業本部の橋爪 渚氏は「SENSY様のサービス内で日配品向けの需要予測のサービスパッケージング化が進んでおり、ソフトバンク営業を通じてお客さまに紹介したところ契約に結び付きました」と語る。スーパー側で、すでに導入していた需要予測サービスとは別のサービスを探していたタイミングも後押しした。SENSY MDには小売の需要予測に関する実績があり、予測の精度が高いため、すぐに導入に結びついたという。

岡本氏は「SENSYでは需要予測の安定的なソリューションが確立されつつあります。その強みをGoogle Cloud を活用しながら発展させていくのが1つの目標。しかし、感性を学習するAIの分野はまだまだ広いので、試行錯誤を繰り返しながら柔軟に対応していければ」と抱負を述べた。続けて渡辺氏は、あらためてGoogle Cloud のストロングポイントと、今後のSENSYの展望ついてこのように締めくくった。

「Google Cloud はインフラの堅ろう性、サービスの柔軟性、スケーラビリティを備えながら、低コストで運用できます。こうしたプラットフォームは、我々のようなAIサービスが世の中にあまねく広がっていく上で今後のスタンダードになるはず。Google Cloud によってAIサービスの裾野を広げていきたいですし、さらにAI以外の新しい技術がプラットフォームに加われば、より良い社会になっていくのではないでしょうか」(渡辺氏)

左はソフトバンク株式会社 法人第三営業本部 第二営業統括部 第3営業部 1課 橋爪 渚氏 左はソフトバンク株式会社 法人第三営業本部 第二営業統括部 第3営業部 1課 橋爪 渚氏

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