
AI技術の進化が加速する中、その裏側を支えるデータ処理や電力などのインフラ整備はこれまで以上に重要になりました。ソフトバンクは長期ビジョンとして、次世代社会インフラの提供を掲げています。AIの開発はもちろん、クラウド、データセンター、電力など、技術と社会課題の両面に向き合う現場にはどんな挑戦があるのか。実装の最前線で未来を描く2人の社員に、今取り組んでいることと、その先に見据える社会について話を聞きました。

ソフトバンク株式会社 次世代技術開発本部 連携推進統括部 データエコシステム事業開発室 室長
佐藤 敏紀(さとう・としのり)

ソフトバンク株式会社 次世代技術開発本部 連携推進統括部 連携推進部 連携推進3課 課長
中川 敬太(なかがわ・けいた)
目次
新技術で社会課題や産業の課題解決を図る。ソフトバンクが掲げる次世代社会インフラとは?
ソフトバンクが掲げる「次世代社会インフラ」とは、どのような構想なのでしょうか?
中川 「ソフトバンクは、今後のAI社会に不可欠な『次世代社会インフラ』を構想し、実装していくことを長期ビジョンとして掲げています。これは、決算説明会などでも社長の宮川が繰り返し語っている、会社全体の大きな方向性です。単なる技術開発ではなく、社会の変化に即応しながら、新しい仕組みそのものをつくっていく挑戦でもあります。

そうした全社的なビジョンの中で、私たちが所属する次世代技術開発本部は社長直下の戦略組織として設立されました。社会課題や業界の構造的課題に対して、新技術の企画や検証を通じ、実装につなげていくことが本部の役割です。
全国どこでも安定したサービスを提供できる一貫性を大切にしており、その一環として、地域分散型の社会インフラを目指す取り組みも進めています。現在、大阪府堺市で建設が進められているAIデータセンターがその一例です」

佐藤 「次世代技術開発本部では、日本独自の文化に即したAIの開発、自社主導のクラウド基盤(ソブリンクラウド)、分散型データセンター、電力インフラといったテーマに取り組んでいます。国の意向を把握しつつ、ソフトバンク全体を俯瞰(ふかん)して戦略調整を行う役割を担っており、社内のテクノロジー部門と密に連携し、私たちが構想・検証した技術を商用実装フェーズへと確実に引き継ぐことも重要な役割です」

前例のないテーマに挑む。進行中の次世代プロジェクト
具体的にどんなプロジェクトが進んでいるのか教えてください。
中川 「AIデータセンター建設プロジェクトとして、シャープ堺工場の土地や建物を取得し、最大受電容量250MW超の大規模施設の建設を計画しています。このデータセンターはソフトバンクのAI関連事業に活用するだけでなく、大学や研究機関など社外にも広く提供予定です。また、地域の農業や工場といった一次産業へのAI活用や、将来的な産業集積地としての発展も視野に入れています。
私たちはプロジェクトの管理や支援を行うPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)という立場で、GPU設置や、整備のスケジュール、入場ゲートのセキュリティ、資産価値の評価まで、多岐にわたる項目に携わっています。CEO直轄案件の推進を行うCEO室やデータセンター開発を担う部門、購買、総務などのバックオフィス部門とさまざまな部署と連携しながら、プロジェクト全体の進捗をリード。2025年3月にシャープ株式会社との契約合意に結びつけ、2026年稼働を目指しています」
AIデータセンターの構築に向けて、シャープ堺工場の土地や建物の取得に関する契約を締結(2025年3月14日、ソフトバンク株式会社 プレスリリース)
国の戦略と方向性をそろえることも重要かと思います。官公庁や自治体と連携しての取り組みもあるのでしょうか?
佐藤 「経済産業省が進める生成AIの開発力強化プロジェクト『GENIAC(ジェニアック)』にソフトバンクは協業先3社とともに、参加しています。
高性能な生成AIを開発するには、質・量ともに優れたデータが欠かせません。このプロジェクトでは、約3万人の調査協力者から、動画・音声・テキストの3種類の対話データを収集、整備し、高品質なデータセットを構築します。
質と量が優れたデータを使うことで、たとえば5年前に開発されたAI技術でも、アルゴリズムそのままで性能向上が期待できます。また、このデータセットはソフトバンクと協業先だけで抱えるのではなく、他社にも提供予定で、日本全体に貢献する仕組みづくりを目指しています」

AI開発や次世代データセンターの他にも、社会的意義を持つ取り組みがあると聞きました。詳しく教えてください。
佐藤 「生成AI事業の健全な成長を促進させるためのデータエコシステム構築に取り組んでいます。『Common Crawl(コモンクロール)』という、インターネット上の公開データを集めた大規模データセットをご存じでしょうか? これは米国のNPOが2007年から収集・公開しており、AI企業が自社データと組み合わせて学習モデルを構築する際に活用しています。著作権の懸念はありますが、商用利用でなければモデル構築の段階までは合法とされている国が多く、世界的にも広く使われています。
ただ、その過程で利益が最も届きにくいのが、元コンテンツの制作者です。本を書いた人の作品がAIに使われても、収益が還元されないケースが多いのが現状。こうした課題に向き合い、元データの提供者にも利益が還元される仕組みをつくることが重要だと考えています。5月には共同通信との提携も発表し、その高品質なコンテンツの価値を守る仕組みの実現に向けた、データセットとAIサービスの開発に着手しています」
共同通信とソフトバンク、AIモデル用データセットおよびAIサービスの開発に向けた業務提携契約を締結(2025年5月23日、ソフトバンク株式会社 プレスリリース)
「社会をより良くするにはどうすればいいか」を自ら考え解決を目指す
未来の社会インフラを実装する最前線には、どんな専門性や視点を持った人たちが集まっているのでしょうか?
中川 「次世代技術開発本部には、新しい技術をいち早くキャッチアップし、研究開発レベルから社会実装レベルまで引き上げられる、そんな力を持ったメンバーが集まっています。
たとえば『ソブリンクラウド』構想の実現や、それを支える高度なインフラを構築できるエンジニア。そして、ソフトバンク全社はもちろん、官公庁など社外の関係者と連携してプロジェクトを進めるPMOもいます。社歴の長いベテランもいれば、他社から転職してきたスペシャリスト、最近ジョインしたばかりの若手もいて、バックグラウンドは実に多彩です」

今の仕事に携わるようになったきっかけや、これまでのキャリアの歩みを教えてください。
佐藤 「新卒でヤフーに入社し、検索補助機能の開発に携わったのがキャリアのスタートでした。その後、LINE(当時はNHN JAPAN)に転職し、一貫して自然言語処理の研究開発に取り組むとともに、技術を磨いてきました。
LINEではAIアシスタント『LINE CLOVA』や大規模言語モデル『HyperCLOVA』の日本語モデルの技術責任者も務めました。2023年のLINEとヤフーの統合を機に、新会社『SB Intuitions』の設立準備に参画し、現在はソフトバンクに転籍。AIを社会に役立てるための実装を推進しています。
社外活動としては私がオープンソースとして公開している辞書『mecab-ipadic-NEologd』はさまざまな日本語入力や言語処理の現場で活用されており、長年の成果が社会に広く役立っていることに喜びを感じています」

中川 「2016年に新卒でソフトバンクに入社し、広島での基地局建設や無線エリア設計に携わった後、IoT部門へ異動しました。東京と広島を行き来しながら、地域課題の解決に向けてIoTの活用を模索したり、福山市役所と連携して業務改善に取り組むなど、地域に根ざした実証に力を入れてきました。
約5年間の経験を経て、『より社会にインパクトを与える仕事をしたい』と考えるようになり、立ち上げ期の『デジタル社会基盤整備室』(現 次世代技術開発本部)に参加。当初5名だった組織は現在100名を超える規模に成長し、ゼロからの価値創出に挑戦しています」
この組織にいるからこそ得られる経験や学びには、どんなものがありますか?
中川 「『言われたことをこなす』のではなく、『社会をより良くするにはどうすればいいか』を自ら考え、課題を見つけて解決する。そんなカルチャーが私たちの組織には根づいています。
正解のないテーマに取り組むことも多く、まだ誰もチャレンジしていない領域に対して、自ら事業の方針を描けるのは、技術者にとっても企画側にとっても非常に刺激的です。PMOや事業企画の立場では、社会や産業の課題を出発点に、新しい事業をゼロから構想し、産官学連携や政策提言など幅広いステークホルダーを巻き込みながら一歩ずつ前進していく経験ができます。
多くのプロジェクトが立ち上げフェーズにあり、実績を積み重ねながら仲間を増やしていくプロセスは、まるでサクセスストーリーを自分の手で描いていくような感覚です。部署の枠を越えて知見を集め、自分たちなりの答えを導き出す。日々の挑戦と発見の連続が、成長にも直結していると感じています」

佐藤 「私たちの仕事は、技術的にも高いハードルのあるテーマに挑みながら、社会実装すること。その過程では、誰かに与えられた正解はありません。未来のあるべき姿に向かって、自分たちでルートを描いて進む必要があります。
最先端の技術を扱うことも多く、誰も見たことのない未来に直結する情報に触れ続けることができる環境です。だからこそ、自ら考え、課題を整理し、構造化する力に加えて、技術や社会の動きを見極め、タイミングを逃さず行動に移す力も、自然と鍛えられていくと感じています」
分からないことを楽しみながら。未来に向けた挑戦
スケールが大きく、成功事例がない分野での挑戦であることを伺ってきました。最後に、今後の展望をお願いします。
佐藤 「私たちの取り組みは、データにまつわるさまざまな領域に広がっており、扱うテーマの多くは前例のないチャレンジです。だからこそ、次世代のデジタル社会基盤を築く担い手として、常に一歩先を見据えながら、情報革命をけん引する存在でありたいと思っています」
中川 「AIの進化に不安を感じることもあると思いますが、『わからないことを楽しむ姿勢』が大切です。試行錯誤や対話を重ねることが、やがて大きな一歩につながります。 “誰かがつくった未来” ではなく、 “自分たちがつくる未来” 。そんな思いを共有しながら、これからもワクワクする挑戦を重ねていきたいですね」

(掲載日:2025年7月31日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクの技術戦略

次世代通信技術「5G」やAI、IoTなど先端技術で日常生活が劇的に変わる時代へ。新たな時代の創造を目指し、イノベーティブで社会に貢献できる研究開発に取り組んでいます。




