2021年5月26日掲載
本記事は日経XTECH Specialに2021年3月16日に掲載されたものです。
5Gの時代を見据え、ますます“ネットワーク×クラウド”の重要性が高まる昨今。ソフトバンクとマイクロソフトは次世代コミュニケーション環境の構築をめざし、それぞれの強みを持ち寄りながら大企業同士のオープンイノベーションを展開している。
通信事業を基盤としつつ、デジタル化による事業拡大を図るソフトバンクの「Beyond Carrier」戦略にとって、このパートナーシップは非常に大きなウェイトを占める。そのため、まずは自らがクラウドネイティブな企業への変革を実践し、DX(デジタルトランスフォーメーション)のもたらす価値を獲得しようとしている。
ソフトバンク株式会社
法人プロダクト&事業戦略本部
デジタルオートメーション事業第2統括部
デジタルオートメーション企画部
事業企画3課 課長
深堀 菜生 氏
ソフトバンク株式会社 法人プロダクト&事業戦略本部の深堀菜生氏は「クラウドネイティブは個々のITツールをどのように使うかというだけではなく、不確実性が高く動きの速いマーケットに対して組織や社員のあり方も含めて柔軟に対応することと捉えています」と語る。その方針の下で具体的に取り組んだのが、顧客に対するクラウドの導入から運用までを包括的に担当するMSP(Managed Service Provider)サービスの体制構築だ。
2018年にはマイクロソフトのパートナー認定プログラムである「 Microsoft Azure Expert MSP 」の取得に向けて一大プロジェクトを開始。それまでクラウドの構築運用、プロダクト、マーケティング、営業支援とサイロ化されて縦割りになっていた組織に横串を刺し、 Microsoft Azure の専任メンバーを配置した。「日本ではまだまだ新しい概念であるMSPをお客さまに提供する際に、コアとなるメンバーの意識を改革していかないと価値をお伝えすることができません。ワンチームの横断型プロジェクトによって Microsoft Azure Expert MSP を取得するためのチャレンジを続けてきました」(深堀氏)
その結果、2020年には Microsoft Azure Expert MSP と並び、Microsoft Azure のネットワークサービスに特化した「 Microsoft Azure Networking MSP 」のダブル認定を受けた。2つの資格の同時認定は日本企業では初となる。マイクロソフトコーポレーション パートナー事業本部の香坂聡氏は「 Microsoft Azure Expert MSP は然るべき第三者機関の監査を受ける認定プログラムで、取得するためには相当な投資とケイパビリティが必要。非常に誇るべき快挙だと思います」と高く評価する。
マイクロソフトコーポレーション
パートナー事業本部
戦略パートナー本部 部長
香坂 聡 氏
2つの認定プログラムによって、MSPサービスを介したクラウド戦略の拡大に弾みがついた。例えば、従来オンプレミスで導入していた米NICE社が提供するマネーロンダリング対策ソリューションをMicrosoft Azure上に構築・運用対応が可能だ。
さらにデジタル化を基本とするワークスタイルへの転換を促す新型コロナの状況下では、クラウドに対する企業の熱は以前よりぐんと高まっている。2019年に「 Microsoft Teams 」向けの音声通話サービスとして提供した「UniTalk」は、“ Microsoft Teams 経由でオフィスの電話番号で外線通話ができる”として話題を呼んだ。そこから派生して、セキュアな仮想デスクトップ環境の「 Windows Virtual Desktop 」への引き合いも増えているという。そこには、システム運用の多大な負荷に苦しむIT担当者の姿が透けて見える。
「MSPサービスには日本のITマーケットを変えるポテンシャルがあります。マイクロソフトとのパートナーシップで言えば、Microsoft Azure の導入から運用までをソフトバンクが担うことで、物理的なサーバやストレージ、デスクトップ環境の構築など、これまで負荷の高かったIT部門の業務を削減することができます。IT部門の貴重なリソースを、本業の成長に資する業務や新規事業へとシフトしていただくのが当面の狙いです」(深堀氏)
またクラウドはアジャイル開発やスモールスタートと相性が良く、企業の迅速な意思決定を支援。それが次なる“事業の種”を生み出すことにつながる。これが本来あるべきDXのスタート地点だが、日本でなかなか進まない背景にはITエコシステムの硬直化がある。
香坂氏によれば日本はITベンダやSIerにITエンジニアの約7割が所属し、スクラッチでシステムを構築する「カスタムメイドの文化」が主流だとする。これが米国の場合は見事に逆で、ユーザ企業側に約7割のエンジニアがいる。そのため顧客に選択権や構築能力があり、企業の方針にあわせたIT業務変革を素早く実行できる。
「がんじがらめの日本のITエコシステムの中でDXを推進していくためには、既成概念を打破するディスラプター(破壊者)が期待されます。そしてソフトバンクはディスラプターとして前例を切り開いてきた歴史がある。ADSL事業参入でブロードバンドを普及させ、iPhoneの取り扱い開始でスマートフォンを日本に広めた。最近ではソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて刺激的なベンチャーに続々と投資を続け、日本での事業も開始されています。だからこそ我々のパートナーシップでもパラダイムシフトを起こしてくれることを期待しています」(香坂氏)
香坂氏は「DXとは、ネットワークとクラウドの土台の上で、お客さまによる百花繚乱のソリューションが花開くこと」と話す。現段階でも実際にAI、IoTなどの新しいテクノロジーを加え、物流や保険ソリューションなどがMicrosoft Azure を活用して稼働し、他にも様々なサービス開発を進めているという。
中でも5Gは今後のキーテクノロジーとなる。深堀氏は通信キャリアとしての目線から、5Gの可能性について次のように語る。
「大容量・低遅延・超高速という特長を持つ5Gによって、これまでとはコミュニケーションの速度が桁違いになります。しかし、速くなることだけが重要なのではなく、その上で何を提供し、何を実現するかがポイントです。5Gとクラウドが社会インフラとして普及すれば、ソフトバンクが柔軟なサブスクリプションモデルを用意することで、蛇口をひねって水が出るように好きなタイミングで好きな分だけ自社に合ったソリューションが使えるようになるはずです。それにより自然とDXは社会に広がり、コロナ禍のような状況でもビジネスに必要な環境をすぐに利用できたり、ビジネスを止めることなく維持、推進できるなどリスクを低減することができます。こうした将来像を、マイクロソフトとのパートナーシップで実現していきたいと考えています」(深堀氏)
近年、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは「Tech Intensity(テックインテンシティ)」という言葉を好んで用いる。これは新たなテクノロジーを活用してデジタルスキルを磨き、企業の成長エンジンへと昇華する考え方だ。2021年4月、CTO出身で最新テクノロジーと事業運営に精通した宮川潤一氏がトップに立つソフトバンクは、まさにTech Intensityを体現する企業となるに違いない。強固な信頼関係に基づき、ソフトバンクとマイクロソフトは一歩一歩着実に歩を進める。
「Microsoft Azure」を柱としたセキュアな業務環境を短期間で構築し、コロナ禍でのテレワークが金融業務でも可能に
条件に該当するページがございません