スマートファクトリーとは?国内事例10選

2023年5月9日更新
2021年3月25日掲載

スマートファクトリーとは。国内事例10選

世界中で急速に進む製造業のDXの波が、日本のものづくりにも影響を与えている。多くの企業がものづくりのDXを進めており、生産性の向上や、品質の改善、コスト削減に成功している。経済産業省も「スマートファクトリーロードマップ」を公開して積極的に推進しており、IoTやAIなどのデジタル技術を駆使した工場のスマート化は熱い視線が向けられている。本稿では、スマートファクトリーの全貌をあらためて解説しつつ、国内の事例を多数紹介する。

目次

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用した、生産性が高く効率的な工場のことである。デジタル技術の活用により、高品質・高付加価値な製品を低コストかつ短期間で効率的に製造することを可能とする。
ロボットによる製造ラインの自動化といった従来の機械化・自動化とは異なる概念であり、IoTセンサなどでリアルタイムに取得したデータをクラウドまたはエッジサーバに送り、そのデータをAIが分析し現場に反映することで製造ラインを効率化する。つまり、データの収集と活用が特徴だと言える。

スマートファクトリーが求められる背景

スマートファクトリーが求められる背景

製造現場のデジタル化が求められるようになった背景には、世界的にAIやIoTなどの先端デジタル技術を活用したものづくりが広がり、製造業の既存ルールが変化していることにある。日本の製造業においても、少子高齢化による労働人口の減少などにより同様の変革が求められているのである。
実際に、ドイツでは「Industrie 4.0」が広がりを見せており、アメリカでも「Industrial Internet Consortium (IIC)」が設立された。
こうした製造業の変革に対応するため、日本では経済産業省が2017年5月に発表した「スマートファクトリーロードマップ」の中で、「ものづくり企業は20〜30年後の未来に向けて、製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応など7つの戦略課題に対応する必要がある」と述べている。7つの戦略課題は下記の通りだ。

  1. 社会のデジタル化・ソフトウェア化に伴う消費の高度化への対応
  2. デジタル技術による擦り合わせ・カイゼンのコモディティ化への対応
  3. 生産技術・材料技術のイノベーションの取り込み
  4. 製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応
  5. 人材の質・量の不足への対応
  6. 資源制約・CO2フリーへの対応と成長市場の取り込み
  7. リスクマネジメントへの対応

上記の課題を解決していくためには、「ものづくりのスマート化」が必要とされている。また、内閣府が掲げているSociety 5.0の一部としてもDXの推進は求められている。中でも、ものづくりや製造業でのDXの重要性が叫ばれているため、そのひとつであるスマートファクトリーの推進は非常に重要なテーマとなっている。

スマートファクトリー 7つの目的

スマートファクトリー7つの目的

品質の向上

先述の経済産業省の「スマートファクトリーロードマップ」では、「スマート化の目的」として7項目を列記している。
1つめは「品質の向上」だ。品質の向上に向けて、

 ①不良率の低減
 ②品質の安定化・ばらつきの低減
 ③設計品質の向上


の3つが掲げられている。
IoTセンサを活用すれば、例えば、人間が関わる工程の作業手順や結果などのデータをリアルタイムで収集・分析し、ミスが起きやすい状況を事前に把握して対応したり、ミスが起きても迅速に対処したりすることが可能となり、製品の不良率は最小化される。

コストの削減

続いて挙げられるメリットはコストの削減だ。コストの削減に向けては、

 ①材料の使⽤量の削減
 ②生産のためのリソーセスの削減
 ③在庫の削減
 ④設備の管理・状況把握の省力化


の4つが掲げられている。(※リソーセス=resources、リソースの複数形)
デジタルツインといったIoTやAIによる高度なデータ活用の仕組みが導入できれば、設備の稼働状況や材料の在庫、従業員の負荷、需給予測などをリアルタイムで把握しつつ、生産計画やプロセスを最適化してコストの削減を期待することができる。
製造に投入する設備や材料、人などのリソースを最適化できれば、同じ品質、同じ量の製品を製造したときのコストが下がるため、企業の競争力アップにつながると言える。

⽣産性の向上

生産性の向上も大きなテーマだ。生産性向上に向けては

 ①設備・ヒトの稼働率の向上
 ②ヒトの作業の効率化、作業の削減・負担軽減
 ③設備の故障に伴う稼動停⽌の削減


の3つが掲げられている。
コスト削減の項目でも触れたが、IoTとAIによる高度なデータ活用が進めば、設備や材料、人など、製造工程全体のリソースや稼働状況を最適化・効率化することが可能になるため、コスト削減だけでなく、生産性の向上も期待できる。

製品化・量産化の期間短縮

製造業の重要課題である「製品化・量産化の期間短縮」も解決できると期待されており

 ①製品の開発・設計の自動化
 ②仕様変更への対応の迅速化
 ③生産ラインの設計・構築の短縮化


の3つが掲げられている。
IoTを駆使することで、設計から量産まで多くの製造工程のデータが蓄積されるため、これらを分析し改善することで以降の開発や設計、量産化の工程を短縮することができる。
例えば、過去の設計や開発事例を分析して設計改善モデルを作成しておくことで、似たような製品設計を行う際、開発・設計のプロセスの一部を自動化することが可能となる。また、生産ラインの配置や作業工程、材料などのデータを分析することで、デジタル空間で工程を再現、試行錯誤を繰り返して最適化し、同様の製品の生産を高速化することが可能となる。

⼈材不⾜・育成への対応

製造業の多くの企業が抱える「人材不足や人材育成」といった課題の解決にもつながるとして、

 ①多様な人材の活用
 ②技能の継承

の2つが掲げられている。
熟練技能者の動きを複数のカメラで収集し、AIで分析することで、工場で働く従業員が習得する技術や知識、経験などを体系化する。それをマニュアルとして全拠点で共有することで、効率的な人材育成が可能になる。こうしたプロセスを多言語化して国外の工場でも適用できれば、海外の人材の育成も容易になるだろう。

新たな付加価値の提供・ 提供価値の向上

顧客一人一人に最適化した製品の提供や、アフターサービスの充実など、新たな付加価値の提供にもつながる。付加価値の向上に向けて

 ①多⽤なニーズへの対応⼒の向上
 ②提供可能な加工技術の拡大
 ③新たな製品・サービスの提供
 ④製品の性能・機能の向上


の4つが掲げられている。
製品にIoTセンサと通信機能を組み込んでおくことで、出荷後のバッテリーの消耗具合や摩擦状況などをリアルタイムに把握し、部品やバッテリーの交換といったアフターサービスを適切なタイミングで行えるようになる。また、組み込まれたIoTセンサから、実際の顧客の使用方法や利用状況を把握することで新たな製品の開発にも役立てることが可能だろう。
今後の製造業は、製品を提供して終わりではなく、提供後のデータを活用してより価値の高い製品や体験を提供することが重要になると言えよう。

その他

不具合対応の強化も目指している。スマート化の目的として掲げられているのは

 ①リスク管理の強化

だ。
前述のように製品にIoTセンサと通信機能を組み込むことで、製品の不具合を探知して製造工程のどこに不具合の原因があったのかを素早く特定することが可能になる。また、製品出荷後に不具合が判明した際には、所有者に連絡するなどの対策を取ることで、不具合の影響を最小限に抑えることが可能になる。

経済産業省のロードマップ

経済産業省のロードマップ

経済産業省の「スマートファクトリーロードマップ」では、3つのレベルに沿ってスマート化を実現させていく手順が示されている。
レベル1は「データの収集・蓄積」だ。センサを使って設備や材料、従業員など生産ライン全体の状況をデータとして収集・蓄積する。
レベル2は「データによる分析・予測」だ。レベル1で収集したデータを分析し、事象のモデル化や将来予測を目指していく。
最後はレベル3「データによる制御・最適化」だ。レベル2の分析結果や将来予測にもとづいて、生産完了まで最短で到達するよう、設備の稼働計画や従業員の作業計画を最適化する。
ロードマップについて詳しくは、下記の公式ドキュメントを参照したい。

参考:「スマートファクトリーロードマップ」 〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて〜

スマートファクトリーの課題

スマートファクトリーの課題

データの収集・分析・活用の難しさ

製造現場のデータを収集・分析・活用するためには、AIやIoTシステムの導入だけでなく、どのようなデータを集めてどのように活用するのか戦略設計できるデジタル人材が必要不可欠になる。しかし、こうした先端IT人材は依然不足している。
また、リアルタイム性を維持するためにはエッジコンピューティングのような仕組みが必要となる場合もあり、こうした設備への投資や人材への投資の面で、高いハードルがあると言える。

セキュリティ強化

分析のためには大量のデータを扱うことになるが、こうしたデータには企業の競争力の源泉となるデータも含まれていることもあるため、セキュリティは、データ活用を推し進める上で避けて通れない課題だと言える。
従来の境界型のセキュリティモデルでは対応しきれない場合、ゼロトラストなどの強固なセキュリティモデルの導入を検討しなければならないケースも多いだろう。ゼロトラストセキュリティを実現するためには相応のツールと人材が必要となるため、これらへの投資が必要だ。

スマートファクトリーの国内事例10選

スマートファクトリーの国内事例10選

データ活用の難しさやセキュリティなどクリアすべきハードルがあるスマートファクトリーだが、導入するメリットは大きく、今後の製造業が競争力を確保するためのひとつの道と言える。
国内でも数年前からIoTやAIを活用した事例が出始めており、ここでは、独自の技術や工夫によって製造現場のスマート化を進めた10の事例を紹介する。

株式会社IBUKI

株式会社IBUKIは山形県にある金型加工業の会社だ。IBUKIがテクノロジーを活用していこうとした理由は「技術の伝承」にある。従来の10年以上をかけた職人の育成では若い職人が定着しないだけでなく、そもそも時代の変化が激しい現代では技術伝承にそれだけの時間は避けない。
そこでIBUKIでは、匠の技を可視化した「ブレインモデル」を作成し、AIソリューション「ORGENIUS」と連携してAIへの技術伝承を行った。ブレインモデル作成にあたっては、現場の職人にヒアリングを行い、職人のさまざまな知見をつなぎあわせネットワーク図として表現したという。
今までは見積り作成のために1人のベテラン職人が半日がかりで行っていた実績情報の収集を、「ORGENIUS」を活用することで30分程度にまで短縮し、見積もり作業が大幅に効率化されたとのことだ。他にも金型にさまざまなセンサを取り付けた「IoT金型」など、IBUKIはIoTを活用した取り組みを進めている事例と言える。

参考:金型業界の風雲児「IBUKI」――職人の暗黙知をAIで見える化したオープンイノベーションで、破綻寸前からの大復活劇

ダイキン工業株式会社

総合空調メーカであるダイキン工業は国内外に生産拠点を置くグローバル企業だが、グローバル化を進めるに当たり課題となったのは、海外工場での熟練技術者不足だった。ここでも焦点となったのは技能伝承だ。国内外の多数の拠点で同一品質を実現するためには製造現場のスマート化が必要だったという。
ダイキン工業は日立製作所と協力し、作業工程のデジタル化と作業評価システムを開発した。このシステムは、熟練技術者の動きを計測・解析し、技能とノウハウをデータ化。それを8つの評価項目として数値化することで、後進が熟練技術者の技術を学ぶことに生かされている。
今後ダイキン工業では、多様化するニーズや短期化するリードタイムに対応するために、生産効率を高めるためのさまざまな取り組みを進めるという。

参考:工場IoTは既に実益が得られる手段、カギを握る「目的」と「協創」 | MONOist

株式会社ダイセル

ダイセルは、自動車エアバッグ用インフレータを製造している播磨工場にて、画像解析システムを実用化している。カメラ、AI、ウェアラブル端末を活用して、人・設備・材料の3点を解析し、製品の品質の安定化につなげる仕組みだ。
具体的には、複数のカメラで撮影した作業者や設備の動きのデータを画像データとしてAIが解析。異常があれば監督者にアラーム通知され、迅速な対応や原因解明のスピードアップが可能にする。また、作業員の動線分析を行い、人や設備の配置の最適化。これらにより工程内保証率の向上や不具合の未然防止につながっているという。

久野⾦属⼯業株式会社

自動車部品などの金型加工を行なっている久野⾦属⼯業では、競争力の源泉としてICTを積極的に活用している。狙いは製造工程の自動化と、属人的な勘やコツへの依存から脱却すること、省力化・省人化によるコストダウンだという。
久野⾦属⼯業ではこうした狙いのもと、製造業の生産性を向上するクラウドサービス「IoT GO」を開発。稼働状況のデータをリアルタイムで収集し、稼働率の向上と人件費の抑制に成功したほか、改善スピードや生産性も向上した。
久野⾦属⼯業では「熟練技(人)×ロボット×IT」の融合を今後も図っていく考えだ。

参考:
ICT導入事例 -久野金属工業株式会社-
未来地域応援プログラム「久野金属工業株式会社」

旭鉄⼯株式会社

自動車部品製造を行なっている旭鉄⼯では、IoTを活用した製造ラインの自動モニタリングシステムを自社開発した。目的は生産の見える化による生産性の向上だ。最新設備ではない昭和の工場が工夫によって製造現場をスマート化した事例と言える。
自動モニタリングシステムはシンプルなものだ。シグナルタワーが点灯する機械には光センサを、動きのある機械には磁気センサを取り付け、それぞれ製品が1つできるごとに、パルス信号を発生させるようにし、パルスの数で「生産工数」を、パルスの間隔で「サイクルタイム」を見える化している形だ。こうした情報はクラウド経由で担当者のスマートフォンに転送され、リアルタイムで確認することが可能だ。
この自動モニタリングシステムを導入以降、80ラインで平均34%の出来高アップに加え、平日の残業ゼロも達成したという。

参考:中小企業を、IoTでスマートファクトリーに!昭和の工場も「製造ライン遠隔モニタリングシステム」で生産性アップ

武州工業株式会社

パイプ部品の加工を主に行なっている武州工業は、「スマートファクトリーAWARD2018」に選出されたほど、ICTに力を入れている企業だ。
武州工業では生産性を向上させるために、一人の技術者が材料調達、加工、納期管理まで一貫して行う「一個流し生産」という生産体制を整えている。この体制で欠かせないのが生産管理システム「BIMMS」だ。
「BIMMS」はリアルタイムで在庫、出退勤状況、生産指示、工程不良を管理できるため、いつ、だれが、どの材料で、製造・出荷を行なったのかを把握できる。「BIMMS」を活用したことで、顧客からの追加注文やキャンセルなどの要求に対応するリードタイムが、72時間から48時間まで短縮できたという。

参考:武州工業の先進的ものづくりーー 自社開発ITを駆使して65年つづく黒字経営!

株式会社デンソー

デンソーは、世界中の工場をITとIoTでつなぐ「Factory-IoTプラットフォーム」を開発した。世界中の工場の機器から多様なデータを収集し、一つのクラウドに蓄積。そのデータを自由に活用できるようにすることで、作業者の動きや生産状況、各地の需要などをリアルタイムに分析し、適宜改善を行うことが可能となった。
デンソーでは今後、「Factory-IoTプラットフォーム」を世界130の工場に展開していき、現場の改善活動を加速していくという。

参考:デンソー、 世界130の工場をIoTでつなぐ Factory-IoTプラットフォームを開発

TOTO株式会社滋賀⼯場

住宅設備製造を行うTOTOでは、滋賀工場で製造現場のスマート化を推進している。
滋賀工場では、IoTを活用して数百項目に及ぶ工程データを取得し、クラウドに送られたデータをBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用して現場で直接分析している。分析の目的は歩留まりの安定と向上。滋賀工場では、日次および中期的な生産活動のPDCAに取り組み、開始してから最初の半年で過去最高の歩留まりを達成する成果が表れたという。
今後は国内工場の全てでデータ活用を展開することに加え、エッジコンピューティングの導入も検討していく予定だ。

参考:複雑化するトイレの構造、TOTOの現場はいかに歩留まりを向上させたか | MONOist

株式会社日立製作所

日立製作所は経済産業省から委託を受け、スマート工場実証事業として「平成28年度IoT推進のための社会システム推進事業」に取り組んだ。
生産ロス改善への取り組みとして、ネットワークカメラや電流センサを使って人や設備の稼働データを収集し、原材料データや品質データなどと掛け合わせることで、生産工程を見える化。さらにAIで分析することで無駄の多い作業や工程を把握することで、生産ロスの改善が可能であると報告している。

参考:平成28年度IoT推進のための社会システム推進事業(スマート工場実証事業)成果報告

株式会社土屋合成

筆記用具やカメラのレンズ部品など幅広いプラスチック製品の量産を手掛ける土屋合成は、製造現場のスマート化により、省力化や稼働状況の見える化を実現した。
土屋合成では10年以上前から、工場内に設置されたカメラとタブレット端末を使って成形機の稼働状況を把握できるシステムを作り上げていた。今までは夜間や休日を問わず、人が見回りをしなければならなかったが、システム導入後はタブレット端末から稼働状況を確認して、1ショット当たりの成形時間などに異常があればエラーを知らせ、迅速にトラブル対応できるようになったという。
また、生産実績の記録をすべてデータ化してサーバで管理し、生産進捗をデジタル管理する環境や、成形時の圧力に異常があればアラートを出すシステムなどの整備も行っている。
こうした効率化が進み、24時間365日の自動生産を実現し、生産量の増加に貢献しているとのことだ。

参考:コラム:ロボットによる自動化やIoTを駆使し、24時間365日ノンストップ生産体制を実現・・・(株)土屋合成

まとめ

製造業のDXは中小企業から大企業まで避けては通れない道になっている。今後はAIやIoTなどの先進テクノロジーの活用を推進していくことが競争力を維持していく上で重要になるだろう。

データ収集や分析の難しさ、セキュリティ、導入コストなど乗り越えなければならないハードルもあるが、品質の向上、人手不足への対応、技術継承など多くのメリットがある。現在、国内外の多くの企業がIoTやAIを活用した新たなものづくりを進めており、急速に変化する環境に対応するために、製造業はDXを進めなければならない。そのひとつの姿がスマートファクトリーだと言えよう。
本稿は大企業から中小企業まで、幅広い事例を紹介した。他社の事例に学び、多くのものづくり企業のDXが推進されることを願う。

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