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台風は年々強くなっている? メカニズムから最新研究まで、台風の専門家が丸ごと解説

台風は年々強くなっている? メカニズムから最新研究まで、台風の専門家が丸ごと解説

近年、台風の勢力が激化しており、各地で深刻な被害をもたらしています。その背景には気候変動の影響もあると言われており、「以前の台風とは違う」と感じている人も多いのではないでしょうか。

本記事では、台風の発生メカニズムや、予報の見方、強さや大きさの表現の違いなど「知っているようで知らない」台風の基本的な知識について、台風科学技術研究センターの筆保弘徳さんに伺いました。さらに、近年の台風の激化やその背景に迫り、台風に備えるための実践的な情報もお届けします。

筆保 弘徳(ふでやす・ひろのり)さん

教えてくれた人

横浜国立大学 教授

筆保 弘徳(ふでやす・ひろのり)さん

1975年岩手県生まれ、岡山県育ち。岡山朝日高校、岡山大学理学部地学科卒。同大大学院理学研究科地学専攻修士課程、京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。防災科学技術研究所、海洋研究開発機構、ハワイ大学などを経て、2010年に横浜国立大学准教授、20年に教授。21年に台風科学技術研究センターのセンター長。気象予報士、防災士。

台風ってどうやってできるの? 台風の定義と発生するメカニズムを解説

毎年経験しているのに、意外と知らないことが多い「台風」。まずは、台風の定義や、その発生メカニズムについて、筆保さんに教えていただきました。

台風ってどうやってできるの? 台風の定義と発生するメカニズムを解説

そもそも台風とは? 発生場所や最大風速の定義

台風は「熱帯低気圧」の一種です。熱帯低気圧とは、熱帯の暖かい海の上で発生する低気圧のこと。このうち北西太平洋や南シナ海で発生し、最大風速が17.2メートル毎秒(m/s)以上のものを「台風」と呼びます。

熱帯低気圧は、発生場所や風の強さによって呼び方が変わります。例えば、インド洋や南太平洋で発生し、最大風速が約33m/s以上のものは「トロピカル・サイクロン」、大西洋と東経180度より東で発生し、最大風速が約33m/s以上のものは「ハリケーン」と呼ばれます。

台風が発生するメカニズム

①温められた海水が、水蒸気から積乱雲になる

温められた海水が、水蒸気から積乱雲になる

海水が太陽の熱で温められて蒸発すると、水蒸気になります。水蒸気を含んだ空気が上昇し、上空で冷やされると、水蒸気は雲になります。このときに「凝結熱(ぎょうけつねつ)」が放出され、周囲の空気を温めます。温められた空気は軽くなってさらに上昇し、強い上昇気流が生まれます。これにより雲がさらに発達し、積乱雲(せきらんうん)になります。

②積乱雲が集まり、大気の中心に「暖気核」ができる

積乱雲が集まり、大気の中心に「暖気核」ができる

積乱雲が次々と発生すると、大気の中心部に温かい空気がたまり、周囲よりも10〜20℃気温が高い「暖気核(ウォームコア)」が形成されます。海面の近くには「低圧部」ができて熱帯低気圧になり、強い風が水蒸気をさらに集めます。

③風が渦を巻き、台風が発生する

風が渦を巻き、台風が発生する

暖気核が持続的に形成されると、低圧部が大きくなり、水蒸気が次々と吹き込んできます。やがて、風が渦を巻くようになり、最大風速が17.2メートル毎秒(m/s)を超えると台風になります。

筆保さん 「台風は海面が高く、海水量が多くなる夏(7〜10月)に多く発生します。気象庁が発表している台風の寿命は平均で5日ですが、実際の現象を見ていると数日程度の短いものから、数週間という長いものまで、大きくばらつきがあります」

台風はどんな構造をしている?

台風の雲と風、それぞれの構造を見ていきましょう。

出典:『台風の大研究 最強の大気現象のひみつをさぐろう』(筆保弘徳編著/PHP研究所)

出典:『台風の大研究 最強の大気現象のひみつをさぐろう』(筆保弘徳編著/PHP研究所)

上記の解説図は、筆保さん著書の『台風の大研究 最強の大気現象のひみつをさぐろう』に掲載されています。台風についてもっと知りたいという方はぜひチェックしてみてください。

①雲の構造

台風の中心には、雲のない「台風の目」があります。この目をとりまくように、積乱雲が集まった「壁雲(かべぐも)」が形成されます。壁雲の上空では、外向きの風(アウトフロー)によって、層状の雲が広がっています。また、壁雲の外側には、少し背の低い雲が並んでいます。

②風の構造

台風をとりまく風は、大きく2種類に分けられます。1つ目は、台風の中心をぐるぐる回る「渦巻き状の風」です。風速が50m/sを超える非常に強い風で、特に壁雲付近で最も激しくなります。また、上空よりも地表に近い下層の方が風は強く吹きます。

2つ目は、台風の外側から中心に吹き込む風(インフロー)。その風は壁雲付近で上昇気流となって上空へ。そして上空に達すると、今度は台風の外側へと吹き出すアウトフローへと変わります。

インフローの風速は数m/sと、渦巻き状の風に比べて弱いものの、地表付近で海から蒸発した水蒸気を台風の中心部に運ぶという、台風の発達に不可欠な役割を果たしています。

筆保さん 「台風の一生の中で、“台風の目”が現れる期間は、実はごくわずかです。台風の目は、台風が最も発達してピークに達したときの数日だけ見られる現象です。日本にやってくる台風も、主に沖縄周辺の南の海上でピークを迎えるため、本州に近づくころには目は崩れてしまっています」

台風の強さ、大きさ、進路。台風情報の正しい見方

ここからは、台風の「強さ」や「大きさ」の定義、進路予報の見方について解説します。台風情報を理解しておくことで、いざというときにより冷静に備えができるようになるはずです。

台風の「強さ」は4段階に分類

台風の強さ(勢力)は、弱いものから順に「階級なし」「強い」「非常に強い」「猛烈な」の4段階に分けられます。この強さは、台風の最大風速によって決まり、上の図のように分類されます。強さの階級は、進路予報とあわせて最大5日先まで気象庁から発表されます。

「スーパー台風」とは?

スーパー台風とは、非常に強い勢力を持った台風のこと。具体的には、地表付近の最大風速が毎秒130ノット(約67m)以上になる状態を指します。「猛烈」よりも強く、甚大な被害をもたらす可能性が高いとされています。

台風の「大きさ」は3段階に分類

台風の大きさは、小さい順に「階級なし」「大型」「超大型」の3段階に分けられます。この分類は、風速15m/s以上の「強風域」の半径によって決まります。それぞれの大きさを日本列島に当てはめてみると、「大型」は本州全体がすっぽり覆われるほど、「超大型」は北海道から九州までがすっぽり入るほどの広さになります。なお、台風の「大きさ」は進路予報では発表されません。

筆保さん 「『階級なし』だからといって、つい油断してしまいがちになりますが、台風の被害が出ないという意味ではありません。風がそれほど強くなくても、防災意識が弱いところにひとたびやってくると、大きな被害が出ることも少なくありません。ですから『階級なし』でも油断せず、しっかり警戒してください」

台風進路図の見方

  • 現在の中心位置
    観測時刻における台風の中心位置です。気象衛星や航空機、船舶などを使い、決まった時間の台風の中心位置が観測されています。
  • 暴風域
    風速25m/s以上の暴風になると推測される範囲です。
  • 強風域
    風速15m/s以上の強風になると推測される範囲です。
  • 予報円
    台風の中心が到達する確率が70%の範囲です。台風は必ずしも予報円の中心を進むわけではなく、進路には幅があります。
  • 暴風警戒域
    台風の中心が予報円内に進んだ場合に、暴風域に入る可能性のある範囲です。

筆保さん 「コンピュータ技術の進歩や観測データの増加など、科学技術の発展によって、台風の予報円は以前よりも小さくなりました。これは、予報の精度が向上したことを意味します。ただし、1日、2日、3日…と時間が経つにつれて、予報の誤差が大きくなる点は変わりません。台風の進路は、毎日気象情報を確認し、最新の情報をチェックするようにしてください」

激化する台風、最新研究で読み解く気候変動との関係

近年、台風が激化している謎を解明! 台風は今後どう変化していくの?

最近、「台風が昔より強くなってきている」と言われることがあります。また、台風の勢力が強まっている背景には、気候変動の影響があるとも言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか。筆保さんに詳しく聞いてみました。

台風が激化しているのは温暖化のせい?

筆保さん 「台風の勢力が強まっている原因が温暖化なのかどうかは、今も議論が続いています。というのも、たった1つの台風だけを見て『温暖化のせいだ』とは言い切れないからです。もっと長期的なデータの蓄積と分析が必要です。

ただし、温暖化の影響で海面の水温が上昇し、台風の勢力が弱まらないまま北上するようになってきている、という傾向は確かに見られます。以前は沖縄付近で勢力のピークを迎えていた台風が、近年では大島や相模湾付近まで強い勢力を保ったまま進み、大きな被害をもたらすケースも出てきています」

台風の被害は、昔と比べてどう変わった?

台風による被害は、大きく「人的被害」と「経済的被害」の2つに分けられます。人的被害が最も大きかったのは、1959年に発生した伊勢湾台風です。下のランキングを見ても分かる通り、昭和時代は、1つの台風によって数千人の死亡者が発生していました。現在は、台風への備えが進んだこともあり、1つの台風による死者数は100人以下になってきています。

画像提供:筆保弘徳さん

台風の名前はどう決まる?

国内では、毎年1月1日から、台風が発生した順に第1号、第2号、第3号…と番号が付けられます。一方、台風のアジア名は、日本を含む14の国や地域が加盟する台風委員会によって決められます。あらかじめ140個の名前とその順番が決められており、2000年からは発生順に名前が付けられています。日本は、星座の名前から10個を提案しました。

一方で、経済的被害のランキングを見ると、近年は被害額が増加傾向にあることが分かります。経済的被害とは、主に保険金の支払額などから算出されるもので、台風によって建物やインフラなどに生じた損害の大きさを示しています。つまり、それだけ台風が社会や経済に与える影響は大きくなっているということです。また、被害額が増加している理由は、都市に人口や資産が集中していることなども関係していると考えられています。

画像提供:筆保弘徳さん

台風の「脅威」を「恵み」に変える? 台風研究の現在地と未来予測

筆保さんによれば、台風の仕組みはまだ完全には解明されていないとのこと。進路予報の精度は以前より大きく向上しており、特に1日先までの予報はかなり信頼性が高くなってきています。それでも、自然現象である以上、予報にズレが生じることもあります。

筆保さん 「台風は1つひとつ個性が異なります。しかし、それが台風の難しさであり、研究者としては魅力的なところですね」

筆保さんは大学時代に台風研究の面白さに目覚め、20年以上研究されてきました。さらに、「令和元年房総半島台風」の被害を見たことをきっかけに、台風科学技術研究センターの設立に踏み出したそうです。現在、筆保さんが関わっている「タイフーンショット計画」は、台風の勢力を制御して被害を減らすとともに、そのエネルギーを取り出して活用することで、台風の「脅威」を「恵み」に変え、持続可能な社会を実現することを目指しています。このプロジェクトは、2050年の実現を目指して進められていますが、研究はどこまで進んでいるのでしょうか。

筆保さん 「現在はコンピューターを活用して、台風の勢力を人工的に弱める研究を行っています。具体的には、航空機や船、噴水などを使って台風の力を弱める方法をシミュレーションしています。もしも、台風が防波堤を越えそうなタイミングでその勢力を制御したり、降雨量を減らすことができれば、被害を大幅に軽減できる可能性があります。

ただし、台風制御を実際に行うべきかどうかは、研究者だけで決められることではありません。最終的な判断は、国民や政府に委ねられるべきです。そのために、どのような手段があり、どんな効果や懸念があるのかを含めた科学的な資料を整えることが、私たち研究者の役割です」

激化する台風に備えるために知っておきたいこと

激化する台風に備えるために知っておきたいこと

激化する台風に備えるために、私たちができることは何でしょうか? 最後に、台風とほかの自然災害との違いや、いざというときの対策についてご紹介します。

台風とほかの災害の違いは「リードタイム」の長さ

台風の特徴の1つは、台風自体が発生してから被害をもたらすまでの「リードタイム」が3日から1週間と比較的長いことです。一方、地震はリードタイムがほとんどなく、事前に対策を講じたり避難したりできる時間がほぼありません。その点で、台風は正しく備えれば被害を減らせる災害とも言えるでしょう。

「風台風」と「雨台風」で被害と対策が異なる

台風による被害は、「風」と「雨」で大きく異なります。強い風による被害は、台風の中心付近に集中しやすい一方で、大雨による被害は、中心から離れた地域にも広がり、広範囲に影響を及ぼすことがあります。

風台風の対策

風台風の対策

風が強いタイプの台風では「室内の安全な場所に避難すること」でまずは一時的に自分を守れます。台風が接近する前に、庭やベランダの物が飛ばされないようしっかり片付けておきましょう。また、窓ガラスの補強も忘れずに行い、台風が通過するまでは外に出ないよう心がけます。

筆保さん 「もちろん、室内にいても被害にあうこともあります。2019年に発生した『令和元年房総半島台風』では、台風の中心が接近した千葉県で大きな被害が発生しました。建物が倒壊し、鉄塔が倒れて広い範囲で停電が発生するなど、日常生活に深刻な影響を及ぼしました」

雨台風の対策

雨台風の対策

雨が多い台風の場合で、河川の氾濫や土砂崩れなどの危険がある地域では、そこにとどまらず、早めに避難することが重要です。状況が悪化する前に、安全な場所へ移動する判断が命を守ります。

筆保さん 「同じ年に発生した『令和元年東日本台風』では、被害が出た地域が広域だったのが特徴で、台風から離れた東北地方や長野県などでも甚大な被害がでました。主な被害の原因は大雨で、河川の氾濫や土砂災害などが各地で発生しました。

進路予報をしっかり見ていても、接近中の台風が『風台風』と『雨台風』のどちらか判断できません。自分や家族の安全を守るためにも、まずは台風に関心を持ち、情報を自分で集めることが大切です」

台風のメカニズムや進路予報の見方を知っておくだけで、ニュースの見え方が変わり、いざというときの判断にもきっと役立ちます。大切なのは、これまでより少しだけ台風に関心を持つこと。ぜひ本記事を参考に、台風への備えを見直してみてください。

より詳しい対策方法は以下の記事で紹介しています。

(掲載日:2025年6月30日)
イラスト:鎌田涼
文:東谷好依
編集:エクスライト

台風による被害に防ぐために役立つサービス・ウェブサイト

① 気象庁「台風情報」

気象庁「台風情報」

台風の最新情報を知ることができるウェブサイト。台風の実況と24時間先までの予報が3時間ごと、120時間先までの予報は6時間ごとに発表されます。

② Yahoo!天気「台風情報」

Yahoo!天気・災害「知っておきたい! 防災情報」

「Yahoo!天気・災害」がお届けする、台風の進路予想図や概況を確認できます。台風による災害の防止・軽減に台風情報をご活用ください。