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「2025年の崖」問題をよく耳にするものの、内容をあまり理解していない方も多いのではないでしょうか?この「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発行した「DXレポート」で定義された言葉で、日本企業のIT基幹システムの老朽化がこのまま進行すると2025年に大規模な経済損失や人材不足に直面することを指しています。
本記事では「2025年の崖」の実情と背景・要因を探り、経営者やIT責任者がいま取り組むべき対策を解説します。これから本格的にDXをはじめる方のヒントになる内容ですので、ご参考になさってください。
この章では「2025年の崖」の問題点を、3つのポイントで解説します。
DXレポートによると、日本企業の約8割がレガシーシステムを抱え、使い続けているという問題点です。
レガシーシステムとは、メインフレーム(汎用コンピュータ)などで構築した肥大化、複雑化した古いシステムを指します。古い設計のシステムは最新のプログラムを適用できない、膨大なデータや複雑な処理に対応ができないというリスクがあります。その結果、セキュリティリスクや容量不足、ハードの故障やシステムダウンなど、社会に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
また、DXレポートによると日本のレガシーシステムがこのまま放置されDXが進まなければ、最大で約12兆円の経済損失につながるという予測が立てられています。
これを最悪なシナリオとして考える人も多いかもしれませんが、2014年時点でシステム障害による経済損失額が年間約5兆円というデータや、システムダウンの約8割がレガシーシステム起因の可能性があるというデータを踏まえると現実的な損失額に感じられます。これは同時に、我が国が「崖」から転落しつつあることを意味しています。
ユーザ側の影響 | ベンダ側の影響 |
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経済産業省の調査結果では、2030年までにIT人材が最大で約79万人不足すると言われています。
約79万人というシミュレーションは、IT需要伸び率が3〜9%増えかつ労働生産性が0.7%上昇した場合のため、労働生産性をより伸ばすことができれば需要ギャップは埋められるかもしれません。しかしその足枷になっているのが、IT人材資源がレガシーシステムの保守や運用に割かれてしまっている点です。このまま古いシステムに依存する体制から脱却しない限り、IT人材資源の枯渇はよりシビアな問題となっていくでしょう。
参考:我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(IT 人材等育成支援のための調査分析事業)- IT 人材需給に関する調査 -|経済産業省(2019年)
さらには、このままDXが進まずレガシーシステムに依存し続けていると、ノウハウを持ったエンジニアが減少し続けてしまうリスクがあります。
メインフレームやCOBOLなどの言語を使った大規模基幹システムを開発していたのは、1980年頃に新卒入社したエンジニア達です。彼らが2022年から2025年にかけて65才になり、一斉に定年退職を迎えます。肥大化・複雑化したシステムを刷新するには、ノウハウもコストも莫大にかかります。エンジニアの定年退職や離職を機にますますブラックボックス化が進み、誰もメンテナンスができないシステムになってしまうかもしれません。
それではなぜ「2025年の崖」問題が発生してしまったのでしょうか?2025年というタイミングである理由や、中小企業への影響も解説していきます。
経済産業省が「2025年」というタイムリミットを設定している理由はいくつかの調査結果が背景にあります。
1つ目が、システムの老朽化です。2025年には国内企業が運用する基幹システムの約6割が、稼働開始から21年以上経過すると報告されています。2つ目に、古い基幹システムを扱ってきたIT技術者の定年退職の問題です。先ほども述べたように、COBOLエンジニアなどが第一線の現場から退くため、社内で担当するIT人材が枯渇しシステムのブラックボックス化が深刻化します。3つ目は、企業の後継者不足の問題です。経済産業省の調査によると、中小企業・小規模事業者の経営者約245万人が2025年に70歳以上になりますが、その半数の127万人は後継者がまだ決まっていません。その結果、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとも言われています。
2025年に何かが起こるわけではありませんが、このタイミングで社会構造やIT業界構造が10年前とは大きく変わり後戻りができない状態になる危険性を唱えているのです。
「2025年」がタイムリミットとして設定されているもう1つの理由は、システムの保守切れにあります。
代表的な基幹システムであるSAP社のERPがサポートを終える時期が2025年前後に(その後2027年までの延期を発表)しているためです。サポート終了までにレガシーシステムの刷新やマイグレーションを行うことが必要不可欠になっています。
この「崖」を生み出してきた日本社会ですが、なぜ今まで対処してこなかったのでしょうか?根本的な原因は、IT業界におけるユーザ企業とベンダの関係性、システム刷新の難しさにあると言えます。
ユーザ企業は、基幹・業務システム開発をする際に、開発から運用・保守まで外部ベンダに委託することが一般的です。ベンダはユーザ企業の望む通り独自のカスタマイズを行います。大企業ではグループ会社や部署ごとにシステムをバラバラに構築してしまい、情報共有や連携を難しくしてしまっています。また、社内のIT担当者やベンダ側の担当者も入れ替わることでシステムがブラックボックス化・複雑化していき、システムを刷新したくても物理的に不可能な状況に陥ってしまっているのが理由だと言えるでしょう。
「2025年の崖問題は中小企業には関係がない」という声も耳にします。この問題は大規模なレガシーシステムを保有する大企業だけの問題なのでしょうか?
先ほども説明しましたが、2025年までに約127万社の中小企業が後継者不足やデジタル化の遅れが原因で廃業・倒産に追い込まれる可能性があります。中小企業の経営者は「2025年の崖」を自分ごととしてDXを進めなければいけません。
一方で、2025年〜2030年にかけて大企業の基幹システムの刷新が相次ぐと予想されるため、中堅中小のSIer・ベンダ企業には大きなビジネスチャンスがあるとも言えるでしょう。
ここまでで「2025年の崖」の問題点は理解できたかと思います。最後に、経営者やIT責任者が、いま取り組むべき対策を4つのポイントで解説します。
DX とは単に古いシステムを刷新することではなく、ITシステムの構築や移行を通じてビジネス変革を起こすことです。
そのためには経営陣がDXに対してコミットメントし、全社横断で推進することが重要です。社内でDXプロジェクト体制を構築し、レガシーシステムからのマイグレーション戦略に部門横断で取り組んでいくことが必要不可欠です。
レガシーシステムから脱却してDXを進める第一歩は、既存ITシステムの全体像を見える化することです。
肥大化・複雑化したレガシーシステムのまま、新しいデジタル技術を取り入れることは現実的にかなり困難です。まずは自社のIT システム全体を把握し現状を分析して、廃止や改修するための仕分けをしていくことが重要でしょう。経済産業省も先のDXレポートを通じ、「2025年までの間に、複雑化・ブラックボックス化した既存システムについて、廃棄や塩漬けにするもの等を仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、DXを実現することにより、2030年実質GDP130兆円超の押上げを実現する」と述べています。
これまでユーザ企業がベンダ企業に依存し続けたため、システムのブラックボックス化や複雑化を招いてきました。これらに対して、ユーザ企業がベンダ企業に対して開発の全工程を丸投げしない、システム開発・運用を1社だけに完結させない、あるいはユーザ企業の社内体制や役割を明確に細分化する、といった対策を行うことができます。
ベンダ企業にとっても、大規模な基幹システム刷新のプロジェクトは難易度が高く、長期化しやすいためリスクの高い案件です。契約期間の更新や報酬支払いなども含めて、関係性の見直しを行いましょう。
2021年7月に総務省が発表した「情報通信白書」によると、企業のDXが進まない最大の理由は「デジタル人材の不足」にあります。
デジタル人材の採用は困難かつ給与が高騰しており、競争は今後ますます熾烈になるでしょう。近年のリスキリングブームにより、これまで社内で勤務してきた従来型のIT人材を先端技術IT人材に育成することが注目されています。デジタル人材を社内で育成するための経験や機会を与える施策も検討すべきでしょう。
「2025年の崖」を越えるために、今から課題に備えることが重要です。しかし、既存のレガシーな基幹システム・業務システムのDX化を進めればよいものの、 レガシーシステムからの脱却の方法がわからない方も多いのではないでしょうか?
レガシーシステムの問題点とレガシーマイグレーションについては、「レガシーシステム」の問題点を分かりやすく解説。脱却とクラウド化のポイントもあわせてご覧ください。
ソフトバンクでは、レガシーシステムに潜む課題を洗い出し、新しいシステムへのマイグレーションをお手伝いします。迷った時はぜひご相談ください。
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