中国の裁判所に導入されるAIテクノロジー

2022年3月30日掲載

蘭州公安による紹介(出典:甘粛公安)

近ごろ、中国ではある殺人事件の公開裁判で「スマートインタラクティブ裁判(智能交互庭審)」システムが活用されました。「スマートインタラクティブ裁判(智能交互庭審)」システムは上海の第二中級法院(上海二中院)などで限定的に導入されています。そこでは裁判官、検察官、弁護人、被告の前にはディスプレイ画面があり、傍聴席には2つの大きなスクリーンが設置されています。

スマート裁判の様子(出典:澎湃新聞) スマート裁判の様子(出典:澎湃新聞)

裁判長が裁判の開始を告げると、裁判に関連するすべての証拠資料と関連情報が画面に表示されます。 加えて、法廷で発言されたすべての言葉が音声認識され、画面上にその文字が表示されます。さらに発言を受けて、被告の陳述が裁判前の陳述と一致していない場合、裁判システムは陳述の不一致の表示も行います。

スマートインタラクティブ裁判システムでは、裁判官、注釈係、監督者、書記官、裁判官のアシスタントなど多くの機能をAIアシスタントが行います。AIによるサポートにより、裁判の段階や状況を正確に把握し、事実を迅速に特定し、無駄な時間消費を大幅に削減します。このシステムは裁判が複雑で困難なケースが増えている近年において、強力なツールとなっているようです。

裁判の音声を文字に変換(出典:澎湃新聞) 裁判の音声を文字に変換(出典:澎湃新聞)

前述の裁判においては、次のようにシステムが活用されました。まず裁判長が「単一証拠検証機能」を声で呼び出すと、内容証拠に欠陥がないかAIによるチェックを行います。このときには「押収された証拠品について、押収された記録が不足しています」と画面に表示されました。また裁判で被告が「被害者を知らなかった」と発言すると、システムは証拠と照合し、「被告は被害者を知っていた」という過去の発言と、2年間にわたる被告と被害者の通話記録を画面に表示。その画面を前に被告は最終的に被害者を知っていることを認める一幕もありました。

システムは文章や証拠となる発言や文章をファイルに保存し、ファイルの中の情報は常に裁判の進行にあわせて増え、裁判の中で出てきた言葉と比較できるようにファイルの加工を行います。システム側で文字起こしをしながらファイルを加工することで裁判の質を向上させました。従来のモデルでは、裁判官が頻繁に書類やファイルを参照したり、当事者の発言を確認したりする必要がありました。その分、時間と手間がかかるわけです。また裁判官が気づかなかった場面でもシステムは活躍します。

裁判の発言の音声が自動で文章化されます。書記官が誤字校正を行った後、テキストは裁判の当事者各人に提示され、確認すると電子署名ボードにサインします。システム導入前には8日間の裁判で計43万字を人力で記録する必要がありました。これが自動音声入力によって、最後にテキストの正誤を確認するだけでよくなるわけです。これまでは上海二中院で裁判所書記官が118人働いていましたが、33人でできるようになったとのこと。

システムを導入することで、様々な場面でのAIが活用され、過去3年間で平均裁判日数は4日間短縮され、裁判官の1人当たりの裁判取り扱い数は15件増加と効率が上がったといいます。

とは最初から上記のようにうまくいく裁判システムではなく、当初は手探り状態で技術が成熟していないため、エラー率は高く、アシスタントとしては不合格と言わざるを得ないレベルでした。こうしたことから、現場のベテランたちによるシステム導入に対する拒否感はかなり強かったそうです。システムの精度を上げていき、同時に現場を説得することで、システム導入にこぎつけたといいます。

 iFLYTEKの司法クラウドソリューション(出典:迅飞开放平台) iFLYTEKの司法クラウドソリューション(出典:迅飞开放平台)

この上海の裁判所におけるAI化を担当したのが、iFLYTEK(アイフライテック、科大訊飛)です。同社は音声系AIで有力な企業で、翻訳製品や文字起こし用製品や学生用教育タブレットなど、その技術を活用した様々な製品をリリースしてきました。その技術を司法に活用したわけです。

同社が開発した司法用クラウドサービスは、上海だけでなく江蘇省蘇州などでも導入され、裁判の効率化に役立っています。

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