
企業が社員のウェルビーイングを追求する動きが当たり前になりつつありますが、そもそもウェルビーイング推進の取り組みはなぜ重要なのでしょうか? ソフトバンクでは社員の充実度を長期にわたって測定しており、社員の仕事のパフォーマンスとの関係を分析した結果、充実度の高い社員はパフォーマンスが高いことが明らかになりました。分析にいたった背景やデータ分析の方法について、担当者に聞きました。

ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事総務本部 人事企画統括部 人材戦略部
大神田 賢翔(おおかんだ・けんと)
全社人材戦略の策定や配置制度、エンゲージメントサーベイ、自己申告などの人事制度を担当

ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事総務本部 人事企画統括部 人材戦略部 人材戦略課
草苅 輝(くさかり・ひかる)
エンゲージメントサーベイの分析など、人事データの可視化・活用を推進。現在は人材戦略課にて、FA制度や社内副業制度をはじめとする配置施策、人的資本開示を担当。
社員個人のコンディションを測るサーベイを以前から継続
ソフトバンクでは、組織全体の状態を把握するためのサーベイ(従業員満足度調査)とは別に、社員個人の健康状態やコンディションを測るためのサーベイを2019年から導入し、継続して行ってきました。2023年からは2つのサーベイを統合したエンゲージメントサーベイを開始し、組織と個人両方の状態把握を行うための取り組みを行っています。
ソフトバンクでは、以前から社員個人のコンディションを聞くサーベイを行っていますよね。
大神田 世の中にウェルビーイングという考え方が浸透する前の2019年から、いち早く取り組みを始めていました。ソフトバンクの事業戦略として、既存事業を大事にしつつも新たな事業を推進していくため、チャレンジや変革を進めていく風土があります。ソフトバンクでは社員一人一人が心身ともに健康で活力あふれた状態であることがチャレンジや変革のための重要な基盤であると位置づけていたため、社員の健康状態が仕事のパフォーマンスに影響するのではないかというのは感覚として持っていました。

社員の健康がパフォーマンスに影響するというのは、たしかに感覚としてはわかります。今回、改めてデータ分析を行うことになった背景は何でしょうか?
大神田 コロナ禍を経て、ウェルビーイングの重要性が改めて社会的にも再認識されるようになったと思います。ウェルビーイングとパフォーマンスの関係性分析について調べてみると、海外の事例はあったのですが、日本で分析された前例はありませんでした。ソフトバンクでは自社でコロナ以前からサーベイを実施し、データの蓄積があったので、事例がないのであれば自分たちがやってみようということで、人事制度企画、People Analytics、健康経営のチームが集まり分析と可視化を行うことになりました。
6,000件超のデータから見えてきたウェルビーイングとパフォーマンスの関係性
どういったデータをもとに分析を進めていったのでしょうか?
草苅 サーベイの中の現在の充実度を問う設問の結果と、過去の評価データなどから社員のパフォーマンスを定義し、掛け合わせを行いました。パフォーマンスと充実度以外にも、年齢や性別、職種といった属性、残業時間などもあわせて検証しています。
使用するデータに欠損がない状態でそろっているものに限定した結果、6,000件のデータが残りました。サーベイ未回答の月があったり、パフォーマンス分析をするうえでデータが足りない入社したばかりの社員や休職中の社員は除外しています。現時点で条件がすべて整った状態のデータが6,000件もそろっているというのは、毎月のサーベイを早くから導入して充実度を聞いていたからこそ実現できたことです。国内では非常に貴重で、この規模でこうした分析が可能なのは、ソフトバンクならではだと思います。

データの蓄積が大きなポイントになったのですね。分析はどうやって行ったのでしょうか?
草苅 約2万人分の社員データがあり、そこに12カ月分のサーベイの結果などのあらゆる属性情報を加えると非常に膨大なデータでしたので、分析は統計ソフトを使用しました。データの可視化の段階ではBIツールを使い、あらゆる掛け合わせでの結果を見ながらチームで議論を進めていきました。「ウェルビーイングの高い人とは、そもそもどんな人なのか」という定義づけのところから始め、充実度の年間平均スコアがいくつ以上を上位とするかなども、議論しながら進めていきました。
分析した結果について教えてください。
草苅 いろいろな掛け合わせの分析を行いましたが、やはり「ウェルビーイングとパフォーマンスに関係がある」という結果が最も意味のある発見だったと思います。ハイパフォーマーのうち、充実度が高い人の割合が30%をこえていて、明確な差が確認できました。

このような分析結果について、社外から高い評価を得ることができ、「WELLBEING AWARDS 2025」の「組織・チーム」部門で「GOLD」を受賞しました。多くの企業が、制度の整備やセミナーの実施といった取り組みをエントリーする中で、データ分析に基づいたエビデンスを持って応募したのはソフトバンクだけだったようで、そこが評価されたのだと思います。
ウェルビーイング向上に取り組む意義を社外にも発信
分析した結果はどう活用されていますか?
大神田 ソフトバンクのESGの取り組みを説明する資料の中でも、このデータを使用して社外に発信しています。外部へ広く公開することで、日本企業においてもウェルビーイングに取り組む重要性を示す一つの事例として参考になればいいなと思います。国内ではまだ前例が少ない中で、社会的意義のあるチャレンジだと考えています。
また、これまでのウェルビーイングに関する取り組みについて、データに基づいて「なぜウェルビーイングに取り組むのか」「どんな施策が効果的なのか」を語れるようになったことで、社内全体の推進力がより高まったと感じています。
今後はどういった展望を考えていますか?
大神田 サーベイを通じてリアルタイムで社員のウェルビーイングの状態をモニタリングしていく体制は、継続していく方針です。
今後の構想としては「生成AI」の活用も視野に入れています。たとえば、サーベイ結果のテキスト分析をAIで行い、現場での活用につなげていければと思います。可視化だけでなく、「どうすればパフォーマンスが上がるか」「どうすればウェルビーイングが高まるか」といった次の行動の部分にまで分析を進化させれば、エンゲージメントサーベイの価値をさらに高めていけるのではないかと期待しています。
(掲載日:2025年8月20日)
文:ソフトバンクニュース編集部





